ICUの看護必要度においてB項目は妥当か、ICU算定日数を診療実態を踏まえて延長してはどうか―入院医療分科会(2)
2021.8.31.(火)
特定集中治療室管理料における「重症度、医療・看護必要度」と「生理学的スコア(SOFAスコア)」との関係を見ると、必ずしも一致しているわけではない(看護必要度は満たすがSOFAスコアは低い、逆にSOFAスコアは高いが看護必要度は満たさない)。例えば「重篤な状態でSOFAスコアが高いにもかかわらず、B項目を満たさず、看護必要度を満たさない」ケースがあるかもしれない。B項目を廃止して看護必要度IIに一本化することを検討してはどうか―。
ICU等の算定日数上限は14日だが、ECMO(体外式心肺補助)装着患者や臓器移植後患者では長期間のICU管理が必要であり、診療実態を踏まえて「算定日数上限」の見直し(延長)を検討してはどうか―。
医療の質改善のために、日本集中治療医学会の運営するJIPADデータベースへの参画が期待されるが、データ入力負担が重いとの声もある。医療の質改善に向けて、JIPAD参加を診療報酬で評価してはどうか―。
8月27日に開催された診療報酬調査専門組織「入院医療等の調査・評価分科会」(入院医療分科会)で、こういった議論も行われています。
目次
ICU等では、B項目を廃止し、「看護必要度II」に統一してはどうか
2022年度の次期診療報酬改定に向けた議論が急ピッチで進んでいます。これまでに、次のような議論が行われています。
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8月27日の入院医療分科会では、▼重症度、医療・看護必要度▼リハビリテーション実績指数やFIM▼医療区分・ADL区分▼DPCの外れ値病院▼特定集中治療室管理料など▼救急医療管理加算▼医療資源の乏しい地域における特例―など多岐にわたるテーマを議題としました。本稿では、【特定集中治療室管理料】などに焦点を合わせます(【救急医療管理加算】に関する記事はこちら)。
【特定集中治療室管理料】については、(1)重症度、医療・看護必要度(以下、看護必要度)(2)在室日数―の2点が議題となりました。このほかにも▼専門性の高い看護師の配置▼早期の栄養介入▼早期のリハビリ開始―などの論点は別に議論される見込みです。
まず(1)の看護必要度については、従前より「ICU入室が必要となる重篤な患者」を抽出できる内容となっているのか、が問題視されています(関連記事はこちらとこちら)。
このため、患者の▼呼吸機能▼凝固機能▼肝機能▼循環機能▼中枢神経機能▼腎機能―の6機能について、ゼロ点から4点の5段階で「重症度」を評価する「生理学的スコア」(SOFAスコア)の記載が求められるようになっています(2018年度改定で【特定集中治療室管理料1・2】に導入され、2020年度改定で【特定集中治療室管理料3・4】にも拡大)。SOFAスコアの合計点数(total maximum SOFA score:TMS)が高いほど「重症である」と判断され(最低ゼロ点から最高24点)、患者の生命予後と一定の相関があるとの研究結果があります。
この点、「SOFAスコア・TMS」と「看護必要度」との関係を見ると、たとえば次のような状況が明らかとなりました。
▽看護必要度を満たす患者では、そうでない患者に比べて「TMSが5点以上」の割合が高い(より重症であると言える)
▽TMSが高い患者の中にも、必要度を満たさない患者がいる
▽特定集中治療室管理料3において「TMSがゼロ点」の患者が多い
今後、詳しく分析していくことになりますが、牧野憲一委員(旭川赤十字病院院長、日本病院会常任理事)は「例えば大手術後の集中治療を行うサージカルICU(SICU)と一般のICUとでは、患者像が異なり、そうした点が影響しているのではないか」と推測。
また、SOFA・TMSでは「重症」だが、看護必要度を満たさない患者については「ADLを見るB項目に当てはまらない患者が該当するのではないか」と推測したうえで、「少なくともICU等については、看護必要度からB項目を除外し、DPCのEF統合ファイルを用いる看護必要度IIでの評価としてはどうか。看護スタッフの負担軽減にもつながる」と提案。林田賢史委員(産業医科大学病院医療情報部部長)も牧野委員の提案に賛同しています。
