高齢患者の急性期入院、入院後のトリアージにより、下り搬送も含めた「適切な病棟での対応」を促進してはどうか—中医協総会(1)
2023.7.5.(水)
高齢者の救急・急性期入院については、一律に「地域包括ケア病棟で対応する」などのルールを設けることは好ましくない。患者の病態に応じた「下り搬送」(3次救急→2次救急への搬送)などの視点ももって「どの病棟で受け入れることが適切か」を考えていくことが重要ではないか—。
あわせて、地域包括ケア病棟での軽症急性期患者受け入れは、さらに進めていく必要がある—。
また、経過措置療養病棟の廃止においては、「入院患者の居場所がなくなる」ような事態が生じないように、丁寧に現場をフォローしていくべきではないか—。
7月5日に開催された中央社会保険医療協議会・総会で、こうした議論(「入院その1」論議)が行われました。同日には「薬価制度改革に向けた業界ヒアリング」「新たな医療機器・検査などの保険適用」も行われており、別稿で見ていきます。
目次
高齢者の急性期入院、「下り搬送」などの視点も持ちながら適切な病棟での対応を検討
2024年度の次期診療報酬・介護報酬改定に向けた議論が進んでいます。中医協では、春から夏までの第1ラウンド論議において、▼医師働き改革▼医療計画▼医療DX —を診療報酬でどうサポートしていくかをまず確認したうえで、前回(6月21日)には「外来の総論」論議を行っています。実施。
7月5日の中医協総会では「入院の総論」を議題として、これまでに行われた「中医協と社会保障審議会・介護給付費分科会との意見交換会」や、「入院・外来医療等の調査評価分科会」(関連記事はこちら(回復期)とこちら(高度急性期)とこちら(急性期))も踏まえた議論が行われました。
まず急性期入院医療については、例えば次のような課題が浮上しています。
▽急性期一般1でも、要介護高齢者、認知症高齢者などの入院患者が相当程度を示している中で、「高齢の救急搬送患者」をどの病棟で受け入れるべきか(関連記事はこちらとこちら)
▽急性期一般1などにおいて、▼平均在院日数の延伸▼病床利用率の低下▼重症度、医療・看護必要度(以下、単に看護必要度)を満たす患者割合の低下—が生じている点をどう考えるべきか(関連記事はこちら)
▽2022年度の前回改定で新設された【急性期充実加算】の取得状況、診療実績状況、ハードル等を踏まえて、施設基準や要件などをどう考えていくべきか(関連記事はこちら)
1つ目の「高齢患者をどの病棟で受け入れるべきか」という点は、2024年度診療報酬改定で最大の論点の1つになると思われ、7月5日の中医協総会でも、様々な角度からの議論が行われました。
まず診療側の長島公之委員(日本医師会常任理事)は「これまで高次の救急医療体制評価に偏りがあり、2次救急への評価が不十分であった。『高齢者は地域包括ケア病棟等で対応する』と強引に進めれば、医療現場が混乱してしまう。救急医療における下り搬送(比較的軽症な患者について3次救急から2次救急に搬送しなおすなど)や、出口問題対策(一定程度回復した患者を3次救急などから後方病院に転院させるなど)とセットで考えていくべき」と提案。また同じく診療側の江澤和彦委員(日本医師会常任理事)は「患者の状態にマッチした病院・病棟での入院が最重要であり、例えば脳卒中や急性心筋梗塞などの患者は高齢者であっても急性期病院・病棟への入院が望まれ、誤嚥性肺炎や尿路感染症などでは地域包括ケア病棟での対応も検討することになろう。ただし、地域包括ケア病棟では、看護配置は13対1にとどまり、救急医療管理加算も取得できない(包括評価されている)ことから、対応可能な傷病に限界がある点を十分に考慮しなければならない」と指摘しています。あわせて「平素から地域の医療機関・介護施設・ケアマネジャー等の間で顔の見える関係」を構築しておくことで、柔軟な救急患者対応が可能になる旨を池端幸彦委員(日本慢性期医療協会副会長、福井県医師会長)は強調しています。
さらに、島弘志委員(日本病院会副会長)も「高齢者であっても、基本の救急対応は2次救急医療機関が行い、より重篤なケースでは3次救急病院が対応することになる。救急隊から得られたバイタル情報等をベースにした『トリアージ』が最も重要である。また救急搬送後に患者の状態等を勘案して『下り搬送』『円滑な介護施設・在宅への退院』『継続入院が必要な場合の後方病院転院』などを見極める必要がある」との考えを強調しています。
