医療従事者の働き方改革、地域医療体制確保加算の効果など検証しながら、診療報酬でのサポートを推進―中医協総会(1)
2021.7.21.(水)
医師およびその他の医療従事者の「働き方改革」が重要なテーマとなっており、診療報酬でもそれをサポートしていく必要がある。その際、新たな点数設定を検討するほか、既存の点数(地域医療体制確保加算や医師事務作業補助体制加算など)の効果を検証するとともに、必要な要件見直しを検討していくべきである―。
7月21日に開催された中央社会保険医療協議会・総会では、こういった議論が行われました。
医療安全・医療の質を確保したうえで、医師配置要件の緩和やタスク・シフティングを推進
Gem Medでお伝えしているとおり、2022年度の次期診療報酬改定に向けた議論が中医協やその下部組織で本格化しています。厚生労働省保険局医療課の井内努課長は「7・8月は第1ラウンドとして総論的な議論を行い、そこでの意見をとりまとめ(いわば論点整理)、秋以降の個別項目論議につなげる」というスケジュールを示しました。
すでに「急性期入院医療(関連記事はこちらとこちら)」、「地域包括ケア病棟」「回復期リハビリ病棟」、「外来」「感染症対策」「調剤」に関する総論論議が行われています。
7月21日には、▼ポリファーマシー対策・後発品使用促進▼働き方改革の推進▼歯科貴金属材料の価格改定ルール見直し▼不妊治療の保険適用―が議題となりました。本稿では「働き方改革」に焦点を合わせ、他の項目は別稿で報じます。
「医師の働き方改革」を進めるにあたっては、まず「各医療機関で勤務医の労働実態を正確に把握」したうえで、労働時間短縮に向けて▼業務の整理▼祝日直許可の取得▼医師から他職種への業務移管(タスク・シフティング)▼業務移管を受けるメディカル・スタッフの負担軽減―などを総合的に実施していくことが重要です。併せて、勤務医以外の医療従事者については、すでに「働き方改革」が実行中で、より早急な「負担軽減」の実現が急務となっています。
これらの取り組みを診療報酬でサポートしていくことにも期待が集まっており、▼【地域医療体制確保加算】の創設(2020年度の前回診療報酬改定)▼手術・処置における【休日・時間外・深夜加算】▼人材配置等の柔軟化(複数の非常勤職員を常勤換算可能とするなど)―が進められています。
このうち【地域医療体制確保加算】は、年間2000件以上の救急搬送患者を受け入れ、勤務医の負担軽減・処遇改善に積極的に取り組んでいる急性期病院を評価するものです。昨年度(2020年度)は月間60万件程度の算定がなされ、主に大規模病院で算定が進んでいます(400床以上病院が算定件数の58.2%を占め、200-399床病院が同じく23.3%を占めている)(関連記事はこちらとこちらとこちら)。
また、2014年度診療報酬改定では、▼年間の緊急入院患者(意識障害や呼吸不全など)数が200名以上▼全身麻酔手術が年間800件以上▼医師の負担軽減・処遇改善体制の整備▼加算算定診療科での交代制勤務・チーム制の導入―などの要件(施設基準)を満たす病院において、休日・時間外・深夜の手術・処置点数が2.6倍に引き上げられています。「夜間等における手術等症例の集約化」を促すことで、働き方改革を支援するものと言えます。2019年度には322施設が本件に係る届け出を行っています。
一方、タスク・シフティングをサポートする診療報酬としては、例えば医師の負担軽減を評価する【医師事務作業補助体制加算】、夜間の看護職員負担軽減を評価する【急性期看護補助体制加算】や【看護職員夜間配置加算】等、病棟における薬剤師の活躍を評価する【病棟薬剤業務実施加算】などが代表的ですが、点数項目によって「届け出・算定が増加しているもの」と逆に「減少している」ものとがあることが分かりました(後述)。
さらに、医師からのタスク・シフティング先として大きな注目を集める「特定行為研修を修了した看護師」(研修修了者は、医師・歯科医師の包括的な指示の下で、一定の医行為を実施可能)の養成も進んでおり(今年(2021年)3月時点で3307名が研修修了)、診療報酬での評価(【総合入院体制加算】等で特定行為研修修了者の配置を一部要件化)も行われてきています。
あわせて、大学病院並みの高度・総合的な医療提供を行う一般病院を評価する【総合入院体制加算】では、医療従事者の負担軽減・処遇改善が要件(施設基準)の一部に盛り込まれており、2019年度には367病院(加算1:42病院、加算2:169病院、加算3:156病院)が届け出を行っています。
このほかにも「ICTを活用した会議等の実施を推進する」「紹介状なしに大病院を受診した患者に定額負担を課す」など、「医師を始めとする医療従事者の負担軽減」を診療報酬等でサポートする環境が段階的に拡充されてきています。
2022年度の次期診療報酬でも、「働き方改革の診療報酬によるサポート」が最重要論点の1つとなることを厚生労働省保険局医療課の井内努課長が確認。今後、既存点数の拡充や新点数の創設などが検討されていくこととなり、7月21日の中医協総会では診療側・支払側双方の委員が様々な角度から提案等を行いました。
