医師少数区域等の脳卒中患者へ、迅速にtPA静脈注射療法・血栓回収療法を実施可能とする診療報酬上の手当てを検討—中医協総会(2)
2023.10.19.(木)
脳卒中に対し、発症から間を置かずに迅速にtPA静脈注射療法を実施することが極めて重要であり、「専門医療機関と十分な連携を図る」ことなどを要件に、医師少数区域等では【超急性期脳卒中加算】の施設基準緩和を検討してはどうか—。
また血栓回収術についても、1次搬送医療機関が「2次搬送先の専門医療機関と十分な連携を図る」ことで治療成績が向上する点等を踏まえ、1次搬送医療機関について診療報酬上の評価を検討してはどうか—。
10月18日に開催された中央社会保険医療協議会・総会では、こういった議論も行われています(同日のがん対策に関する記事はこちら)。なお、同日の中医協総会では、「医療保険の訪問看護におけるオンライン資格確認導入の原則義務化」などに関する答申も行われており、別稿で報じます。
tPA療法実施を評価する超急性期脳卒中加算、「医師少数区域」等でも施設基準緩和を検討
我が国において「脳血管疾患」は、男女とも死因第4位となっています。生活習慣の改善や、後述する医学・医療の進歩により死亡率は減少してきていますが、依然としてその対策が重要なことは述べるまでもありません。中でも「脳梗塞」が大きな割合を占めています。
また「介護が必要となった」主な原因においては、認知症に次いで多くなっています。
こうした中、医学・医療分野では「早期に発見し、早期に治療を行う」技術が発展してきており、例えば、(1)発症後早期に血栓を溶かす薬を投与するtPA静脈注射療法(2)血栓をカテーテルを用いて取り除く血栓回収療法—などが急性期治療で一般的になってきています。診療報酬でもこうした治療を促すために、(1)のtPA静脈注射療法についてはA205-2【超急性期脳卒中加算】(入院初日に1万800点)、(2)の血栓回収療法についてはK178-4【経皮的脳血栓回収術】(3万3150点)による評価が行われています。
ただし、いずれの治療法についても「専門的な知識・技術を持つ医師」による実施が求められ、例えば過疎地などではこうした治療法実施が難しいという課題もあります。もちろん中医協や厚労省も事態を放置せず、様々な対応を行ってきており、厚生労働省厚生労働省保険局医療課の眞鍋馨課長は2024年度の次期診療報酬改定でも「両治療法のさらなる実施促進」に向けた対応を重要論点の1つに据えました。
まず(1)のtPA静脈注射療法実施を評価する【超急性期脳卒中加算】について見てみましょう。
tPA静脈注射療法は、脳卒中治療ガイドラインなどで「発症から4.5時間以内の急性期脳梗塞に対し、発症時間や画像所見に基づいて慎重に適応判断を行った上で行う」ことが推奨されています。
この点を踏まえて、【超急性期脳卒中加算】でも「発症後4.5時間以内にtPA静脈注射療法を実施し、入院させる」ことが算定要件の1つに定められています。
しかし、救急医療の現場では「1次搬送された医療機関(X医療機関)ですぐさまtPA静脈注射療法実施し、そこから専門的な医療機関(Y医療機関)に2次搬送する」というケースも増えてきています(いわゆるDrip and Ship法)。この場合、X医療機関では「患者を入院させていない」、Y医療機関では「tPA静脈注射療法を実施していない」ために【超急性期脳卒中加算】が算定できないという不都合がありました。
そこで2020年度の診療報酬改定で「地域の医療機関間で連携し、1次搬送された施設(X医療機関)でtPA静脈注射療法を実施し、より専門的な医療機関(Y医療機関)に2次搬送し、入院治療・管理を行う」場合でも、【超急性期脳卒中加算】を後者で算定可能とする見直しが行われています(この場合、X医療機関では薬剤料の算定が、Y医療機関で【超急性期脳卒中加算】の算定が可能)。
また、【超急性期脳卒中加算】の施設基準では、従前「医療機関内に、専ら脳卒中の診断・治療を担当する常勤医師(脳卒中の診断・治療経験10年以上)を1名以上配置し、日本脳卒中学会等の関係学会が行う脳梗塞tPA適正使用に係る講習会を受講していること」が求められていました。高度な知識・技術が必要なために求められる規定ですが、「『医療資源の乏しい地域』(厚労省が定める)では、こうした医師の配置がいずれの病院でも難しく、結果、加算算定ができない→tPA静脈注射療法の実施に支障が出る→脳梗塞患者が早期に適切な治療を受けられない」という問題点が浮上しました。
