データ数が少ない・適切なデータ提出できない病院はDPCから退出へ、入院期間Iでコスト回収できる新点数ルールを検討―中医協総会(2)
2023.11.24.(金)
DPC制度の機能評価係数IIについて、例えば保険診療係数の廃止(→DPC要件に移行)、効率性係数の計算方法見直し、地域医療係数の新項目追加などの見直しを行ってはどうか—。
「データ数が少ない」「適切なデータを提出できない」病院は、DPCに相応しくない病院として「退出」を促してはどうか—。
DPCの入院期間Iで投下コストを回収できずに「不要な入院期間延伸」を招く事態となっている点を改善するために、「入院初期の医療資源投入量が多い診断群分類に対応するB方式の拡大」や「入院期間Iで投下コスト回収を可能とする新たな点数設定方式」を検討してはどうか—。
11月24日に開催された中央社会保険医療協議会・総会で、こうした議論も行われました(同日の医療経済実態調査結果に関する記事はこちら)。支払側委員は賛意を示していますが、診療側委員は「より具体的な内容や医療現場への影響がどうなるかを見て判断する」と態度を保留しており、今後の議論・調整に注目が集まります。
なお、同日には長期収載医薬品や緩和ケアについても議論が怒阿われており、別稿で報じます。
目次
DPCの機能評価係数IIを大幅見直しすべきか、診療側は「具体案見て判断」と態度保留
DPC制度改革に関しては、入院・外来医療等の調査評価分科会(以下、単に「分科会」とする)で専門的・技術的な検討が行われました(関連記事はこちら)。この検討結果を踏まえて厚生労働省保険局医療課の眞鍋馨課長は次のような点を検討してほしいと中医協に要請しています。
(1)医療機関別係数
(2)DPC対象病院の要件
(3)算定ルールについて
(4)退院患者調査(DPCデータ)
見直し内容は非常に多岐にわたりますが、支払側の松本真人委員(健康保険組合連合会理事)は「分科会における専門的・技術的な検討結果を尊重すべき」と概ね賛同。一方、診療側委員の長島公之委員(日本医師会常任理事)や太田圭洋委員(日本医療法人協会副会長)は「非常に大きな見直しで、急性期病院への影響も大きいと考えられる。より具体的な内容とその影響を見なければ判断できない」と態度を保留しています。
まず(1)の医療機関別係数については、分科会意見をもとに次のような大きな見直しを行ってはどうかとの考えが示されています。
【保険診療係数】(提出データの質や医療の透明化、保険診療の質的向上など「医療の質的な向上を目指す取り組み」を評価する)
▽現在、「部位不明・詳細不明コード」の使用割合が基準値(10%未満であること)を上回る場合などにペナルティ(減算)が課されているが、ペナルティ対象病院は非常に少ない点を考慮し、「評価を廃止」してはどうか(「適切なデータ提出」をDPCの要件に組み込むイメージ)
【効率性係数】(在院日数短縮の努力を評価する)
▽診療対象とする診断群分類の種類が少なく、症例構成が偏っている病院では、「在院日数短縮という本来の趣旨」にそぐわない評価となる場合がある点を踏まえ、▼評価手法を見直す(たとえば「対象疾患がいない診断群分類を計算対象から除外する」「補正後の各DPC病院の平均在院日数と全国の平均在院日数との相対値をベースとする」など、詳細はこちら)▼医療機関群ごとの評価とする—こととしてはどうか
【複雑性係数】(1入院当たり医療資源投入の観点から見た患者構成を評価するもの。誤解を恐れずに言えば「DPC点数の高い傷病」患者を積極的に受け入れる病院が高く評価される)
▽データ数が少ない病院で、「他の病院に比べて複雑性が高くなる」といった不公平が生じているが、後述する「データ数の要件化」(つまりデータ数が少ない病院はDPC制度から退出する)により、この不公平は解消すると考えられるために「現行どおり」とする(分科会でも「現行の評価手法は入院医療の労力の評価という観点では妥当」「評価の対象とする医療機関の基準自体を検討すべき」との指摘があった)
【救急医療係数】(救急搬送患者では、入院後48時間に医療資源投入量(診断のための検査、救命のための処置など)が多くなる点を踏まえた評価)
▽「救急患者の『入院初期に多くの検査を実施して傷病名等を確定する、入院初期の多くの処置等を行い救命する』という特性から、『実際の医療資源投入量>DPC点数』という事態が生じる点を、係数でカバー・補填する」という趣旨が明確になるよう、名称変更・評価項目としての位置づけを再整理する
【地域医療係数】(医療計画の5疾病・5事業への取り組み・貢献状況、地域住民への医療提供状況などを評価)
▽体制評価指数について、「現状の実績分布」(大学病院本院群(旧I群)・特定病院群(旧II群)ではほとんどが評価上限値の5割に達している)や「医療計画の見直し」(新興感染症に関する都道府県と医療機関との協定締結など、関連記事はこちらとこちら)を踏まえ、評価手法や評価内容を見直す
