「長期収載品と後発品との価格差の一部」を患者負担(選定療養)に、対象薬剤や自己負担水準などをどう考えるか―中医協総会(3)
2023.11.27.(月)
「長期収載医薬品の患者負担」の在り方見直し、例えば「長期収載品と後発医薬品との価格差の一部」を選定療養(患者負担)とすることを考えてはどうか—。
11月24日に開催された中央社会保険医療協議会・総会では、こうした議論も始まりました(同日のDPC制度改革に関する記事はこちら、医療経済実態調査結果に関する記事はこちら)。中医協と社会保障審議会・医療保険部会とで併行して具体案を詰めていきます(関連記事はこちら)。
なお、同日には緩和ケアについても議論が行われており、別稿で報じます。
長期収載品と後発品の「差額の一部」を選定療養として「患者自己負担」にする方向
すでにGem Medも報じているとおり、「長期収載品の患者負担見直し」論議が医療保険部会で進んでいます(関連記事はこちら)。
「画期的な新薬の開発が進む」→「薬剤費・医療費が高騰する」ことで、医療保険財政が厳しさを増していきます。その一方で、我が国では諸外国に比べて「長期収載医薬品から後発医薬品への転換・移行等が十分に進んでいない」状況にあり、例えば「長期収載品の患者負担を引き上げる」ことで「後発品への置き換え促進」「医療保険財政の健全化」を目指すべきではないかとの指摘があり、医療保険部会では、「後発品と長期収載品の価格差の一部を保険外(患者負担)とする仕組み」の議論を始めています。具体的には、次のような論点が提示され(関連記事はこちら)、11月24日の中医協総会でも同様の議論が始まっています。
(1)長期収載品の使用について選定療養として位置付ける(長期収載品と後発品との価格差の一部を、選定療養として保険外(=患者負担)とする仕組みとすることをどう考えるか
(2)薬剤の医療上の必要性についてどう考えるか(薬剤変更リスク等を踏まえた医師による処方についてどう考えるか)
(3)保険給付と選定療養の負担に係る範囲(長期収載品と後発品との価格差の一部を患者負担とするが、その「一部」をどの程度の範囲とするか)についてどのように考えるのか
(4)長期収載品に係る現行の薬価上の措置(後発品への置き換えが進むように薬価を下げていく仕組み)との関係についてどう考えるか
(5)後発医薬品の安定供給との関係についてどう考えるか
「後発品と長期収載品の価格差の一部を保険外(患者負担)とする仕組み」とは、例えば次のようなものです。
▽薬価200円の長期収載品(A)では、現在の患者負担(3割負担)は60円となる
▽薬価100円の後発品(A1)では、現在の患者負担(3割負担)は30円となる
▽長期収載品(A)と後発品(A1)との価格差(200円-100円=100円)の一部(例えば、価格の一定割合(50%、30%・・)や一部定額(50円、30円・・・)を選定療養として、患者負担とする
▽一部が50%とされた場合には、長期収載品を使用する患者の薬剤負担は「60円(200円の3割負担)+50円(100円×50%)=110円」となる
選定療養とは、例えば「病院の個室料」などが該当し、「患者の希望に合わせた特別の療養環境部分は、皆のお金(保険)を使わず、自分自身で負担する」という考えに基づくものです。同じ効能・効果で廉価な医薬品(後発品)を使うことができるにもかかわらず、あえて「高い長期収載品を使用したい」と希望する場合には、「高い部分」は患者自身が負担してほしいと考えることになります。
また、「患者が後発品に不安を抱えており、長期収載品を希望する」という患者が一定程度います。こうした患者に「長期収載品は贅沢医療であり、差額の一定部分を自分で負担してほしい」と安易に要請すれば、不安が拡大しかねません。このため「後発品が長期収載品と同等であること、後発品は安心・安全に使用可能であることを、患者・国民に向けてこれまで以上に丁寧に情報発信し、理解を得る」ことも重要です。
