看護職員処遇改善、「独自の+α」を行う病院もある、6割超の病院で看護職「以外」の処遇改善も実行―入院・外来医療分科会(1)
2023.10.13.(金)
2022年10月からの【看護職員処遇改善評価料】の状況を見ると、多くの病院では「評価料収入と賃上げコスト」とのバランスが取れているが、一部に「評価料収入<病院の賃上げコスト」となるところもあり、独自の+αによる賃上げを行う病院が一定程度あることがわかる—。
また、6割超の病院では看護職「以外」の処遇改善も行っている。ただし、その場合には当然であるが、1人当たりの賃上げ額は小さくなる—。
他方、評価料の施設基準を満たしているが、「評価料が継続するか分からない中で、基本給引き上げなどは行えない」として、評価料を取得しない病院も一部にある—。
10月12日に開催された診療報酬調査専門組織「入院医療等の調査・評価分科会」(以下、分科会)で、こうした状況報告が行われました。委員からは「看護職員処遇改善評価料の改善」よりも「全医療従事者の処遇改善を行うために、基本診療料の大幅引き上げが必要ではないか」との意見が数多くだされています。今後、中央社会保険医療協議会で議論されます。
同日には「とりまとめ」も行われています。「一般病棟用の重症度、医療・看護必要度見直し」「地域包括ケア病棟での救急搬送患者受け入れ促進」「回復期リハビリ病棟の適切なFIM評価、リハビリ・口腔管理・栄養管理の一体的推進」「かかりつけ医機能の充実」「がん化学療法の外来移行推進」「救急医療管理加算の適切な算定」など幅広い分野について、これまでの調査分析・魏獣的検討結果をとりまとめたもので、この「とりまとめ」も踏まて、今後中医協で2024年度診療報酬改定の内容を具体的に練っていきます。こちらは別稿で詳しく報じます。
目次
「処遇改善評価料収入」<「賃金改善による支出」となっている病院も一部にある
昨年(2022年)10月より、新たに【看護職員処遇改善評価料】が設けられました(関連記事はこちらとこちらとこちら)。
2021年12月21日に当時の後藤茂之厚生労働大臣と鈴木俊一財務大臣との間で「看護職員について、賃上げ効果が継続される取り組みを行うことを前提として、収入を3%(月額1万2000円)程度引き上げる診療報酬上の対応を行うことが合意されたことを受けたものです(関連記事はこちら)。
▼【救急医療管理加算】を届け出ており、救急搬送件数が年間200件以上(賃金改善を行う期間を含む年度の「前々年度」実績)である医療機関(さらに詳細な要件あり)▼「救命救急センター」、「高度救命救急センター」、「小児救命救急センター」のいずれかを設置している医療機関―が対象となり、本年(2023年)9月末時点で2553施設が実績報告書の提出を行っています(後述のように評価料取得病院は実績報告書の提出が義務付けられる)。
看護職員数・延べ患者数は病院ごとに異なるため、165種類を超える「看護職員数・延べ入院患者数に応じた評価料」(1点-340点)が用意され、各病院が「自院の状況(看護職員数・延べ入院患者数)にマッチした評価料」を算定します。評価料の大枠は次のように設定されています。
【看護職員処遇改善評価料】の計算方法の大枠
▽各病院で、「看護職員等の賃上げ必要額」(当該医療機関の看護職員等数×1万2000円×1.165(社会保険料相当))÷「当該保険医療機関の延べ入院患者数×10円」で計算した値をもとに、165種類の評価料の中から「自院にマッチする評価料」を選択し、請求する(看護職員数・延べ患者数などは申請が必要であるが、根拠資料は「適切に院内に3年間保管」していればよく提示までは求められない)
(a)「看護職員等の数」は、直近3か月の各月1日時点における看護職員数の平均値とする
(b)「延べ入院患者数」は、直近3か月の1か月あたりの延べ入院患者数(▼入院基本料▼特定入院料▼短期滞在手術等基本料(基本料1を除く)—を算定している患者)の平均値とする
(c)毎年3、6、9、12月に上記計算式で算出し、区分に変更がある場合は地方厚生局長等に届け出る
