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GemMed塾 病院ダッシュボードχ 病床機能報告

入院時食事療養費、昨今の食材費急騰を踏まえて「患者の自己負担」部分を引き上げへ—社保審・医療保険部会(1)

2023.11.10.(金)

昨今の食材費急騰により医療機関での食事提供が困難となっている状況を踏まえて、「入院における食事療養」(入院時食事療養費)について「患者の自己負担部分を引き上げ」てはどうか—。

11月9日に開催された社会保障審議会・医療保険部会で、こういった議論が行われました。ほとんどの委員がこの点に賛意を示しており、年内に正式決定される見込みです、

また、患者の自己負担部分を引き上げれば必然的に「入院時食事療養費」の総額を引き上げることになり、この点について中央社会保険医療協議会でも並行して議論が進められます。

なお、同日には「長期収載医薬品の患者自己負担見直し」「オンライン資格確認導入が義務化されていない利用期間等における、簡易なオンライン資格確認の導入」なども議題に上がっており、これらは別稿で報じます。

11月9日に開催された「第170回 社会保障審議会 医療保険部会」

医療保険の患者食費負担は1食460円、看護保険では同じく約482円と格差あり

Gem Medでも繰り返し報じているとおり、入院時食事療養費は1994年以降、実質「据え置き」となっています(1994年に「1日:1900円」→1997年の消費税率引き上げ(3%→5%)時に「1日:1920円」→2006年に「1食:640円」(1日3食とすれば1920円で同額)。

入院時食事療養費の変遷(社保審・医療保険部会(1)3 231108)



一方、食事提供コストを見ると、▼食材費をはじめとする物価の高騰▼光熱水費の急騰▼人件費の高騰—により、大きく膨れ上がっています。

このため、昨今では「食事提供による医療機関の収益」(入院時食事療養費、1日1920円)>「食事提供に係る医療機関の支出」(病院の給食事業者への委託費は2021年に1962円、2022年に1997円)となり、「食事を提供するごとに病院の給食部門は赤字を生み出している」状況です(2021年には1人・1日当たり42円の赤字、2022年には同じく77円の赤字)。

また家計調査や消費者物価指数からも「食料費や食材費(食材の消費者物価指数)が2021年から22年にかけて大きく増加している」ことが分かります。昨今の「食品値上げ」ラッシュにより、さらに食料費などが増加している可能性もあります。

食材費の高騰が続き、病院の給食部門は赤字となっている(社保審・医療保険部会(1)1 231108)



この赤字には、病院が様々な工夫で対応(例えば、値上がり幅の大きな卵、魚類、果物などの使用を控え、冷凍食品や冷凍野菜に切り替えるなど)していますが、当然、限界があります。一般企業ではコスト増をサービスや商品の価格に「転嫁」する(つまり値上げ)方法がとりえますが、保険医療機関ではサービス価格が公定されている(診療報酬等)ため、この選択はとりえません。

このため、病院団体は「入院時食事療養費の引き上げ」を強く要望(関連記事はこちらこちら)。政府も、状況を重く見て、骨太方針2023(経済財政運営と改革の基本方針2023)では、2024年度の診療報酬改定に向けて「物価高騰・賃金上昇、経営の状況、支え手が減少する中での人材確保の必要性、患者・利用者負担・保険料負担への影響を踏まえ、必要なサービスが受けられるよう、必要な対応を行う」旨を示しています。

食事提供にかかる病院の窮状を訴えるポスター1



厚生労働省保険局医療課保険医療企画調査室の荻原和宏室長は、こうした状況を踏まえて「家計における食事支出や介護保険の食費も参照しつつ、入院時の食費を見直してはどうか」との提案を11月8日の医療保険部会に提案しました。

入院時食事療養費は、上述のとおり現在「1食あたり640円」に設定されており、これを「患者が食材費、調理費を負担する」、「医療保険(健康保険組合や協会けんぽ、国民健康保険など)が栄養管理費を負担する」という形で負担しています。例えば一般所得者であれば、「患者が食材費、調理費分として460円」を、「医療保険が栄養管理費分として180円」を負担しています。

入院時食事療養費は「患者」と「医療保険」とで按分負担しており、患者の所得で按分状況が変わる(施設入所者の食費)を引き上げ(社保審・医療保険部会(1)2 231108)



また、介護保険では、施設(特別養護老人ホーム、老人保健施設、介護医療院など)入所者の食費は入所者自身が負担することとなっており(基準費用額)、2021年度の介護報酬改定で利用者は「1食当たり約482円」(1日1445円÷3)を負担することになりました(低所得者には「付加給付」という公費支援が行われている)。このため、入院・入所における食事の患者・利用者負担は、医療(病院等への入院)では460円、介護(施設への入所)では482円という具合に「格差」が生じています。

2021年度介護報酬改定で基準費用額(施設入所者の食費)を引き上げ(社保審・医療保険部会(1)4 231108)