一方、支払側の松本真人委員(健康保険組合連合会理事)は「急性期病棟では、地域包括ケア病棟等に比べてリハビリスタッフ配置などが手薄であり、高齢患者は早期に適切なリハビリが受けられる地域包括ケア病棟での入院治療が望ましい」としたうえで、「診療側委員の指摘する、下り搬送や早期転院なども視点も踏まえて検討していくべき」との考えを述べ、診療側委員の主張に理解を示しました。
入口(入院、救急搬送)の時点で入院先を絞るよりも、「入院後、早期に患者の病状・状態等を見極め、迅速に適切な病棟に移る」対応を進めることが現実的であるという方向に、委員間の意見はまとまりつつあるようです。救急搬送患者について早期にトリアージを行い、適切な病棟に転院等させた場合の新点数などを秋以降の第2ラウンド論議で探っていくことが考えられるでしょう。なお、「同じ疾患(例えば誤嚥性肺炎)であっても患者によって病態は異なるため「一律に●●疾患の患者は●●病棟で受ける」といったルールを設けることは極めて難しく、危険であることは多くの医療関係者が指摘する通りと考えられます。
このほか、急性期入院医療については、松本委員から▼急性期一般1で在院日数が延伸し、利用率が低下する一方で、重症患者が減少している背景には「急性期病棟が過剰である」可能性も考えられ、背景を十分に分析していくべき▼急性期充実体制加算は「高度医療を提供する病院」を重点的に評価するものであり、取得を考える病院は機能強化をめざしてほしい。要件等の緩和はあり得ない—との意見が、また長島委員から「急性期充実体制加算について、総合入院体制加算との役割分担の状況、地域医療提供体制への影響(分娩対応を廃止したりしていないか、など)を見ながら、本来の目的に沿っているか見ていくべき」との意見が出ています。
診療側の島委員、遠隔ICUの報酬評価やHCUなどでの必要度II導入を提案
特定集中治療室などの高度急性期入院医療に関しては、これまでに▼SOFAスコア(患者の重症度、重篤度を測る指標)では見られない重症度がありそうだ▼2022年度の前回改定で創設されたスーパーICU評価する【重症患者対応体制強化加算】について、看護配置要件などが厳しく、取得が進んでいない▼HCU(ハイケアユニット)の病床数が増加している点をどう考えるか—といった課題が浮上してきています(関連記事はこちら)。
この点、診療側の島委員は▼HCUなどでも、看護業務負担の軽減につながる「看護必要度II」を検討・導入すべき▼専門医確保に多くの病院が苦心しており、ユニット内の安全確保に向けて「遠隔ICU」を診療報酬面からも検討すべき—と具体的な提案を行っています。
遠隔ICUとは、複数のICUをネットワークで接続し、中心となる基幹施設に設置した支援センターにおいて集中治療専門医が患者をモニタリングし、各ICUの担当医へ指示・診療支援などを行うイメージです。地方等におけるICU専門医の確保が困難な状況を解決する重要な手段ともなります。今後「遠隔ICUにおける医療の質」などを踏まえたうえで、診療報酬上の評価が議題に上がる可能性がありそうです(関連記事はこちら)。
地域包括ケア病棟、救急患者受け入れ推進が2024年度改定でも重要論点の1つに
地域包括ケア病棟については、2022年度の前回改定で「救急患者を受け入れない場合のペナルティ創設」などの厳しい対応が行われました。上述した「高齢の救急搬送患者を地域包括ケア病棟でも積極的に受け入れる」環境整備の一環と言えるでしょう(関連記事はこちら)。
これまでの議論で、▼地域包括ケア病棟を持つ「病院」において救急患者受け入れが進んでいるが、バラつきが大きい▼救急受け入れ基準としては、「患者の症状により受け入れ可否を判断している」が多いが、「自院の通院歴・入院歴」で受け入れの可否を判断するケースもある▼在宅医療提供などの実績にバラつきが大きい▼一部に依然として「自院の急性期病棟からの転院患者」しか受け入れない地域包括ケア病棟がある—などの問題点が浮上してきています(関連記事はこちら)。
7月5日の中医協総会でも「地域包括ケア病棟において、軽症の救急患者をより積極的に受け入れてもらう」ことを求める意見が多数出ています。その中では「それほどの緊急性を要しないケースでは、介護施設等のスタッフが付き添って入院させる。病院スタッフが介護施設等にむかえに行くケースなどもある。救急搬送のみでなく、そうした患者の受け入れ状況なども見ていくべき」(江澤委員、池端委員)といった意見が出ていますが、実態把握は難しそうです。
