感染対策向上加算等、「次なる新興感染症に備えるための医療機関・都道府県の協定」締結進むような見直しを—中医協総会
2023.7.26.(水)
2022年度の前回診療報酬改定で、新型コロナウイルス感染症対策を踏まえて感染対策向上加算・外来感染対策向上加算が新設された。その後、「次なる新興感染症対策に向けた協定」を都道府県・医療機関間で締結するなどの動きがあり、感染対策向上加算等についても「協定締結を推進する」ような施設基準・要件に修正していく必要がある—。
感染症対策においては「高齢者施設等の対策」が極めて重要であり、平時・有事の施設・医療機関連携を推進していく必要がある—。
抗菌薬適正使用が進んでいるが、諸外国に比べてまだまだ不十分であり、さらなる抗菌薬適正使用を進める必要がある—
いわゆる「敷地内薬局」については、医療機関との連携が不十分などの問題があり、2024年度の次期報酬改定でも「厳格な対応」が必要ではないか—。
7月26日に開催された中央社会保険医療協議会・総会で、こうした議論(「感染症対策」論議)が行われました。同日には「薬価制度改革」「保険医療材料制度改革」の議論が部会で行われており、別稿で見ていきます。
目次
感染症対策向上加算等、「新興感染症に係る協定」推進するように施設基準等見直し
2024年度の次期診療報酬・介護報酬改定に向けた議論が進んでいます。
【中医協の第1ラウンド論議に関する記事】
▽在宅その1
▽医師働き改革
▽医療計画
▽医療DX
▽外来その1
▽入院その1
【介護給付費分科会と中央社会保険医療協議会との意見交換会】
▽ACP等
訪問看護等
身体拘束ゼロ等
施設での医療、認知症等
要介護高齢者の急性期入院医療、リハ・口腔・栄養の一体的推進等
【入院・外来医療等の調査・評価分科会】
▽オンライン診療
▽外来医療の機能分化
▽入退院支援
▽外来化学療法の推進
▽医療機関での身体拘束ゼロ
▽地域包括ケア病棟、
▽急性期入院医療
オンライン診療を含めた外来医療調査結果
医師働き方改革の調査結果
回復期入院医療の調査結果
高度急性期入院医療の調査結果
急性期入院医療の調査結果
7月26日の中医協総会では「感染症対策」を議題とし、厚生労働省保険局医療課の眞鍋馨課長は、大きく(1)医療計画における新興感染症対策の推進(2)既存の感染症対策の推進(3)抗菌薬使用—の3点について議論を要請しました。「秋以降の新型コロナウイルス感染症対策に係る診療報酬特例の取り扱い」に関しては別途の議論が行われます。
まず(1)に関しては、2024年度からの第8期医療計画の中に「新興感染症対策」が盛り込まれ、例えば▼都道府県等と医療機関とが「感染症対応」に関する協定を締結する▼医療機関等は協定に基づいて平時からの感染症対策を強化する(医療機関間連携、医療機関・介護施設等間連携の強化、人材育成など)▼有事には協定に沿った対応を行う(入院患者受け入れ、発熱患者対応、回復患者受け入れ、医療従事者派遣など)—ことなどを地域ごとに協議・決定していくことが求められます(関連記事はこちら)。このうち平時対応には、(2)の「既存感染症(コロナ感染症、結核、麻しんなど)へ対する医療における、感染対策に必要な人員確保・個人防護・個室管理・他施設と連携等」も含めて考えることができるでしょう。
感染症対策の強化には一定のコストがかかるため、診療報酬による対応も重視されます。この点、2022年度の前回診療報酬改定では、コロナ対応を教訓とした「感染対策向上加算」「外来感染対策向上加算」の創設(従前点数からの組み換え)などが行われました。
加算1病院をリーダーとして、地域の加算2病院・加算3病院・外来加算クリニックが密接に連携し、自治体(保健所)や地域医師会とも共同して「地域において『面』で感染症対策を進める」ことを目指すものです(関連記事はこちら)。
【感染対策向上加算】
▽加算1:地域の他医療機関と連携し、「組織的な感染防止対策の基幹的な役割」を果たす地域の感染対策の基幹的な役割を果たす医療機関を評価する
▽加算2:地域の基幹となる加算1取得医療機関と連携し、感染対策に関する十分な経験と持つ医師・感染管理に関する十分な経験を持つ看護師などで構成される感染防止対策部門を設置するなどの相当程度の感染防止対策体制を敷く医療機関を評価する
▽加算3:地域の基幹となる加算1取得医療機関と連携し、医師・看護師からなる感染防止対策部門を設置するなどの一定程度の感染防止対策体制を敷く医療機関を評価する
