「長期収載品と後発品との価格差の一部」の選定療養(患者負担)化、医療上の必要性や後発品供給への配慮も必要—社保審・医療保険部会
2023.12.1.(金)
「長期収載品と後発医薬品との価格差の一部」を選定療養(患者負担)とする場合でも、医療上の必要性から長期収載品を選択する場合や、後発品の供給不安があり長期収載品を選択する場合などには配慮(選定療養の除外)を行う必要がある—。
11月29日に開催された社会保障審議会・医療保険部会では、こうした議論が行われました。この長期収載医薬品の患者負担見直し(選定療養導入)については、12月中下旬までに医療保険部会で基本的な枠組みを、中央社会保険医療協議会で詳細を固めます。
長期収載品と後発品の「差額の一部」を選定療養とするが、医療上の必要性などに配慮
Gem Medで報じているとおり、長期収載品医薬品について「後発品との差額の一部を患者自己負担(選定療養)とする」議論が進められています。「同じ成分、効能効果で価格の安い後発品を使用してほしい。後発品を使用できる環境が整えられているにもかかわらず、あえて高額な長期収載品(先発品)を選択する場合には、差額の一部を患者自身に負担してもらう」という考え方です(関連記事はこちらとこちら)。
この仕組みにより、「後発品へのシフトが進む」(後発品を選ばらない場合に自己負担が大きくなる)、「長期収載品の価格の一部が保険給付から除外される」ことにより生じる財源を「画期的な新薬への評価」に振り向けることが大きな狙いです。
厚生労働省保険局医療課保険医療企画調査室の荻原和宏室長は、次のような仕組みのイメージを示しました。
▽例えば、200円の長期収載品(先発品)と100円の後発品があったとき、現行の3割負担では、長期収載品では60円(200円×3割)、後発品では30円(100円×3割)が患者負担となり、残りの7割部分(長期収載品は140円、後発品では70円)が保険給付される
↓
▽長期収載品と後発品の差額の一部を選定療養(患者自己負担としたとき)
▼長期収載品:200円のうち「選定療養分」を患者全額自己負担とし、残りの部分の3割が患者負担([200-選定療養分]×0.3)、7割([200-選定療養分]×0.7)が保険給付となる
(例えば、選定療養分を「50円」と仮定かつ固定すると)
・患者負担:「選定療養分50円」+「残りの3割負担([200-50円(選定療養分)]×0.3=45円)の合計95円
・保険者負担:残りの7割負担([200-50円(選定療養分)]×0.7=105円→現行の3割負担に比べて35円減
・後発品使用の場合:100円×0.3=30円(変更なし)
この結果、上記の例では、患者負担は現行よりも「35円増」、後発品使用の場合に比べて65円増となります。
こうした選定療養導入にあたっては、すでに報じたように次のような点を詰めていく必要があります。
(1)適用場面をどう考えるか(「医療上の必要性」があって長期収載品を選択すべき場合、「供給不安」があり長期収載品を選択しなければならない場合などにどう考えるか)
(2)対象となる長期収載品の範囲をどう考えるか(「後発品上市後の年数」や「後発品の置換率」などを踏まえた範囲設定を考えるべきではないか)
(3)負担の範囲(上記例では「50円」を仮置きしているが、「金額」「割合」などを考えるべきではないか、また「薬価を超える選定療養費の設定」「選定療養費の減額」などをどう考えるか)
(4)薬価上の措置をどう考えるか
まず(1)の論点について、「医療上の必要性があって長期収載品を医師が選択する場合」や「供給不安があって後発品を選択できない場合」などには、選定療養を導入して患者の負担を増すことは好ましくないのではないかと考えられます。
この点については「医療上の必要性への配慮は必要だが、『医学的妥当性を担保』できる仕組みが必要ではないか。たとえばレセプトに長期収載品を選択した具体的な医学的理由の記載を求めるべきである。、また後発品が出荷停止になっている場合などにも配慮が必要であるが、『全体で後発品の必要量が確保されている』場合には選定療養で対応すべき」(佐野雅宏委員:健康保険組合連合会副会長)、「医療上の必要性は医師が判断すべきだが、医師が自由に判断できるとするのではなく、疾患や薬剤に着目した一定の限定が必要ではないか。出荷調整がなされている場合には選定療養から除外すべきである」(中村さやか委員:上智大学経済学部教授)、「医師が長期収載品とするか、後発品とするかを判断できる仕組みとすべき。