2022年度診療報酬改定論議、コロナ感染症の影響など見据え7・8月に論点整理―中医協総会(1)
2021.4.14.(水)
2022年度の次期診療報酬改定では、「新型コロナウイルス感染症の影響」も見据えなければならない。このため、この7・8月(2021年7・8月)に秋以降の個別改定項目論議に向けた論点整理を行う―。
4月14日に開催された中央社会保険医療協議会・総会で、厚生労働省保険局医療課の井内努課長からこういったスケジュール案が示されました。
一部委員からは「より早期に論点整理を行い、個別項目議論を始めるべきではないか」との意見も出ましたが、新型コロナウイルス感染症の今後の影響を早期に見定めることは難しく、また、各種調査・分析を行う時間もあることから、「7・8月に論点整理を行う」とのスケジュール案は了承されています。
2019年10月の「消費増税対応改定」の効果・影響も重要検討テーマに
2022年度には診療報酬改定が予定されています。通常であれば診療報酬改定論議は、主に次のようなスケジュール感で進められます。
【中医協】
▽春から夏にかけて総論的な第1ラウンド論議を行い、改定の大きな方向を見定める
▽秋から個別論点に係る第2ラウンド論議を行う
【社会保障審議会の医療保険部会・医療部会】
▽秋から「基本方針」論議を開始し、冬に取りまとめを行う
【内閣】
▽年末の予算編成過程で「改定率」を決定する
【中医協】
▽「基本方針」「改定率」を踏まえて詰めの議論を行い、年明け2月に診療報酬改定の内容を決定する(その後、3月に告示・関連通知の発出などを行い、4月から新点数表等を施行する)
しかし現在、我が国でも「新型コロナウイルス感染症」が猛威を振るい続けており、診療報酬改定論議にも影響が出ています。
例えば、2020年度の前回改定の一部(急性期病棟等における重症度、看護・必要度の基準値見直しなど)については経過措置の延長がなされており、「改定の影響・効果」を把握することはできません。
また、適用されている改定内容についても、「その効果・影響」と「新型コロナウイルス感染症の影響」とが医療現場では混在しており、「2020年度改定の効果・影響」のみを把握することは難しい状況です。
昨今の診療報酬改定では「エビデンスに基づく議論」が重視されていますが、こうした状況の中では、「これまでにない診療報酬改定論議」をせざるを得なくなっています。
このため、井内医療課長は、2022年度の次期診療報酬改定に向けて次のようなスケジュール感で議論を進めてはどうかと中医協に提案しました。
▽7・8月に論点整理(秋以降の個別改定項目に関する論点を整理)を行い、9月頃から個別改定論議を行う
どういった論点整理が行われるのかは今後を見守る必要がありますが、「2020年度改定の効果・影響を踏まえた見直し」、「新型コロナウイルス感染症対策」、「その他」(働き方改革の推進、地域医療構想の実現、がん対策など)が組み込まれることになるでしょう。
この方針について、診療側の松本吉郎委員(日本医師会常任理事)は「新型コロナウイルス感染症によって世の中が一変した。次期改定では『これまで通りの診療報酬改定論議の流れ』では対応できない」とし、井内医療課長の提案に賛同。あわせて「2019年10月に行われた消費増税対応改定の効果・影響(過不足なく消費増税によるコスト増が各医療機関に補填されているのか)を検証する必要がある」と付言しています。
一方、支払側の幸野庄司委員(健康保険組合連合会理事)と安藤伸樹委員(全国健康保険協会理事長)は「論点整理を前倒しし、早めの議論を行うべきではないか」と提案しました。両委員は、「2021年の秋冬から新型コロナウイルス感染症の感染拡大が生じ、議論が十分に行えなくなる」ことを危惧するとともに、「新型コロナウイルス感染症で患者の受療行動や国民の健康意識などが大きく変わった。この『コロナ感染症の教訓』を次期改定に活かすためにも、より深く、時間をかけた議論を行う必要がある」ことを強調しています。
支払側委員の意見にも大きく頷ける部分があります。しかし、▼新型コロナウイルス感染症の中長期的な影響は不透明である(早めに「先を見越した」議論を行ったとして、その見通しが大きくずれることも考えられる)▼各種調査(入院医療に関する調査、2020年度改定の結果検証調査)などの結果が出るまでには一定の時間がかかる(データのない中で議論をしても「机上の空論」に終わってしまう)—という問題もあります。
井内医療課長は、こうした状況を説明し、「7・8月に入院・外来・在宅・歯科・調剤・訪問看護といった各分野において、何を考えるべきか、いわば『骨太の議論』をしてほしい」と要請。中医協でこの考えが了承されています。そこでは、注目される「医師働き方改革」など、医療保険の外にある論点も議題となってきます。
なお、新型コロナウイルス感染症の影響を可能な限り除去するため、中医協では「4月・5月・6月のいずれかを対象に、2019・20・21年の医療機関経営状況を調査する」(単月調査)点についても検討しており、厚労省保険局医療課保険医療企画調査室の山田章平室長は「5月の中医協で、単月調査について再度検討してもらう」考えを改めて示しました(関連記事はこちらとこちらとこちら)。
例えば、この4月・5月・6月に新型コロナウイルス感染症が一定程度落ち着いた中で「医療機関の経営の単月調査」(コロナ感染症の影響が薄く、2020年度改定の効果・影響が色濃く現れている)を行い、それと「2019年4月・5月・6月のいずれか」(コロナ感染症の蔓延前)・「2020年4月・5月・6月のいずれか」(コロナ感染症の影響が色濃く現れている)とを比較分析することで、「2020年度改定の効果・影響」を一定程度見ることができると考えられるのです。
また松本委員から要望のあった「消費増税対応改定の効果・影響」について、山田保険医療企画調査室長は「2021年度の医療経済実態調査とセットで調べ、追ってその結果を踏まえて議論してもらう」考えも示しています。2019年10月に行われた消費増税対応改定では、「消費税率8%→10%」に対応するとともに、「従前の消費増税改定対応(5%→10%)では、消費増税に伴うコスト増の補填状況について、医療機関間で極めて大きなバラつきがある(とりわけ急性期病院で補填状況が不十分)」ことが分かり、過去分をリセットした対応も行われました(関連記事はこちら)。補填状況如何によっては「補填の調整」を求める声も出てくるかもしれません。
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