費用対効果評価が低いと判断された医薬品・医療機器、「費用対効果評価が対照技術と等しくなる」まで価格を下げるべきか―中医協
2023.10.6.(金)
費用対効果評価制度について、価格調整範囲を現行の「有用性加算のみ」とするルールから広げていくべきか—。
英国やオーストラリアでは「費用対効果評価が低い」と判断された医薬品・医療機器について、「費用対効果評価が対照技術と等しくなる」まで価格を下げるような仕組みが設けられているが、これらを勘案して検討してはどうか—。
10月4日に開催された中央社会保険医療協議会の費用対効果評価専門部会(以下、専門部会)で、このような議論が行われました。
価格調整範囲が広がれば、「ドラッグ・ラグ/ロスを助長しないか」との心配も
2024年度には医療技術の「費用対効果評価」制度の見直しも行われ、専門部会で鋭意議論が進められています(関連記事は(こちらとこちらとこちらとこちら)。
医療技術の高度化、高齢化が進み、医療保険財政が厳しさを増す中では、新規の医療技術(新薬、新医療機器など)を保険適用する際などに「経済面を考慮する」ことが不可欠となってきています。そこで、中医協では2012年度から「費用対効果評価」の導入に向けた検討を進め、試行錯誤を経て2019年4月から制度化(本格運用)されました。
費用対効果評価の仕組みは非常に複雑ですが、「高額である」「医療保険財政に大きな影響を及ぼす」などの要件を満たした新薬・新医療機器について、「類似の医薬品・医療技術等(比較対照技術)に比べて、費用対効果が優れているのか、あるいは劣っているか」をデータに基づいて判断。「費用対効果が優れている」と判断されれば価格(薬価、材料価格)は据え置きとなり、「費用対効果が劣っている」と判断されれば価格の引き下げが行われます。また、「費用が少なくなる一方で、効果が優れている・あるいは同じである」という、いわば「きわめて費用対効果が優れている」製品については、価格の引き上げも行われます。従前の「安全性」「有効性」に加えて、新たに「経済性」の評価軸を設けるものです。
10月4日の専門部会では、前回会合で積み残しとなった、(1)価格調整範囲の在り方(2)介護費用縮減効果の評価」の2点を主な議題としました。「分析対象集団及び比較対照技術の設定」「費用対効果の品目指定」「分析プロセス」に関する見直し方向は、前回会合で概ね了承されています(関連記事はこちら)。
(1)の「価格調整の対象範囲」については、現在は「有用性加算」部分のみとされていますが、「費用対効果評価そのものは費用全体を勘案している」ために、「評価対象と結果反映対象との間のズレ」が生じています。
この点については、大きく「費用対効果評価制度は薬価・材料価格制度を補完するものとの視点に立ては、現行どおり有用性加算部分のみで価格調整を行うべき」との考えと、「価値に応じた評価(償還価格設定)を行うために、より広い範囲で(加算を超えた部分にも)価格調整を行うべき」との考えがあります。
この点について厚労省保険局医療課医療技術評価推進室の木下栄作室長は、▼英国では「費用対効果が悪く、そのままの価格では医療保障制度に盛り込めない」と判断された技術について価格引き下げの交渉が行われるが、その際には「増分費用効果比(ICER)が閾値と等しくなる価格」などを参考とする▼オーストラリアでも、同様に「増分費用効果比(ICER)が閾値と等しくなる価格」などを参考に価格引き下げ交渉が行われる—ことを紹介。端的に「費用対効果評価が悪い場合には、『比較対照となる技術と費用対効果評価が同じくなる』まで価格を引き下げる」仕組みと言えます。
一方、我が国の費用対効果評価の実例を見ると、上述のとおり「加算部分の調整」にとどまるため、「価格調整範囲の調整前価格に対する割合は低い」状況です。
こうした新たなデータも踏まえた議論では、「価格格調整範囲と、費用対効果評価の範囲とが一致しないことが、なぜ問題なのかを改めて明確にすべきである。費用対効果評価制度は『薬価制度・材料価格制度を補完するもの』との趣旨との整合をどう考えるのか、そうした点をさらに議論する必要がある」(診療側の長島公之委員:日本医師会常任理事)、「価格調整範囲を広げ(より価格引き下げ度合が大きくなる可能性あり)、それによりドラッグ・ラグ/ロスが増えてはいけない。価格調整範囲を広げた場合に、どの程度の価格引き下げがなされるのかも見た慎重な検討が必要である」(診療側の森昌平委員:日本薬剤師会副会長)、「価格格調整範囲と、費用対効果評価の範囲とが一致しないことにそもそもの違和感がある。高額薬が次々と登場する中で費用対効果評価制度の重要性が高まってくる。価格調整範囲は広げるべき」(診療側の池端幸彦委員:日本慢性期医療協会副会長、福井県医師会長)、「費用対効果評価制度を『保険適用の適否』判断に用いないのであれば、『比較対照技術と費用対効果評価が等しくなる』まで価格引き下げを行う仕組みとすべき。英国・オーストラリアの仕組みを参考に検討を進めるべきである」(支払側の松本真人委員:健康保険組合連合会理事)など、様々な意見が出ています。
大きく、「医療保険財政や患者負担を考慮し、価格調整範囲を広げていくべき」(費用対効果評価が芳しくない技術の価格をより引き下げる仕組みとすべき)との考えと、「メーカーの技術開発の意欲を削がず、ドラッグ・ラグ/ロスが拡大しないよう、価格調整範囲は限定して考えるべき」との考えに分けることができそうです。いずれの見解にも頷ける部分があり、今後も議論が継続されます。
なお松本委員は「高額な医療技術だけでなく、『製品価格は低いが、市場が極めて大きくなる製品』についても価格調整範囲の見直しを検討すべき」と注文しています。
また、「きわめて費用対効果が優れている製品について、価格の引き上げを行う」仕組みも用意されているものの、極めて要件が厳しい点を踏まえて、「要件の緩和を検討してほしい」とのメーカーサイドの要望もあります。
この点については、松本委員は「現行の『全く異なる品目である、基本構造や作用原理が異なるなど一般的な改良の範囲を超えた品目である』などの点が厳しいとメーカーサイドは主張されるが、妥当な要件と考える。現行要件の妥当性を覆すような問題・課題があるのであろうか」と指摘。また診療側の島弘志委員(日本病院会副会長)は「価格引き上げよりも、学会などに『当該技術は類似技術に比べて費用対効果評価が極めて優れている』と情報提供することの方が、製品導入・使用促進につながるのではないか」と改めて提案しています。
「費用対効果評価が優れている」(より安く、より優れた効果を持つ)と、いわば中医協・厚労省が「お墨付き」を与えた製品である旨のPRは、たしかに医療現場での導入・使用動向に大きな影響を持ちそうです。
なお、(2)の「介護費縮減効果の反映」については、認知症治療薬「レケンビ」(レカネマブ)の薬価算定方式を考える中での重要論点となり、薬価専門部会と費用対効果評価専門部会とで「合同審議する」ことになっています(関連記事はこちら)。
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