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医療従事者の給与アップ財源を「診療報酬引き上げ」に求めるか、「医療機関内の財源配分」(高給職種→低い給与職種)に求めるか—中医協総会

2023.10.27.(金)

医療従事者の処遇改善・給与アップが地域医療体制の確保にとって非常に重要なテーマとなるが、その財源を「診療報酬引き上げ」に求めるべきか、「医療機関内の財源配分」(高給職種→低い給与職種)に求めるべきか—。

また2022年10月に新設された看護職員処遇改善評価料には「薬剤師が賃上げ対象に含まれていない」「取得対象医療機関が極めて限定的である」との問題点が指摘されるが、どういった対応を行うべきか—。

在宅療養を送る要介護高齢者や医療的ケア児が増加し「訪問歯科診療」のニーズが高まっているが、訪問歯科診療を行う歯科医療機関はまだ十分に確保されていない。2024年度の次期診療報酬改定でどういった手当てを行うべきか—。

10月27日に開催された中央社会保険医療協議会・総会でこういった議論が行われました。同日には薬価制度改革・材料価格制度改革・認知症治療薬「レケンビ」(レカネマブ)の薬価設定に関する議論も行われており、これらは別稿で報じます。

医療従事者全体の給与アップが必要だが、その財源をどこに求めるべきか

岸田文雄内閣の方針に沿って多くの分野・企業で「賃上げ」が進み、今春(2023年)の春闘結果をみると、全産業の平均賃上げ額は1万560円・平均賃上げ率は3.58%となっています。

2023年春の賃上げ状況(中医協総会3 231027)



一方、医療・介護分野では収益の大部分が公定価格(診療報酬・介護報酬)で縛られていることも手伝い、そこまでの賃上げは困難なようです。日本病院会・全日本病院協会・日本医療法人協会の調べによれば、本年(2023年)には「病院医師で平均1.8%、看護師で同じく2.0%、その他職員で同じく1.9%」と低い賃上げ水準にとどまっていることが明らかにされています(関連記事はこちら)。

10月27日の中医協総会には、厚生労働省保険局医療課の眞鍋馨課長から「メディカルスタッフ(医師・歯科医師・薬剤師・看護師を除く医療関係職種)の給与平均は全産業平均を下回っており、看護補助者では低い水準である」というデータも示されました。

医療関係職種の給与動向(中医協総会1 231027)



このため「給与の上がらない医療・介護分野」から「より給与の高い他産業」へと人材流出が生じているとも指摘され、実際に▼医療関係職種の有効求人倍率は高止まりしている▼医療関係職種の入職超過率は2022年には産業計を0.3%下回っている—など「人材不足が進んでいる」状況も明らかにされました。

医療関係職種の人材確保状況(中医協総会2 231027)



このように、医療人材の確保が困難な状況が続けば、「医療機関の経営難」→「医療機関の閉鎖、縮小」→「地域医療提供体制の崩壊」へとつながってしまいます。このため、診療側委員からは「診療報酬による対応が不可欠である」との意見が相次ぎました。例えば、長島公之委員(日本医師会常任理事)は「保険医療機関では人件費増を医療費に転嫁できず(収益の大部分を占める診療報酬は公定価格であり、勝手に引き上げることはできない)、経営努力による対応には限界がある。医療機関での賃上げ・人材確保が可能となるような原資を確保するため、診療報酬の確実な引き上げが必要である」と、池端幸彦委員(日本慢性期医療協会副会長、福井県医師会長)は「このままでは看護補助者をはじめとする医療関係職種を雇用できなくなる」と強く訴えています。「人件費高騰等をサービス価格に転嫁できない」という保険医療・介護の特性は十分に勘案されるべきでしょう(物価、エネルギー費高騰などについても同じ)。