他方、長期収載品と後発品は同等とされているものの、「例えば『てんかん』治療において、長期収載品を日頃から使用していた患者について、突然、後発品に変更した場合には、効能効果が同じであっても患者の病態が悪化してしまう可能性があることが指摘されている」ことなどが指摘されている点や、「同じ成分であっても効能効果が若干異なる」ケースがある点等を踏まえて、(2)の「医療上の必要性」の論点が掲げられています。「全ての長期収載品」(1967年以降に薬価収載され、後発品の存在する先発品)を一律に「後発品と長期収載品の価格差の一部を保険外(患者負担)とする仕組み」の対象とするのではなく、丁寧に「対象品目を選別していく」こと方向で議論が進んでいます。
さらに「後発品と長期収載品の価格差の一部を保険外(患者負担)とする仕組み」を導入するとして、(3)の「一部をどの程度にすべきか」は、患者の経済的負担にも直結する非常に重要な論点です。患者負担が軽すぎれば「長期収載品から後発品への移行」は進まず、逆に負担が重すぎれば「患者の医療アクセス」に影響が出る可能性もあります(さらに、「後発品と長期収載品の価格差」のすべてを患者負担とすれば、いわゆる「参照価格制」となり、この仕組みの導入には大きな批判も出ている)。
また(4)は、今般提案されている「後発品と長期収載品の価格差の一部を保険外(患者負担)とする仕組み」と、薬価上の措置「後発品への置き換え率に応じた先発品(長期収載品)の価格を引き下げるルール(いわゆるZ2)、「後発品置換え時期」と「長期収載品の後発品価格への引下げ時期」に分け、それぞれの時期に応じて薬価の見直しを行うルール(いわゆるG1・G2)」との関係をどう考えるかという論点です。
さらに、この「後発品と長期収載品の価格差の一部を保険外(患者負担)とする仕組み」で、最もネックとなる「後発品の供給不安」が(5)の論点と言えます。例えば「導入時期を慎重に見極める」「供給不安が生じている成分は対象外とする」などの対応案が考えられそうです。
こうした考え方について、診療側の長島公之委員(日本医師会常任理事)は「処方権が医師にあることを再確認せよ。医師が医学的判断で長期収載品を使用する場合には、選定療養の対象とすべきではない」と強調。
また同じく診療側の森昌平委員(日本薬剤師会副会長)は、▼医学的観点から長期収載品を使用する場合には選定療養から除外するような配慮が必要である▼患者負担が過度に大きくならないような工夫も必要である▼長期収載品の使用推進に向けた薬価上の措置は今回は行うべきではない(選定療養の導入の影響は予想しにくい)▼後発品供給不安を踏まえて施行時期なども含めた慎重検討が必要である—と指摘しています。
他方、支払側の松本真人委員(健康保険組合連合会理事)は「長期収載品選択は『ブランド医薬品の選択』とも言え、選定療養の導入は検討に値する。医学的な配慮はもちろん重要で、長期収載品から後発品への切り替えが困難な薬剤は除外すべきで、最終的には医師の判断に委ねるべきだが、『医師の判断の妥当性』を担保できるような仕組みが必要であろう。患者が『後発品に切り替えよう』と考える程度の自己負担とする必要があるが、過度に大きくなることも好ましくない。選定療養の導入とあわせて、薬価上の長期収載品使用促進策(G1・G2の厳格化など)もセットで進めるべきである」との考えを示しました。他の診療側委員も「選定療養の導入」に概ね賛同しています。
このように、「長期収載品をあえて使用する場合に、後発品との差額の一部を患者自己負担とする」仕組みの導入方向そのものには、診療側・支払側双方が理解を示しています。
ただし「長期収載品から後発品への切り替えが困難な場合をどのように考えるか」(範囲、判断基準など)、「患者自己負担額をどの程度にすべきか」、「薬価上の対応をどう考えるか」、「施行時期などをどう考えるか」については、さらに詳細な議論・検討が必要な状況です。
上述のように医療保険部会でも議論が行われており、中医協と医療保険部会とで併行して議論を進めることになります(基本的な枠組みを医療保険部会で、詳細を中医協で固めるイメージ)。本年末(2023年末)までに大枠が固められます。
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