医療機器等のチャレンジ申請、「保険適用後にも一定の期間」申請可能に―中医協・材料部会
2023.9.20.(水)
医療機器等について「保険適用後のデータを踏まえた再評価」を可能とするチャレンジ申請について、現在は「保険適用申請と同時」に申請しなければならないが、「保険適用後も、一定の期間、申請を可能とする」ような見直しを行ってはどうか—。
9月20日に開催された中央社会保険医療協議会の保険医療材料専門部会(以下、材料専門部会)で、こうした議論が行われました。なお、同日には「薬価制度改革」論議も行われており、別稿で報じます。
診療報酬改定の施行時期後ろ倒しを踏まえ、医療機器等の保険適用時期も見直し
2024年度には、保険医療材料価格制度改革(材料価格改定)も行われます。これまでの「保険医療材料専門組織からの意見聴取」、「業界団体からの意見聴取」を踏まえた、個別具体的な制度改革論議に入りました。
9月20日の材料専門部会では、厚生労働省保険局医療課医療技術評価推進室の木下栄作室長から(1)チャレンジ申請(2)保険適用時期—の2点について見直し案が提示されました。
まず(1)のチャレンジ申請は「保険適用後のデータに沿って新たな機能区分を申請できる」(つまり高価格獲得の可能性がある)仕組みです。
医療機器・材料については、例えば長期間体内に埋め込む(ペースメーカーなど)など、その効果評価に長期間が必要なものがあります。こうした機器・材料では、保険適用申請を行うまでに「十分な効果評価」を得ることが難しいものもあり、「途中経過で有用性を判断する→価格設定が低くなっている」可能性があると指摘され、2018年度の材料価格制度改革でチャレンジ申請が導入され、2022年度改革で「技術料と一体評価される機器」への対象拡大が行われました。これまでに8製品がチャレンジ申請による再評価が行われています。
この仕組みについて、保険医療材料専門組織や業界団体からは「保険適用申請までにチャレンジ申請に必要な計画を作成することが困難な場合もある」「保険適用後に学会等から示されたエビデンスも踏まえた再評価がなされるべきである」ことを踏まえ、「保険適用の後にも、チャレンジ申請を行う道を開いてはどうか」との提案がなされていました(関連記事はこちらとこちら)。
木下保険医療技術評価推進室長は、こうした意見、さらに薬価制度も参照し、チャレンジ申請について次のような見直しを検討してはどうかと9月20日の材料専門部会に提案しています。
【チャレンジ権取得時期】
▽有用性の評価に長期間の使用実績が必要な医療機器等におけるイノベーション評価を充実する観点から、チャレンジ権の取得に係る申請について「保険適用後も一定期間は行える」仕組みとしてはどうか
▼申請を行える期間は、「製造販売業者が試験計画の立案を行うために必要と想定される期間」に限定してはどうか
▼「メーカー関与」のうえで保険適用後にデータを収集する場合にチャレンジ申請の対象となることを明確化してはどうか(医薬品の再評価では「メーカーの関与が低く、学会等によるデータに基づく場合」を除外している)
【チャレンジ申請の対象拡大】
▽技術料に包括して評価されている体外診断用医薬品についても、チャレンジ申請の対象としてはどうか(他の機器等と同じ取り扱い)
【チャレンジ権取得品目の取り扱い】
▽メーカーに対し、チャレンジ申請を取得した品目についての「保険収載後のデータ集積状況や臨床成績等について、少なくとも2年に1回以上の定期的な報告を求める」対応を継続するとともに、「再評価の希望を取り下げる場合にも、それまでの臨床成績等について報告を求める」などの対応を行ってはどうか
