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療養病棟の医療区分、「疾患・状態での該当」と「処置での該当」で状況が異なる点踏まえ細分化すべきか―入院・外来医療分科会(4)

2023.8.15.(火)

療養病棟では、患者の状態評価に「医療区分」を用いているが、同じ医療区分でも「疾患・状態で該当する患者」と「処置で該当する患者」とでは医療資源投入量に差がある。医療区分の細分化などを検討していくべきであろうか—。

「中心静脈栄養からの早期離脱」が療養病棟において積年の課題の1つとなっており、2024年度の次期診療報酬改定でも重要論点の1つとなる。この点、「中心静脈栄養は、腸疾患などで経腸栄養が不可能な場合に限定されるべき」との考えを診療報酬にも導入すべきであろうか—。

8月10日に開催された診療報酬調査専門組織「入院・外来医療等の調査・評価分科会」(以下、入院・外来医療分科会)で、こういった議論も行われました(同日の急性期入院医療・一般病棟用看護必要度に関する記事はこちら、ICU・HCU用の看護必要度に関する記事はこちら、地域包括ケア病棟に関する記事はこちら)。

同じ医療区分でも「疾患・状態で該当する患者」と「処置で該当する患者」とで状況異なる

慢性期入院医療に関しては(1)同じ医療区分でも「疾患・状態に該当する患者」と「処置に該当する患者」とで医療資源投入量が異なる点をどう考えるか(2)中心静脈栄養からの早期離脱に向けた対応をどう図るか—という2点を議論しました。

まず(1)の論点を見てみましょう。

療養病棟では、「3つの医療区分」と「3つのADL区分」とを掛け合わせて患者の状態を評価し、9区分の報酬が設定されています。また、療養病棟入院基本料1では「医療区分2・3の患者割合が80%以上」、療養病棟入院基本料2では同じく「50%以上」といった施設基準が定められています。急性期病棟では「重症度、医療・看護必要度」で患者を評価していますが、療養病棟では「医療区分」で患者の状態を評価しているのです。

ところで、医療区分は(a)一定の疾患・状態に該当するか(b)一定の処置を行っているか」という2軸で判断されます。例えば、医療区分3では、(a)の疾患・状態には▼スモン病▼医師・看護職員により常時、監視・管理を実施している状態が該当し、(b)の処置には▼中心静脈注射▼24時間持続点滴▼人工呼吸器▼ドレーン法、胸腔・腹腔洗浄▼気管切開・気管内挿管が行われ、かつ発熱を伴う状態▼酸素療法(密度の高い治療を要する状態に限る)▼感染症治療の必要性による隔離室での管理—が該当します。

療養病棟入院基本料の概要(入院・外来医療分科会(4)1 230810)



これらのうちいずれかの項目に該当すれば「医療区分3」に該当しますが、同じ医療区分3であっても(a)の疾患・状態に該当する患者と、(b)の処置に該当する患者とでは、状況が異なるのではないか?との問題提起があり、厚労省が分析をしたところ、両者には医療資源投入量に一定の相違があることが判明しました。

【医療区分3】

医療区分3における「疾患・状態で該当する患者」と「処置で該当する患者」との医療資源投入量の違い1(入院・外来医療分科会(4)2 230810)

医療区分3における「疾患・状態で該当する患者」と「処置で該当する患者」との医療資源投入量の違い2(入院・外来医療分科会(4)3 230810)



【医療区分2】

医療区分2における「疾患・状態で該当する患者」と「処置で該当する患者」との医療資源投入量の違い2(入院・外来医療分科会(4)5 230810)



【医療区分1】

医療区分1における「疾患・状態で該当する患者」と「処置で該当する患者」との医療資源投入量の違い1(入院・外来医療分科会(4)6 230810)

医療区分1における「疾患・状態で該当する患者」と「処置で該当する患者」との医療資源投入量の違い2(入院・外来医療分科会(4)7 230810)



つまり、同じ医療区分であっても実施している検査や処置、投薬などに一定の差がある(当然コストも異なる)と言え、「報酬上の手当ても変えていく必要があるのではないか」と考えられます。

この点については、「疾患・状態と処置とで評価を変えてはどうか」(井川誠一郎委員:日本慢性期医療協会副会長、中野惠委員:健康保険組合連合会参与、田宮菜奈子委員:筑波大学医学医療系教授)という意見と、「現在の医療区分について、一定の妥当性があることが確認できたと言えるのではないか。現在の医療区分を大きく見直す必要性は感じられない」(猪口雄二委員:日本医師会副会長)という意見とが出ています。

また、例えば前者では「疾患・状態と処置とで医療区分の更なる細分化を行う」ことが考えられますが、「療養病棟を持つ病院の多くが紙カルテ運用を行っており、日々の患者状況を手計算で行っている。標準型電子カルテが導入されればよいが、それまでの間、あまりに細分化して医療機関の事務負担が急増することは別の意味で問題が出てくる」点を懸念する声が井川委員や武井純子委員(社会医療法人財団慈泉会相澤健康センター総合管理部長)らから出ています。