また、「自院の通院歴・入院歴」で受け入れの可否を判断するケースについては、支払側の松本委員から「いかがなものか」との指摘が出る一方で、診療側の池端委員は「地域包括ケア病棟では機能面での制限(13対1看護配置など)もあり、自院への通院歴・入院歴などから『受け入れ可能か否か』を判断することも一定程度考えられる」とコメントしています。今後、どういった議論に発展するのかにも注目する必要があるかもしれません。
回復期リハビリ病棟、患者のFIM評価が適切になされているか
他方、回復期リハビリ病棟については、従前より「入棟時のFIM評価(ADL等の状態)を不適切に操作し、施設基準で重要となるFIM利得(リハビリの効果を見る指標)を大きく見せている病棟があるのではないか」という点が問題視されました。このため2022年度の前回改定では「第3者評価を望ましい要件」に加え、適切なFIM評価を促すこととしています(関連記事はこちら)。
この点については「第三者評価の受審状況を把握し、努力義務要件から必須要件への見直しも検討すべき」(松本委員)、「経過の早い段階、つまり重症な状態から回復期リハビリ病棟への転棟が進んでいるのか(これにより入棟時FIMは低下する傾向にある)を確認すべき」(長島委員)、「最も重要なことは、回復期リハビリ病棟から退院した後、在宅などでも機能が維持されるよう、リハビリが継続されるかという点であり、その視点で検討していくべき。入棟時のFIMについてうがった見方をすべきでない」(池端委員)等の様々意見が出ています。さらなるデータ分析結果を踏まえ、より効果的かつ効率的な回復期リハビリ病棟でのリハビリ提供に向けた議論が進められます。
経過措置療養、支払側は完全廃止を要望、診療側は「丁寧なフォロー」も要請
また、慢性期入院医療のうち「療養病棟」に関しては、▼不適切な中心静脈栄養カテーテル留置からの早期離脱▼経過措置病棟の取り扱い—などが今後の重要論点となります(関連記事はこちら)。
後者の経過措置病棟は「20対1看護等配置を満たせない」「医療区分2・3患者割合50%以上の基準を満たせない」療養病棟です。2022年度の前回診療報酬改定で「来年(2024年)3月までの設置」が認められていますが、その後の取り扱いは決まっていません。このため、経過措置病棟を持つ病院では、「看護配置の強化、重症患者の受け入れ促進などにより療養病棟1・2を取得する」「より看護配置などを強化して地域包括ケア病棟等に移行する」「介護力の強化、生活環境の整備を行い、介護医療院などに転換する」などの移行方針を早期に立て、実現に向けて動く必要があります。
この点、厚生労働省保険局医療課の眞鍋馨課長は「昨年(2022年)7月1日時点で、経過措置病棟(20対1看護配置、医療区分2・3割合50%を満たせない)は57施設(2826床)ある」こと、あわせて「4対1看護等配置を満たせない医療法上の経過措置療養(こちらも来年(2024年)3月まで設置可)のうち、転換・移行方針が定まっていないところは4施設あり、それらはすべて有床診療所である」ことを報告しました。
こうした状況を踏まえ、支払側の松本委員は「医療法上の経過措置が終了したのちに、診療報酬上の経過措置が存続することは好ましくない」とし、経過措置療養の本年度(2023年3月末)での完全廃止を要望。ただし、診療側の長島委員や池端委員らは「丁寧なフォローを行い、患者が不利益を受けない」よう要請しています。仮に看護力強化・介護力強化などを行わない場合には、当該経過措置療養は「医療保険からも、介護保険からも指定を受けられない」ことにもなりかねません。この場合、入院患者は「保険外の施設に入所しており、その費用は全額自己負担」となってしまいます。こうした事態が生じないよう「どこに移行・転換する予定なのか、転換・移行の準備は整っているのか、患者・家族はそれを十分に承知しているの」などを丁寧にフォローしていくことを両委員は要請していると言えます。
このほか、入院医療に関して、▼地域医療構想の2025年度実現に向けた「病院・病床の機能分化」推進(支払側の安藤伸樹委員:全国健康保険協会理事長)▼入退院支援の充実(支払側の佐保昌一委員:日本労働組合総連合会総合政策推進局長)▼短期滞在手術等基本料の適正化(外来で出来る手術を入院で行うことのないよう)(支払側の松本委員)▼高額薬剤を使用する患者が、包括報酬の病棟(地域包括ケア病棟など)や、薬剤費が包括評価されている老人保健施設に入所できない事態の解消(診療側の茂松茂人委員:日本医師会副会長)―などの意見が出ています。
こうした意見、さらに入院・外来医療分科会の分析結果等を踏まえて、秋以降の第2ラウンド論議の準備が進められます。
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