小児薬開発促進のため新薬創出等加算の積極的活用を、企業の予見可能性確保のため市場拡大再算定見直しを―中医協・薬価専門部会
2023.8.23.(水)
小児用医薬品の開発を進めるために、新薬創出・適応外薬解消等促進加算の活用を図り、薬価の下支えを行ってはどうか—。
原価計算方式で薬価を算定する医薬品については、「原価の開示」を促すルールが設けられているが、実際には進んでいない。このため類似薬効比較方式をより柔軟に適用し、原価計算方式の適用範囲を狭めていくことなどを考えてはどうか—。
市場拡大再算定の「共連れルール」(ある製品が想定を超えて巨額な売り上げとなった場合に薬価を引き下げ、その際、市場で競合する製品の価格も同様に引き下げるルール)について、企業の予見性への配慮、近年の競合性の複雑さなどを踏まえた見直しを行ってはどうか—。
8月23に開催された中央社会保険医療協議会の薬価専門部会で、こうした意見が薬価算定組織から示されました。この意見もベースに、2024年度の薬価制度改革論議が具体化していきます。
目次
小児適応の医薬品開発促進に向けて、新薬創出等加算の積極的活用を図るべきか
2024年度には薬価制度改革も行われ、その議論が薬価専門部会を中心に進んでいます(関連記事はこちらとこちらとこちらとこちら)。
8月23日の薬価専門部会では薬価算定組織から意見が示され、これに基づいた議論が行われました。
薬価算定組織は中医協の下部組織で、現行の薬価ルールに則って「個別品目の値決め」を行います。この値決め論議の中で「現行制度にはこうした課題がある」「こうした問題に突き当たったが、現行制度にはルールがない」などの知見が蓄積され、制度改正(薬価改定)の折に中医協に意見具申がなされるのです(材料価格制度、費用対効果評価制度でも同様の意見具申が各専門組織から行われる)。
薬価算定組織からの意見は、下表のように多岐にわたります。
まず「イノベーション評価」の(1)として、「小児に係る医薬品開発を評価するため、有用性系加算に該当しないものであっても、小児に対する効能効果、用法用量の開発に関して『特に評価すべき品目』については新薬創出・適応外薬解消等促進加算(以下、新薬創出等加算)の対象としてはどうか」との意見です。希少疾病用医薬品、特定用途医薬品、先駆的医薬品については「医薬品医療機器等法」に位置づけられ、要件を満たせば新薬創出等加算の対象となり、一定期間、薬価の下支えが行われます。しかし、小児用薬品については「医薬品医療機器等法」への位置づけがなく、新薬創出等加算の対象にもなっていないのが現行ルールなのです。
この点について、診療側の森昌平委員(日本薬剤師会副会長)は「小児患者に安全かつ有用な医薬品を提供する必要がある」と考え方に賛同。今後、診療側の長島公之委員(日本医師会常任理事)や支払側の松本真人委員(健康保険組合連合会理事)の指摘する「『特に評価すべき品目』の範囲をどう考えるか」を中心に加算見直し論議を進めていくことになりそうです。
また(2)では、様々な作用機序の医薬品が登場している現状を踏まえて、「新薬創出等加算の品目要件について、『薬理作用によらず』(a)有用性加算等に該当し品目要件を満たす品目を比較薬として算定された品目(b)(a)に該当する品目を比較薬として算定された品目については、有用性加算等に該当する品目の収載から3年以内に収載され、3番手以内のものに限り、品目要件を満たすものと扱う」との見直しを提案しています(現在は「薬理作用が類似」でなければ、3年以内・3番手の比較薬でも対象外となる)。新薬創出等加算の適用範囲を「広げる」提案内容です。
この点については、後述する「市場拡大再算定の共連れルール」など「比較薬、類似薬の考え方は薬価制度全体の中で整合性を図るべきではないか」との考えが診療側の長島委員から示されています。つまり「加算対象となる、つまり薬価を高く設定する類似薬・比較薬を広く考えるのであれば、市場拡大再算定などの薬価を低く設定する類似薬・比較薬も広く考えるべき」との指摘と言えます。
