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GemMed塾 病院ダッシュボードχ 病床機能報告

「データ数が少ない」「適切なデータ提出が行えない」病院は、DPC制度からの退出を求めてはどうか―入院・外来医療分科会(2)

2023.10.6.(金)

DPCの効率性係数は「診断群分類の種類が少なく、症例構成が偏っている病院」で、不当に高くなる傾向があり計算方式を見直してはどうか—。

データ数の少ない病院、適切なデータ提出が行えない病院は、DPC制度に馴染まず、「DPC制度から退出を促す」ルールなどを検討してはどうか—。

DPC病院について、「医療の質向上に向けた取り組み」や「医師派遣」などの機能を新たに評価してはどうか—。

10月5日に開催された診療報酬調査専門組織「入院・外来医療等の調査・評価分科会」(以下、分科会)では、DPC制度改革に向けた、こうした方向性を固めました。今後、中央社会保険医療協議会で具体的な制度改革論議が薦められます(一般病棟用の看護必要度見直しに関する記事はこちら)。同日には「2023年度調査結果速報値を踏まえた議論」も行われており、これは別稿で報じます。

診断群分類の少ないDPC病院で「効率性」が高く評価される不具合を是正へ

DPC制度改革については、▼入院・外来医療分科会の下部組織である「DPC/PDPS等作業グループ」での検討→▼入院・外来医療分科会での検討→▼中医協での検討—という大きく3つの段階を経て議論が進められます。10月5日の分科会には、「DPC/PDPS等作業グループ」(以下、作業グループ)の最終報告が行われ、これに基づく議論が行われました。

これまでに「作業グループからの中間報告」に基づく議論が行われており、重複する部分もありますが改革方向を改めて眺めてみましょう。

報告内容は、(1)対象病院について(2)算定ルール等について(3)診断群分類について(4)退院患者調査について—の4項目です。

(1)の対象病院については、2018年度から「DPC制度に相応しくない病院がDPC制度に参加し、制度を歪めている」可能性が指摘されてきています。例えばDPC点数などは「DPC病院全体の平均」として定められるため、例えば「不当に、極端に医療資源投入量を少なくしている病院」があれば、平均値=DPC点数が下がり、「十分な収益を得られない」病院が多数出てしまいます。また、いわば「DPC病院の頑張り度合い」を評価する機能評価係数IIは「DPC病院全体の相対値」として計算しますが、病院の患者構成が異なる点を踏まえた「補正」(全国平均の患者構成に置き換える)が行われています。しかし、一部の「DPC制度に相応しくない病院」にとっては、この補正が「不当に有利に働いてしまう」ようです。

2024年度診療報酬改定に向けて、すでに「係数ごとの問題点」(DPC制度に相応しくない病院が参加することによる問題点)を洗い出していますが、さらに新たな問題点が浮上し、次のような改革方向を提案しました。

【保険診療係数】(提出データの質や医療の透明化、保険診療の質的向上など「医療の質的な向上を目指す取り組み」を評価する)
▽「部位不明・詳細不明コード」の使用割合が基準値(10%未満であること)を上回っている病院には、例えば▼コーディング担当者の理解不足・病院全体のコーディング体制の不備に起因する不適切なコーディングがみられる▼急性期病棟での入院が本来想定されていない症例(リハビリ患者など)においてコーディングが困難になるケースがある—などの実態がある
▽ただし、一部のコード(下表)は「臨床的に付与せざるを得ない場合が多い」ため、「部位不明・詳細不明コード」の計算対象からは除外すべきではないかとの指摘もある

▽「適切なDPCデータの作成」に係る3つの基準(「部位不明・詳細不明コード」割合が10%未満、DPCデータの様式間の記載矛盾データ件数が1%未満、未コード化傷病名割合2%未満)を、「DPC対象病院の要件」として位置づけることが望ましい、との指摘あり

部位不明・詳細不明コードの中には臨床上付与せざるを得ないものもある(入院・外来医療分科会(2)1 231005)



【効率性係数】(在院日数短縮の努力を評価する)
▽診療対象とする診断群分類の種類が少なく、症例構成が偏っている病院では、「在院日数短縮という本来の趣旨」にそぐわない評価となる場合がある

▽「各医療機関の平均在院日数」と「各医療機関の症例構成」による補正を行った全国の平均在院日数の相対値を取る手法に変更することが望ましい、との指摘あり
▽医療機関群ごとに期待される機能や役割が異なることを踏まえ、「医療機関群ごとの評価」が望ましい、との指摘あり