この見直し提案に異論・反論は出ていませんが、診療側の茂松茂人委員(日本医師会副会長)は「データで悪い結果が出た場合には評価の引き下げも行うべき」(この指摘への対応が上述の「申請を取り下げる場合の取り扱い」となる)、「保険適用後にもチャレンジ申請を行える期間は限定的にすべき」との注文を付けています。ただし、材料・機器メーカー代表として中医協に参画する守田恭彦専門委員(ニプロ株式会社執行役員)は「仮説の検証、必要に応じた予備的試験実施などにより、場合によってはチャレンジ申請に向けた計画作成にも年単位の時間がかかることがありうる点を考慮してほしい」と要望しました。
今後、業界からの意見なども踏まえ「どの程度の期間を、保険適用後にもチャレンジ申請を認めるべきか」を詰めていくことになります。
また(2)は、診療報酬改定の直前(改定前年の12月から改定年の1月)に保険適用が中医協で承認された医療機器などの「実際の保険適用時期」をどう考えるかという論点です。
現在は、新機能が認められたC1製品などについては「改定施行と同時期、つまり改定年の4月」に保険適用する取り扱いとなっていますが、2024年度から「改定施行時期を6月1日に後ろ倒しする」方針が固められており(診療報酬本体、材料価格は6月、薬価は4月)、「改定施行と同時期の保険適用」ルールを継続すると、「新たな医療機器への患者アクセスが遅くなってしまう」という問題が生じてしまいます。
そこで木下保険医療技術評価室長は、新機能が認められたC1製品などについては「改定施行を待たず、3月に保険適用してはどうか」との提案を行い、了承されました。医療機器・材料の区分によって保険適用時期は下表のように変わってきます。なお、診療側の林正純委員(日本歯科医師会副会長)は「混乱が生じないように、事前の情報提供を十分に行ってほしい」と要望しています。
ところで、画期的な医療機器等について「機能区分の特例」という仕組みが設けられています。医薬品と異なり、医療機器等は「機能区分の同じ製品は、同一の保険償還価格を設定する」こととなっていまう。このため、画期的な医療材料を開発して高額な価格設定がなされても(製品A)、後に安価な類似品(製品B)が登場し、それが同じ機能区分に組み入れられた場合には、製品Aの価格は製品Bに引っ張られて低く見直されてしまうのです。
これではメーカーの開発意欲を阻害してしまうため、画期的な製品について「機能区分の特例」(事実上の単独区分)を認めて、一定期間高価格を維持できるようにする仕組みが設けられています。現行ルールでは、この高価格が維持される一定期間が「2回の改定を経るまで」とされています。
しかし、上記のように「保険適用時期の見直し」がなされた場合には、「すぐに1回目の改定が到来してしまう」という不都合が生じてしまいます。そこで、高価格が維持される一定期間について必要な見直しが検討される見込みです(例えば「3回の改定を経るまで」と見直すなど)。
材料専門部会では、今後も月1回のペースで「プログラム医療機器の保険適用ルール」などの議論を重ね、年内(2023年12月)に材料価格制度改革案を固める予定です。
【関連記事】
「働きながらがん治療を継続できる」環境整備に向け、化学療法の外来移行、栄養指導等を強力に推進―入院・外来医療分科会(3)
回復期リハ病棟での栄養・口腔管理推進、療養病棟の医療区分細分化、入院全般での身体拘束ゼロ等などが重要論点―入院・外来医療分科会(2)
「患者本位の医療実現」「個々の患者に相応しい療養環境」など考え、看護必要度や平均在院日数などを見直し―入院・外来医療分科会(1)
費用対効果評価に基づく価格調整をより広範囲にすべきか、介護費用削減効果を医薬品・医療機器の価格に反映させるべきか―中医協
