革新的新薬の「新たな薬価ルール」検討し、製薬企業が特許期間中に研究開発コストを回収できる環境整えよ—医薬品安定供給有識者検討会
2023.6.7.(水)
現在の薬価制度、医薬品産業構造、流通など様々な面で課題があり、「医薬品の供給不安」「創薬力の低下」「ドラッグ・ラグ/ドラッグ・ロス」といった問題が顕在化している—。
例えば、薬価制度について「革新的新薬の新たな薬価ルール」を設け、製薬企業が特許期間中に研究開発コストを回収できる環境を整えることなどで、先発品メーカーの研究開発型企業への転換をさらに進めることが必要である—。
また後発品メーカーについては「安定供給確保」に関する要件をより強化・明確化し、要件を満たさない企業の撤退を促すことなども必要である—。
「医薬品の迅速・安定供給実現に向けた総合対策に関する有識者検討会」(以下、有識者検討会)が6月6日に、こうした内容を盛り込んだ報告書を遠藤久夫座長(学習院大学経済学部教授)一任で取りまとめました。この報告書の内容を踏まえ、例えば薬価制度については「中央社会保険医療協議会」で、流通に関しては「医療用医薬品の流通改善に関する懇談会」で、引き続き改革に向けた議論が進められます(関連記事はこちら)。
●報告書案はこちら(今後、文言調整が行われる可能性あり)
提言内容を踏まえ中医協等で具体的な議論に入る
医療用医薬品を巡っては、(1)日本市場の魅力が低下し、「外国製薬メーカー」が本邦での上市を遅らせる、さらには見送る事態が生じている(2)国内メーカーによる「画期的な医薬品の開発能力」低下が懸念される(3)多くの品目(とりわけ後発医薬品)で深刻な「供給不安」が生じている—といった課題があります。
有識者検討会では、こうした課題について非常に幅広い角度から議論を重ね、「現状の把握」「課題の明確化」を行ったうえで、「改善方策」について提言を行いました。
まず、上記のような課題が生じる背景については、例えば次のような要因があると分析しています。
▽現下の供給不安の背景には、主に▼後発品産業構造上の課題(小規模企業が少量・多品目生産を行うため低収益な構造にあるなどの産業構造上の問題から「安定的・機動的な生産体制の確保」ができていないなど)▼薬価基準制度上の課題(後発品薬価が早期に下落するなどの仕組みとなっており、これが後発品メーカーの低収益構造にもつながる)▼サプライチェーン上の課題(収益確保のため、より安価な原料を海外に依存しているなど)—がある
▽創薬力の低下・ドラッグ・ラグ/ドラッグ・ロス(世界の売り上げ上位300位医薬品の17.7%が我が国で未上市)の背景には、製薬企業が▼新規モダリティ(医薬品分類)の変化に立ち後れている▼研究開発型企業になり切れていない▼革新的新薬を創出するベンチャー企業育成が遅れている—こと、臨床試験・治験のハードルが高い、薬価制度上の問題(原価計算方式の限界、補正加算の限界など)から「我が国の医薬品市場としての魅力が低下」しているころなどの問題が重層的にある
▽医薬品流通について、「薬価差を得ることを目的とした値下げ交渉や販路拡大のための値下げ販売により、薬価差の過剰な偏りが生じている」「一律2%の調整幅が流通の実態にマッチしていない」「総価取引の中で長期収載品や後発品が調整弁となってしまっている」などの大きな問題がある
こうした現状・問題点を踏まえて有識者検討会は、(1)医薬品産業構造の見直し(2)薬価基準制度の見直し(3)サプライチェーンの強靱化(4)適切な医薬品流通の仕組み構築―などに関する提言を行いました。
このうち(2)の薬価制度改革に関しては、次のような具体的な提案・提言を行っています。
【医療上の必要性が高い医薬品の安定供給確保に向けて】
▽最低薬価、不採算品再算定、基礎的医薬品といった制度やその運用の改善を検討する
→もっとも企業努力を促す観点や医療保険財政のバランス確保の観点から、他の制度改善等との優先順位を考慮することが必要である
▽中長期的に、「採算性を維持するための新たな薬価の仕組み」の検討を進める
【創薬力強化、ドラッグ・ラグ/ロスの解消に向けて】
▽再生医療等製品などの新規モダリティ、革新的な医薬品について、原価計算方式による透明性の確保が難しくなっている(創薬環境が複雑化し原価の算出が困難である)こと、薬事承認に係るデータだけでは価格評価が十分に行えない(主要評価項目以外のデータ等が、補正加算の判断に活用されにくい)ことなどを踏まえ、「新たな評価方法」を検討する
