医薬品は6.0%、材料は2.5%の価格乖離、「薬価の実勢価格改定」全体で1200億円程度の国費縮減可能では―中医協総会(1)
2023.12.1.(金)
2023年における薬価と市場実勢価格との平均乖離率は全体では約6.0%、同じく材料価格と市場実勢価格との平均乖離率は約2.5%であった―。
このような結果が、12月1日に開催された中央社会保険医療協議会・総会に報告されました。この数字をベースに薬価・材料価格の引き下げ(市場実勢価格を踏まえた薬価・材料価格改定)が行われることになります。薬剤費を12兆円・医療費国庫負担割合を25%と仮定すると、薬価引き下げ全体で「国庫負担を1200億円程度縮減できるのではないか」と推計でき、今後の予算案編成過程で固まる「改定率」を考えるうえでの重要な基礎数値となります。
なお同日の中医協総会では「医療DX」「小児・周産期」「リハビリ・栄養管理・口腔管理の一体的推進」「長期収載品の患者負担」「医療経済実態調査の評価」といった議論も行われており、これらは別稿で報じます。
市場実勢価格と償還価格(薬価、材料価格)との差を改定で埋める
医療機関等では、医療用医薬品や特定保険医療材料を卸業者から購入し【A価格】、それを用いた診療を行ったうえで審査支払機関(社会保険診療報酬支払基金や国民健康保険団体連合会)に費用請求(毎月の医療費請求・レセプト請求)を行います【B価格】。
医療用医薬品と特定保険医療材料については、保険償還価格(薬価、材料価格)が設定されており、【B】の医療機関に支払われる費用はそれに沿ったものとなります(同じ医薬品等であれば、どの医療機関で使用されても同じ価格で償還される)。
一方、【A】の医療機関等が卸業者から医薬品や医療材料を購入する価格(市場実勢価格)は、自由取引であるため「区々」となっています(医療機関等や卸業者ごとに価格が異なる)。
したがって医薬品などを低価格で卸から購入すれば、その差(保険償還価格【B】と市場実勢価格【A】の差)が医療機関等の利益になります(いわゆる薬価差益等)。しかし、保険診療は国民の納めた税金や保険料などで賄われており、医療機関等に支払われる薬剤費・材料費も最終的には国民が負担しています。このため、国民・患者の負担を抑え、医療保険財政を健全に保つために「薬価等を市場実勢価格を踏まえて引き下げていく」必要があるのです。これが薬価改定・材料価格改定の重要な役割の1つとなっています。
薬価等の改定に当たっては、市場実勢価格(医薬品や医療材料を医療機関がいくらで購入しているのか、裏を返せば卸業者がいくらで販売しているのか)を正確に把握する必要があり、厚生労働省は改定前年に大規模な調査(薬価本調査、材料価格本調査)を行っています。
今般、調査結果の速報値が中医協総会に示され、医薬品については、市場実勢価格と薬価との乖離率が平均で約6.0%であることが分かりました。直近の乖離率を見ると、2018年度調査では「約7.2%」、19年度調査では「8.0%」、20年度調査では「8.0%」(ただし全数調査ではない)、21年度調査では「7.6%」、22年度調査では「7.0%」(全数調査ではない)でしたので、「価格の乖離(薬価と市場実勢価格との差)は縮小している」と見ることができます。この点について支払側の松本真人委員(健康保険組例連合会理事)は「製薬メーカーの厳しい状況が伺えるが、一方で、そうした中でも薬価差が存在している(値引きをして販売している)状況がも分かる」とコメントしています。今後も中長期的に乖離率を見ていく必要があります。
投与形態別に見ると、▼内用薬:7.0%(2019年度調査では9.2%、20年度調査では9.2%、21年度調査では8.8%、22年度調査では8.2%)▼注射薬:4.4%(同6.2%、同5.9%、同5.6%、同5.6%、同5.0%)▼外用薬:7.2%(同7.7%、同7.9%、同7.9%、同7.9%、同8.0%)―となっています。歯科用薬剤についてはマイナス5.6%(同マイナス4.6%、同マイナス0.3%、同マイナス2.4%、同4.3%)となっており、前回調査に続き「薬価よりも高い価格で歯科医療機関が医薬品を購入している」状況です(歯科用薬剤(特に麻酔)を使用すると、当該医療機関は赤字になる形)。