コロナ診療報酬特例、コロナ感染拡大の状況・医療現場の効率的診療状況踏まえて「点数を引き下げて継続する」方向で調整—中医協総会
医師働き方改革効果あるプログラム医療機器、メーカー側は「加算評価」を求めるも、中医協委員は「理解できない」と反論―中医協・材料部会
診療報酬改定のない年の薬価改定(中間年改定)、医薬品供給やドラッグラグ・ロスへの影響も見ながら在り方を検討―中医協・薬価専門部会
2024年度診療報酬改定に向けて第1ラウンド論議を総括、今後、個別具体的な点数・施設基準に関する第2ラウンド論議へ—中医協総会
医療部会でも2024年度診療報酬改定「基本方針」論議、病院団体が「食事療養費引き上げ」「賃上げの原資確保」を強く要請—社保審・医療部会
2024年度診療報酬改定「基本方針」論議始まる、物価急騰への対応や医療保険制度の持続可能性確保など重視―社保審・医療保険部会(1)
小児薬開発促進のため新薬創出等加算の積極的活用を、企業の予見可能性確保のため市場拡大再算定見直しを―中医協・薬価専門部会
療養病棟の医療区分、「疾患・状態での該当」と「処置での該当」で状況が異なる点踏まえ細分化すべきか―入院・外来医療分科会(4)
「在宅患者の状態悪化→外来受診→地域包括ケア病棟入院」の流れも高く評価し、救急搬送・受け入れ負担軽減を―入院・外来医療分科会(3)
ICU評価は「看護必要度+SOFAスコア」へ、HCU看護必要度から心電図モニタ管理など削除へ―入院・外来医療分科会(2)
看護必要度が「高齢の誤嚥性肺炎等患者の急性期一般1への救急搬送」を促している可能性―入院・外来医療分科会(1)
費用対効果制度について医薬品業界・医療機器業界から意見聴取、医薬品・機器の各々の特性踏まえた制度改善を―中医協
後発品の価格帯集約ルール、医療上の必要な医薬品の価格を下支えするルールなど、どのように考えていくべきか―中医協・薬価専門部会
少子化が進展する中で、小児医療・周産期医療について「集約化」と「アクセス確保」とのバランス考慮が極めて重要—中医協総会
2024年度以降の診療報酬改定、実施時期を2か月遅らせ「6月1日施行」とする方針を中医協で固める、薬価改定は4月実施を維持
医薬品を保険適用した後の「効能効果追加」などの評価改善、市場拡大再算定の在り方を継続論議―中医協・薬価専門部会
診療時間短縮などの効果あるプログラム医療機器、特別な評価をすべきか?―中医協・材料部会
感染対策向上加算等、「次なる新興感染症に備えるための医療機関・都道府県の協定」締結進むような見直しを—中医協総会
一部に「歪んだオンライン診療」、適切な形でのオンライン診療推進を目指せ!D to P with Nの量・質の拡充を―入院・外来医療分科会(4)
外来医療の機能分化が2024年度診療報酬改定でも重要テーマ、生活習慣病管理の取得・算定推進に向けた手立ては―入院・外来医療分科会(3)
入退院支援加算について「入院料別の施設基準・算定要件」など検討しては、緊急入院患者の退院支援が重要課題―入院・外来医療分科会(2)
がん化学療法の外来移行、「栄養指導」や「仕事と治療との両立支援」などと一体的・総合的に進めよ―入院・外来医療分科会(1)
高額な医薬品・医療機器など、より迅速かつ適切に費用対効果評価を行える仕組みを目指せ、評価人材の育成も急務―中医協
新薬創出等加算の企業要件には「相当の合理性」あり、ドラッグ・ラグ/ロスで日本国民が被る不利益をまず明確化せよ―中医協・薬価専門部会
在宅医療ニーズの急増に備え「在宅医療の質・量双方の充実」が継続課題!訪問看護師の心身負担増への対応も重要課題—中医協総会
入院医療における「身体拘束の縮小・廃止」のためには「病院長の意識・決断」が非常に重要―入院・外来医療分科会(3)
