【総合入院体制加算】で小児科・産科要件等緩和を検討、ICUで早期栄養管理を評価へ―中医協総会(2)
2019.11.18.(月)
【総合入院体制加算】において、小児科や産科・産婦人科の標榜や入院医療の提供が義務付けられているが、小児科や産科医療へのニーズが減少する中では「機能の集約化」によって医療の質を確保していくことも求められる点を踏まえて、どう施設基準等を見直していくべきか―。
【特定集中治療室管理料】については、SOFAスコア測定の義務付け対象ユニットの拡大や、管理栄養士による入室後早期の栄養管理評価を検討すべきではないか―。
11月15日に開催された中央社会保険医療協議会・総会では、こういった議論も行われました。
目次
ICU3・4までSOFAスコア測定義務を拡大すべきか
お伝えしているとおり、中医協総会でついに「入院医療の診療報酬改革」論議がスタートしました。11月15日には、▼⼀般病棟⼊院基本料▼特定集中治療室管理料(ICU)▼その他の事項(総合入院体制加算など)―を議題としており、ここでは後2者に焦点を合わせてみます(一般病棟に関する議論の記事はこちら)。
【特定集中治療室管理料】については、厚生労働省保険局医療課の森光敬子課長から、(1)入院患者の評価指標(2)専門性の高い看護師の配置(3)早期からの栄養管理―の3つの論点が提示されました。
まず(1)は、2018年度の前回診療報酬改定において「【特定集中治療室管理料1・2】で測定が義務付けられたSOFAスコア(生理学的スコア)」を、他の入院料(【特定集中治療室管理料3・4】など)にも拡大していくべきか、という論点です。
【特定集中治療室管理料】については、現在「特定集中治療室用の重症度、医療・看護必要度(以下、ICU看護必要度)に基づき重症患者(看護必要度を満たす患者)を80%以上(ICU1・2)または70%以上(ICU3・4)受け入れる」という評価指標が設けられています。しかし「ICU用の看護必要度が重症患者把握において必ずしも十分に機能していないのではないか」「ICUの看板を掲げながら、それほど重症の患者を受け入れていないユニットが一部にあるのではないか」との指摘があります。
そこで2018年度の前回改定では、「SOFAスコアの測定」を【特定集中治療室管理料1・2】に義務付け、「ICU看護必要度とは異なる側面から入室患者の状態を把握する」こととしたものです。「SOFAスコア」は、患者の▼呼吸機能▼凝固機能▼肝機能▼循環機能▼中枢神経機能▼腎機能―の6機能について、ゼロ点から4点の5段階で「重症度」を評価するもので、合計点数(total maximum SOFA score:TMS)が高いほど「重症である」と判断されます(最低ゼロ点から最高24点)。
この点、入院医療分科会の調査では、次のような状況が明らかとなりました(入院医療分科会における議論の記事はこちらとこちらとこちら)。
▽【特定集中治療室管理料3・4】を届け出るユニットでも、SOFAスコア測定を実施しているところが4-7割ある
▽【特定集中治療室管理料3】において、他のユニットと比べてSOFAスコアが低い
▽SOFAスコアが「ゼロ点」の患者を極めて多く受け入れているユニットがある
▽SOFAスコアが高くなるほど、退院時転帰が「治癒・軽快等」の患者割合が低く、「死亡」の患者割合が高くなっていた
この点、支払側の吉森俊和委員(全国健康保険協会理事)と幸野庄司委員(健康保険組合連合会理事)は「SOFAスコア測定にとどまらず、将来は『評価指標』とする方向で検討を進めるべきである」と主張。「ICU看護必要度」と「SOFAスコア」との双方でICUの患者状態を評価し、「より重症患者を多く受け入れているICUを高く評価する」ことを求めています。
これに対して診療側の島弘志委員(日本病院会副会長)や今村聡委員(日本医師会副会長)からは、「SOFAスコアはそもそも敗血症患者等の状態を評価するものだ。スーパーICUの評価に向けた検討としては、SOFAスコア測定は重要であろうが、それを【特定集中治療室管理料3・4】にまで広げる意義はあるのだろうか。慎重に検討すべきである」と慎重意見が出ています。