▽希少疾病や小児、難病等の治療薬といった医療上特に必要な革新的医薬品について、ドラッグ・ラグ/ロスを解消するため、「新たなインセンティブ」を検討する
→例えば、革新的な医薬品を国内に迅速に導入した場合(欧米での上市後一定期間内に国内上市した場合など)の薬価上の評価の在り方の検討など
▽【新薬創出・適応外薬解消等促進加算】について、新薬創出に寄与しているベンチャー企業が開発した医薬品に関する適切な評価の在り方を検討する
→加算の企業要件(適応外薬・未承認薬の開発数が多い企業は高い加算が取得可能、逆に少なければ加算が低くなる仕組みとなっている)のため、ベンチャー企業が加算評価を受けにくくなっている
▽希少疾病や小児、難病等の治療薬といった医療上特に必要な革新的な医薬品について、「特許期間中の薬価を維持する」仕組みの強化を検討する
▽日本における早期上市の促進に向けて【外国平均価格調整】の仕組み改善を行う
→例えば、市販後のリアルワールドデータも活用しながら「医療機器におけるチャレンジ申請」のような制度導入を検討する(市販後に得られた有用性データをもとに「より高い価格」設定を検討する仕組み)
→現行の【外国平均価格調整】において、薬価引上げは新規収載時のみであるため、「海外の複数国で上市する」(高い価格が設定される)→「後に日本で保険適用申請する」(外国平均価格調整で高い薬価設定が見込める)ことなり、「日本での上市が遅らせる」可能性があると指摘されている
▽市場拡大再算定について、いわゆる「共連れ」ルールを見直す
→ある品目が再算定対象となった場合、類似品も再算定対象となり、類似品メーカーの予見可能性を大きく損ねていると指摘される
▽毎年薬価改定が行われ制度が複雑化している状況などを踏まえ、薬価制度改革を検討する際は「投資回収の予見可能性低下」に対しても十分考慮することが必要である
また、薬価制度以外に関して、「後発品産業の在るべき姿を策定し、その実現を図る方策を具体化する会議体」を政府に新たにもい受ける、「後発品メーカーについて、安定供給を確保可能な要件を明確化し、要件を満たせない企業の撤退を促す」仕組みを構築する、「特許期間中に研究開発投資コストを回収し、特許期間経過後は速やかに後発品に道を譲る」産業構造への転換を進める、「サプライチェーン情報の迅速な共有」を進める、政府において「創薬力強化の戦略」を定めるなどの方向を示しました。
さらに、方向提示までは至っていないものの、「後発品への置換えが進んでいない長期収載品について、選定療養の活用など、後発品の使用促進論議を行うべき(薬剤分が100%自己負担となるため、患者は「後発品を使用した方が安く済む」と考える)」、「薬剤一般について軽度の負担を広く求めるべき」、「毎年薬価改定が日本市場の魅力を引き下げている一因と指摘されていることなどを踏まえ、その在り方を検討すべき」、「薬剤費について、少なくとも中長期的な経済成長率に沿うように、最低限伸ばしていくべき」、「薬価制度改革の政策評価を正しく行うため、政府が主導して薬剤費等のデータを収集することが必要である」などの意見が出たことが明示されました。
こうした内容に異論・反論は出ていませんが、構成員からは▼市場拡大再算定について、共連れルールだけでなく、制度そのものの在り方も見直しを検討すべき(香取照幸構成員:兵庫県立大学大学院社会科学研究科特任教授、小黒一正構成員:法政大学経済学部教授、菅原琢磨構成員:法政大学経済学部教授)▼総価取引が様々な問題の根源であることをより明確化し、例えば【総価取引減算】のような仕組みを検討すべき(三浦俊彦構成員:中央大学商学部教授)▼競争条件・取引条件が異なる中で『調整幅を一律2%とする』現行制度には問題がある。医薬品と一口に言っても先発品・後発品、薬効群、剤形などで市場は全くことなる。調整幅の在り方についても検討を進めるべき(香取委員)▼毎年度改定・中間年改定が様々な問題の大きな要因となっており、見直しを求める方向を明確にすべき(香取委員)—などの要請・注文がついています。
今後、文言の最終調整を遠藤座長と厚労省とで行うことを条件に、報告書がまとめられました。
報告書の提言内容は、別の議論の場(例えば薬価制度については「中央社会保険医療協議会」で、流通に関しては「医療用医薬品の流通改善に関する懇談会」)で、引き続き具体的な議論が進められます。
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