(d)ただし、前回届け出時点と比較して、直近3か月の「看護職員等の数」、「延べ入院患者数」、「計算結果」のいずれの変化も1割以内である場合には、区分の変更を行わない
また、【看護職員処遇評価料】の収益は、すべてを「看護職員の賃金改善」に充てることが求められ、次のような賃金改善ルールが設定されています(評価料を他の使途(設備整備など)に充てることはNG)。
(a)当該医療機関に勤務する看護職員等(保健師、助産師、看護師、准看護師(非常勤職員を含む)をさす、以下同)に対して、【看護職員処遇改善評価料】算定額に相当する賃金(基本給、手当、賞与等(退職手当を除く)を含む。以下同)の改善を行う
賃金改善は、基本給、手当、賞与等のうち対象を特定して行うとともに、特定した項目以外の賃金項目(業績等に応じて変動するものを除く)の水準を低下させてはならない
(b)賃金の改善措置の対象者は、当該保険医療機関に勤務する看護職員等のほか、視能訓練士、言語聴覚士などのメディカルスタッフ(補助金と同様に規定)も職種も対象に加えることができる
(c)安定的な賃金改善を確保する観点から、【看護職員処遇改善評価料】による「賃金改善合計額の3分の2以上」は、基本給または決まって毎月支払われる手当の引き上げにより改善を図る(一時金は3分の1未満としなければならない)
(d)【看護職員処遇改善評価料】の見込額、賃金改善の見込額、賃金改善実施期間、賃金改善を行う賃金項目、方法などを記載した「賃金改善計画書」を毎年4月に作成し、毎年7月に地方厚生局長等に提出する
(e)毎年7月、前年度の取り組み状況を評価するため「賃金改善実績報告書」を作成し、地方厚生局長等に報告する
10月11日の分科会には、評価料の取得状況、看護職員等の処遇改善状況などが報告されました。
まず「評価料と賃金改善支出とのバランス」を見てみます。「評価料収入>賃金改善支出」となれば「病院が過剰な収益を得ている」ことになり、逆に「評価料収入<賃金改善支出」となれば「病院に、賃金改善のために大きな負担が生じている」ことになります。
この点、約6割の病院では「評価料と賃金改善支出とのバランスが相当程度図れている」(評価料による収入に占める賃金改善の実績額割合が100-105%)ものの、約2割の病院では「評価料よりも賃金改善支出のほうが大きく、病院の負担が生じている」(同じく110%超)状況が明らかになりました。
上述のように「各病院が自院の状況(看護職員数・延べ入院患者数)にマッチした評価料を算定」する仕組みであり、評価料をダイレクトに処遇改善に充てれば「過剰な収益」「過剰な負担」は生じないように制度設計されていますが、一部に「過剰な負担が生じている」状況です。ただし、こうした病院は、後述する「病院独自の+α」を行っているところであり、いわば「身銭を切ってスタッフに手厚い対応を行っている」と高く評価することも可能です。
6割超の病院が「看護職員『以外』の職員」の処遇改善を実施、+αを独自に行う病院も
また、賃金改善に関しては次のような状況が明らかになりました。取得病院において「適切な処遇改善が行われている」ことを確認できます。
▽看護職員等(保健師、助産師、看 護師及び准看護師)の1人あたり賃金改善目標額は「月1万2000円」(給与の3%相当額)であるが、賃金改善実績は1万1388円(事業主負担相当額を除いた実質的賃上げ額(以下、同)、目標の94.9%)であった
▽賃金改善額が月1万2000円未満である病院の8割以上は「看護職員等『以外』の職員」への処遇改善を実施していた
▽賃金改善額のうち、ベースアップ等の割合は約88%で、「賃金改善合計額の3分の2以上を基本給・決まって毎月支払われる手当の引き上げにより改善を図る」との要件を大幅に上回っていた
▽62%の病院が、評価料を用いて「看護職員等『以外』の職員」への処遇改善を実施しており、「看護職員等『以外』の職員」への賃金改善の実績は1か月あたり6329円であった