供給が不安定(出荷停止、出荷調整など)なケースは選定療養から除外すべき」(猪口雄二委員:日本医師会副会長)、「医療上の必要性について薬局で勘弁に判断できる仕組みとすべきで、『長期収載品選択が患者希望か、医師判断かを都度確認する』ようなことは実務に合わない。例えば処方箋に『変更不可』とチェックされる場合には医療上の必要アリとし、選定療養から除外するようなルールを設けるべき。また出荷制限があるケースも選定療養から除外すべきだが、出荷制限の状況は刻刻と変わる。後発品確保が難しく、薬剤師判断で長期収載品を選択した場合も選定療養から除外すべき」(渡邊大記委員:日本薬剤師会副会長)、「医療上の必要性について、医師が『この患者には後発品で良いが、この患者には長期収載品が適している』と個々に判断することもある。また後発品の供給状況は時間とともに変化するが、その点をどう考えるかも重要である」(池端幸彦委員:日本慢性期医療協会副会長、福井県医師会長)といった様々な考え方が示されました。
非常に難しい論点です。医療上の必要性について「患者ごとに判断する」となれば、同じ長期収載品でも「ある患者では重い負担(選定療養)、別の患者では軽い負担(保険給付)」となれば不公平が生じますが、「疾患、品目での限定」とすれば「後発品が適さない患者」への対応が困難となります。この点、すでに導入されている「大病院への紹介状なし受診の場合の特別負担」(同様に選定療養が導入されている)でも「医師の判断で特別負担を徴収しないことができる」配慮が参考になりそうです。なお、この場合でも「医療上の必要性をレセプトに記載する」との佐野委員の提案は一考に値するものと言えそうです。
また、供給不安定なケースの選定療養からの除外は必要と思われますが、供給状況が時間とともに変化する中で「除外品目をどう設定するのか」も難しい論点と言えます。
今後、詳細に詰めていく必要があります。
また(2)の論点は「後発品が登場してから日の浅い場合には、後発品流通・浸透が十分でなく、後発品を選択できないケースが多くなる」点を踏まえた論点です。今般の選定療養のベースには「後発品を選択できるにもかかわらず、あえて高額な長期収載品を希望する場合には、患者が差額の一定部分を負担すべき」という考え方があり、「後発品の選定が困難」な場合は対象から除外すべきだからです。
この点、佐野委員は「薬価のルールでは、後発品が登場してから5年経過した時点で長期収載品の価格を引き下げる仕組み(Z2)がある。また、後発品のシェア(置き換え率)が半数を超えていれば、患者が後発品を選択できる環境が整っていると考えられる。したがって、後発品が上市されてかた5年を経過したもの、あるいは後発品への置き換えが50%以上であるものを選定療養の対象としてはどうか」と提案しています。合理的で明確な提案内容と言え、今後の詳細検討に当たって参考にすべきでしょう。
また渡邊委員は上記(1)にも関連し「対象品目となる長期収載品であっても、供給不安や医療上の必要性を勘案する必要がある」と付言しています。こちらも当然の配慮と言えます。
選定療養とした場合、実際の患者負担をどの程度にすべきか
他方(3)は「選定療養の金額や割合をどのように設定すべきか」という論点です。編集部では上記例として「50円」をあげましたが、医薬品の価格(薬価)は区々であるため「薬価の一定割合を選定療養とする」との考えが妥当かもしれません。
例えば、長期収載品では「薬価の2割を選定療養とする」というルールを置くと、次のようになります。
▽200円の長期収載品:▼200円の2割(40円)を選定療養とする▼選定療養分を除く3割(200円×0.8×0.3=48円)を患者負担とする▼合計の患者負担は88円となり、保険給付の場合(200円×3割=60円)に比べて28円、100円の後発品の自己負担(100円×0.3)に比べて58円の負担増になる
▽300円の長期収載品:▼300円の2割(60円)を選定療養とする▼選定療養分を除く3割(300円×0.8×0.3=72円)を患者負担とする▼合計の患者負担は132円となり、保険給付の場合(300円×3割=90円)に比べて42円、150円の後発品の自己負担(150円×0.3)に比べて57円の負担増になる
この点、「患者負担増に配慮しながら、患者が後発品を選択しようとの意識が働く水準にすべき」(佐野委員)、「混乱を避けるために最初は低い額・割合に抑えるべき」(猪口委員)といった声が出ています。