そこで2022年度の前回診療報酬改定では、『医療資源の乏しい地域』において上記の施設基準を緩和し、▼【超急性期脳卒中加算】を取得する他医療機関との連携体制が構築されている▼日本脳卒中学会が定める「脳卒中診療における遠隔医療(Telestroke)ガイドライン」に沿った情報通信機器を用いた診療を行う体制が整備されている▼日本脳卒中学会等の関係学会が行う脳梗塞tPA適正使用に係る講習会を受講している常勤の医師が1名以上配置されている—場合に【超急性期脳卒中加算】の取得を認める、との柔軟対応を行っています。他医療機関の専門知識・技術を持つ医師が、医療資源の乏しい地域の医師にオンラインで指導・指示を行い、tPA静脈注射療法を安全・適正に実施するものと言えます。
この結果、『医療資源の乏しい地域』における【超急性期脳卒中加算】取得病院が増加(2021年3月から2023年7月にかけて4病院増加)が実現しました。
さらに今般、眞鍋医療課長は「医師少数区域」に着目。地域の医師確保状況を精緻な指標(医師偏在指標)を用いて相対化(言わば順位付け)し、医師の確保状況が下位3分の1の地域が「医師少数区域」となりますが、こうした地域では次のような問題点があるようです(関連記事はこちら)。
▽医師少数区域では、tPA静脈注射療法の実施状況が他の区域に比べて低調である
▽医師少数区域の多くで、「急性期脳梗塞診療が常時可能な医療機関」への1次搬送に救急車を用いても30分以上かかる状況にある
▽【超急性期脳卒中加算】を取得する病院のある2次医療圏は、医師多数区域(医師確保状況が上位3分の1)・中程度区域では92%あるが、医師少数区域では67%にとどまる
こうした状況から「医師少数区域の居住者が脳卒中になった場合に、tPA静脈注射療法が迅速に行われるかという点で不安がある」と考えられ、例えば、上述の『医療資源が乏しい地域』を参考にした、【超急性期脳卒中加算】の施設基準緩和などを検討する必要がありそうです。
この問題について、中医協総会では「医師少数区域にとどまらず、脳卒中治療の基幹的病院へのアクセスに時間がかかるケースでは、他の【超急性期脳卒中加算】取得病院との連携などを要件に施設基準緩和を丁寧かつ適切に進めていくべきであろう。なお、連携に当たっては、平時からの『対面での連携』をベースに、緊急対応時のオンラインでの連携を進めるべきである。また【超急性期脳卒中加算】そのものの評価充実(点数引き上げ)も必要である」旨の考えが診療側の長島公之委員(日本医師会常任理事)、島弘志委員(日本病院会副会長)、池端幸彦委員(日本慢性期医療協会副会長、福井県医師会長)から揃って出されました。また、支払側の松本真人委員(健康保険組合連合会理事)も、この見解に賛意を示したうえで「リスクも考慮し、安全にtPA静脈注射療法が実施可能な環境を整えるべき」とコメントしています。
血栓回収療法でも、適切な医療機関間連携が治療成績を高めることを踏まえた評価を検討
一方、(2)の血栓回収療法を評価する【経皮的脳血栓回収術】についても、「発症後早期に迅速に実施する」ことが重要ですが、▼非常に高度な技術であり、実施可能な施設が限られる▼医師少数区域では、血栓回収療法の実施状況が他の区域に比べて低調である—などの課題があります。
しかし、上記の【超急性期脳卒中加算】のような「他医療機関との連携評価」はなされていません。
この点、血栓回収療法について「専門医療機関との情報連携によって、治療成績が向上する」といった研究報告があります。
▽情報通信機器を用いた病院間連携により、血栓回収療法が必要な患者について「基幹施設到着までの時間が短縮する」「治療後の転帰良好例が増加する」との報告がある
もっとも、「CT画像等の共有などをせずに血栓回収の適応判断を行い、血栓回収療法の実施目的に基幹施設に2次搬送を行った」患者のうち、2割は「血栓回収療法の適応がなかった」との報告があるように、「CT画像等の共有」などの十分な情報連携が大前提になってきそうです。
こうした状況を踏まえれば、「脳卒中患者が1次搬送された医療機関」(A医療機関)において、専門知識・技術を持つ他医療機関(B医療機関)と適切に情報連携(CT画像等の共有)し、B医療機関に2次搬送後に血栓回収療法が行われた場合には、A医療機関の取り組みを何らかの形で評価することが妥当と考えられそうです。
中医協委員からはこの方向に異論は出ておらず、今後、具体的な報酬上の手当てを詰めていくことになりそうです。
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