「長期収載品」と「最も高い後発品」との価格差の一部を選定療養(患者負担)に—中医協総会(5)
2023.12.5.(火)
「長期収載品と後発品との価格差の一部」を選定療養(患者負担)にする議論が進んでいるが、その際、「最も高い後発品」を基準に検討を進めなければ、「後発品を選択したほうが保険給付が多くなってしまう」という逆転現象が生じてしまう点に留意すべき—。
どういった場面で長期収載品を選択した際に選定療養とするのか、保険給付とするのかをイメージしやすいように、実例をもとに検討を進めてはどうか—。
12月1日に開催された中央社会保険医療協議会・総会では、こうした議論も行われました(同日の薬価・材料価格調査結果に関する記事はこちら、医療DX推進に関する記事はこちら、リハビリ・栄養管理・口腔管理の一体的実施に関する記事はこちら、小児・周産期医療に関する記事はこちら)。
最も高い後発品と長期収載品との価格を基準に、患者負担範囲を検討
Gem Medで報じているとおり、長期収載品医薬品について「後発品との差額の一部を患者自己負担(選定療養)とする」議論が進んでいます(関連記事はこちらとこちらとこちら)。
「同じ成分、効能効果で価格の安い後発品を使用してほしい。後発品を使用できる環境が整えられているにもかかわらず、あえて高額な長期収載品(先発品)を選択する場合には、差額の一部を患者自身に負担してもらう」という考え方に立ち、基本的な枠組みを社会保障審議会・医療保険部会で、詳細を中医協で検討しています。
これまでの議論で、▼医療上の必要性があって長期収載品を選択する場合には、通常通りの保険給付を行うべきではないか▼後発品が相当程度普及している場合に、長期収載品を選択する場合を選定療養の対象とすべきではないか▼長期収載品と後発品との差額全てを患者負担とするのではなく、一部とすべきではないか—といった方向が固まりつつあります。
12月1日の中医協総会では、さらに(1)適用場面をどう考えるか(2)どの後発品を比較対象とするか—といった点について議論を深めました。
まず(1)は、例えば「患者が後発品に不安を持ち長期収載品を希望する場合」や「後発品が出荷調整となっている場合」などに選定療養の仕組みを導入すべきかという論点と言えます。
この点について厚生労働省保険局医療課保険医療企画調査室の荻原和宏室長は、下図のように場合分けし、「どのような場面で選定療養とし、どのような場面で保険給付するか」の検討を深めてほしいと中医協に要請しました。
診療側の長島公之委員(日本医師会常任理事)は「実際の医療機関・薬局での医薬品選択は、イメージ図よりもはるかに複雑である。患者希望で長期収載品を選択するケースでも、その背景に『使用感や効き目の違いを患者が感じ、医師が医療提供上、長期収載品が必要である』を判断することもある。患者負担が大きく変わることになるため、明確な判断基準・ルールを設けるべき。また後発品の供給不安からやむを得ず長期収載品を選択するケースもあり、その場合も選定療養とすることは好ましくない」とコメント。また、同じく診療側の森昌平委員(日本薬剤師会副会長)は「薬剤師・薬局が処方箋のみで『選定療養のケースなのか、保険給付のケースなのか』を判断できるようなルール設定が必要である(都度都度、医師に「医療上の必要があっての長期収載品選択か?」などと確認することは非現実的である)。また出荷調整品目でなくとも、後発品の供給に不安がある場合には、長期収載品選択は選定療養対象とすべきでない」と指摘。あわせて森委員は「小児では医薬品の『味』に敏感で、この銘柄でなければ飲めないといったケースや、高齢者では、飲みやすく工夫された『小さな後発品』が、かえって掴みにくいといったケースもある。長期収載品・医薬品の選択は個々の患者の状況に大きく左右される」ことも紹介しています。
他方、支払側の松本真人委員(健康保険組合連合会理事)は「医療上の必要性があって長期収載品を選択する場合には、当然、選定療養から除外する必要がある。その際、レセプトに『長期収載品を選択した医学的理由』の記載を求めるべきであろう。また後発品の供給不安には一定の配慮が必要であるが、『全体として後発品供給がなされている』ような場合には選定療養の対象に加える必要があろう」との考えを示しました。
委員間で若干イメージが異なっている嫌いもあり、長島委員は「代表的事例についてパターン示してほしい。実例を見ながら考える必要がある」と荻原保険医療企画調査室長に要請しています。
関連して「入院での処方、院内処方」場面について診療側の太田圭洋委員(日本医療法人協会副会長)は、「医療機関ではすべての医薬品を備蓄しているわけではなく、採用薬は限定的である。ここに選定療養の仕組みを入れれば、医療機関は混乱してしまう。入院医療、院内処方はこの仕組み(選定療養)の対象外とすべきである」との考えを示しています。
また(2)は、後発品と一口に言っても「様々な価格の後発品」があり、どれを基準として差額の一部を選定療養とするか、という論点です。
同じ成分でも複数の後発品があり価格は区々です(現在は価格帯が3区分、▼最高価格の50%以上となる後発品▼最高価格の30%以上50%未満となる後発品▼最高価格の30%未満となる後発品—)。
この点、「低い価格の後発品を基準とすると問題が生じる」ことを示しています。
例えば、200円の長期収載品(A)、100円の後発品(B)、80円の後発品(C)、60円の後発品(D)があったとします。
その際、仮に「A(200円)と最も安いD(60円)との価格差140円」のすべてを選定療養としたとすると、それぞれの保険給付分(7割負担分)は、A:42円([200円-140円(選定療養)]×0.7)、B:70円(100円×0.7)、C:56円(80円×0.7)、D:42円(60円×0.7)となります。すると、患者がAを選択したほうがBやCを選択した場合よりも保険給付分が小さくなってしまう(逆に言えば、B・Cを患者が選択すると保険給付、つまり保険者や国の負担が大きくなる)のです。
そもそも、今回の選定療養導入の背景には「安い後発品を選択してもらうことで、医療保険財政の健全化を狙う」ことがあります。にもかかわらず、患者が安い後発品を選択すると保険給付が大きくなってしまうのでは「保険財政の健全化」は望めません。
この状況は、「A(200円)と2番目に安いC(80円)との価格差120円」のすべてを選定療養とした場合でも生じます。
このため、選定療養については、「最も価格の高い後発品」(上記例ではB)を基準とし「後発品(最も高いもの)と長期収載品との価格差の一部」とすることが妥当と森委員や松本委員は指摘。長島委員も同旨の考えを示しています。
このほか、▼選定療養の額・割合は当初は小さなとこから始めるべき(長島委員)▼対象品目は、相当程度「後発品が普及」しているもの(置き換えが相当程度進んでいるもの)とすべきであり、少なくとも後発品が登場して日の浅いものは除外すべき。選定療養は「割合」(長期収載品と後発品との差額の●%)で設定し、複雑にならないように配慮すべき(森委員)▼対象品目はできるだけ広く設定し、後発品が上市場されてから5年以上・後発品置き換え率が50%以上を目安に考えていくべき。選定療養の額・割合は「患者が後発品を選択しよう」と思える程度(低すぎては選定しない)に設定すべき(松本委員)▼後発品の供給不安は現場に大きな影響を及ぼしている。安定供給が確保されてからの導入としてはどうか(診療側の茂松茂人委員:日本医師会副会長)—などの意見も出ています。
さらに議論を重ね、具体的な制度内容を遅くとも年内に固めることになります。
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