これに対し、支払側の松本真人委員(健康保険組合連合会理事)は「まず、医療機関内において『賃金の低い職種への財源配分重点化』などを行うべきである。企業の賃上げの背景には、継続したコストカットなどの効率化に向けた努力があり、医療界でも効率化をさらに進めるべきである。安易に診療報酬の引き上げを行うべきではない。物価が下落し、人件費が上がらなかったデフレーション基調の折にも診療報酬本体はプラス改定が行われてきたことも認識すべき」と反論しています。一般企業の従業員、なかでもパートタイム労働者などでは「医療関係職種よりも低い給与」であり、「診療報酬による賃上げ」は「より低い賃金で働く人の負担を重くし、より高い給与で働く医療従事者の給与を引き上げることになる」という点も、松本委員の発言の背景にはありそうです。また松本委員は「2024年度から医師働き方改革が本格化(勤務医の時間外労働規制)し、残業規制・タスクシフトの推進などが進むため、医療機関における人権費配分が大きく変化する可能性もある」ことから、こうした動きも見ながら検討する必要があるとも指摘しています。



ところで、2022年10月には「新型コロナウイルス感染症と闘う看護職員の努力に報いる」意味も持たせた【看護職員処遇改善評価料】(以下、単に「評価料」とする)が新設されました。2553病院が評価料を取得していますが、「評価料が継続される補償がなく、基本給・毎月支払われる手当の引き上げを行うことを躊躇する」ために、評価料を取得していない病院も一部にあります(関連記事はこちら)。

また評価料に伴う「看護職員等の賃上げ実績」を分析した診療報酬調査専門組織「入院医療等の調査・評価分科会」では、「医療関係職種の更なる賃上げを行うためには、評価料では限界があり(対象職種、対象医療機関が限定的)、基本診療料の大幅な引き上げが必要である」との意見も出ています(関連記事はこちら)。

この点も10月27日の中医協総会で議題となり、「評価料には、賃上げ対象職種の限定、取得対象医療機関の限定、その他、算定上の技術的な課題などもある。個々の医療機関で雇用スタッフの構成や賃金体系は異なるため、賃上げに向けた十分な配慮が必要である」(長島委員)、「歯科現場から人材が流出しないよう処遇改善が喫緊の課題であるが、歯科衛生士、歯科技工士の多くはクリニックに勤務しており、評価料による賃上げ対象にはならない。そうした点も踏まえた対応を検討してほしい」(林委員)、「病院薬剤師確保が重要課題だが、評価料では賃上げ対象になっていない点は課題である」(池端委員、支払側の佐保昌一委員:日本労働組合総連合会総合政策推進局長)などの意見が出ています。

今後、評価料の在り方も含め、「医療関係職種の処遇改善をどう進めていくのか」を中医協総会で引き続き議論していきます。

在宅の要介護高齢者・医療的ケア児に「訪問歯科診療」を適切に提供できる体制を報酬で整備

10月27日の中医協総会では「在宅歯科医療」も議題に上がりました。

在宅生活を送る要介護者や医療的ケア児が増加し「訪問歯科診療」のニーズが高まっていますが、訪問歯科診療を行う歯科医療機関は十分に確保されていません。在宅要介護者の口腔機能・口腔衛生を維持することで「誤嚥性肺炎等のリスクが低下する」ことは良く知られており、また、医療・介護双方の分野でリハビリ・口腔管理・栄養管理の一体的実施を進めるべきことが2024年度の次期診療報酬・介護報酬改定でも重要論点の1つになっています。厚生労働省保険局医療課の小嶺祐子歯科医療管理官は、例えば▼「かかりつけ歯科医」による歯科訪問診療を推進する観点からの歯科訪問診療の評価のあり方▼在宅療養支援歯科診療所や歯科訪問診療に関わる病院の評価(後方支援、専門的な訪問診療の双方の役割を期待)▼歯科衛生士による訪問指導の在り方(一部に極端に多く訪問するケースがあること、1人訪問に不安を感じるケースがあることなどを踏まえた対応)▼医療的ケア児等への歯科訪問診療の評価(実施が極めて限られている)▼在宅医療を担う医科医療機関や介護保険施設等の関係職種、介護支援専門員等との有機的な連携、栄養サポートチーム等との連携などの評価—といった点について議論を求めています。

訪問歯科診療の実施状況(中医協総会4 231027)

訪問歯科診療を行う「病院」の状況(中医協総会5 231027)