病院・病床の機能分化・強化の流れに鑑みれば、将来的には、ICUについても「より重症度の高い患者を多く受け入れているユニットをより高く評価し、その分の財源を重症患者受け入れがそれほどでもないユニットからもってくる」、つまり▼【特定集中治療室管理料1・2】について基準を厳しくするとともに、点数を引き上げる▼【特定集中治療室管理料3・4】については点数を引き下げる―という方向が検討されることになりそうです。その際の評価指標として「SOFAスコアの導入」や「ICU看護必要度の見直し」が注目されており、2020年度改定ではどういった見直しが行われるのか、さらに検討が深められます。
ICUの「専門性高い看護師配置」義務、経過措置は2020年3月で終了すべきか
また(2)は、やはり2018年度改定で【特定集中治療室管理料1・2】に義務化された「専門性の高い看護師配置」の取り扱いをどう考えるかという論点です。
専門性の高い看護師の確保に苦労が予想されたことから、「2020年3月31日までの経過措置」(配置していなくとも良い)が設けられていますが、入院医療分科会の実施した特別調査結果からは、次のように「相当程度、専門性の高い看護師配置が進んでいる」状況が確認されました(入院医療分科会における議論の記事はこちらとこちらとこちら)。
▽9割超のICUで、すでに専門性の高い看護師が配置されており、未配置(1割程度)のユニットでは「「経過措置期間中ゆえに配置していない」との回答(【救命救急入院料2・4】でも9割弱の配置)。
▽ユニットでの勤務時間は、▼ICU1(特定集中治療室管理料1)では37.6時間▼ICU2(特定集中治療室管理料2)では35.6時間―、1ユニット当たりの配置人数は▼ICU1では1.60人▼ICU2では1.70人―となっており、すでに「大きな戦力」として稼働し、医療の質を引き上げている
こうした状況を踏まえて、吉川久美子専門委員(日本看護協会常任理事)は「経過措置の延長は必要ない」と指摘。ただし松本吉郎委員(日本医師会常任理事)は、「専門性の高い看護師は、平均で1ユニット当たり2名弱、時間にして週60時間程度と、ギリギリの配置にとどまっている。こうした看護師が退職等した場合に【特定集中治療室管理料1・2】の届け出、算定ができなくなってしまうという仕組みは好ましくない。柔軟な対応を認めるべきではないか」と慎重姿勢を見せています。
ICU入室から48時間以内の栄養管理で、死亡率低下や早期退院の効果大
また(3)の「栄養管理」は新たに浮上した論点です。▼日本版重症患者の栄養療法ガイドラインで「ICU入室から24-48時間以内の経腸栄養開始」が推奨されている▼ICUで入室から48時間以内に栄養投与を開始した場合、48時間以降の栄養投与開始患者と比べて、優位に「死亡率の低下」「ICU在室日数の短縮」「平均在院日数の短縮」が見られる―というエビデンスを踏まえ、森光医療課長は「入室早期から管理栄養士が行う重点的な栄養管理の取組の評価」を検討してはどうかと提案しました。
これについては、効果が明らかなことから「積極的に評価すべき」との声が診療側・支払側の双方から上がっており、例えば【早期栄養管理実施加算】などの創設を具体的に検討していくことになるでしょう。
総合入院体制加算、小児科・産科要件等の緩和を検討
また【総合入院体制加算】については、入院医療分科会での調査・分析の中で「現在の施設基準・算定要件が、地域医療構想の実現、つまり病院・病床の機能分化、連携の強化を阻害しているのではないか」と指摘された点を踏まえた議論が行われました。
【総合入院体制加算】は、総合的かつ専門的な急性期医療を提供する一般病院を評価する加算で、次のような施設基準が設けられています。