見直しにより「加算対象品目がどの程度広がるのか、薬剤費・医療費への影響はどの程度なのか、他のルール(上述の市場拡大再算定など)との整合性をどう図るのか」などを見ながら、今後、具体的な議論が進められます。
また(3)は「複数の効能追加がなされた場合に、追加された効能ごとに加算の該当性を判断し、併算定を認める」(現在は併算定不可)、(4)は「薬価算定時点国内の診療ガイドラインに記載されていなくとも、『薬価収載後に本邦で標準的治療法となることが明らかと見込まれる場合等は、有用性系加算の評価対象として取り扱う』(現在は薬価収載時に国内ガイドラインに記載されていなければ加算対象とならない)という提案です。
薬価算定組織の前田愼委員長(横浜市立大学消化器内科学教授)は「当該診療分野の複数の専門家が『薬価収載後には国内ガイドラインに記載されることが明らかである』と意見されるケースが出てきている。欧米のガイドラインには記載されているが、日本では使用実績がなく(薬価未収載であるため)ガイドラインに記載されていないという薬剤があり、そうした薬剤に関する評価ルールを検討すべき」旨をコメントしています。
原価開示が進まない中で、類似薬効比較方式の柔軟適用を進めていくべきか
また「薬価算定の妥当性・透明性の向上」に向けては、原価開示がなかなか進まない状況を踏まえて2022年度の前回改定で「開示度50%未満の場合には加算をゼロとする」との見直しが行われました。しかし、2022年度改定後に原価計算方式で薬価が算定された18品目のうち16品目・89%が開示度50%未満であるなど、依然として原価開示は進んでいません。この背景にはサプライチェーンが複雑化しており、「原価を明確化することが困難な部分が少なくない」などの指摘もあります。
薬価算定組織では、原価開示の明確化などに向けて次のような提案を行いました。
▽移転価格として日本に導入される品目について、原価計算方式において営業利益率を平均的な営業利益率より限定的な範囲で適用する(移転価格として日本に導入される品目割合が80%以上の企業における営業利益率は平均6.6%、90%以上の企業では平均5.9%と、医薬品メーカーの平均的な営業利益率(16.6%)の半分以下となっている)
→「医療上の必要性の高い未承認薬・適応外薬検討会議」の検討結果を踏まえ公募された品目など、特別の事情から移転価格として日本に導入することがやむを得ないと認められる品目は対象外とするなどの配慮を行う
▽開示度が相当程度高い品目については何らかのインセンティブ(加算など)を検討する
▽類似薬効比較方式による算定を一層進めるため、比較薬の選定をこれまでより柔軟に行う
この提案に対しては、「営業利益率をはじめ原価に関するデータには様々なソースがあり、よく吟味したうえで検討する必要がある。原価開示度が高い品目へのインセンティブ付与は、原価計算方式の本来趣旨から逸脱し他本末転倒な提案ではないか」(長島委員)、「営業利益率を低い値で見ていくことには賛同する。そもそも原価計算方式では原価の開示が当然のことではあるが、インセンティブ付与を検討すること自体は否定しない。また原価開示が進まないので類似薬効比較方式を柔軟化するという考え方はいかがなものか」(松本委員)などの指摘がなされました。
今後、「原価開示が進まない背景・理由」を改めて検証したうえで、具体的な方策を薬価算定組織提案もベースにして練っていくことになるでしょう。
このほか、薬価算定の妥当性等を確保するために、次のような提案も行われました。
▽G1/G2品目(後発品への置き換えを進めるために計画的に薬価を引き下げている長期収載品)を配合成分に含む新医療用配合剤なども、特に必要と認められる場合には類似薬効比較法域の「比較薬」とし(現行は不可)、その際の1日薬価合わせは「G1/G2ルール(薬価の計画的引き下げ)適用直前薬価」で行う
▽類似薬効比較方式(I)(新規性に富んだ医薬品、類似薬と同じ薬価(1日薬価合わせ)とすることを基本とし、有用性が認められればそこに+αの加算を付与する)においても、「比較薬とは臨床上の位置づけ等が異なり、単純に1日薬価合わせを行うことが同等の評価とは言えない」と考えられる場合には「1日薬価合わせの後に一定の減算を行う」仕組みとする