この点、林正純委員(日本歯科医師会副会長)は、▼地域で、歯科クリニックが介護サービス事業所などと連携して在宅歯科に取り組めるような方策▼短時間(20分未満)の訪問歯科診療についても、長時間口を開けていられない患者がいることなどを踏まえた評価引き上げ(現在は20分以上と20分未満とで報酬が区分けされ、後者は低い点数となっている)▼歯科病院すべてに「訪問歯科診療」実施を求めることはせず、地域の歯科医療機関等が連携して実施していく点の評価▼歯科衛生士単独による訪問歯科指導には不安もある(実際にハラスメントも生じている)点を踏まえた、「複数名訪問」の評価新設▼在宅の末期がん患者等へ、看取り期に頻回な口腔管理が必要となる点を踏まえた評価の設定▼増加する小児訪問歯科診療ニーズに応えるための、訪問診療を行う医師、訪問看護師との連携評価▼管理栄養士と歯科との連携が進むような、柔軟な報酬要件設定—などを要望。

また、田村文誉専門委員(日本歯科大学口腔リハビリテーション多摩クリニック口腔リハビリテーション科教授)からは、▼歯科医療機関からの訪問歯科診療では『外来』と『訪問』とのセット実施となり、小規模クリニックなどでは負担も大きいため、十分な報酬上の評価を行ってほしい▼小児の在宅療養患者では、多くの医療デバイス(人工呼吸器など)を使用するケースも多く、訪問歯科診療のリスクも大きい。医学的な難易度に応じた報酬設定を行ってほしい—といった要望も行っています。

さらに、江澤和彦委員(日本医師会常任理事)や池端委員らも「例えば、退院時には口腔機能・衛生が維持されているが、在宅に戻り、その後、状態が悪化して再入院した際には、口腔機能・衛生が崩壊しているケースも少なくない。在宅における医科・歯科・介護の連携」を進める必要がある旨を強く訴えています。

もっとも支払側の松本委員は、「まず訪問歯科診療提供体制の偏在適正化、極端に訪問回数が多い歯科医療機関の適正化・効率化などを求めるべきである」「末期がん患者への頻回な訪問歯科診療の必要性などは、より詳細なデータで示すべき」など、「単純な評価」(点数アップなど)ではなく、「メリハリを利かせた評価」が必要である旨を指摘しています。

今後、林委員・田村専門委員の具体的要望や、松本委員による指摘なども踏まえ、具体的な改定内容を詰めていきます。

「入院・外来医療分科会」の意見を最大限尊重して次期診療報酬改定に臨めと支払側委員

また、10月27日の中医協総会、それに先立って開催された診療報酬基本問題小委員会では、診療報酬調査専門組織「入院医療等の調査・評価分科会」の意見とりまとめ内容が報告されました。詳細は既報の記事に譲りますが、「看護必要度の見直し」「高齢の急性期入院医療患者への介助(看護職が担うべきか、介護職を配置すべきか)」「がん化学療法の外来移行推進」など、多様なテーマについて「現状分析」と「技術的課題の整理」が行われています(関連記事はこちら)。

このとりまとめ内容は、今後、中医協総会で個別・具体的な議論を行う際に活用されますが、支払側の松本委員からは、▼医療現場等の担当者、専門家の間で意見・方向が一致した部分については「最大限尊重」し、安易に緩めた議論をすべきではない▼2022年度の前回診療報酬改定後に急性期一般1病棟(旧7対1病棟)が増えてしまっていることを重視し、例えば「看護必要度の厳格化、基準値割合(必要度Iで31%以上、必要度IIで28%以上)の厳格化」などをこない、入院医療の機能分化を十分に進めるべき(地域医療構想の推進にも役立てるべき)▼医師働き方改革を支援する【地域医療体制確保加算】の効果が出ていない。長時間労働是正などの実効性が上がらない限り、加算存続はあり得ない▼救急医療管理加算の基準・対象患者の明確化を行うべき—といった指摘が出ています。

また、松本委員は「介護老人保健施設において高額薬剤の給付を医療保険から行うことを診療側が提案しているが(関連記事はこちらこちら)、安易に認めることはできない。これまで、例えばがん化学療法など老健施設での治療が困難な薬剤について医療保険からの給付を認めているが、老健施設で対応可能な疾病の治療は投薬も含めて介護保険・介護報酬の中で対応すべきである。『高額である』(老健施設の包括報酬で賄いきれない)という理由のみで、薬剤費を医療保険から給付することは認められない」とも訴えました。

これに対し診療側の長島委員は「個別論点で議論したい」とコメントするにとどめていますが、いずれも重要論点であり今後、激論が続くことが予想されます。



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