▽体制評価係数について、新たな評価項目を検討する
▼脳死下臓器提供の実施
▼多職種協働による医療提供(急性期入院医療においても、リハビリ・栄養管理・口腔管理の一体実施など多職種協働による取り組みの重要性が増している)
▼医師少数地域への医師派遣機能
▼外国人患者の受け入れ体制
▼医療の質向上に向けた取り組み(厚労省補助事業「医療の質向上のための体制整備事業」における9指標に係るデータの提出・提出データに基づく指標の算出・公表の評価など)
こうした見直し案に対し、支払側の松本真人委員(健康保険組合連合会理事)は「分科会における専門的・技術的な検討結果を尊重すべき」として概ね賛同。具体的には▼保険診療係数については廃止し、「適切なデータ提出」はDPC参加要件と位置付けるべき▼効率性係数について、患者構成の違い生じる不公平について適切に是正すべき▼複雑性係数について、DPC病院の要件と合わせて考えるべき▼地域医療係数(体制評価指数)について、医療計画も踏まえて「都道府県と医療機関との協定」内容とリンクさせるべき—などと指摘しました。
また地域医療係数(体制評価指数)の新項目案については、分科会での専門的・技術的検討でも意見が完全に一致しなかった点を踏まえて「慎重に検討すべき」としたうえで、▼地域医療提供体制の確保に鑑みて「医師少数区域への医師派遣」や「医療の質向上に向けた取り組み」は導入の余地がある▼「多職種共同による医療提供」や「外国人患者の受け入れ」は重要ではあるが、DPC制度の中で評価すべきか疑問を感じる▼「脳死下臓器提供の実施」は、社会的なテーマでもあり、DPC制度の中でどのような対応が可能であるのか、具体案を見て判断したい—との考えを示しています。
一方、診療側委員は、上述のように「具体案や試算結果を踏まえて判断する」としたうえで、「地域医療係数(体制評価指数)の新評価項目案である『医師少数区域への医師派遣』では、どの程度の員数派遣をしているのか、『真に医師派遣が必要な地域』への派遣が行われているのかなどを適切に評価できる仕組みとする必要がある。また分科会では『大学病院』を念頭に置いているようだが、例えばへき地医療拠点病院なども評価対象に加えることなどを検討すべきではないか」などの指摘が長島委員から出されています。
データ数が少ない病院、適切なデータ提出が行えない病院は「DPCからの退出」を求める
また(2)は、2018年度以降、継続論点となっている「DPC参加が相応しくない病院」の退出ルール(DPC参加要件の見直し)に関する論点です。
分科会では、データ数(一定の対象期間にDPC病床を退院した患者の全データ数)が少ない病院では「診療密度が低い」一方で、「複雑性係数の値が高い」(つまり経営的には良好になる)という不合理があることが指摘され、こうした病院のDPC参加は▼急性期医療の標準化という観点からもDPC制度に馴染まない▼診療密度(相対値)が低い点は、全DPC病院の包括評価に影響を及ぼしてしまう—という問題点があります。
また、DPC制度では点数や係数は基本的に相対評価となるため、データを適切に提出しない病院があれば、制度の根幹を揺るがしてしまいます(データをもとに係数や点数を設定した後に、「すみませんデータ提出が遅れました、今から提出します」「すみませんデータが間違っていました、再提出します」という病院があれば、係数や点数の計算をし直さなければならなくなる)。
そこで眞鍋医療課長は、DPC病院の要件について次の2つの見直しを行ってはどうかと提案しています。
(a)DPC/PDPSの安定的な運用を図りつつ適切な包括評価を行う観点から、「データ数」「適切なDP データの作成」に係る基準を新設する
(b)データ数が一定の基準に満たない医療機関について、診療密度(相対値)が低い現状を踏まえ、まずは基礎係数における評価を区別し、その後、要件判定の対象としていく
まず(a)は要件を厳格化し「DPC制度に馴染まない病院について退出を促す」ものと言えるでしょう。支払側の松本委員は「DPC制度では公平性が重要である。分科会論議などを踏まえれば『1か月のデータ数90』を基準に要件設定を行うべき」と眞鍋医療課長提案に賛成。
一方、診療側の長島委員は、▼データ数の基準設定でどの程度のDPC病院が影響を受けるのかが明らかではない▼データ数と診療密度との関係は連続しており、『1か月のデータ数が●以上』などの特定ができるのか疑問である—とし、「退出ルールありきの議論は乱暴すぎる。具体的な内容が不明確な中で、医療課長提案に賛同することはできない」とやはり態度を保留しました。
また(b)は「DPC制度では、ある年度の係数等は『前々年の10月から前年の9月のデータ』をもとに計算する」というルールに照らし、要件厳格化の現実的な対応(導入スケジュール)を示したものと言えます。
