「日本国民に必要な医薬品でもドラッグラグ・ロス、高い薬価を設定し、それが維持される仕組みが必要」と医薬品団体―中医協・薬価専門部会
2023.9.21.(木)
日本国民に必要な医薬品でもドラッグラグ・ロスが生じている。日本の医薬品市場の魅力を維持するために「高い薬価を設定し、それが維持される仕組み」を設ける必要がある—。
9月20日に開催された中央社会保険医療協議会の薬価専門部会で、業界団体からこうした意見陳述が行われました。今後、より具体的に2024年度の薬価制度改革案を煮詰めていき、年内(2023年12月)に改革案が取りまとめられます。
中医協委員からは「薬価引き上げの財源などをどう考えるのか」との反論も
2024年度の薬価制度改革議論が薬価専門部会を中心に進んでいます(関連記事はこちらとこちらとこちらとこちらとこちらとこちら)。
9月20日の薬価専門部会では、改めて業界団体から意見聴取が行われました(参加団体は日本製薬団体連合会、日本製薬工業協会、日本ジェネリック製薬協会、米国研究製薬工業協会、欧州製薬団体連合会、再生医療イノベーションフォーラム、日本バイオテク協議会、米国バイオテクノロジーイノベーション協会、日本医薬品卸売業連合会)。
まず、新薬に関しては「我が国でも必要な医薬品(例えば指定難病や小児慢性特定疾患の治療薬)についてドラッグラグ・ロスが少なからず生じている」ことを紹介したうえで、日本市場の魅力を高めるために次のような薬価制度上の対応をなすべきと提案しました。
【薬価収載時】
(1)革新的新薬を迅速に導入するための薬価算定(薬価収載時に欧米並みの価格設定ができる仕組み導入)
(2)有用性加算などの評価拡充(薬価収載後に本邦で標準的治療法となることが明らかな場合の加算適用、患者・家族の社会生活上の有用性については、治験の評価項目として有用性が検証されている場合の加算評価など)
【薬価収載後】
(3)新薬創出・適応外薬解消等促進加算の見直し(小児用医薬品などの医療上必要性の高い医薬品、ドラッグラグ・ロス解消に資する日本で早期上市した品目の加算対象への追加、企業指標・企業区分の廃止)
(4)市場拡大再算定の見直し(「共連れルール」の廃止、有用性の高い効能追加に関する再算定引き下げ率の緩和)
また、中医協委員から再三指摘される「原価の開示度合が低い、進んでいない」という点に対しては、▼輸入医薬品のサプライチェーンは複雑で、原薬製造、製剤化、包装の各工程が複数国にまたが り、自社工場のみならず多くの外部委託先を経て製品化される▼委託先を利用した場合でも原材料費、人件費、設備償却費、エネルギー代(電気、水道など)等の内訳を示さなければ原価を開示したとは認められないが、委託企業にこれら全ての経費について根拠となる情報を開示させることは極めて困難である—ことを改めて説明しました。
一方、後発品に関しては、「安定供給確保・品質確保に向けた適正活動を行う企業の品目で、医療上の必要性が高い品目を『個別銘柄改定』の対象とする」ことを提案。
さらに医薬品の安定供給に向けて、例えば▼急激な物価上昇等に対応可能な薬価制度を構築する▼医療上の必要性が高い医薬品の薬価を下支えするルールを充実し、薬価上の手当てが必要な品目への対応を図る▼基礎的医薬品の対象範囲を拡充する▼不採算品再算定による手当てが必要な品目に確実な適用を行う▼医薬品のカテゴリーに応じた薬価制度を構築する—ことなどを提唱しました。
ほか、▼再生医療等製品の特徴を踏まえた薬価算定ルールを設け、それまでの間は原価計算方式の改善等の対応を行う▼ベンチャー企業におけるウルトラオーファン薬(超希少疾病用医薬品)等の開発意欲が湧く薬価算定上の評価を行う▼流通不採算が持続的に安定供給に与えるリスクの観点を考慮し、「薬価20円未満の医薬品」(供給不安に陥りやすい)「安定確保すべき医薬品」の薬価引上げを行う—ことなども業界団体から要望がなされました
こうした意見に対しては、▼日本と先進諸国では医薬品の価格設定ルールが大きく異なっており単純比較はすべきでない。日本には「薬事承認された医薬品は速やかに保険適用される」という魅力があり、何よりの予見可能性確保の仕組みであるである。薬価引き上げ要望ばかりであるが、財源確保も考えなければならない(長島公之委員:日本医師会常任理事)▼新薬創出等加算の企業要件等について、制度趣旨や背景などを踏まえた慎重な見直しが必要である(森昌平委員:日本薬剤師会副会長)▼医薬品の安定供給確保のために、業界全体がどのように動くのかを国民が注視している点を認識してほしい(安藤伸樹委員:全国健康保険協会理事長)▼優れた新薬について特許期間中の薬価を維持せよとの主張には一定の理解が可能である。ただし「特許期間が切れた後の累積控除のタイミング」見直しとセットで考えたい(松本真人委員:健康保険組合連合会理事)—などの声が出ています。
これら中医協委員の意見には「速やかに保険適用される点は確かに優れているが、先進諸外国でも同様であり、それだけで日本の医薬品市場が魅力的に映るわけではない。欧米と遜色ない薬価設定が必要である」「医薬品そのものの価値を見た評価としてほしい」などの反論が出ています。
今後、業界団体意見も踏まえた具体的な薬価制度見直し論議に移行しますが、中医協委員は「日本の市場には今でも魅力があるでしょう」と主張するものの、業界サイドは「あなたがたは魅力があるというが、それは我々には魅力に感じない」と反論しており、議論が嚙み合っていない点が気になります。もちろん業界団体の意見・要望を全て飲み込めば「医療費、薬剤費が膨張し、医療保険制度の財政基盤が不安定さを増す」ことになりますが、意見・要望を蔑ろにすれば「日本国民が優れた医薬品を使うことができない」事態に陥ってしまいます。国民の生活・健康・生命を守るために、どういった方向が望ましいのかを十分に考えた議論が進むことを期待したいところです。
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