また薬効群別に見ると、▼血圧降下剤:12.3%(2022年:11.3%、21年:11.9%、20年:12.1%、19年:13.4%)▼消化性潰瘍用剤:10.6%(2022年:11.3%、21年:11.2%、20年:11.7%、19年:12.3%▼眼科用剤:8.3%(2022年:8.7%、21年:8.5%、20年:8.4%、19年:8.0%)▼糖尿病用剤:7.9%(2022年:8.4%、21年:9.0%、20年:9.5%、19年:9.9%)▼鎮痛、鎮痒、収斂、消炎剤:7.9%(2022年:9.1%、21年:8.7%、20年:8.6%、19年:8.9%)―などで乖離率が大きくなっています。
また、後発医薬品の使用割合(数量ベース)は約80.2%で、2022年度調査(79.0%)に比べて1.2ポイント上昇しました。政府の掲げる「2023年度末までに全ての都道府県で80%以上とする」との目標が達成できているのか、今後の状況を注視していく必要があります。
一方、医療材料については、平均乖離率が約2.5%となりました。2019年度調査では5.8%、21年度調査では「3.8%」でしたので、こちらも「乖離幅が縮小している」ことが分かります。
薬価引き下げにより、全体で1150億円程度の国庫負担縮減が可能か・・・
この調査結果を踏まえて、薬価と医療材料は来年(2024年)4月から引き下げられることになります(もちろん、薬価算定ルールの見直しを踏まえた引き下げ・引き上げも行われるが、ここでは「乖離率を踏まえた薬価等改定」のみを考える)。
現行ルールでは、「乖離分をすべて引き下げる」ことはせず、流通経路や取り引き量の違い、さらに廃棄分を考慮した調整幅(例えば山間地や離島では配送コストが高くなるため、取引価格も高くなる。この点を加味せずに薬価を引き下げれば、卸業者の経営が成り立たなくなる恐れがある)を残した上で引き下げを行います。薬価については調整幅が現在2%であり、全体としては「乖離率6.0%-調整幅2.0%」=4.0%の引き下げが行われる見込みです(もちろん個別品目で状況は異なる)。
これが医療保険財政にどのような影響を及ぼすのかを考えてみます。薬剤師を「およそ12兆円」と仮置き(医療費を48兆円(国民医療費の98%を占める概算医療費が2022年度には46兆円から一定の仮定を置いて編集部で推計)、その4分の1が薬剤費であると仮定する)すると、「12兆円×4.0%の引き下げ」によって、医療費・薬剤費は4800億円減少することになります。薬剤費における国庫負担割合を4分の1(25%)と仮置きすれば、2024年度には1200億円程度の国費縮減が可能と考えられます。
一方、材料価格については一定幅が4%であるため、「乖離率%-調整幅」を計算すると「マイナス」となってしまいます。個別機能区分によってさまざまですが、薬価と同じように考えると「材料分については、全体としては医療費・国費の縮減にはつながらない」と考えられそうです。
もちろん、薬価制度については新薬創出・適応外薬解消等促進加算や市場拡大再算定、後発品の安定供給、長期収載品の患者負担など、さまざまな見直しが2024年度改定に合わせて行われる予定です(材料価格についても同じく見直しが行われる)。こうした施策が国費縮減額に大きく影響してくる点にも留意が必要です。
これまでの診療報酬改定では、この薬価引き下げ財源の一部を診療報酬本体(医科・歯科・調剤の各点数)の引き上げ財源に充てています。もっとも「薬価引き下げ分はすべて国民に還元すべき」との指摘が財務省などから強くなされており、2024年度改定で、どこまでが診療報酬本体に充てられるのか、今後の予算案編成の動きを注視する必要があります。
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