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「不妊治療の保険適用」は効果をあげているが「年齢・回数制限の見直し」求める声も、凍結胚の維持管理期間を延長してはどうか—中医協総会

2023.11.17.(金)

2022年度の前回診療報酬改定で「不妊治療」が保険適用されたが、治療へのハードルが下がるなど患者や医療機関からは概ね肯定的に受け止められている。ただし、保険対象技術の範囲や、年齢・回数制限について様々な意見があり、今後、データを踏まえて必要な見直しを検討していく—。

また、凍結保存胚の維持・管理を評価する【胚凍結保存維持管理料】(3500点)の算定期間(3年間)が設けられているが、実態などを踏まえて延長を検討してはどうか—。

11月15日に開催された中央社会保険医療協議会・総会で、こうした議論が行われました(関連記事はこちら)。同日には薬価制度改革、材料制度改革、費用対効果評価制度改革論議も専門部会で行われており、これらは別稿で報じます。

不妊治療の保険適用、患者・医療現場から肯定的に受け止められている

2022年度の前回診療報酬改定で、一般不妊治療と生殖補助医療の保険適用が行われました(関連記事はこちら(疑義解釈37)こちら(疑義解釈15)不妊治療(Q&A)こちら(不妊治療、答申)こちらこちらこちら)。

一般不妊治療とは、例えば▼タイミング法(排卵日に合わせた性交の指導など)▼人工授精(排卵タイミングにわせた精製精子注入など)―をさし、不妊症と診断されたカップル(婚姻関係までは問わない)に対し、一般不妊治療に課する計画的な指導を行うことを3か月に1回、【一般不妊治療管理料】(250点)として評価し、また不妊症患者に対し人工授精を行うことを【人工授精】(1820点)として評価するものです。

また生殖補助医療については、「母体からの採卵」→「体外受精」→「胚の培養」→「母体への胚移植」といった技術を「個別に評価する」(個別の技術料を新設する)とともに、「一連の生殖補助医療を総合的に管理する」ことを評価する【生殖補助医療管理料】(月に1回、300点または250点)を設置しています(総合的な管理の点数+個別技術の点数を算定できる)。

不妊治療の保険適用の概要(中医協総会1 231117)



11月17日の中医協総会では、例えば次のような保険適用後の不妊治療の実施状況などが厚生労働省保険局医療課医療技術評価推進室の木下栄作室長から報告されました。

【全体像】
▽保険適用された不妊治療について、医療費は895億円あまり(2022年度)、レセプト件数は125万件あまり(同)、実患者数は37万人あまり(同)

保険適用後の不妊治療の実績1(中医協総会2 231117)



▽2022年度に一般不妊治療管理料は31万回あまり、生殖補助医療管理料1は42万回あまり、同管理料2は19万回あまり算定。生殖補助医療管理料については「円滑な保険診療への移行に向けた特定治療支援事業による経過措置」が設けられており、一般不妊治療に比べて4月以降に徐々に算定回数が増加

保険適用後の不妊治療の実績2(中医協総会3 231117)



▽本年(2023年)7月1日時点で、一般不妊治療管理料は2059施設、生殖補助医療管理料1は411施設、同管理料2は209施設で届け出がなされている

保険適用後の不妊治療の実績3(中医協総会4 231117)



【個別生殖補助医療の算定状況】
▽採卵術:20万2577回、「2-5個」が最も多い(2022年度)

保険適用後の不妊治療の実績4(中医協総会5 231117)



▽体外受精:6万1056回(2022年度)
▽顕微授精:9万5257回(同)

保険適用後の不妊治療の実績5(中医協総会6 231117)



▽受精卵・胚の培養管理:17万4680回、「2-5個」が最も多い(2022年度)

保険適用後の不妊治療の実績8(中医協総会17  231117)



▽新鮮胚移植:2万3719回(2022年度)
▽凍結・融解胚移植:18万7486回(同)

保険適用後の不妊治療の実績6(中医協総会7 231117)