【外来感染対策向上加算】:地域の基幹となる加算1取得医療機関と連携し、一定程度の感染防止対策体制を敷く診療所を評価する
支払側の松本真人委員は「すでに2022年度の前回改定で、感染症対策を評価する枠組みは整備されてる。協定を締結する医療機関に対する『平時対応』の評価については、感染対策向上加算等で十分に対応している」と述べ、新たな対応は不要との見解を強調しています。
これに対し同じ支払側の安藤伸樹委員(全国健康保険協会理事長)や診療側の長島公之委員(日本医師会常任理事)は「感染症対策にかかるコストを考慮し、協定医療機関の平時対応を促す診療報酬上の対応、つまり新たな評価、を検討する」よう要望しており、今後の調整論議が注目されます。
もっとも、現在の感染対策向上加算・外来感染対策向上加算のままで平時対応を評価するとしても、「協定の枠組み感染対策向上加算等との基準等とは必ずしも一致していない」という問題点もあります。
感染対策向上加算等はコロナ感染症対応を念頭に設計されたため、例えば加算1(地域の感染症対策のリーダー病院)には「コロナ重点医療機関の指定」に関連する要件(施設基準)が設けられています(加算2・3等でも同様にコロナ対応関連の要件がある)。
一方、次なる新興感染症に向けた協定においては、▼流行初期に対応する医療機関(診療報酬・補助金が充実するまでの間)▼流行時に対応する医療機関—という枠組みが設けられ、そこではコロナ重点医療機関の基準などが参考にされているものの、必ずしも「コロナ医療体制と同じ枠組みで医療提供体制を構築する」ものではありません。
このため、「新興感染症に対応する協定締結を促す、協定内容と診療報酬とが整合する」形で、感染対策向上加算等の施設基準・要件等を見直していく必要があります。支払側の佐保昌一委員(日本労働組合総連合会総合政策推進局長)や眞田享委員(日本経済団体連合会社会保障委員会医療・介護改革部会部会長代理)もこの点を指摘しています。
なお、次なる新興感染症へ対応する医療機関については、コロナ感染症ピーク時への対応力を参考に「流行初期に対応する医療機関は500施設程度、協定締結医療機関は3000施設程度」という想定がなされています。
他方、感染対策向上加算の取得状況(2022年7月1日時点)を見ると、▼加算1:1248施設▼加算2:1029施設▼加算3:2024施設▼外来加算:約1万6224施設—という状況です。
上述のように、両者は現時点では異なる枠組みであるため数字の比較には意味がありません(今後、整合を図っていく)が、松本委員は「加算1病院は平時・有事ともにしっかり対応してもらう必要がある。また流行初期対応も加算1病院が中心になると思うが、加算1病院で流行初期対応を行わない医療機関には、何を求めていくのかも検討する必要がある」旨をコメントしています。
また、新興感染症では「重症者対応」が非常に重要となります。コロナ感染症の初期段階でも「重症者が多数発生したが、毒性や治療法などが明らかでない中、一部医療機関のICUなどで手探りで対応を進めてきた」経緯があり、2022年度の前回診療報酬改定で【重症患者対応体制強化加算】が新設されました(関連記事はこちら)。
しかし、加算取得率は4%程度にとどまり、取得を困難にする点としては「施設基準に係る看護師の数に含めない看護師2名以上を確保」「急性期充実体制加算の取得」「ICU看護必要度の『特殊な治療法等』該当患者15%以上」「専従の臨床工学技士を確保」などがあがっています(関連記事はこちら)。
次なる新興感染症対応において、【重症患者対応体制強化加算】を取得するスーパーICUが「重症患者対応の鍵」となるため、加算の取得促進策を今後中医協で練っていきます。その際、「取得率を上げるために基準を緩くする」手法を安易に採用することは危険です。「未知の感染症に罹患した重症、重篤の患者」の命をすくための体制整備を促進するために、診療報酬でどう対応すべきを検討する必要があります。
高齢者施設の感染症対策を強化するため、平時・有事の医療機関との連携を推進
さらに、コロナ禍では「高齢者施設等の感染症対策」が極めて重要であることが再認識されました。感染症に罹患した場合に重症化しやすい高齢者が集団生活をおくる施設では、ひとたび感染者が発生すればクラスター化し、地域の医療提供体制を逼迫させてしまいます。