看護必要度IIは、DPCのEF統合ファイルを用いて患者のA項目・C項目を評価する手法で「より客観的な評価が可能になる」「看護スタッフの負担軽減になる」といった効果があります。すでに許可病床数400床以上の医療機関における一般病棟(急性期一般1-6、7対1特定機能)では「看護必要度IIによる評価の義務付け」が行われており、2022年度改定でも拡大(規模、対象病棟・病室)が見込まれます。
また、入院料別に「看護必要度を満たす患者割合」を見ると、▼救命救急入院料と特定集中治療室管理料では大きく異なる(とりわけ救命救急1・3では「看護必要度をいたす患者」割合が低い)▼特定集中治療室管理料でも、1・2と3・4で状況が異なる―ことも確認されました。
牧野委員は「特定集中治療室管理料3・4は、HCU(ハイケアユニット)に近く、対応可能な患者像も来なる。特定集中治療室管理料1・2と3・4を同じ看護必要度で評価することは、患者像とマッチしていない可能性がある」と指摘しています。2020年度の前回改定論議においても、牧野委員から同様の指摘がなされており、今後の検討・議論に注目が集まります。
特定集中治療室管理料などの算定日数上限、診療実態に合わせて延長してはどうか
(2)の在室日数については、例えば特定集中治療室管理料や救命救急入院料では「原則として14日」、ただし「広範囲熱傷で特定集中治療が必要な患者は60日」という上限が定められています(特定入院料の算定可能日数)。
しかし、実際のICU滞在日数をみると、患者の状態や処置内容等によって「大きなバラつき」があり、例えば▼「血液浄化療法と人口呼吸器を併用する患者」や「ECMO(体外式心肺補助)装着患者」などでは14日を超えて在室する患者が少なくない▼臓器移植後の患者では、平均滞在日数が14日を超えており、脳死肝移植・生体肺医移植患者では半数超が14日を超えて在室している―ことなどが分かりました。
算定可能日数を超えて在室すれば、特定集中治療室管理料などの高点数を算定することはできない(入院基本料等を算定することになる)ため、超過入院については「コスト割れを覚悟してICU等での管理を続けている」ことになります。
この点、2016年度改定では「小児の集中治療」について、通常の算定日数上限は「14日」であるところ、例えば▼急性血液浄化を必要とする状態などでは21日まで▼ECMOを必要とする状態では35日まで―と算定日数上限の延長が行われています。
山本修一委員(地域医療機能推進機構理事)、中野惠委員(健康保険組合連合会参与)、牧野委員、林田委員ら、多くの委員が「成人の特定集中治療についても、診療実態に合わせて算定日数上限の見直しを行うべき」との考えを示しています。新型コロナウイルス感染症が猛威を振るう中で「ICUの重要性」が再確認される中で、こうした方向での検討が進むと思われます。
集中治療医学会の「JIPAD」への参画、診療報酬で評価してはどうか
関連して、ICUにおける診療の状況をリアルタイムで把握するデータベース「JIPAD」が紹介されました。日本集中治療医学会が運営しており、データベースを活用して医療の質を改善し「患者アウトカムの改善」につ上げるものです。
牧野委員は「自院(旭川赤十字病院)でもJIPADに参加しているが、データ入力の負担が大きい」と指摘(実際、JIPAD未参加の大きな理由もデータ入力の負担)。「JIPADへの参画に対し、診療報酬上の手当てを検討してほしい」と要望しています。
今後の議論を待つ必要がありますが、例えばJIPADデータをもとに「死亡予測モデル」が構築され、これが治療法選択に活かされています(〇〇の状態であれば死亡につながる確率が高く、その場合、●●治療を行うべきとのモデルが構築されている)。診療報酬には、「医療の質を高める」方向に医療現場を誘導していく機能もあり、「医療の質改善に資するJIPADへの参加を診療報酬で評価する」ことには合理性・妥当性があると考えられ、2022年度改定でも重要論点の1つとなりそうです。
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