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2024年度診療報酬改定では「医療人材の確保」を重点課題に据える、国保の賦課限度額を106万円に引き上げ—社保審・医療保険部会

2023.10.31.(火)

10月27日に社会保障審議会・医療保険部会が開催され、「2024年度診療報酬改定の基本方針」策定論議を行いました。医療部会でも同じ議論が進んでおり、内容はかなり煮詰まってきています。12月上旬に基本方針が固められる見込みです。

なお、同日には国民健康保険の保険料賦課・保険税課税限度額は現在より2万円アップし、106万円とする方針が固められました。今後、地方議会で条例改正などが行われます。

10月27日に開催された「第169回 社会保障審議会 医療保険部会」

「医療人材の確保」を重点課題に据える

Gem Medで報じているとおり、2006年度の診療報酬改定から、▼改定の基本方針を社会保障審議会の医療保険部会と医療部会で決定する▼改定率(つまり財源配分の大枠)を内閣が予算編成過程で決める▼基本方針と改定率を受け、中医協で改定内容を詰める―という役割分担が行われています。

医療保険部会・医療部会では基本方針策定論議が進んでおり(関連記事はこちらこちらこちら)、10月27日の医療保険部会には、厚生労働省保険局医療介護連携政策課(医政局、老健局併任)の竹内尚也課長から、これまでの議論を踏まえた基本認識、基本的視点、具体的方向性の案が示されました。その大枠は次のように整理できます。

【基本認識】
▽◆物価高騰・賃金上昇、経営の状況、人材確保の必要性、患者負担・保険料負担の影響を踏まえた対応
→物価高騰、賃上げなどの経済社会情勢は医療サービスの提供・人材確保にも大きな影響を与えており、患者負担・ 保険料負担への影響を踏まえながら、患者が必要なサービスを受けられるような対応を行う

▽全世代型社会保障の実現や医療・介護・障害福祉サービスの連携強化、新興感染症等への対応など医療を取り巻く課題への対応
→未曽有の少子高齢化に直面する中で「全世代型社会保障」を構築することが急務の課題であり、ポスト2025年のあるべき医療・介護提供体制を見据え、医療・介護の役割分担と切れ目のない連携を着実に進め、医療・介護の複合ニーズを有する者の個別ニーズに寄り添った介護を地域で完結して受けられるようにする社会を目指すことが重要である

→新興感染症等に対応できる医療提供体制を構築することをはじめ、引き続き、質の高い効率的・効果的な医療提供体制の構築に向けた取り組を着実に進める必要がある

▽医療DXやイノベーションの推進等による質の高い医療の実現
→医療分野においてもデジタル化された医療情報の利活用を積極的に推進していくことが、個人の健康増進に寄与するとともに、医療現場等における業務効率化の促進、効率的・効果的な質の高い医療の提供を行っていく上で非常に重要であり、医療情報の活用や医療機関間における連携のための取り組みなどを含む医療DXの推進により、地域医療連携の円滑化、医療機関等の負担軽減を図り、安心・安全で質の高い医療サービスを実現していく必要がある

→イノベーションの推進により創薬力・開発力を維持・強化するとともに、革新的医薬品を含めたあらゆる医薬品・医療機器等を国民に安定的に供給し続けることを通じて、医療と経済の発展を両立させ、安心・安全な暮らしを実現することが重要である

▽社会保障制度の安定性・持続可能性の確保、経済・財政との調和
→経済・財政との調和を図りつつ、より効率的・効果的な医療政策を実現するとともに、国民の制度に対する納得感を高めることが不可欠であり、「経済財政運営と改革の基本方針2023」(骨太方針2023)「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画2023改訂版」などを踏まえつつ、無駄の排除、医療資源の効率的・重点的な配分、医療分野におけるイノベーションの評価等を通じた経済成長への貢献を図ることが必要である