▽加算1-3の共通基準として「内科、精神科、小児科、外科、整形外科、脳神経外科および産科・産婦人科を標榜し、それらに係る入院医療を提供している」「精神科につき24時間対応できる体制があること」が求められている
▽加算1-3のそれぞれにおいて、▼人工心肺を用いた手術▼悪性腫瘍手術▼腹腔鏡下手術▼放射線治療(体外照射法)▼化学療法▼分娩件数―に関する診療実績が求められている
地域にA・B病院があり、両方が【総合入院体制加算】を届け出ていたとします。少子化が進む中で、小児科や産科の患者数が減少し「A病院に小児科・産科機能を集約することが必要」という地域医療再編計画が持ち上がるケースも少なくありませんが、その際「B病院では小児科・産科機能がなくなり、【総合入院体制加算】を届け出られなくなる。B病院の収益が大きく減少してしまう」と考え、この計画に躊躇してしまうのではないか、と指摘されたのです(入院医療分科会における議論の記事はこちら)。
この点、森光医療課長は、次のようなデータを提示。
▽小児科、産科・産婦人科を標榜する医療機関は減少傾向にある
▽例えば奈良県では、3つの急性期病院について機能再編を行い、小児科、産科・産婦人科の機能を1つの病院に集約。その結果、より効果的かつ効率的な医療提供が可能となった
ここからは、「小児科や産科・産婦人科のニーズが減少」しており、そうした中では【総合入院体制加算】取得病院においても、小児科や産科・産婦人科の機能を一定程度、「集約」していくことが医療の質向上に向けて重要かつ必要なのではないか、と考えられます。
診療側の松本委員は「【総合入院体制加算】を届け出るためだけに、小児科を標榜している医療機関もあると聞く。地域で必要な医療提供体制を確保することが重要で、【総合入院体制加算】の基準等も柔軟化を考えていくべき」と主張。支払側の吉森委員・幸野委員も、松本委員の見解に理解を示しており、今後、具体的に「共通基準」や「診療実績基準」の見直し内容を詰めていくことになりそうです。
なお、【総合入院体制加算】については、別に「医療従事者の負担軽減」計画策定等が検討されており、2020年度には大きな見直しが行われることになるでしょう。
抗菌薬適正使用支援加算、要件をどう見直すべきか
また、森光医療課長は【抗菌薬適正使用支援加算】の見直しに関する論点も提示しました。
【抗菌薬適正使用支援加算】は、院内で抗菌薬適正使用支援チームを組織し、抗菌薬の適正使用を推進する取り組みを行っている医療機関を評価する加算です。薬剤耐性菌の発生等を抑えるために非常に重要な加算ですが、次のような課題も浮上してきています。
▽薬剤の院内の使用状況について、カルバペネム系抗菌薬や抗MRSA薬は概ね把握されていたが、他の薬剤ではバラつきがある
▽「周辺地域の医療機関からの相談に応じた実績」なしが、約5割である
また【抗菌薬適正使用支援加算】については、入院医療分科会で▼感染防止対策加算(1階部分)・感染防止対策地域連携加算(2階部分)の上に乗る3階部分で、「ベースの加算を取得すれば、新加算取得のために新たな人員配置などをしなくともよい(相当程度の兼務可能)」というメリットがある▼「1階部分の感染防止対策加算、2階部分の感染防止対策地域連携加算を取得できなければ、抗菌薬適正使用支援加算も算定できない」というデメリットがある―という指摘もなされています。
こうした点を踏まえ、中医協総会では、支払側の吉森委員や幸野委員を中心に「厳格化」を求める声が出ています。例えば、抗菌薬適正使用支援チームによる「より広範な薬剤の使用状況把握」や「周辺医療機関からの相談に応需した実績」などの要件化が考えられそうです。
ただし、診療側の今村聡委員(日本医師会副会長)は「地域の医療機関間で様々な情報連携が進んでいるが、『他医療機関からの相談が来る』という効果が出るまでには時間がかかる」ことを訴え、慎重な検討を求めています。要件見直しの具体化には、もう少し時間がかかりそうです。
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