地域包括ケア病棟、誤嚥性肺炎等の直接入棟患者に「早期から適切なリハビリ」実施すべき―入院・外来医療分科会(2)
総合入院体制加算から急性期充実体制へのシフトで地域医療への影響は?加算取得病院の地域差をどう考えるか―入院・外来医療分科会(1)
「特許期間中の薬価を維持する」仕組み導入などで、日本の医薬品市場の魅力向上を図るべき―中医協・薬価専門部会
乳がん再発リスクなどを検出するプログラム医療機器、メーカーの体制など整い2023年9月から保険適用―中医協総会(2)
高齢患者の急性期入院、入院後のトリアージにより、下り搬送も含めた「適切な病棟での対応」を促進してはどうか—中医協総会(1)
2024年度の薬価・材料価格制度改革論議始まる、医薬品に関する有識者検討会報告書は「あくまで参考診療」—中医協総会(3)
マイナンバーカードの保険証利用が進むほどメリットを実感する者が増えていくため、利用体制整備が最重要—中医協総会(2)
かかりつけ医機能は「地域の医療機関が連携して果たす」べきもの、診療報酬による評価でもこの点を踏まえよ—中医協総会(1)
2024年度の診療報酬・介護報酬・障害福祉等サービス報酬の同時改定で「医療・介護・障害者福祉の連携強化」目指せ—中医協総会(2)
医師働き方改革サポートする【地域医療体制確保加算】取得病院で、勤務医負担がわずかだが増加している—中医協総会(1)
患者・一般国民の多くはオンライン診療よりも対面診療を希望、かかりつけ医機能評価する診療報酬の取得は低調―入院・外来医療分科会(5)
医師働き方改革のポイントは「薬剤師へのタスク・シフト」、薬剤師確保に向けた診療報酬でのサポートを―入院・外来医療分科会(4)
地域包括ケア病棟で救急患者対応相当程度進む、回復期リハビリ病棟で重症患者受け入れなど進む―入院・外来医療分科会(3)
スーパーICU評価の【重症患者対応体制強化加算】、「看護配置に含めない看護師2名以上配置」等が大きなハードル―入院・外来医療分科会(2)
急性期一般1で「病床利用率が下がり、在院日数が延伸し、重症患者割合が下がっている」点をどう考えるべきか―入院・外来医療分科会(1)
総合入院体制加算⇒急性期充実体制加算シフトで産科医療等に悪影響?僻地での訪問看護+オンライン診療を推進!—中医協総会
DPC病院は「DPC制度の正しい理解」が極めて重要、制度の周知徹底と合わせ、違反時の「退出勧告」などの対応検討を—中医協総会
2024年度の費用対効果制度改革に向けた論議スタート、まずは現行制度の課題を抽出―中医協
電子カルテ標準化や医療機関のサイバーセキュリティ対策等の医療DX、診療報酬でどうサポートするか—中医協総会
日常診療・介護の中で「人生の最終段階に受けたい・受けたくない医療・介護」の意思決定支援進めよ!—中医協・介護給付費分科会の意見交換(2)
訪問看護の24時間対応推進には「負担軽減」策が必須!「頻回な訪問看護」提供への工夫を!—中医協・介護給付費分科会の意見交換(1)
急性期入院医療でも「身体拘束ゼロ」を目指すべきで、認知症対応力向上や情報連携推進が必須要素—中医協・介護給付費分科会の意見交換(2)
感染対策向上加算の要件である合同カンファレンス、介護施設等の参加も求めてはどうか—中医協・介護給付費分科会の意見交換(1)
要介護高齢者の急性期入院医療、介護・リハ体制が充実した地域包括ケア病棟等中心に提供すべきでは—中医協・介護給付費分科会の意見交換
2024年度の診療報酬に向け、まず第8次医療計画・医師働き方改革・医療DXに関する意見交換を今春より実施—中医協総会
2022年度改定での「在宅医療の裾野を広げるための加算」や「リフィル処方箋」など、まだ十分に活用されていない—中医協(1)