▽「看護職員等のみを対象とした病院」に比べ、「看護職員等『以外』の職員も対象とした病院」のほうが、看護職員等1人当たりの賃金改善額は小さくなっていた
▽「評価料による収入のみ」を用いて賃金改善した病院に比べ、「評価料による収入に加えて一定の支出(病院による+α)による」賃金改善を行っ病院ほうが、賃金改善額が大きくなっていた
評価料による収益は「当該病院に勤務する看護職員の数」で決まるため、「看護職員『以外』の職員」をも処遇改善対象とすれば、当然「1人当たりの賃金改善額」は小さくなります(割り算の分母が大きくなるため)。また、賃金改善の財源について「評価料による収入」に「病院独自の支出(+α)」を加えれば、当然「1人当たりの賃金改善額」は大きくなります(割り算の分子が大きくなるため)。このため、上記の結果は「当然のもの」「妥当なもの」と考えることができます。
「処遇改善評価の継続」を懸念して、処遇改善評価料の取得を行わない病院も一部ある
他方、「施設基準は満たすが、評価料を届け出ていない」病院も一部にあります。届け出を行わない理由を見ると、「評価料が継続される補償がなく、基本給・毎月支払われる手当の引き上げを行うことを躊躇する」との回答が最も多くなっていました(未届病院の約4割)。
こうした調査結果について委員からは、「看護職員処遇改善評価料の改善」を求める声ではく、「全医療従事者の処遇改善を行うために、基本診療料の大幅引き上げが必要ではないか」との意見が数多くだされています。
例えば、「評価料による処遇改善の対象は看護職員や他のメディカルスタッフに限定され、また評価料対象病院は全体の3分の1に限られている。一般企業では3-4%の賃上げが進んでおり、医療分野でも『3-4%の処遇改善』を全ての医療機関・全ての医療職種で行えるような財源確保の方向をしっかりと打ち出すべき」(猪口雄二委員:日本医師会常任理事)、「現在の評価料の仕組みでは、職種も限定されており限界がある。職種に関係なく病院全体での賃上げを可能とする仕組みを検討すべきである。病院では薬剤師確保に難渋しているが、評価料の処遇改善対象には入らない」(牧野憲一委員:日本病院会常任理事、旭川赤十字病院院長)、「全ての医療職種で3%の賃上げを可能とするには評価料ではなく、基本診療料の大幅引き上げが必要である。賃上げに結びついているかの事後検証も可能である。また患者・国民にそのための負担を納得してもらうことも重要である」(津留英智委員:全日本病院協会常任理事)、「評価料は一部病院のみでしか取得できず不公平感が大きい」(井川誠一郎委員:日本慢性期医療協会副会長)などの意見が出ています。
これらを総合すると、▼現在の評価料には「取得対象医療機関が限定されている」「処遇改善の対象職種が限定されている」という点で問題がある▼「全ての医療機関」で、「すべての職種」での処遇改善を可能とすることが重要であり、そのためには「基本診療料の大幅引き上げが必要である」—とまとめることができそうです。
ただし、山本修一分科会長代理(地域医療機能推進機構理事長)は「評価料は、そもそも新型コロナウイルス感染症に対応する看護職員への応援の意味で創設されたものであり、『全ての医療機関で、すべての職種での処遇改善を行う』こととは分けて考えるべきである」と冷静に指摘。
もっとも「薬剤師が処遇改善の対象職種から除外されていることは問題である。その背景には『薬剤師は給与が高い』という点があるようだが、それは保険薬局も含めているからであろう。病院薬剤師に限れば、必ずしも『給与が高い』とは言えないのではないか」と評価料の改善を提案しています。
また、中野惠委員(健康保険組合連合会参与)は「分科会の所掌・範疇を超えてはならない。基本診療料引き上げなどは中医協で議論すべきテーマである」と上記議論に釘を刺しています。
今後、こうした調査結果、分科会意見も踏まえて「看護職員処遇評価料を見直すべきか否か」などを中医協総会で検討していくことになります。
【関連記事】
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