▽胚の凍結保存管理(導入時):14万5691回、「2-5個」が最も多い(2022年度)

保険適用後の不妊治療の実績7(中医協総会8 231117)



ここで「保険適用によって不妊治療技術の実施が増加したのか」が気になります。保険適用前の2021年度における「不妊治療の助成事業」(特定治療支援事業)は、延べ件数23万4416件、実利用者13万6716人であったことと、上記の算定件数・実利用者数などとを比べると「保険適用により、不妊治療技術の実施が大きく増加した」と見ることができそうです。

助成事業時代の不妊治療の状況(中医協総会9 231117)



また、患者団体からは「65%の患者が、不妊治療が保険適用になってよかった」(経済的負担の減少、不妊治療への社会の理解など)と感じていることが示され、また、日本産婦人科学会からは、▼患者の心理的抵抗感の減少▼患者の経済的負担の軽減(若い患者が受診するようになった)▼人工授精から生殖補助医療へのステップアップのハードルがある程度下がった—ことなどを踏まえ「診療への影響や患者の受療への影響を含めて、不妊治療の保険適用は一定の効果をあげている」との考えが明らかにされています。



こうした状況を踏まえ、診療側の長島公之委員(日本医師会常任理事)、支払側の松本真人委員(健康保険組合連合会理事)ともに「不妊治療の保険適用」を肯定的に捉えました。

なお、「保険外の自由診療で不妊治療を受ける」ケースや、「助成事業を活用せずに不妊治療を受けいてた」ケースもあり、不妊治療の全体像を上記のデータから正確に捉えることは困難です。木下医療技術評価推進室長は「日本産婦人科学会の『体外受精・胚移植等の臨床実施成績』データを待って検証する必要がある」旨の考えを示しています(2022年度の状況は2024年8月に公表される見込み)。

保険ルールの説明を丁寧に行うこと、治療成績などをフォローすることなど重要

もっとも患者サイドからは「医療機関が混雑して待ち時間が増えた」「保険適用の範囲がわかりづらい」「経済負担が大きくなった」「希望する検査や治療が受けられなくなった」「使えなくなった薬など、治療の選択肢が狭まった」という、保険適用によるデメリットを指摘する声も出ています。

医療技術の保険適用にあたっては「有効性、安全性の確認」が大前提となるため、従前、自由診療(全額自己負担)で行われていた不妊治療技術の中でも「有効性、安全性が不確かである」ものは保険外となります(この場合、当該保険外技術を使用するに当たっては保険診療部分も含めて完全に全額患者負担となるのが原則)。このために上記のような声が出てくるものと思われます。

この点については「保険外の技術であっても一定程度の有効性・安全性が確認されれば、先進医療として『保険診療+保険外診療』の併用が可能になる」(これまでに13技術が先進医療として認められている)こと、「有効性、安全性が認められた技術は、保険診療の範囲に組み入れられていく」ことなど、保険診療のルールを患者や医療機関に丁寧に説明していくことが重要です。

不妊治療にかかる先進医療(中医協総会10 231117)

不妊治療にかかる先進医療の実績(中医協総会11 231117)



診療側の長島委員は「有効性、安全性に関するエビデンスを踏まえ、保険適用の対象となる技術の拡大などを医療技術評価分科会(新技術の保険適用の可否などを専門的な視点で評価する中医協の下部組織)で議論していくべき」と、支払側の佐保佐保昌一委員(日本労働組合総連合会総合政策推進局長)は「自治体の相談支援体制や情報提供などを充実していくべき」と指摘しています。



関連して、「年齢・回数制限」に対する要望も患者や学会から出されています。保険適用「前」の助成事業においても、保険適用「後」のルールでも、不妊治療技術については年齢・回数の制限があります。財源が限られている中で、効果的に財源配分を行うために「不妊治療の成果」データなどを踏まえて年齢・回数の制限を設けているものです(仮に制限を認めなければ、財源が限られる中では「広く・薄い」サービスになってしまう)。