なお、同じ成分でも複数の後発品があり価格は区々です(現在は価格帯が3区分、▼最高価格の50%以上となる後発品▼最高価格の30%以上50%未満となる後発品▼最高価格の30%未満となる後発品—)。このため、「どの後発品と比べて、差額の一部を選定療養とするのか」も考える必要が出てきます。こうした点について荻原保険医療企画調査室長は「詳細は中医協で議論するが、保険給付部分と選定療養部分のバランスをどう考えるかが重要である」とコメントするにとどめています。
関連して荻原保険医療企画調査室長は▼長期収載品の薬価を超えて、選定療養に係る負担を徴収することを認めるのか▼選定療養に係る負担を徴収しないことや、標準とする水準より低い額で徴収することを認めるのか—という論点も提示しました。
前者は、医療機関や薬局の判断で、選定療養部分(上記の編集部が仮置きした「50円」や「2割」など)に上乗せして「さらに30円、40円の負担を患者に求める」ことを認めるべきかという、後者は、選定療養部分(上記の編集部が仮置きした「50円」や「2割」など)を「医療機関や薬局の判断で安くする(30円、1割にする)、徴収しない(ゼロ円とする)」ことを認めるかという判断です。
この点については、「医療機関・薬局の判断で患者負担を重くする、軽くすることは理解できるが、一定のルールを設けるべき」(猪口委員)、「選定療養にした後の金額(患者負担額)を医療機関・薬局に委ねるのは、今回の制度導入の趣旨とズレないだろうか」(池端委員)といった、一定の制限を求めるべきとの考えが示されています。さらに議論・調整を進める必要がありそうです。
また(4)の薬価上の措置(後発品への置き換え率に応じて長期収載品の薬価を下げるZ2、G1/G2ルール)については、「さらなる対応を進めるべきか、選定療養という大きな見直しを行う中で一休みすべきか」が中医協で議論されますが、渡邊委員は「現場の混乱を避けるために、薬価上の対応は一休みすべき」旨の考えを示しています。
この「長期収載品の患者負担の在り方」は2024年度予算案とも深く関連するため、12月中旬までに結論を出す必要があります。医療保険部会と中医協で併行して、さらに議論が続けられます。
なお菊池馨実部会長代理(早稲田大学理事・法学学術院教授)は「今回の長期収載品に係る選定療養導入には一定の合理性があり理解できる」としたうえで、「困ったときの選定療養頼みになってはいけない。目的と手段をきちんと踏まえて、丁寧な議論が必要である」ともコメントしています。2002年の改正健保法等附則では「7割給付を維持する」旨が明示されているため、「保険給付を切り下げる、患者負担を引き上げる」ことが困難です。このため、今回の「長期収載品」でも、上述した「大病院の紹介状なし受診」でも、「保険給付から除外し、選定療養とする」という対応がとられています。しかし、この手法を安易に拡大すれば「7割給付を維持する」という規定が骨抜きになってしまいます。菊池部会長代理はこの点を危惧し、「選定療養について目的と手段の観点から一度整理を行うべき」と進言しています。
2024年度診療報酬改定の「基本方針」論議も続く
また11月29日の医療保険部会では、「2024年度診療報酬改定の基本方針」、「デフレ完全脱却のための総合経済対策(11月2日に閣議決定)、「2023年度補正予算案(11月29日成立)」も議題となりました。
診療報酬改定基本方針については、これまでの議論を踏まえた骨子案が示され、さらに意見調整を行ったうえで12月上旬に決定されます(社会保障審議会・医療部会でも並行して検討中、骨子案はこちらとこちら)。
総合経済対策では、▼医療・介護などにおいて、エネルギー価格や食料品価格の高騰に対する支援を継続する(地方創生臨時交付金の追加)▼医療・介護などの分野においては、2024年度報酬改定の対応を見据えつつ、人材確保に向けて賃上げに必要な財政措置を早急に講ずる▼プログラム医療機器について、二段階承認の考え方の明確化や診療報酬制度の在り方を検討を行った上で、2023年度中に所要の措置を講じ普及の加速を図る▼診療報酬算定システムの開発を始めとした診療報酬改定DXを推進する▼オンライン資格確認等システムなどの改修を行う▼医療分野のオンライン活用を推進する—などの方向が示されています(内閣府のサイトはこちら)。
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