【基本的視点と具体的方向性】
(視点1)現下の雇用情勢を踏まえた人材確保・働き方改革等の推進【重点課題】

→医療従事者の人材確保や賃上げに向けた取り組み
→働き方改革に向けての取り組みの推進(各職種がそれぞれの高い専門性を十分に発揮するための勤務環境の改善、タスク・シェアリング/タスク・シフティング、チーム医療の推進、業務の効率化に資するICT利活用の推進、他長時間労働などの厳しい勤務環境の改善に向けた取り組みの評価、地域医療の確保・機能分化を図る観点から必要な救急医療体制等の確保、医療人材および医療資源の偏在への対応など

(視点2)ポスト2025を見据えた地域包括ケアシステムの深化・推進や医療DXを含めた医療機能の分化・強化、連携の推進
→医療DXの推進による医療情報の有効活用、遠隔医療の推進(マイナ保険証を活用した質が高く効率的な医療の提供、医療情報の標準化、ICT活用等を通じた医療連携の推進)
→生活に配慮した医療の推進など地域包括ケアシステムの深化・推進のための取組(医療・介護の連携、医療と障害福祉サービスの連携の推進)
→リハビリ・栄養管理・口腔管理の連携・推進
→患者の状態・必要と考えられる医療機能に応じた入院医療の評価(増加する高齢者急性期医療のニーズや地域医療構想等を踏まえた、医療資源を効率的に提供するための機能分化の推進)
→外来医療の機能分化・強化等
→新興感染症等に対応できる地域における医療提供体制の構築に向けた取組
→かかりつけ医機能などの評価
→質の高い在宅医療・訪問看護の確保(専門性の高い看護師の活用)

(視点3)安心・安全で質の高い医療の推進
→食材料費をはじめとする物価高騰を踏まえた対応
→患者にとって安心・安全に医療を受けられるための体制の評価(医療機関間の連携の強化に資する取り組みなどを実施、人生の最終段階における医療・ケアの充実)
→アウトカムにも着目した評価の推進(質の高いリハビリの評価など)
→重点的な対応が求められる分野への適切な評価(小児医療、周産期医療、救急医療の充実、質の高いがん医療の評価、認知症への適切な医療の評価、地域移行・地域生活支援の充実を含む質の高い精神医療の評価、難病患者に対する適切な医療の評価)
→生活習慣病の増加等に対応する効果的・効率的な疾病管理および重症化予防の取り組み推進
→口腔疾患の重症化予防、口腔機能低下への対応の充実、生活の質に配慮した歯科医療の推進
→薬局のかかりつけ機能に応じた適切な評価、薬局・薬剤師業務の対物中心から対人中心への転換の推進、病院薬剤師業務の評価
→医薬品供給拠点としての役割の評価
→医薬品産業構造の転換も見据えたイノベーションの適切な評価や医薬品の安定供給の確保等

(視点4)効率化・適正化を通じた医療保険制度の安定性・持続可能性の向上
→後発医薬品やバイオ後続品の使用促進、長期収載品等の在り方(医療保険財政の中でイノベーションを推進するため長期収載品等の保険給付の在り方を見直し、経済性に優れた医療機器等の診療報酬上の評価や患者が自ら使用するプログラム医療機器等の保険適用の在り方について検討する)
→費用対効果評価制度の活用
→市場実勢価格を踏まえた適正な評価
→医療DXの推進による医療情報の有効活用、遠隔医療の推進
→患者の状態・必要と考えられる医療機能に応じた入院医療の評価
→外来医療の機能分化・強化等



