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GemMed塾 看護モニタリング

「医療人材の賃金アップ」を診療報酬で手当てすべきか、するとして「医療現場の柔軟対応」を可能な仕組みとすべきでは—社保審・医療部会

2023.11.2.(木)

11月1日に社会保障審議会・医療部会が開催され、「2024年度診療報酬改定の基本方針」策定論議を行いました。医療保険部会も含めて議論が相当煮詰まってきています。あと2回ほどの議論を経て、12月上旬に基本方針が固められる見込みです。

「医療人材の賃金アップ」など、人材確保が重点課題に位置づけられる見込みですが、まだ異論も出ています。今後の調整に注目が集まります。

11月1日に開催された「第103回 社会保障審議会 医療部会」

診療報酬改定基本方針における「重点課題」の位置付けをどう考えるか

Gem Medで報じているとおり、2006年度の診療報酬改定から、▼改定の基本方針を社会保障審議会の医療保険部会と医療部会で決定する▼改定率(つまり財源配分の大枠)を内閣が予算編成過程で決める▼基本方針と改定率を受け、中医協で改定内容を詰める―という役割分担が行われています。

医療保険部会・医療部会では基本方針策定論議が進められており、11月1日の医療部会では厚生労働省保険局医療介護連携政策課(医政局、老健局併任)の竹内尚也課長が示した「基本認識、基本的視点、具体的方向性の案」に基づいた意見交換が行われました(関連記事はこちらこちらこちら)。

「基本認識、基本的視点、具体的方向性の案」の内容は、すでに報じているため省略しますが(関連記事はこちら)、竹内医療介護連携政策課長は「かかりつけ医機能の評価」について、「新たな『かかりつけ医機能報告』制度を念頭に置いたものではなく、これまで議論されてきている、いわゆる『かかりつけ医機能』である」ことを付言しています。

2023年の医療法改正(「全世代対応型の持続可能な社会保障制度を構築するための健康保険法等の一部を改正する法律」の一部)で、新たな「かかりつけ医機能報告」制度を創設。再来年(2025年)4月施行に向けて、「国民・患者に対するかかりつけ医機能をはじめとする医療情報の提供等に関する検討会」で具体的な報告項目(つまり「かかりつけ医機能」に該当する項目)や対象医療機関(つまり「かかりつけ医機能」を持つ医療機関の範囲)等を詰めていきます。

ただし、この仕組みは2024年度診療報酬改定論議と並行して進められますが、結論は来夏(2024年夏)とされ、スタートは2025年4月となるため、2024年度診療報酬改定の直接のターゲットとはなりません。このため、議論が混乱しないよう竹内医療介護連携政策課長は「これまで議論されてきている、いわゆる『かかりつけ医機能』を念頭に議論をすすめてほしい」と要請しています。



医療部会では、この「基本認識、基本的視点、具体的方向性の案」をもとに議論を行いました。

まず目立ったのは「人材確保の重要性」を強調する意見です。泉並木委員(日本病院会副会長)は「他産業の賃上げに医療分野が追いついておらず、人材流出(医療分野→他分野)が始まっており、医療機関維持が困難になっている。とりわけ『看護補助者』『病院薬剤師』の確保が急務であり、十分な賃上げを行えるように『入院基本料の大幅引き上げが必要』である」と強く訴えました。この考えには、神野正博委員(全日本病院協会副会長)、山崎學委員(日本精神科病院協会会長)、佐保昌一委員(日本労働組合総連合会 総合政策推進局長)、木戸道子委員(日本赤十字社医療センター第一産婦人科部長)、城守国斗委員(日本医師会常任理事)、松原由美委員(早稲田大学人間科学学術院教授)らも賛同。神野委員は「物価高騰による消費税収増、賃金増による所得税収増が生じている。これを医療分野に還元し、成長の好循環を断ち切らないようにすべき」と指摘しています。

一方、河本滋史(健康保険組合連合会専務理事)は「まず医療機関内の財源配分マネジメント(高給の職種から低い給与職種への財源シフト)を行うべき」と提案。さらに「デフレーション下でも、診療報酬本体はプラス改定が続いてきた」点を十分に認識すべきとも述べています。このコメントの背景には、「これまでのプラス改定による収益増を賃金増につなげてこなかったことが、医療従事者の低い賃金・人材流出につながっている点を認識せよ」との意図があると考えられます。

また島崎謙治委員(国際医療福祉大学大学院教授)は「診療報酬プラス改定による賃金増」には異論を示しませんが、「どの職種に給与・賃金をどの程度上げるかについて、診療報酬で厳格に縛れば、医療現場の柔軟な対応が行えなくなる」と指摘しています。例えば、2022年10月からスタートした【看護職員処遇改善評価料】では、賃金アップの対象職種や、賃金アップの内容が想定程度厳格に規定されていますが、こうした対応が好ましいのかどうかは慎重に考える必要があります。

なお、保険医療機関では、収益のほとんどが「診療報酬」であり、コスト増(物価増、光熱水費増、人件費増など)をサービス価格(医療費)に転嫁することはできないという点には最大限の留意が必要なことは述べるまでもありません。



また、河本委員は「医療保険制度の安定性・持続可能性の向上」も重要課題であり、「人材確保・働き方改革等の推進」と同じく「重点課題」に位置付けよと指摘しました(関連記事はこちら)。この点、島崎委員は「基本的視点で示された▼人材確保・働き方改革等の推進▼地域包括ケアシステムの深化、医療機能の分化・強化、連携の推進▼安心・安全で質の高い医療の推進▼医療保険制度の安定性・持続可能性の向上—はいずれも重要である。これまでの基本方針では1、2項目を重点課題に位置付けているが、そうした慣例に縛られる必要はない。重点課題を位置づける必要はない」とも指摘しています。

「重点課題」に位置づけた項目に重点的に財源を配分し、それ以外の項目には財源を薄くしか配分しない、といった構造にはありません。このため「どの項目を重点課題に位置付けるか」といった議論に深い意味があるとは思えず、効率的な審議を進めるためにも、島崎委員の指摘は重要と考えられます。



このほか「電子カルテの購入・維持、バージョンアップには多大なコストが生じている。医療DX推進に向けて国で標準規格導入に向けた支援を行ってほしい」(泉委員、木戸委員)、「後発品の使用促進だけでなく、『安定供給』にも力を入れるべきである」(山口育子委員:ささえあい医療人権センターCOML理事長)、「精神科地域包括ケア病棟の創設などを検討すべき」(山崎學委員)、「航空業界では燃料価格の急増に対応する仕組みがある(燃油サーチャージ)。医療分野にもそうした仕組みの導入を考えてはどうか」(神野委員)などの提案も出ています。

議論は相当程度煮詰まってきており、あと2回程度の議論を経て基本方針が12月上旬にも固まると見込まれます。



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