「食材費、調理費を患者が負担している」点、「介護と医療とで患者負担に格差が生じている」点を踏まえれば、「患者の自己負担460円を引き上げていく」提案と言えるでしょう。



この提案に対し、医療保険部会では「入院時食事療養費は20年超見直されず、病院給食部門、給食事業者ともに赤字である。2024年度の次期診療報酬改定で入院時食事療養費の引き上げを行うべき」(猪口雄二委員:日本医師会副会長)、「長年の要望であり、今回の見直しで少し病院の給食部門の状況が良くなると期待する」(池端幸彦委員:日本慢性期医療協会副会長、福井県医師会長)と医療提供サイド委員が、当然とも言えますが歓迎の意を示しました。

また、患者サイドも「物価高騰などの状況に鑑みれば、入院時食事療養費の引き上げはやむを得ない。患者の自己負担だけでなく、保険給付についても見直しの余地がないか検討すべき」(村上陽子委員:日本労働組合総連合会副事務局長)と受け入れの意を提示。

さらに、費用負担者サイドも「物価高騰を考慮すれば入院時食事療養費の引き上げは理解できる。食材費が高騰している点に鑑みて、患者の自己負担を引き上げ、医療保険給付は据え置くこととすべき」(佐野雅宏委員:健康保険組合連合会副会長)、「物価、人件費が上昇する中で、入院時食事療養費の引き上げは不可避であろう。家計の支出を踏まえた適切な水準となるように検討すべき」(北川博康委員:全国健康保険協会理事長)、「物価高騰の中で入院時食事療養費の引き上げは理解できる」(横本美津子委員:日本経済団体連合会社会保障委員会医療・介護改革部会長)、「物価等のコスト増の中では、入院時食事療養費の引き上げをせざるを得ない」(藤井隆太委員:日本商工会議所社会保障専門委員会委員)、「食事の負担について、なんらかの形で引き上げることは理解できる」(前葉泰幸委員:全国市長会相談役・社会文教委員、三重県津市長)と一定の理解を示しました。



このように「入院時食事療養費の患者自己負担引き上げを行う」方向には異論が出ておらず、「ほぼ引き上げ方針が決まった」と言えそうです。

なお、「患者自己負担(現在、1食460円)の引き上げ」を行えば、必然的に「入院時食事療養費の全体(現在、1食640円)も引き上げられる」ことになります。この「入院時食事療養費の全体引き上げ」については中医協で議論されます。

今後、医療保険部会(患者負担引き上げを検討)と中医協(入院時食事療養費全体の引き上げを検討)とで「入院時食事療養費をいくらに引き上げるのか、患者負担をいくら引き上げるのか」を併行して検討し、年末(2023年末)までに結論を出すことになります。



関連して猪口委員は「入院時食事療養費の引き上げを行うまでの間についても、『つなぎ』としての医療機関を行ってほしい」と要望しましたが、前葉委員は「往々にして『つなぎの実施』は地方自治体に委ねられる(「〇〇の制度が準備されているので、地方自治体で対応してほしい」と通知等の文書が国から示される)が、本来は『財源を国が手当てし、運用は地方が柔軟に行う』ことが望ましい。どうしても『つなぎ』を行うのであれば、それは『都道府県が実行主体となる』ようにしてほしい」と注文を付けています。

低所得者の「食費支援」、保険制度の中で行うべきか、保険の外の別の仕組みで行うべきか

ところで、入院時食事療養費の「患者負担・医療保険負担」は、次のように「患者の所得」に応じて3段階に設定されています(所得の低い層には、医療保険からの給付が多くなる)。

【一般所得者】患者:460円、医療保険:180円

【住民税非課税世帯】患者:210円、医療保険:430円

【住民税非課税世帯かつ、所得が一定基準に満たない70歳以上】患者:100円、医療保険:540円

入院時食事療養費は「患者」と「医療保険」とで按分負担しており、患者の所得で按分状況が変わる(施設入所者の食費)を引き上げ(社保審・医療保険部会(1)2 231108)



この「所得に応じた段階的な負担設定」について、中村さやか委員(上智大学経済学部教授)は「低所得者では、入院したほうが、そうでない場合に比べて『著しく食費の負担が小さくなる』ため、『入院したほうがお得である』という誤った感覚を患者が持ちかねない。日々の食事に困るような低所得者には、入院しているか否かに関わらず支援をする必要があるが、それを『医療保険制度の中で自己負担を低く抑える』手法で行うことは正しくない」と指摘しています。

一方、介護保険の世界では「低所得者の食費」については、「介護保険給付とは別に、公費で支援を行う」(補足給付)仕組みが設けられています。将来、「低所得者の食費について保険制度の中で支援を行うべきか(医療保険の仕組み)、保険制度とは別の仕組みで支援すべきか(介護保険の仕組み)」を一度整理する必要があるかもしれません。



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