例えば、2024年度の次期診療報酬改定で新退出ルールを導入した場合、そのルールに沿った最初のデータは「2024年10月から2025年9月」に出そろい、このデータは「2026年度に適用」されます。
このため「2024年度改定で新要件(実績データに基づく要件)新設した場合には、要件判定は2026年度から適用する」ことになります。
さらに、データ数が少ない病院のデータ(いわばDPC制度に相応しくない病院のデータ)も用いて点数や係数を設定すれば、他の病院が不利益を被る可能性が高い(例えば「医療資源投入量が不当に少ない」病院のデータが混じれば、DPC点数が不当に少なく計算され、重症の医療資源投入量が多くなるDPC病院で適切な収益を得られなくなる)ために、2024年度から次のような対応を行う考えが眞鍋医療から示されています。
▽診断群分類ごとの包括点数(DPC点数)は、「データ数が少ない病院のデータ」は除外して計算する
▽基礎係数(包括点数(DPC点数)に対する実績点数の比率を反映して設定する、実績点数がより高ければ(=医療資源投入量が多い)高い係数を設定する)については、「データ数が少ない病院のデータ」の評価を区別する
▽機能評価係数Ⅱについては、現行どおり「3つの医療機関群」ごとの評価とする
この提案に対しても、支払側の松本委員は「経過的な措置(2026年度からの適用)はやむを得ないが、DPCに相応しくない病院について確実な退出につなげられ、複雑性係数の不公平(上述)や、他のDPC病院への迷惑などを是正できる」と賛同しましたが、診療側は態度を留保しています。
不要な入院期間延伸を避けるため、「入院期間Iでコスト改修」できる新点数ルールを検討
他方(3)では、▼点数設定方式Aでは、入院期間Iについて入院期間IIに17%上乗せした点数が設定されるが、「入院期間I÷1入院比率」が1.17を超える(=入院期間Iにおいて医療資源投入量が設定点数を上回る)診断群部類が805存在する(つまり入院期間Iでは投下医療資源を回収できず、「利益を出すための入院期間の延伸」が生じやすい環境となっている)▼診療内容の標準化が進んでいる診断群分類が増えてきている—という問題点・現状に対応するために、次の2つの見直し案が提示されました。
(i)「入院期間Iで投下医療資源を回収できない」診断群分類については「点数設定方式B」(入院初期の医療資源投入量が多い場合に対応するルール)を適用する
(ii)「診療内容の標準化が進んでいる診断群分類」に対しては、入院期間Iで投下医療資源を回収できるような「新たな点数設定方式」を設定する
このうち(ii)は「不要な入院期間の延伸(投下医療資源を回収するための入院期間延伸)を避けられる」ことにつながると期待されますが、すでにある「入院初日にほとんどの点数を支払ってしまう点数設定方式Dで良いのではないか」との疑問もわきます。
この点については分科会での「一定の入院期間が見込まれる分類について、入院初日に高い評価とするD方式は馴染まないのではないか」との指摘が考慮されたと考えられます。「日々、処置、投薬などの医療資源を投入する」という医療実態に、点数側も合わせる」との考え方と言えそうです。
支払側の松本委員は「医療現場への影響にも注意して、新点数設定方式などを詰めてほしい」とコメントし、(i)(ii)両案に賛同。一方、診療側の長島委員は「過度の早期退院促進は粗診粗療にもつながりかねず、慎重に検討すべき。(ii)の新点数設定方式とD方式との違いを明確にするとともに、どういう診断群分類が該当するのかなどを示してほしい」と述べるにとどめ、やはり態度を保留しています。
このほか、データ提出の実態(DPC病院だけでなく、回復期・慢性期病棟にもデータ提出義務が広がっていることや、調査内容などを再整理すべきなどの要請があることなど)を踏まえて、次のような見直しを図ってはどうかと提案しています。この提案内容には異論・反論は出ていません。
▽DPCが既に入院医療に係る診療報酬制度として定着している現状、DPCデータが広く入院医療に係る診療報酬制度の見直しに活用されている実情を踏まえ、調査の「名称」「目的」「結果報告」のあり方を再整理する
▽一部医療機関で様式1(いわば簡易カルテ)における「不明」データの入力の割合が高いといった現状を踏まえ、「臨床指標等のデータの入力状況」を公開データにおいてモニタリングしていく
上述のように、DPCに関する大きな見直し案が提示され、支払側は概ね賛成しているものの、診療側は「具体案や影響に関する試算結果を見てから判断する」と態度を保留しています。今後、どのような形で改革の具体案や試算結果が示されるのか、注目が集まります。
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