医療区分見直しについて「方向が定まった」という状況にはなく、さらなるデータ分析・議論が重ねられることになるでしょう。

中心静脈栄養による医療区分3、腸疾患などで経腸栄養を選択できない場合に限定しては

また(2)の中心静脈栄養からの早期離脱は積年の課題と言え、2022年度の前回診療報酬改定では、▼摂食機能または嚥下機能の回復に必要な体制を有していない場合には、「中心静脈栄養を実施している状態にある患者」について「医療区分3」でなく「医療区分2」の点数を算定することとする▼【摂食嚥下支援加算】を【摂食嚥下機能回復体制加算】と変更し、加算3(週1回120点)として、嚥下機能回復に取り組む療養病棟を評価する—などの対応が図られています(関連記事はこちら)。

この点、2022改定後の状況をみると、次のように「大きな改善」効果は表れていないようです。

▽中心静脈栄養の実施患者数の中央値は改定前後で大きな変化はない

療養病棟において中心静脈栄養実施患者の状況は2022改定前後で大きく変化していない(入院・外来医療分科会(4)8 230810)



▽中心静脈カテーテルを挿入して病棟に転棟した患者のうち、中心静脈栄養から経口摂取へ移行した患者は4.1%にとどまる

療養病棟において中心静脈栄養からの離脱はそれほど進んでいない(入院・外来医療分科会(4)9 230810)



▽摂食機能・嚥下機能回復に必要な体制が整備されていない医療機関が32.7%にのぼる

接触・嚥下機能回復のための体制整備が進んでいない療養病棟も少なくない(入院・外来医療分科会(4)10 230810)



しかし、「摂食機能・嚥下機能回復に必要な体制整備」が中心静脈栄養からの早期離脱に効果的であることも次のように明らかになっています。

▽入院後・入院中に中心静脈栄養を中止・終了した患者数が40床(1病棟)あたり1名を超える施設の割合は、体制整備施設では23.2%だが、未整備施設では12.1%にとどまる

接触・嚥下機能回復のための体制整備がなされている療養病棟では、中心静脈栄養から離脱が進んでいる(入院・外来医療分科会(4)11 230810)



こうしたデータを踏まえると、2024年度の次期改定でも中心静脈栄養からの早期離脱に向けて「摂食機能・嚥下機能回復に必要な体制整備」を進めることが重要テーマの1つになりそうです。

この点については「2022年度改定から時間が経たないなかでも、一定程度、中心静脈栄養からの早期離脱が進んでいると見ることもできるが、さらに早期離脱を推進する必要がある」(井川委員)、「早期離脱が十分に進んでいるとは見えない。早期離脱推進に向けた何ができるのかを改めて考えていく必要がある」(中野委員)、「個々の患者にとってどの栄養法が適切なのかを現場できちんと判断できることが重要である。一概に中心静脈栄養=悪とすることはいかがなものか」(猪口委員)など、様々な意見が出ています。

中心静脈栄養の実施期間と、非常に危険なカテーテル関連血流感染症との間には正の相関があり、「早期の中心静脈栄養からの離脱」が非常に重要なことは述べるまでもなく、また中心静脈栄養カテーテルの留置が身体拘束につながっている可能性も否定できない点も踏まえた検討が必要でしょう(関連記事はこちら)。

長期間の中心静脈栄養は、ハイリスクの肝炎翔につながるやすい(入院・外来医療分科会(4)12 230810)



ところで、中心静脈栄養か?経腸栄養か?を選択する際の基準として▼腸が機能している場合は、経腸栄養を選択することが基本である▼「経腸栄養が不可能な場合」や「経腸栄養のみでは必要な栄養量を投与できない場合」に静脈栄養の適応となる▼経腸栄養が禁忌で、静脈栄養の絶対適応とされるのは「汎発性腹膜炎」「腸閉塞」「難治性嘔吐」「麻痺性イレウス」「難治性下痢」「活動性の消化管出血」などに限定される—といったものがあります。

中心静脈栄養が選択可能なのは「腸疾患などで経腸栄養が不可能な場合」などに限定されるべき(入院・外来医療分科会(4)13 230810)



この基準を踏まえて武井委員は「絶対適応となるケースで中心静脈栄養を実施する場合のみ医療区分3とする、などの対応を図ってはどうか。ただし、患者・家族は胃瘻・腸瘻よりも中心静脈栄養を望むケースが少なくなく、十分な説明を医療サイドから行うことも同時に進める必要がある」との考えを述べています。医療的・医学的知識の乏しい患者・家族サイドからすれば「胃に穴をあけて管を通すことは大手術で、もう二度と通常の生活を送れなくなってしまう」と思ってしまう部分もあるでしょう。武井委員の指摘する「十分な説明」は慢性期医療の現場でも非常に重要になってきます。



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