▽薬価収載から大きく間をおいて(5年以上など)、同一メーカーから新たな剤形の新製品が出される場合は、「特許切れ対策」とも考えられ、「1日薬価を合わせの後に、一定の範囲で減算する」ことを可能とする
市場拡大再算定の共連れルールなど、製薬メーカーの指摘踏まえた見直しを行うべきか
また、メーカーサイドからも強い要望が出ている「市場拡大再算定の見直し」に向けて、薬価算定組織からは次のような提案がなされています。
▽いわゆる「共連れルール」(ある製品が市場拡大再算定の対象となり薬価が引き下げられた場合、市場で競合する製品の価格も同様に引き下げる)について、企業の予見性への配慮や近年の競合性の複雑さを踏まえて見直しを行う
▽「類似薬効比較方式で算定された品目」と「原価計算方式で算定された品目」とで薬価収載後に区別して取り扱う必要性が減じつつある状況を踏まえて、市場拡大再算定は同じルールとして扱う(現在は下図表のように新薬の薬価算定方式の差で、市場拡大再算定の取り扱いにも違いがある)
▽臨床上有用な効能追加を評価する観点から、例えば「薬価収載時に有用性系加算に該当すると認められる効能が追加された品目」について、市場拡大再算定における補正加算(薬価引き下げの緩和)の対象とする
こうした提案に対しては、長島委員が「制度本来の趣旨を損なわないかどうかを主眼に検討するべき」と強く指摘。市場拡大再算定は、「想定を超えて巨額の売り上げとなった製品について、国民皆保険維持のために薬価を一定程度引き下げる」という趣旨で設けられ、共連れルールは「市場での公平な競争の確保」という趣旨で設けられました。長島委員はこうした趣旨・目的をまず確認したうえで、そこから逸脱しないように見直しを検討する必要があり、「場当たり的な見直しは好ましくない」と訴えています。
さらに、具体的には「現行ルールでも、規模、収載時期、適用範囲を考慮して、競合性が乏しい医薬品は共連れ対象から除外している。類似性・競合性の判断は非常に複雑であり、個別に制度趣旨に照らして中医協で判断することが妥当である。補正加算の拡大も、市場拡大再算定の趣旨に遡って考えるべきである」(長島委員)、「共連れルールは2022年度の前回改定(年間販売額が極めて大きい場合の特例再算定について、再算定から4年間、1回に限り再算定類似品の対象(共連れルール)から除外する)の効果を見極めてから見直しの必要性を考えるべき」(松本委員)といった指摘が出ています。
このほか、薬価算定組織からは▼「新薬が長期間収載されていない領域」において開発された新薬についての評価の在り方を検討する(類似薬効比較方式では、薬価が数度の改正で低く見直された医薬品と同等に設定されてしまい、補正加算の効果も小さくなる)▼有用性系加算の定量的評価の在り方を検討する(現在、評価項目を設定しポイント制を導入しており、さらなる精緻化を目指す)▼新たな評価を行う上での留意点を考慮する(企業提出データは「企業の不利になる」ものは出てこない点等をどう考慮するか)▼再生医療等製品のイノベーション評価の在り方を検討する(事例の積み重ねを進めていく)▼開発段階からの薬価相談(現在は「薬事承認」に関する相談はなされているが、その先の「薬価」に関する相談はなされていない)—などの提案が出ています。
中長期的な見直し提案も含まれますが、「医薬品開発には年単位、十年単位の時間がかかり、薬価制度も変わっていく、企業と国とで先を見据えた薬価相談を行うことは危険である」(長島委員)などの意見が出ています。
また、今後の具体的な薬価制度改革論議に向け、長島委員は上述のように「各ルールが設定された背景・趣旨・目的を再確認し、そこから逸脱しないように注意すべき」と、松本委員は「財政影響などを十分の考慮した議論を行うべき」と強調しています。
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