このため「平時から医療機関と高齢者施設等が連携し、感染症対応力を強化しておく」とともに、「有事の際には、医療機関が高齢者施設の感染症対応を支援する」ことが重要となり、「感染対策向上加算等で求められている地域医療機関でのカンファレンス・訓練などの輪に、高齢者施設等も含めてはどうか」との提案が出ています(関連記事はこちら)。
この点に関しては、「各都道府県において施設・医療機関連携を、平時対応も含めて十分議論しておく必要があり、その際には医療機関サイドの施設支援・助言・指導などを感染対策向上加算で評価するとともに、施設側には介護報酬での評価を行うことが重要である。また、入退院支援加算では『連携機関との面会』要件が設けられており、これを活用した連携推進も考えられる」(江澤和彦委員:日本医師会常任理事)、「専門人材を配置し、感染症対策の知見を持つ医療機関が、施設へ助言することが重要である。実際に、クラスター発生初期に医療機関が適切な支援を行うことで、早期に収束可能となった事例もある。平時からの医療機関・施設連携推進を進めるべきである」(木澤晃代委員:日本看護協会常任理事)などの意見が出ています。同時改定ならではの対応に期待が集まります。
このほか、「感染症蔓延時には、感染症対応を行う医療機関と、通常医療を行う医療機関との役割分担が必要となり、後者の通常医療を行う医療機関の負担(感染症対策)なども診療報酬で十分評価すべき」(長島委員)、「地域の感染症対応では、消防機関との連携も重要である。また診療報酬と補助金との切り分け明確化を考えておくべき」(島弘志委員:日本病院会副会長)などの意見も出ています。
抗菌薬適正使用が進んでいるが、諸外国と比べるとまだ不十分である
他方、(3)は従前より問題されている「薬剤耐性菌」対策の一環として、抗菌薬の適正使用をどう進めていくかというテーマです。
薬剤耐性AMR対策アクションプランに基づき、例えば2018年度診療報酬改定での「小児抗菌薬適正使用支援加算」創設、2022年度改定での「耳鼻咽喉科小児抗菌薬適正使用支援加算」創設などにより、「我が国における抗菌薬の適正使用」が進んでいます(関連記事はこちら)。
しかし、▼諸外国に比べて「推進すべきAccessに分類される抗菌剤」の使用割合が高い▼クリニックで抗菌剤の使用割合が高い—という課題があります。
この点、「抗菌薬適正使用に向けた評価の充実、J-SIPHE(感染対策連携共通プラットフォーム)へ参加しやすくする工夫等を検討すべき」(長島委員)、「医療機関に対する、抗菌薬適正使用に向けた周知・啓発がさらに必要である」(島委員)、「抗菌薬使用の実態を詳細に把握・分析したうえで対策を練るべきで、保険診療上の厳しい対応も考える必要がある。また感染対策向上加算における『サーベイランス強化加算』ではJ-SIPHE(感染対策連携共通プラットフォーム)等への参加を要件としているが、単なる参加にとどまらず、院内・地域の状況をモニタリングし、実際に『耐性菌を減らす』ことを要件化するなどの検討が必要ではないか」(松本委員)などの意見が出ています。
薬剤師の「医療機関・薬局」偏在をどう解消していくか
なお、7月26日の中医協総会では「調剤」に関する議論も行われ、関連して「医療機関(病院・診療所)と薬局との薬剤師偏在是正」が議論されています。
従前より問題視されているテーマであり、第8次医療計画の中でも「地域ごとに病院薬剤師確保に努めていく」方針が明確にされていますが、中医協では「調剤報酬の財源も活用して、病院薬剤師確保を進めていくべき」旨の指摘が長島委員や同じく診療側の池端幸彦委員(日本慢性期医療協会副会長、福井県医師会長)から出ています(関連記事は(関連記事はこちら)。
診療報酬改定率については、「医科:歯科:調剤の比率=1:1.1:0.3」という暗黙のルールがありますが、「調剤0.3」から、病院薬剤師確保に向けた医科(とりわけ入院)への財源シフトなどが行われるのか、今後の動きに注目が集まります。
また、「敷地内薬局」については、▼医療機関との連携はそれほど行われていない▼地域支援体制加算の届出割合は低い—ことなどが明らかにされ、「2024年度の報酬改定でも厳格に対応すべき」旨の指摘が診療側(長島委員)・支払側(松本委員)の双方から出されています。
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