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薬剤7.6%、材料3.8%の価格乖離、「薬価の実勢価格改定」トータルで1400億円程度の国費縮減可能では―中医協総会(1)

2021.12.3.(金)

2021年における薬価と市場実勢価格との平均乖離率は約7.6%、同じく材料価格と市場実勢価格との平均乖離率は約3.8%であった―。

このような結果が、12月3日に開催された中央社会保険医療協議会・総会に報告されました。この数字をもとに薬価・材料価格の引き下げが行われることになります。薬剤費を10兆円・医療費国庫負担割合を25%と仮置きすると、薬価引き下げ全体で「国庫負担を1400億円程度縮減できるのであないか」と推計できます。

市場実勢価格と償還価格との差を薬価等の改定で埋める

医療機関等では、医療用医薬品や特定保険医療材料を卸業者から購入し【A】、それを用いた診療を行ったうえで審査支払機関(社会保険診療報酬支払基金や国民健康保険団体連合会)に費用請求(毎月の医療費請求・レセプト請求)を行います【B】。

医療用医薬品と特定保険医療材料については、保険償還価格(薬価、材料価格)が設定されており、【B】の医療機関に支払われる費用はそれに沿ったものとなります(同じ医薬品等であれば、どの医療機関で使用されても同じ価格で償還される)。

一方、【A】の医療機関等が卸業者から医薬品や医療材料を購入する価格(市場実勢価格)は、自由取引であるため「区々」となっています(医療機関等や卸業者ごとに価格が異なる)。

したがって医薬品などを低価格で卸から購入すれば、その差(保険償還価格【B】と市場実勢価格【A】の差)が医療機関等の利益になります(いわゆる薬価差益等)。しただし、保険診療は国民の納めた税金や保険料などで賄われており、医療機関等に支払われる薬剤費・材料費も最終的には国民が負担しています。このため「薬価等を、市場実勢価格を踏まえて引き下げていく」必要があるのです。これが、2年に一度(今後は毎年)行われる薬価改定・材料価格改定の重要な役割の1つとなっています。

薬価等の改定に当たっては、市場実勢価格(医薬品や医療材料を医療機関がいくらで購入しているのか、裏を返せば卸業者がいくらで販売しているのか)を正確に把握する必要があり、厚生労働省は改定前年に大規模な調査(薬価本調査、材料価格本調査)を行っています。

今般、調査結果の速報値が中医協総会に示され、医薬品については、市場実勢価格と薬価との乖離率が平均で約7.6%であることが分かりました。消費税対応改定前に実施された2018年度調査では「約7.2%」、2020年度改定に向けた19年度調査では「8.0%」、21年度の中間年調査・毎年度改定に向けた20年度調査では「8.0%」(ただし20年度調査は全数調査ではない)の乖離率でしたので、「価格の乖離(薬価と市場実勢価格との差)はやや縮小している」と見ることができるかもしれませんが、「大きく変化していない」と見ることもできそうです。中長期的に見ていく必要があります。

投与形態別に見ると、▼内用薬:8.8%(2019年度調査では9.2%、20年度調査では9.2%)▼注射薬:5.6%(同6.2%、同5.9%)▼外用薬:7.9%(同7.7%、同7.9%)―なっています。歯科用薬剤についてはマイナス2.4%(同マイナス4.6%、同マイナス0.3%)となっており、前回調査に続き「薬価よりも高い価格で歯科医療機関が医薬品を購入している」状況です(歯科用薬剤(特に麻酔)を使用すると、当該医療機関は赤字になる形)。

また薬効群別に見ると、▼高脂血症用剤:12.5%(同13.9%、同13.8%)▼その他のアレルギー薬:12.2%(同13.6%、同13.6%)▼血圧降下剤:11.9%(同13.4%、同12.1%)▼その他の中枢神経用薬:11.4%(同8.6%、同10.4%)▼消化性潰瘍剤:11.2%(同12.3%、同11.7%)▼精神神経用剤:10.1%(同10.0%、同9.7%)―などで乖離率が大きくなっています。

また、後発医薬品の使用割合(数量ベース)は約79.0%で、2019年度調査(76.7%)に比べて2.3ポイント上昇しました。しかし、一部後発品メーカーの不祥事に端を発する「供給不安」などにもあり、政府の掲げる「2023年度末までに全ての都道府県で80%以上とする」との目標が達成可能なのか、今後の状況を注視していく必要があります。

なお、国立病院機構(九州地区の病院)と卸業者6社(アトル・アルフレッサ福岡第1支店・翔薬・九州東邦・アステム・富田薬品)との間で価格調整(談合)が行われていた可能性があるとの疑惑が生じており(現在、公正取引委員会が調査中)、これら取り引き分は念のため調査データから除外されています。

●薬価本調査結果の概要(中医協資料)

2021年度薬価本調査結果(1、全体)(中医協総会(1)1 211203)

2021年度薬価本調査結果(2、内訳)(中医協総会(1)2 211203)



一方、医療材料については、平均乖離率が約3.8%となりました。2019年度調査では5.8%でしたので、こちらも「乖離幅が縮小している」ように見えます。

●材料価格本調査結果の概要(中医協資料)

2021年度材料価格調査結果(中医協総会(1)3 211203)

薬価引き下げ全体で1400億円程度の国庫負担縮減が可能か

この調査結果を踏まえて、薬価と医療材料は来年(2022年)4月から引き下げられることになります(もちろん、薬価算定ルールの見直しを踏まえた引き下げ・引き上げも行われるが、ここでは考慮しない)。

現行ルールでは、「乖離分をすべて引き下げる」のではなく、一定の調整幅(流通経路や取り引き量の違い、さらに廃棄分を考慮する)を残した上で、引き下げを行います。薬価については調整幅が2%とされており、全体としては「乖離率7.6%-調整幅2.0%」=5.6%の引き下げが行われる見込みです(もちろん個別品目で状況は全く異なる)。

これが医療保険財政にどのような影響を及ぼすのかを考えてみます。剤費を「およそ10兆円」と仮置き(医療費を40兆円とし、その4分の1が薬剤費であると仮定する)すると、「10兆円×5.6%の引き下げ」によって、薬剤費は5600億円減少することになります。薬剤費における国庫負担割合を4分の1(25%)と仮置きすれば、2022年度には1400億円程度の国費縮減が可能と考えられます。

一方、材料価格については一定幅が4%であるため、「乖離率%-調整幅」を計算すると「マイナス」となってしまいます。個別機能区分によってさまざまですが、薬価と同じように考えると「材料分については全体として医療費・国費の縮減にはつながらない」可能性もありそうです。

ただし、薬価制度については、新薬創出・適応外薬解消等促進加算をはじめとするさまざまな見直しが2022年度改定行われる予定で、材料価格についても同じく見直しが行われることから、国費縮減額は改定内容にも大きく左右される点に留意が必要です。

これまでの診療報酬改定では、この薬価引き下げ財源を診療報酬本体(医科・歯科・調剤の各点数)の引き上げ財源に充てています。昨今の診療報酬改定では「薬価引き下げ分は国民に還元すべき」との指摘が財務省等から強くなされており、2020年度改定で、どこまでが診療報酬本体に充てられるのか、今後の予算編成の動きを注視する必要があります。





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