深刻化するドラッグ・ラグ/ロスの解消や小児用医薬品開発に向け、専門家の研究結果も踏まえた薬価上の対応を検討―中医協・薬価専門部会
2023.10.23.(月)
近年、深刻化している「ドラッグ・ラグ/ロス」の解消に向けて、厚生労働科学研究の結果も踏まえた薬価上の対応を検討していく必要がある。とりわけ小児用医薬品の開発などが促進される仕組みを検討し、実施していくことが強く求められる—。
10月20日に開催された中央社会保険医療協議会の薬価専門部会で、こういった議論が行われました。
薬事上の仕組みとも整合性を確保した「薬価上の対応」の検討が必要
2024年度の薬価制度改革議論は「具体的な第2ラウンド論議」に入っています(前回の「新薬創出・適応外薬解消等促進加算」見直しに関する記事はこちら)。
10月20日の会合では、(1)日本への早期導入に関する評価(2)小児用の医薬品に関する評価(3)有用性系加算の評価—の3点を議題としました。
まず(1)は、近年、再燃している「ドラッグ・ラグ/ロスの解消」を目指すための対応をどう図るかという論点です。
現在も、▼世界に先駆けて開発した先駆的医薬品に係る評価(先駆加算)▼新薬創出・適応外薬解消等促進(新薬創出等加算)の加算による評価▼一定の条件を満たす原価計算方式の場合、収載後に初めて収載された外国価格に基づき薬価改定の際に1回に限り外国平均価格調整を行う—などの対応が行われていますが、製薬メーカーサイドは、先駆加算には「制度上は『10-20%の加算』が設けられているが、実際は下限の『10%加算』が大部分である」との、新薬創出等加算には「対象が限定されている」との、外国価格調整については「引き上げ調整は行われない」との問題点があるとし、「ドラッグ・ラグ/ロスの解消に向けた新たな対応が必要である」と訴えています。
この点について厚生労働省保険局医療課の安川孝志薬剤管理官は、▼薬価基準収載時の評価(新薬の価格設定における加算など)▼薬価改定時の評価(新薬創出等加算の対象拡大など)▼外国価格の取り扱いなど—を検討する必要があるとの考えを提示。あわせて、別途、厚生労働科学研究として進められている「適切な医薬品開発環境・安定供給及び流通環境の維持・向上に関する研究」の成果(詳細は追って中医協に報告される)も踏まえた検討を進めてはどうかとの考えも示しました。
中医協では、診療側の長島公之委員(日本医師会常任理事)から「先駆加算、外国価格調整の在り方を検討することが効果的であるが、先駆加算は薬事における『先駆的医薬品指定制度』の在り方も含めた検討が必要である。また、外国価格調整の仕組みの中に『薬価の引き上げ』ルールを設けることは、患者負担の増加につながり、また制度の趣旨を逸脱することも考えられる」と、「難しい検討課題である」旨の考えが示されました。
また、同じく診療側の森昌平委員(日本薬剤師会副会長)は「我が国での早期上市に向けたインセンティブとなる新加算の検討を進める余地がある。ただし、早期に上市すればよいというものでもなく、加算対象には一定の要件を設ける必要があろう。また、薬価基準収載後の外国価格を踏まえた『引き上げ』調整も検討の余地があるが限定的な範囲とすべき」との見解を示しています。
一方、支払側の松本真人委員(健康保険組合連合会理事)は「薬価全般について、加算や価格調整には、それぞれの趣旨・目的があり、『薬価が低いので、ルールを緩和し、価格を引き上げる』という単純な議論はできない点を十分に踏まえる必要がある。今後、厚生労働科学研究(上記)の結果をベースに、ドラッグ・ラグ/ロスの解消に向けた対応を検討していく必要がある。その際には、先駆加算では薬事上の『先駆的医薬品指定制度』との整合性が求められ、薬価基準収載後の外国価格を踏まえた『引き上げ』調整では患者負担増につながる点の考慮が強く求められる点に留意が必要である」と指摘しています。
今後も、(上記)厚生労働科学研究結果を踏まえた議論が続けられます。
また、(2)の小児用医薬品は「患者数が少ないために開発が進みにくい」(治験などが困難であり、また市場も小さい(患者数が少ない)ために開発が後手に回りがちである)状況にあり、薬価上の手当てで「開発を促していく」ことが強く求められています。
この点、すでに▼小児用医薬品では新薬設定時に加算を付加している(小児加算)▼新薬創出等加算の企業要件・企業指標の中に「小児用医薬品の開発」を組み入れている▼市場拡大再算定(薬価引き下げ)の際にも小児用医薬品には一定の配慮を行っている(補正加算を設けて引き下げ幅を小さくする)—などの対応がなされていますが、例えば小児加算では「制度上は『5-20%の加算』が設けられているが、実際は下限の『5%加算』が大部分である」など、必ずしも十分には機能していないとの指摘もあります。
このため、例えば「新薬創出等加算の対象に小児用医薬品を加え、薬価を下支えする」などの提案がメーカーサイドからなされています(関連記事はこちら)。
この点については、「新薬創出等加算とは別に、より開発が促進されるような評価ルールを設けてはどうか」(長島委員)、「小児加算の範囲等拡大、小児用医薬品の新薬創出等加算への組み入れなどを行うなどし、より開発インセンティブが効くような制度への見直しを行うべき」(森委員)、「小児用医薬品については開発促進の必要性高い。『適用される加算率が低いので、適用要件を見直す』などの対応は困難であるが、『評価すべきであるが、欠けている視点』があるのであれば、それは積極的に検討していくべき」(松本委員)、「小児用医薬品の開発促進は非常に重要である。薬価上の対応にとどまらず、国を挙げた支援が求められる」(佐保昌一委員:日本労働組合総連合会総合政策推進局長)といった意見が出ています。「小児用医薬品の開発促す方向での評価を検討する」という方向で委員の意見は一致しており、こうした方向にメーカー代表の立場で参加する石牟禮武志専門委員(塩野義製薬株式会社渉外部長)も期待を寄せています。
なお、薬事上「成人と同時に『小児用の開発』計画を促す仕組みを導入する」「小児用医薬品の開発の優先度を明確化して公表する」といった方向で検討が進められており、こうした動きと整合性をとった「薬価上の対応」も重要な視点となります。
他方、(3)の有用性系加算は、新薬の様々な特性(希少疾患の治療である点、世界に先駆けて開発された点など)をポイント化して定量的・客観的に評価を行う仕組みとなっているものの、「十分な評価となっていない(最も低い加算率となる製品が大部分である)」、「新たな有用性の観点が評価されない」などの課題が指摘されています。
この点、上述の厚生労働科学研究の中で「新たな有用性の観点での評価」などが検討されており、この結果も踏まえて検討してはどうかとの方向が安川薬剤管理官から示されています。
委員からは「『有用性』という視点を忘れずに、これまでの評価軸と新たに研究班から示される評価軸との整合性をとった議論を進めるべき。なお、医薬品の安定供給確保に向けた研究は、現下の深刻な供給不安の中でなされたものであり、その結果の薬価への応用には慎重であるべき」(長島委員)、「現在のポイント制評価の柔軟化なども検討課題の1つになると考えられる」(森委員)、「これまでに想定していない革新性・有用性などが十分に評価されていない現状があれば、新たな評価を検討していく必要がある。ただし、その評価結果が医療保険財政にどういった影響を及ぼすのか、試算結果も見ながら考えていく必要がある」(松本委員)といった意見が出ています。
こちらも(1)と同様に(上記)厚生労働科学研究結果を踏まえた議論が続けられます。
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