少子化が進展する中で、小児医療・周産期医療について「集約化」と「アクセス確保」とのバランス考慮が極めて重要—中医協総会
2023.8.3.(木)
少子化が進む中で「小児医療、周産期医療」について集約化が求められるが、その特性を十分の考慮した「アクセスの確保」も極めて重要である—。
小児外来医療では、少子化が進む中でも受療率が増加しており、「かかりつけ医機能の更なる推進」に期待が集まる—。
小児入院医療では、看護補助配置が手薄な点を「付き添い」でカバーしなければならないとの指摘もあり、実態調査結果を踏まえて対策を検討していく必要がある―。
8月2日に開催された中央社会保険医療協議会・総会では、こうした議論も行われました(診療報酬改定施行時期に関する記事はこちら)。同日には「薬価制度改革(後発品安定供給など)」「費用対効果評価の見直しに向けた業界意見陳述」も議題に上がっており、別稿で報じます。
目次
小児外来医療の充実を目指し、小児かかりつけ診療料の更なる普及など目指せ
2024年度の次期診療報酬・介護報酬改定に向けた議論が進んでいます。
【中医協の第1ラウンド論議に関する記事】
▽診療報酬改定DX(施行時期の後ろ倒し)
▽感染症対策その1
▽在宅その1
▽医師働き改革
▽医療計画
▽医療DX
▽外来その1
▽入院その1
【介護給付費分科会と中央社会保険医療協議会との意見交換会】
▽ACP等
訪問看護等
身体拘束ゼロ等
施設での医療、認知症等
要介護高齢者の急性期入院医療、リハ・口腔・栄養の一体的推進等
【入院・外来医療等の調査・評価分科会】
▽オンライン診療
▽外来医療の機能分化
▽入退院支援
▽外来化学療法の推進
▽医療機関での身体拘束ゼロ
▽地域包括ケア病棟、
▽急性期入院医療
オンライン診療を含めた外来医療調査結果
医師働き方改革の調査結果
回復期入院医療の調査結果
高度急性期入院医療の調査結果
急性期入院医療の調査結果
8月2日の中医協総会では「小児医療」「周産期医療」を議題としました。岸田文雄内閣が重視する「少子化対策、子育て支援」を支える重要な分野であり、2024年度診療報酬改定での対応に注目が集まっています。
少子化に伴って小児の入院患者は減少していますが、外来患者は減少していないなどの特性があることから、小児医療については「外来」「入院」「高度急性期医療」「緩和ケア」など、細かな分野ごとに状況を見ていく必要があります。
まず「外来」については、少子化が進む中でも受療率が増加しており、医療提供体制の充実を図る必要があります。
小児科外来を評価する診療報酬としては、一般の初診料・再診料などのほかに▼小児科外来診療料▼小児かかりつけ診療料—などがあります。
小児科外来診療料は「6歳未満の乳幼児患者(入院外)を小児科を標榜する医療機関で診療した場合に算定する点数」、小児かかりつけ診療料は「時間外対応を行う小児科医療機関で、自院を4回以上受診している未就学児を診療した場合に算定する点数」と大まかに整備できます。いずれも包括報酬であり「小児患者に対するかかりつけ医機能」を評価する点数ですが、後者の小児かかりつけ診療料のほうでは、時間外対応が求められる点、小児科常勤医に学校医対応などが求められる点等を踏まえると、「よりかかりつけ医機能の発揮を期待している」ことが伺えます。
初・再診料や小児科外来診療料、小児かかりつけ診療料などの算定状況を見ると、「コロナ禍でも小児科外来診療料の算定件数が増加している」(初・再診の7割超を占める)一方で、「小児かかりつけ診療料では、算定件数こそ増加しているものの、初・再診の1割程度にとどまっている」ことが分かりました。
小児患者へのかかりつけ対応を推進する観点からは「小児科外来診療料に加え、小児かかりつけ診療料の普及を図る」ことが重要です。小児かかりつけ診療料の取得ハードルを見ると「24時間対応が困難である。自院で時間外の電話相談等に対応する『時間外対応加算1・2』の取得が困難である」との声が上がっています。このため2022年度の前回診療報酬改定では「他院との連携で時間外の電話相談等に対応する『時間外対応加算3』取得を要件とする、小児かかりつけ診療料2の創設」が行われました。しかし、時間外対応加算3そのものの取得医療機関が少なく、小児かかりつけ診療料2の取得も十分には進んでいません。
この点について診療側の長島公之委員(日本医師会常任理事)は「患者サイドは、かかりつけの医師に『体調が悪くなった場合の対処方法について、あらかじめ助言や指導を行ってくれる』ことなどを求めており、『夜間や休日でも、体調が悪くなった場合に連絡できる』『夜間や休日でも、緊急時に受け入れるか、受診できる医療機関を紹介してくれる』ことへの要望はそれほど多くない。患者の受療行動や地域ニーズに対し、医療機関は様々な役割を果たしており、それぞれを評価していくことが重要である」と指摘。より要件(施設基準)の緩やかな点数区分創設などを求めていると考えられます。
一方、支払側の松本真人委員(健康保険組合連合会理事)は「小児かかりつけ診療料の24時間対応は重要要素の1つであり、『時間外対応加算3への緩和』以上の対応は困難である。まず時間外対応加算3取得に向けた医療機関連携を地域で進めるべき」と指摘しています。
実態を踏まえた対応策を今後練っていくことになります。
