総合入院体制加算から急性期充実体制へのシフトで地域医療への影響は?加算取得病院の地域差をどう考えるか―入院・外来医療分科会(1)
2023.7.7.(金)
急性期充実体制加算が2022年度の前回診療報酬改定で創設され、9割程度は「総合入院体制加算からの移行」組である。それら病院について小児医療・周産期医療・精神科医療の体制を見ると、現時点では「大きな縮小」などは見られていないが、不採算と指摘される分野でもあり「じわじわと縮小していく」ことも懸念されるため、状況を継続して注視する必要がある—。
急性期充実体制加算の取得状況は、都道府県によって差がある。今後、総合入院体制加算の取得状況と合わせて、人口当たりの高度急性期・急性期入院医療の状況を見ていく必要がある—。
7月6日に開催された診療報酬調査専門組織「入院・外来医療等の調査・評価分科会」(以下、入院・外来医療分科会)で、こういった議論が行われました。2022年度の次期診療報酬改定に向けて入院医療改革論議が本格化しています。同日の入院・外来医療分科会では「地域包括ケア病棟」や「身体拘束」についても議論が行われており、これらは別稿で報じます。
総合入院体制加算→急性期充実体制加算の移行、現時点では地域医療に影響は出ていないが・・
2014年度の診療報酬改定から「入院医療改革について、下地となる専門的な議論を入院医療分科会で行い、それを踏まえて中医協で改革方法を固める」という流れができ、さらに外来医療についても同様の形で専門的な議論を行うことになっています(ただし、2016年度改定からは、実質的な方向付けまでは行わず、「専門的な調査・分析」と「技術的な課題に関する検討」にとどめている)。
7月6日の入院・外来医療分科会では、急性期入院医療に関連して、【急性期充実体制加算】と【総合入院体制加算】との役割分担が議題の1つにあがりました。
前者の【急性期充実体制加算】は、重篤な患者を受け入れる体制を整えるとともに、その実績を持つ「いわゆるスーパー急性期病棟」を評価する加算として2022年度の前回診療報酬改定で新設されました(関連記事はこちら)。
本加算取得病棟は、昨年(2022年)7月1日時点で157施設あり、未取得病棟に比べて、明らかに「全身麻酔による手術件数」や「化学療法の件数」「救急自動車等による搬送件数」「腹腔鏡下・胸腔鏡下手術件数」が多く、「スーパー急性期評価」が実際になされていることが伺えます(関連記事はこちら)。
一方、【総合入院体制加算】は、幅広い診療科を有し、「大学病院並みの医療を提供する一般病院」を評価するもので、当該病院は大学病院と並び「地域医療の砦」の機能を担っています。
【急性期充実体制加算】と【総合入院体制加算】のいずれも、高度急性期・急性期入院医療を評価する加算ですが、併算定が認められないことから、「どちらの加算を取得すべきか」で悩んでいる病院も少なくないことでしょう。この点について、「点数の高い【急性期充実体制加算】に移行し、その際、【総合入院体制加算】で要件となっていた小児対応・分娩対応・精神患者対応などを廃止する」病院が一部にあると指摘されています(関連記事はこちら)。また、精神科対応など、要件外の部分を縮小・廃止し、「要件となっている手術実績等を上げることに注力する」病院が出てくると指摘する識者もおられます。
厚生労働省が一部の急性期充実体制加算病院・総合入院体制加算病院にヒアリングを行ったところ、実際に「従前【総合入院体制加算2】を取得しており、【総合入院体制加算1】への昇格を目指して、加算1で求められる『精神患者の入院受入体制』(精神科病棟)の設置に向けた準備を進めていたが、新設された【急性期充実体制加算】を取得する方針に転換し、精神科病棟設置構想を取りやめた」という病院が一部にあることが分かりました。
「小児医療・周産期医療・精神科入院医療などは不採算であり、【総合入院体制加算】の要件なのでなんとか対応している」との指摘もあります。この指摘からすれば「総合入院体制加算から急性期充実体制加算へシフトした場合には、不採算な小児・周産期・精神科入院などの対応をとりやめる」病院も出てくる可能性があります。
これでは地域医療提供体制に大きな問題が出るため、厚労省は状況を調査。7月6日の入院・外来医療分科会で次のような点を報告しました。