【複雑性係数】(1入院当たり医療資源投入の観点から見た患者構成を評価するもの。誤解を恐れずに言えば「DPC点数の高い傷病」患者を積極的に受け入れる病院が高く評価される)
▽診療対象とする診断群分類の種類が少ない病院では、誤嚥性肺炎等の平均在院日数が長く、1日当たり包括範囲出来高点数の小さい疾患に偏った症例構成の場合、急性期入院医療における評価という点では不適当な評価となっている

複雑性係数の問題(入院・外来医療分科会(2)2 230906)




▽急性期入院医療の評価という観点から「評価の対象とする医療機関の基準」自体を検討すべき



ここは少し解説が必要でしょう。

まず「効率性」について見てみます。病院により患者構成が異なるため、単純に「在院日数の短さ」を評価すると、「在院日数が短くなる疾患を多く受け入れている病院」が有利となってしまいます。そこで、現在は「各病院の疾患構成を『全国平均』に置き換える」という補正が行われます。

しかし、診断群分類の少ない病院では、この補正が不当に有利に働いてしまうことがあります。下図を見てみましょう。単純な平均在院日数はA病院は13.8日・B病院は5日、補正を行うとA病院:10.0日・B病院:4.5日となり、効率性指数はA病院:1.0・B病院:2.22でB病院の方が係数が高くなります。しかし、診断群分類1・2の平均在院日数を見ると、それぞれ「A病院は2日・4日」であるのに対し、「B病院は3日・6日」と長いのです。B病院では在院日数の長い疾患(診断群分類3・4・5)を受けていないために「在院日数ゼロ日」となるため、「効率性が高く判断される」ことになります。かつては「大規模な急性期病院」がDPC制度の対象でしたが、「診療科の少ない中小病院」が増えてきたため、こうした問題が大きくなっていると言えます。

「効率性」計算の問題点1(入院・外来医療分科会(2)2 231005)



また、「患者数の多い疾患」(診断群分類1)の在院日数が短いケース(下図のパターン1)と、「患者数の少ない疾患」(診断群分類5)の在院日数が短いケース(下図のパターン2)とを比べると、補正により「後者の方が有利に判断」されることが生じます。

「効率性」計算の問題点2(入院・外来医療分科会(2)3 231005)



そこで作業グループでは、次のような見直しを行ってはどうかと提案しています。

▽診断群分類が少ない病院の不合理に対応するため、「対象疾患がいない診断群分類について、計算対象から除外する」ような見直しを行ってはどうか(「対象疾患がいない診断群分類」で在院日数ゼロと計算される不都合がなくなる)

「効率性」計算の改善案1(入院・外来医療分科会(2)4 231005)



▽「補正後の各DPC病院の平均在院日数」と「全国の平均在院日数」との相対値をベースとするような見直しを行ってはどうか

「効率性」計算の改善案2(入院・外来医療分科会(2)5 231005)

データ数の少ない病院、適切なデータ提出が行えない病院は、DPCからの退出を求めては

また、「複雑性」の問題点は上述のとおりですが、「計算式での補正」ではなく、端的に「データ数などが少ない病院はDPC参加が相応しくない」という判断をしてはどうか、との提案が行われています。

すでに、データ数(一定の対象期間にDPC病床を退院した患者の全データ数)が少ない病院では「診療密度が低い」一方で、「複雑性係数の値が高い」(つまり経営的には良好になる)という不合理が指摘されていますが、作業グループではさらに▼急性期医療の標準化という観点からもDPC制度に馴染まない▼診療密度(相対値)が低い点は、全DPC病院の包括評価に影響を及ぼしてしまう—点を踏まえ、「データ数に係る一定の基準をDPC対象病院の要件として設定する」ことが提案されました。

データ数の少ないDPC病院の問題1(入院・外来医療分科会(2)5 230906)

データ数の少ないDPC病院の問題2(入院・外来医療分科会(2)6 230906)

データ数の少ないDPC病院の問題3(入院・外来医療分科会(2)7 230906)

データ数の少ないDPC病院の問題4(入院・外来医療分科会(2)8 230906)

データ数の少ないDPC病院の問題5(入院・外来医療分科会(2)9 230906)



上記提案と合わせると、「▼データ数が基準を満たさない▼「適切なDPCデータの作成」の3基準を満たさない—場合には、DPC制度からの退出を求める」といったルール設定が今後の重要論点になってきそうです。