また小児患者への在宅医療について、厚生労働省保険局医療課の眞鍋馨課長は「往診が大きく増加している」ことを紹介しました(2020年度から21年度にかけて2.6倍に、21年度から22年度にかけて1.9倍に増加)。この背景には、新型コロナウイルス感染症へ対応するための診療報酬臨時特例(重症化防止薬ゼビュディ投与を行う場合に【救急医療管理加算1】の5倍(4750点)算定を可能とするなど)が大きく関係していると思われます(5月8日の5類移行で特例を縮小している、関連記事はこちら)。この点、松本委員は「上手な医療のかかり方を普及し、適切な往診要請・適切な往診実施に切り替えるべき。診療報酬臨時特例も再整理が必要である」と求めています。コロナ特例については、「今夏の状況を踏まえて10月に再整理を行う」「今冬の状況を踏まえて2024年度改定の中で再整理を行う」方針が示されています(関連記事はこちら)。
小児入院医療、看護補助配置が手薄な部分を「付き添い」がカバーしているのでは・・・
小児患者の入院医療については、「患者数の減少を踏まえて、入院医療体制を集約化していく」方向が医療計画の中で示されています(関連記事はこちら)。多くの病院で「少なくなる小児患者」に対応することは非効率であり、経営維持も困難となるためです。ただし医療提供体制の集約化は、患者サイドからすれば「アクセスが困難になる」ことを意味します。小児では、成人患者と異なり「保護者等の面会、付き添い」の必要性が高くなるため、アクセスの確保は極めて重要な要素となります。「集約化」と「アクセス」とのバランスをとった小児入院医療体制の再構築が望まれます。
こうした小児入院医療体制を支える診療報酬として【小児入院医療管理料】が準備されています。一定数(管理料1では20名以上)の小児科常勤医師を配置するなどの基準を満たしたす病棟・病床において、15歳未満(小児慢性特定疾患患者では20歳未満)の患者を入院させた場合の点数で、眞鍋医療課長は次のような現状・課題を紹介しています。
▽届け出病床数は減少傾向にある
▽急性期病院での取得が多い
▽国立・公立・公的病院での取得が多い
▽患者単価は、急性期一般1よりも高いが、特定機能病院・専門病院よりも低い
▽2022年度の前回改定で創設された【時間外受入体制強化加算】(緊急入院が年間1000件以上で、充実した時間外対応体制を敷いている場合の加算)の取得は1-2割である
▽約5割の病棟で保育士を、約3割の病棟で看護補助者を配置している(逆に見れば7割の病棟では看護補助配置がない)
ところで、上述のように小児入院医療においては「保護者の付き添い」が必要になるケースが少なくありません。小児患者の精神面をサポートするなどの点で、付き添いが重要になることは想像に難くありませんが、「付き添いが看護補助者の代わりとなってしまっている」という課題も指摘されます。
こうした状況を踏まえて中医協委員からは、「付き添いをなしに十分な入院医療が提供できるような人材配置を、各種施策を組み合わせて実現すべき」(長島委員)、「小児入院医療管理料では看護補助配置が加算で評価されておらず、看護補助配置が進まない。看護補助者を配置可能とする診療報酬での対応を行ってほしい」(木澤晃代専門委員:日本看護協会常任理事)などの声が出ています。
なお、「付き添い」の実態について厚労省とこども家庭庁が共同で調査を行うことになっており、この結果も踏まえた議論が秋以降に進むと考えられます。
また、診療側の島弘志委員(日本病院会副会長)は「小児救急医療の機能分化が非常に重要である。地域では複数医療機関の連携による小児夜間対応が行われているが、運用コストなどの面でたいへん厳しく、診療報酬での対応が必要となる」とコメントしています。
このほか、入院医療に関しては次のような状況も眞鍋医療課長から明らかにされています。
▽晩婚化により低出生体重児などが増加しているが、小児への高度入院医療体制の充実により超低出生体重児の死亡率が大幅に低下している
▽PICU(小児特定集中治療治療室管理料)は届け出医療機関、算定回数ともに増加している
この点に関連して、「低出生体重児の増加、高度処置が必要な新生児の増加などを踏まえ、NICU(新生児特定集中治療室)の看護配置を現在の3対1から2対1に引き上げるべき」(木澤専門委員)との要望が出ています。
なお「緩和ケア病棟には小児患者がほとんどいない」ことが分かり、長島委員らは「2024年度改定での改善対応が必要」との見解を示していますが、「末期がん患者が多く入院する緩和ケア病棟での対応を望まない保護者」「最期は自宅で自らの手で看取りたいと考える保護者」も少なくないことから、厚労省では「緩和ケア病棟での小児患者受け入れを推進しなければいけない」と考えているわけではありません。患者・保護者が望む場(小児病棟、在宅も含めて)での対応が進むことに期待が集まります。
周産期医療、「患者アクセスの確保」と「集約化」とのバランスを考慮
また周産期医療に関しては、従来どおり「患者アクセスに配慮したうえで、集約化を進める」「ハイリスク妊婦、メンタルヘルス介入が必要な妊産婦への対応を強化する」方向が確認されています。
委員からは「ハイリスク妊婦等が増加しているとされるが、深掘りをし、現在の加算(ハイリスク妊娠管理加算など)で評価されていない状況に妊産婦がいる場合には、加算対象に追加するなどの対応が必要である」(長島委員)、「少子化が進行する中で集約化を進め、あわせてアクセスに配慮した医療機関の横連携を推進すべき」(島委員)、「集約化が進む中で『産科医がいない』地域などが生じていないか、アクセス面の配慮を忘れてはならない」(佐保昌一委員:日本労働組合総連合会総合政策推進局長)、「第8次医療計画に沿った周産期医療提供体制の構築を診療報酬でも支えていくえき」(松本委員)、「入院前から退院後までを見据え、訪問看護ステーションと入院医療機関との連携なども進めていくべき」(木澤専門委員)などの声が出ています。秋以降、こうした意見も踏まえて具体的な改定内容を探っていきます。
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