診療報酬改定のない年の薬価改定(中間年改定)、医薬品供給やドラッグラグ・ロスへの影響も見ながら在り方を検討―中医協・薬価専門部会
2023.9.1.(金)
診療報酬改定のない年の薬価改定(中間年改定)が2021年度から本格導入されているが、医薬品供給やドラッグラグ・ロスの状況も見ながら在り方を検討していく必要がある—。
8月30日に開催された中央社会保険医療協議会の薬価専門部会で、こうした議論が行われました。今後、再度「業界団体からの意見聴取」を行い、2024年度の薬価制度改革案を煮詰める議論を進めていきます。
医薬品流通に関する諸課題を別検討会で議論し、それを踏まえて薬価対応を検討
2024年度には薬価制度改革も行われ、その議論が薬価専門部会を中心に進んでいます(関連記事はこちらとこちらとこちらとこちらとこちら)。
8月30日の薬価専門部会では、(1)医薬品流通に関する課題(2)診療報酬改定がない年の薬価改定(3)高額医薬品(感染症治療薬)に対する対応—の3点を議題としました。
まず(1)は、「医薬品の迅速・安定供給実現に向けた総合対策に関する有識者検討会」の報告書でも指摘されている、「薬価差を得ることを目的とした値下げ交渉や販路拡大のための値下げ販売により、薬価差の過剰な偏りが生じている」「一律2%の調整幅が流通の実態にマッチしていない」「総価取引の中で長期収載品や後発品が調整弁となってしまっている」などの課題をどう解決していくかという論点です。
医薬品流通の課題例として、厚生労働省保険局医療課の安川孝志薬剤管理官は▼割戻とアローアンスにより「一次売差マイナスを補填する」構造となっている▼いわゆる「総価取引」が続いている—ことなどを例示。
この点、中医協では「流通問題を議論する検討会(「医療用医薬品の流通改善に関する懇談会(流改懇)などでまず議論を進めてもらい、後に中医協で検討を深めるべき」との考えが、診療側の長島公之委員(日本医師会常任理事)や支払側の松本真人委員(健康保険組合連合会理事)らから出ています。もっとも「販売先別、カテゴリー別などで乖離率(薬価と能力価格との差)を詳しく示してほしい」との注文もついています。
また、調整幅については「長年の議論を経て2%に決定されていることを重視すべき」(長島委員)、「医薬品流通が複雑化する中で調整幅の重要性が高まっている、見直しは好ましくない」(森昌平委員:日本薬剤師会副会長)との意見が出る一方で、「長年2%に固定されており疑問を持っている。あり方を議論しなおすべき」(松本委員)との声も出ています。
調整幅は、市場実勢価格を踏まえた新たな薬価を設定する際に、「流通経費」などを考慮するためのものです。
医療機関・薬局と医薬品卸との間では、医薬品の価格は市場取り引きルールで設定され、ほとんどのケースでは「薬価よりも低い価格」で医療機関等が購入しています(市場実勢価格)。薬価改定の際には、この市場実勢価格の平均値をベースに「新たな薬価」(改定後薬価)を設定しますが、例えば「過疎地などでは運送等で、通常よりも多くコストが生じる」などの事情を考慮する必要があります(この点を考慮しなければ過疎地等への販売において卸サイドがコスト割れをしてしまう)。この点の考慮を「調整幅」で行っており、現在は2%に設定されています(ただし2021年度の中間年改定では、コロナ感染症を踏まえた特例的な対応として2.8%に設定)。調整幅がなければ「薬価改定(引き下げ)の影響が極めて大きくなる」ことが安川薬剤管理官から図表を用いた説明もなされています。
今後、調整幅を巡りどういう議論が行われるのか注目する必要があるでしょう。
また(2)は、診療報酬改定のない年の薬価改定、いわゆる「中間年改定」「毎年度改定」についてどう考えるか、という論点です。
2017年末のいわゆる4大臣合意に基づいて、薬価制度の抜本改革が2018年度から進められており(関連記事はこちら(2018年度改革)とこちら(2020年度改革))、その一環として「毎年度の薬価改定実施」(2年に一度、診療報酬改定と同時に行われる通常の薬価改定+診療報酬改定の行われない年に行われる中間年改定)があります。