▽【総合入院体制加算1】を取得する病院では、小児・周産期・精神科入院医療に係る診療実績を有する割合が高い(要件となっているので当然とも言える)。
▽【総合入院体制加算】→【急性期充実体制加算】に移行した病院(【急性期充実体制加算】病院の約9割)では、そうでない【急性期充実体制加算】病院(約1割)に比べて、小児・周産期・精神科入院医療に係る診療実績を有する割合が高い
▽【総合入院体制加算】→【急性期充実体制加算】に移行した病院を含め、小児・周産期・精神医療に係る診療実績を見ると、2018年(急性期充実体制加算創設前)→2020年(同)→2022年(加算創設後)において、大きな変化はない
ここからは、上述のような問題(総合入院体制加算から急性期充実体制加算への移行に伴って、小児・周産期・精神科入院医療体制が大幅に縮小される)は「現時点では大きくは生じていない」と考えられます。
もっとも、一部病院で「精神科病棟の設置構想が消滅した」事例(上述)もあり、また、今後に心配される事象が生じる可能性も否定できません。このため中野惠委員(健康保険組合連合会参与)ら複数の委員が「状況を注視していくべき」と指摘しています。地域医療体制に支障が出てから対応を考えるのではなく、「問題が起きそうである」事態を察知し、事前に対応することが重要でしょう。
この点について、猪口雄二委員(日本医師会副会長)は「重度合併症のある精神疾患患者を受け入れる病棟が数年の間に減っていく可能性もあり、地域医療提供体制の維持にとって大きな問題になる」と指摘したうえで、「DPC制度の中での対応なども考えるべき」との考えを示しています(効率化係数のベースとなる平均在院日数計算での配慮など)。
急性期充実体制加算、取得状況に地域差があるが、これをどう考えるか
また、【急性期充実体制加算】については、東京圏・大阪圏・愛知圏など都市部では多くの届け出がなされる一方で、5つの県(岩手県、秋田県、滋賀県、山口県、川が県)で届け出がない(2022年9月時点)など、「都道府県間の整備状況のバラつき」が見られます。
上記5県での加算取得を推進するためには、例えば「要件・施設基準の緩和」が考えられるでしょう。しかし、この手法について津留英智委員(全日本病院協会常任理事)は「その分、東京圏などで『狭い地域で、急性期充実体制加算病院がひしめく』事態も生じてしまう」ことを懸念しています。安易な要件緩和には、医療関係者も問題意識を持っていることが分かります。
また、牧野憲一委員(日本病院会常任理事、旭川赤十字病院院長)は「地域の人口あたりでの、急性期充実体制加算取得病院・総合入院体制加算取得病院の状況を見て、地域ごとの高度急性期・急性期医療体制を考える必要がある」と、中野委員は「例えば『2次医療圏に●か所、都道府県に●か所』のような急性期充実体制加算の整備目標を立て、そこに向けて地域の高度急性期・急性期機能を集約していくことも考えられるのではない」と指摘します。
確かに「急性期充実体制加算をどれだけ整備するのか」は、大きな注目ポイントとなるでしょう。ただし、整備目標については「国で設定するものではなく、地域ごとに考えていくべきもの」とも考えられます。「2025年度の地域医療構想実現」「2025年度以降のポスト地域医療構想」とも関連する事項であり、診療報酬で何をすべきか(逆に何をすべきでないか)も今後の重要論点の1つになってきそうです。
例えば、人口の少ない地域では、診療実績要件をクリアすることがどうしても難しくなります。その中で急性期充実体制加算を取得しようとすれば「医療機関や機能の合併・集約化」が必要となるでしょう(外科を一部病院に集約するなど、これにより「診療の質」は向上すると期待される)。しかし、この集約により「地域の患者の医療アクセスが大きく阻害される」ことになれば、その選択は正しいのか?という疑問も生じます。地域ごとに「この地域の医療提供体制はどうあるべきか」を関係者が膝を突き合わせて議論していくことが重要であり、これはまさに「地域医療構想の実現」に向けた地域医療構想調整会議での議論活性化を意味するのです。
今後、「急性期充実体制加算と総合入院体制加算との役割分担」も含めて議論がさらに進められます。地域においても「高度急性期・急性期入院医療の在り方」を考えていく必要があります。
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