分科会では、こうした方向に異論は出ておらず、今後、中医協で「退出ルール」(DPC参加の新基準)を設けるべきか否かを具体的に議論していくことになるでしょう。

データ数の少ないDPC病院、診療密度が低いにも関わらず、複雑性が高く評価される傾向

他方、【地域医療係数の体制評価係数】(医療計画の「5疾病5事業等」における急性期入院医療への取り組み状況を評価する)について、次のような点を新たに評価してはどうかとの具体的な提案も作業グループからなされています。

▽脳死下臓器提供の実施
▽多職種協働による医療提供(急性期入院医療においても、リハビリ・栄養管理・口腔管理の一体実施など多職種協働による取り組みの重要性が増している)
▽医師少数地域への医師派遣機能
▽外国人患者の受け入れ体制
▽医療の質向上に向けた取り組み(厚労省補助事業「医療の質向上のための体制整備事業」における9指標に係るデータの提出・提出データに基づく指標の算出・公表の評価など)

医療の質向上に向けた9指標(入院・外来医療分科会(2)6 231005)



こうした提案に対し、「2024年度からの勤務医労働時間上限設定で、大学病院から地域病院への医師派遣ストップが懸念されている。機能評価係数IIの中で医師派遣を評価することで、こうした懸念を軽減・緩和できるのではないか」(小池創一委員:自治医科大学地域医療学センター地域医療政策部門教授)、「医療の質評価は極めて重要である。質改善に取り組むDPC病院は高く評価すべき」(池田俊也委員:国際医療福祉大学医学部公衆衛生学教授、林田賢史委員:産業医科大学病院医療情報部部長)などの賛成意見が出ています。今後、「DPC病院の評価項目として相応しいか」という視点で、評価項目の追加を検討していくことになるでしょう。

早期退院しても「投下したコストを回収できる」ような点数設定が必要

また、(2)の算定ルールについては次のような具体的見直し方向案が示されました。

▽点数設定方式Aの診断群分類のうち、入院期間Iで「医療資源投入量>>設定点数」となるものは、点数設定方式Bを適用してはどうか

入院期間Iで「資源投入量>>点数」となっている事例(入院・外来医療分科会(2)7 231005)



▽入院初期を重点的に評価する「点数設定方式D」について、次のような点を考慮する必要がある
▼一定の入院期間が見込まれる分類については、入院初日に高い評価とすることはなじまない可能性がある
▼入院期間Iで入院基本料を除く包括評価を行うことで、粗診粗療への高い評価を避けつつ、入院期間IIより早期での退院を一定程度評価することが可能である
▼「同質性の高い分類に限る」など条件を設定した上で、疾患や手術の特性に係る臨床的な観点も踏まえつつ慎重に拡大を検討する必要がある

標準化が進んでいる診断群分類1(入院・外来医療分科会(2)8 231005)

標準化が進んでいる診断群分類2(入院・外来医療分科会(2)9 231005)



こうした点について牧野憲一委員(日本病院会常任理事、旭川赤十字病院院長)は「DPC病院の医療内容は大きく変わってきており、相当前倒しを行い、入院期間Iの中で多く診療行為を行っている(結果、在院日数の短縮に大きく寄与)。そうした病院の努力に報いる点数設定方式が必要であり、例えば『D方式の拡大』など様々な手法を検討してほしい」と要望しています。

早期退院につながる取り組みを行うことで、▼ADL低下の防止▼院内感染リスクの低減▼医療費の縮減▼患者QOLの向上—などさまざまなメリットがあります。しかし、「一定期間入院させなければ投入した医療資源投入量を回収できない」事態があれば、この「早期退院の取り組み」に水を差してしまいます。より早期に退院させる病院が、より高い評価を受け、投下医療資源を適切に回収できるような環境を点数設定方式の面でも整えることが重要です。



このほか、短期滞在手術等基本料の対象手術について、「入院での実施/入院外での実施」状況に大きなバラつきあることから、以下の状況を踏まえて在り方を検討する方向も提案されています。
→短期滞在手術等の入院外での実施状況については、設備や人員体制が大きくかかわっている
→患者や家族の意向等により外来に移行できない状況、病床稼働率等により相対的に決まっている部分もある
→日帰り手術として実施可能な手術について、「術後の経過観察目的」に病床を利用して1日入院として当日に入退院させる場合がある



今後、分科会の最終とりまとめを経て、中医協で「具体的なDPC制度改革案」を詰めていくことになります。



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