薬価制度抜本改革は、「国民皆保険の持続性確保」と「イノベーションの推進」を両立しながら、「国民負担の軽減」「医療の質の向上」の実現を目指すものです。中間年改定は、このうち「国民皆保険の持続性確保」「国民負担の軽減」を重視したものです。
しかし、中間年改定により「薬価引き下げスピードが増加し、これが医薬品の供給不安やドラッグラグ・ロスを招く一要因にもなっている」とメーカーサイドは指摘(関連記事はこちら)。
中医協では、「過去2回の中間年改定(2021年度、23年度)の影響(医薬品供給不安やドラッグラグ・ロスなど)を見て中間年改定の在り方を検討していくべき」(長島委員)、「6年連続の薬価改定(=薬価引き下げ)となり、薬局の経営も厳しくなっている。中間年改定の範囲はもちろん、その是非も含めた検討をすべき。このままでは医薬品の寿命が短くなり、結果、国民が不利益を受けてしまう」(森委員)との意見が出る一方で、「中間年改定は、国民皆保険の持続性確保、国民負担の軽減を重視したものである。中間年改定では『市場実勢価格に連動したルール』のみが適用されるが、この視点に沿えば『新薬創出・適応外薬解消など促進加算の累積控除』『外国価格調整を含めた他ルール』についても適用すべき」(松本委員)との考えも示されました。
【新薬創出・適応外薬解消等促進加算】は、「通常、改定の都度に価格が下がっていく医薬品」のうち、▼製品に革新性があり、医療現場にとって欠かせない(品目要件)▼当該製品を開発するメーカーが、革新的な創薬に向けた成果を出している(企業要件・企業指標)―という2軸で選定した医薬品について、「一定程度の薬価の維持」(薬価引き下げの猶予)を認める仕組みです。薬価の一定程度維持により得られる原資を「優れた医薬品の開発」に投資することを期待するものです。
ただし、永久に「一定程度の薬価維持」が認められるものではなく、一定期間後(後発品が上市された後、または薬価収載から15年経過後)には、薬価改定の折に「それまで猶予されていた分の価格引き下げ」(累積控除)が行われます。
また、G1・G2ルールは「長期収載品(特許切れ品目)から後発品への置き換え」を進めるために、「置き換え率に応じて、段階的に長期収載品の薬価を下げていく仕組み」です。
この点、累積控除やG1・G2実施が遅れれば、その期間、薬価は高いままに維持されることになり、結果として「患者負担、医療保険の負担が大きくなる」ことに繋がります。松本委員は「国民負担の軽減のため、中間年改定でも累積控除を行うべき」との考えを示しているのです。
今後、改めて議論が行われることでしょう。
ところで、緊急収載された新型コロナウイルス感染症治療薬「ゾコーバ錠」については、極めて市場規模が大きくなる可能性があることなどを踏まえ「特別な薬価ルール」が設けられました(関連記事はこちらとこちら)。
今後、こうした「極めて市場規模が大きくなる可能性のある薬剤」が登場すると予想され(例えば、認知症治療薬「レカネマブ」など)、ゾコーバ錠の例も踏まえて「薬価設定ルールをどう考えるべきか」という(3)議論が深められます。この点、中医協では「ゾコーバ錠と同様に、既存の薬価制度では適切な対応が困難な場合には『まず中医協総会で議論し、その方針を踏まえて薬価算定組織で値決め案を検討する』ことが妥当である。なお、新薬を薬事承認から60日・90以内に保険適用する我が国の仕組みは、患者アクセスの面、メーカーの予見可能性確保の点で優れいる。外国の保険適用等状況に関するデータも示してほしい」(長島委員)との意見が出ています。事前に統一ルールを設けるよりも「個別品目の特性や医療提供の状況などを踏まえて方針を決める」という考えを長島委員は持っていることが分かります。
2024年度の薬価制度改革に向けた議論は、今回で一巡したと言え、今後「再度の業界団体ヒアリング」を経て、より具体的な改革案策定論議が秋以降に進んでいきます。
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