まず、診療側・支払側双方とも「働き方改革を診療報酬でサポートしていく」方向に異論はないようです。2020年度改定論議では支払側委員から「異論」が出ていましたが、改正医療法が成立し、制度の大枠が固まってきたなど、議論の環境が変わってきているものと見ることができるかもしれません。
ただし、個別論点については、診療側と支払側とで見解の相違・意見の乖離が相当程度あるようです。
例えば、2020年度の前回改定で新設された【地域医療体制確保加算】に関しては、診療側の松本吉郎委員(日本医師会常任理事)から「例えば『救急搬送患者受け入れ件数が年間2000件以上』などの要件を見直すべき」との意見が出ています。「病院としての救急搬送患者受け入れ件数」を要件としているため、当然「大病院で届け出しやすくなり、中小規模病院では届け出しにくい」状況が生じ、上述のような届け出状況となっています。松本委員は「救急搬送患者の受け入れ件数が2000件未満であっても、過酷な現場もある。各医療機関の負担軽減や処遇改善などの取り組みをきめ細かく評価していうべき」との考えを強調しました。
もっとも、医師をはじめとする医療従事者の働き方改革を進めるうえでは、「病院や患者の集約」が非常に重要な視点となります。例えば、「多くの病院が救急医療を提供する」となれば、医療資源(救急医療に携わる医師や看護師など)は分散してしまい、1人1人の医療従事者に係る負担が重くなります。当然、「医療の質」という課題にも直面することでしょう。
このため、患者アクセスの確保に十分な配慮を行いながら、病院や医療機能、ひいては医療資源を集約していくことが求められるのです。この観点からは「規模の小さな病院でも届け出・算定しやすくするための要件緩和」は慎重に検討すべきとの方向が導かれます。地域における医療機関の機能分化・連携の強化という「医療提供体制の在り方」をも見据えた視点での検討が今後進められることになるでしょう。
一方、支払側の幸野庄司委員(健康保険組合連合会理事)は「加算の要件緩和」等には直接言及せず、「効果を検証すべき」と強く求めています。幸野委員は、届け出医療機関数などでなく、「医師の負担軽減」を効果と捉えています。幸野委員は「2020年度改定に関する結果検証調査結果」(2020年度調査)では、同加算の取得が多い400床以上病院では「常勤医師の勤務時間が2020年度改定後に延伸してしまっている」ことを指摘。「400床以上病院ではコロナ感染症患者の受け入れの影響も考えられる」としたうえで、「同加算が、医師の負担軽減にどう寄与しているのかを検証すべき」と提案しています。
また診療側の城守委員は、「医師の負担軽減効果がある」と現場で評価される【医師事務作業補助体制加算】について「要件(施設基準)が急性期病棟に偏っているのではないか(例えば緊急入院患者数要件や手術件数要件など)。他の病棟でも算定の裾野が広がる要件に見直していく必要がある」と指摘。同じ診療側の池端幸彦委員(日本慢性期医療協会副会長、福井県医師会長)もこの考えに賛同し、地域包括ケア病棟や回復期リハビリテーション病棟でも取得可能な要件への見直しを求めました。
タスク・シフティングに関しては、看護職員代表として参画する吉川久美子委員(日本看護協会常任理事)から、看護補助者を配置する場合の加算(【急性期看護補助体制加算】や【看護補助加算】)の算定回数が減少している点に関連して「看護補助者確保が極めて困難であり、その背景には『給与水準が低い』など労働環境問題がある」との指摘がなされました。給与アップの原資を確保するために「加算の引き上げ」を求める意見と考えることができそうです。
一方、【看護職員夜間配置加算】は届け出件数が増加していますが、吉川専門委員は「人員の手厚い配置等による、個々の看護職の負担軽減が必要な状況は『夜間』はもちろん、『昼間』も同様である」と指摘。新たな評価項目の設定を求めています。
この点については、医療機関経営者である診療側委員も首を縦に振っており、いずれの病院でも「看護職員確保に苦労している」状況が伺えます。
また、診療側の有澤賢二委員(日本薬剤師会常務理事)は「病棟での薬剤師配置が、医師や看護職の負担軽減効果が高いという調査結果が出ている。さらなる病棟薬剤師の配置推進が必要であり、例えば、地域包括ケア病棟や回復期リハビリテーション病棟での配置・業務実施・診療報酬での評価を進めてほしい」と要望しています。
なお、急性期病院の代表者として参画する診療側の島弘志委員(日本病院会副会長)は、「医師配置要件の緩和(複数の非常勤医師による常勤換算など)などが進められた。現在でも医師の偏在は解消しておらず、そうした中では『医療安全の確保、医療の質が低下しない』ことを大前提としたうえで、さらなる要件緩和などを検討していくべき」と強調し、医師から他職種への業務移管(タスク・シフティング)でも同様であると島委員は指摘しています。
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