現下の医療現場の課題を踏まえた内容であり、またすでに医療保険部会・医療部会、さらに中医協で議論が進んでいる内容であることも踏まえ、こうした内容に明確な異論は出ていませんが、「(視点4)の『医療保険制度の安定性・持続可能性の向上』も重点課題に位置づけるべき」(佐野雅宏委員:健康保険組合連合会副会長)、「2024年度の次期改定では、従来の対応に加えて『物価高騰等への対応』を重点的に行う必要がある」(猪口雄二委員:日本医師会副会長)、「保険医療機関では物価・人件費等のコスト増をサービス価格に転嫁できない点を十分に考慮すべき」(池端幸彦委員:日本慢性期医療協会副会長・福井県医師会長)、「医療界全体の賃上げが進むことが期待される」(村上陽子委員:日本労働組合総連合会副事務局長)などの注文が出ています。ただし「重点課題に位置づけた項目では対応を手厚くし、そうでない項目はおざなりな対応しかとらない」といったわけではありません。上記視点はいずれも重要な事項であり、中医協論議を踏まえた「まんべんなく十分な対応」が図られます(もちろん財源の制約があることは述べるまでもない)。

医療部会でも並行して議論が進んでおり、12月上旬に基本方針が固められます。

国民健康保険料(税)の賦課(課税)限度額を2万円アップし、106万円に

10月27日の医療保険部会では、国民健康保険の保険料賦課・保険税課税限度額についても議論が行われました。

医療保険・介護保険などの社会保険では、「サービスを受けた量に応じた負担をする」という【応益負担】(サービスを多く受ければ受けるほど負担も大きくなる)と「経済力に応じた負担をする」という【応能負担】(所得が高ければ高いほど負担も大きくなる)を組み合わせて財源を確保しています(このほかに「公費」も投入されている、関連記事はこちら)。前者の【応益負担】としては患者負担(窓口一部負担)がありますが、年齢・所得によって1-3割に設定するなど【応能負担】の要素も取り入れられています。

また、毎月納める保険料(税)では【応能負担】の考え方に基づいた制度設計がなされ、「所得等の高い人が、より高額な保険料(税)を負担する」形となっています。ただし青天井に保険料(税)が上がっていけば、高所得者の中には「私の保険料は高すぎる。これでは医療保険に加入する意味がない。医療が必要になった際に自費で受けたほうが安上がりである。保険料(税)は負担しません」と考える人が出てきてしまいかねません。これでは社会保険制度が崩壊してしまうため、保険料(税)負担額には上限、つまり「一定所得以上の人は、それ以上に所得が高くなっても保険料(税)額は同額とする」という【賦課限度額】(上限額)の仕組みが設けられています。

賦課限度額は、そのときどきの医療保険加入者の所得状況によって変えていく必要があります。例えば、「医療費が増加する中で賦課限度額を変えない」こととすれば、高所得者の負担は変わりませんが、その分「中間所得層に負担がのしかかる」こととなってしまうためです。

保険料賦課限度額(保険税課税限度額)見直しの考え方(社保審・医療保険部会1 231027)



この点、国民健康保険については「【賦課限度額】を見直す必要があるのか」を毎年度検討しており(例えば、上限を超過する高所得世帯の割合が1.5%程度以内までに収まるか、などを勘案する)、必要に応じて2-4万円程度の引き上げが行われてきています。

2024年度においては、医療費等の増加を見込んで「2万円」引き上げ、保険料(税)の上限を「106万円」とする方針が固められました(今年度(2023年度)には「102万円から104万円への2万円引き上げ」が行われている2022年度には「99万円から102万円への3万円引き上げ」が行われている)。

国保の賦課(課税)限度基準額を2万円引き上げる(社保審・医療保険部会2 231027)



今後、税制改正等を行い(国見健康保険「税」としている自治体が多い)、それを踏まえて各自治体で条例が改正されることになります。



なお、医療機関等の窓口における「マイナンバーカードによるオンライン資格確認」は依然として低調であり(本年(2023年)9月時点でも全体の4.5%にとどまっている)、関係各所で「推進、普及に向けたPR」を継続展開している点が報告されています。

オンライン資格確認(棒グラフ・表の青色部分)は低調である(社保審・医療保険部会3 231027)



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