2024年度の薬価制度改革論議が大詰め、新薬創出等加算の企業要件廃止で「日本市場の魅力回復」と業界サイドが期待—中医協・薬価専門部会
2023.12.7.(木)
2024年度薬価制度改革に向けた議論が大詰めを迎えています。11月29日の中央社会保険医療協議会・薬価専門部会には、これまでの議論を踏まえた論点整理案が提示され、また12月6日の薬価専門部会では、この論点整理案に対する業界側の意見陳述が行われました。
さらに議論を深め、年内(2023年内)に薬価制度改革の骨子を固め、年明けに制度改革内容を決定します。
企業要件廃止で日本市場の魅力が復活し、ドラッグ・ラグ/ロスの解消につながる
医療用医薬品を巡っては、▼製薬メーカーが日本市場に魅力を感じず、我が国で医薬品の開発・販売を行わなくなっているという、新たな形のドラッグ・ラグ/ドラッグ・ロス▼後発医薬品を中心とした長引く供給不安—という問題が深刻化しています。
これらの問題を解決するためには、「医薬品の承認などの薬事制度の改善」「医薬品流通の適正化」「薬価上の対応」を総合的に行うことが求められ、中医協では「薬価上の対応」に関する議論が続けられてきました。11月29日に示された論点整理案(改革の大きな方向性)と、それに対する中医協委員・業界団体の意見を見てみましょう。
まず「ドラッグ・ラグ/ドラッグ・ロス」を解消するために、次のような方向が示されました。
(a)日本への早期導入に関する評価
→「国際共同治験の実施、日本で先に治験が実施されている」「医薬品医療機器等法における優先審査品目である」などの要件を満たす品目を【迅速導入加算】として新たに評価する、薬価基準収載後の外国平均価格調整でも価格引き上げを行う(関連記事はこちら)
(b)新薬創出・適応外薬解消等促進加算の見直し
→ベンチャー企業等に不利と指摘される企業要件の廃止、特許期間中の薬価維持、小児用医薬品の対象追加、乖離率の大きな品目の対象除外などを行う(関連記事はこちら)
(c)新薬の薬価収載時における評価
→有用性加算の整理(定量化)、市場性加算・小児加算などの加算率柔軟付与などを行う(関連記事はこちら)
(d)新薬の薬価改定時における評価
→薬価改定時の加算併算定を認める、薬価改定時の加算と新薬創出等加算の適用順を見直す(関連記事はこちら)
(e)小児用の医薬品に関する評価
→新薬創出等加算への対象追加・加算率の柔軟化など評価を充実する、成人と小児の同時開発に係る評価を行う、小児開発に取り組んでいる企業の評価(関連記事はこちら)
(f)新規モダリティのイノベーション評価
→原価計算方式における開示度向上を推進する、新薬の適切なイノベーション評価のあり方等を次期薬価改定に向けて検討していく(関連記事はこちら)
(g)その他のイノベーション評価に関する事項
→標準的治療に導入されることが確実な場合にも評価を行うなど(関連記事はこちら)
(h)市場拡大再算定の見直し
→類似品の取り扱い(共連れルール)を見直す、補正加算の整理を検討する(関連記事はこちら)
(i)長期収載品における対応
→長期収載品を選択した場合の患者負担の見直しと併せて検討するする(関連記事はこちらとこちら)
このうち(a)の迅速導入加算について、業界サイドは「既承認薬と異なる新作用機序である、既承認薬と同じ作用機序だが開発対象とする疾患への適応は初めてである、革新的な薬物送達システムを用いている」要件を満たす品目も対象にしてほしいと要望しています。
(b)の新薬創出等加算の「企業指標廃止」に関して、業界サイドは「海外から『日本も新薬の薬価が維持される国』と認識され、企業の投資に対する意欲も向上し、ドラッグラグ・ロスの解消につながる」と高く評価。ただし中医協委員は「企業の新薬開発に向けた姿勢を加算係数化するものである。指標を廃止するのであれば、加算対象企業を『新薬開発に積極的な姿勢を見せている企業』に限定すべき」旨を述べています。最終調整に注目が集まります。
また、乖離率の大きな品目について、中医協委員は「市場で価値が低いと判断されたために値引きが行われている(=結果、薬価と市場実勢価格との乖離が大きくなる)」ことを論拠に新薬創出等加算からの除外が妥当と考えていますが、業界サイドは「販売価格の形成には流通や競合品など様々な要素が関係する。一律に除外するのではなく、加算率の引き下げ(=薬価は維持されず、下落していく)で対応すべき」と要請しています。この点も今後の調整事項になるでしょう。
後発品安定供給に取り組む企業指標等の導入、まずは「上市から浅い品目」に限定しては
また(2)の後発医薬品を中心とする「供給不安」の解消に向けては、次のような対応方針が示されました。
(a) 後発医薬品の安定供給が確保できる企業の考え方
→「安定供給」に向けた企業指標を試行導入し、薬価に反映する(通常の3価格帯と別の評価)(関連記事はこちら)
(b) 後発医薬品の新規収載時の価格
→「同時に収載される内用薬が10品目を超える場合に先発品の0.4掛けとする」とのルールを、「7品目を超える場合に先発品の0.4掛けとする」と見直す(関連記事はこちら)
(c) 価格の下支え制度の充実
→基礎的医薬品の「収載からの経過期間」要件を25年から15年に短縮する、新たな剤形の最低薬価を設定する(関連記事はこちら)
このうち(a)の「安定供給に向けた企業指標」について、中医協委員からは「試行後の検証が極めて重要である」「具体的な指標に基づく試算結果を見て最終判断すべき」との意見が出ています。一方、業界サイドからは「企業指標導入は初めての試みであり、後発品供給へどう影響が出るのかを見通せない。まずは『収載年の浅い品目』(例えば収載から10年程度)に限定してほしい」と要望しています。
また(c)に関連して業界サイドは、▼出荷調整は「低薬価」品目を中心に生じており、例えば「限定出荷となっている薬価20円未満の医薬品」の薬価を引き上げてほしい▼医療上の必要性が高く安定供給すべきだが不採算となっている医薬品について薬価を引き上げてほしい▼医療上の必要性の高い医薬品について、緊急措置としての対応だけではなく、持続的に薬価を下支えする仕組みを検討してほしい▼薬価制度についても、物価高騰に機動的に対応できる仕組みを検討してほしい▼中間年の薬価改定の見直しを検討してほしい—と要請しています。
このように、細部にはまだ様々な意見がありますが、業界サイドも「日本の医療用医薬品市場の魅力をアピールする改革内容の第一歩である」と改革方向を高く評価しており、今後、最終調整を経て「薬価制度改革の内容」を固めていくことになります。
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