不妊治療の年齢・回数制限例(中医協総会12 231117)



この点、最新のデータを見ても「不妊治療の成果」などに従前からの変化は見られない(高齢年齢での不妊治療で着床率が上がったなどの状況は見られない)ことから、診療側・支払側双方ともに「現時点で見直す必要はないのではないか」との見解を示しています。

年齢と不妊治療の効果1(中医協総会13 231117)

年齢と不妊治療の効果2(中医協総会14 231117)



もっとも患者サイドからは「年齢・回数制限の見直し」を求める声も数多く出ています。また保険適用によって不妊治療が広まる中で、さらに医療技術が進展する中で「不妊治療の成果」データが今後変化していく可能性もあります(「より高齢年齢での着床率が上がる」などのデータが見られる可能性もある)。このため松本委員は「データを注視していく必要性」にも言及しています。

凍結保存胚の維持管理を評価する「胚凍結保存維持管理料」、算定期間を延長しては

ところで、不妊治療においては「一度に一定数の卵子を採取→体外受精→胚への培養」を行った後、一部を凍結保存することが行われます。状態のよい卵子採取が常に可能であるとは限らないためです(移植が必要となった際に凍結胚を融解して移植に用いる)。

この凍結保存は保険診療の中でも評価されており、凍結技術を評価する【胚凍結保存管理料】(凍結導入時に、胚の数に応じて5000-1万3000点)と、凍結胚の維持管理を評価する【胚凍結保存維持管理料】(3500点、凍結開始から3年間、1年に1回算定可)とがあります。

なお、不妊治療技術そのものは保険適用「前」から行われており、当然、保険適用前に凍結保存を行っている胚もあります。その点については、▼2022年4月1日(保険適用)より前から凍結保存されている初期胚・胚盤胞については、後者の「胚凍結保存維持管理料」(3500点)を算定する(関連記事はこちら)▼凍結保存の開始日に関わらず、「胚凍結保存維持管理料」を算定した日から3年を限度として算定できる—こと示されました(関連記事はこちら(疑義解釈37))。

この点、「凍結胚は生殖補助医療が可能な年齢まで用いることが可能」であるとの考えもあり、「3年の算定制限をどう考えるか」という問題が浮上してきます。この点については、診療側・支払側ともに「技術的に差し支えなければ期間を延長する方向で検討してはどうか」との見解を示しており、今後、「延長」方向で検討が進められることでしょう。



このほか、不妊治療に関しては▼地域によっては「不妊治療の年間実施実績」要件によって技術料などを取得できない医療機関もある。患者の安全性を踏まえたうえで基準の見直しを検討してはどうか(長島委員)▼情報提供の充実を進めるべきである。治療成績などの公表を慎重に検討する必要性は理解できる(成果の出やすい若い患者のみを選別する動きがでかねない)が、どういった方法があるか検討してほしい(松本委員)—などの要望が出ており、今後、さらに検討が進められます。

不妊治療の情報提供推進に向けた検討が進められている(中医協総会15 231117)

回復期リハビリ病棟の歯科評価、認知症患者の口腔管理評価等を検討

11月17日の中医協総会では「病院歯科の評価」「医科歯科連携の評価」なども議題に上がり、例えば「リハビリテーション・栄養管理・口腔管理の一体的推進が強く求められている回復期リハビリ病棟での歯科標榜を進めるための方策」や「手術を行わない脳卒中患者(t-PA治療など)における口腔管理を進める方策」(例えば、現在は手術実施患者のみが対象となっている【周術期口腔機能管理】の対象拡大など)、「認知症患者の口腔管理を評価する方策」(新点数創設など)の声が出ています。同時改定ならではの重要論点の1つと言えそうです。



また、2024年度から診療報酬改定施行を「6月」とするため、歯科用貴金属の材料価格改定スケジュールが見直されます。

改定施行時期後ろ倒しを受けた歯科用貴金属材料価格の改定スケジュール見直し(中医協総会16 231117)



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