地域包括ケア病棟の実績評価要件、在宅医療提供の内容に大きな偏り―入院医療分科会(2)
2019.7.25.(木)
地域包括ケア病棟では、(A)急性期後患者の受け入れ(B)在宅等患者の急変時の受け入れ(C)在宅復帰支援―の3機能をすべて果たすことが求められる。2018年度診療報酬改定では、とくに(B)の機能に着目し、在宅等患者の受け入れを積極的に行う小規模病院の地域包括ケア病棟を高く評価した。しかし、在宅医療等の提供状況を見ると、【在宅患者訪問看護・指導料】や【開放型病院共同指導料】などは極めて低調であり、今後、要件の見直しを検討していく必要がある―。
7月25日に開催された診療報酬調査専門組織「入院医療等の調査・評価分科会」(以下、入院医療分科会)では、こういった議論も行われました(関連記事はこちら)。
目次
地域包括ケア病棟入院料1・3の実績評価要件、どう見直していくべきか
7月25日の入院医療分科会では、▼DPC/PDPS等作業グループにおける議論の状況報告▼2018年度診療報酬改定の影響に関する調査・課題等の整理(地域包括ケア病棟、回復期リハビリテーション病棟など)―を議題としました。ここでは地域包括ケア病棟に焦点を合わせましょう( DPCについては既にお伝え済みで、回復期リハビリテーション病棟については別稿でお伝えします)。
2018年度の前回診療報酬改定で、地域包括ケア病棟入院料(以下、病室単位の入院医療管理料を含む)についても、報酬体系の大幅な見直しが行われました。とりわけ、次のような項目を「実績評価」と捉え、これらの実績が基準を超えた「200床未満」の病院に設置された地域包括ケア病棟を高く評価することになりました(地域包括ケア病棟入院料1・3)(関連記事はこちら)。
【実績評価部分】
▽自宅等から入棟した患者の受け入れ割合が1割以上
▽自宅等からの緊急患者の受け入れ数が3か月で3人以上
▽(1)在宅患者訪問診療料の算定回数が3か月で20回以上(2)在宅患者訪問看護・指導料、同一建物居住者訪問看護・指導料または精神科訪問看護・指導料Iの算定回数が3か月で100回以上、もしくは同一敷地内の訪問看護ステーションで訪問看護基本療養費または精神科訪問看護基本療養費の算定回数が3か月で500回以上(3)開放型病院共同指導料(I)または(II)の算定回数が3か月で10回以上(4)介護保険の訪問介護、(介護予防)訪問看護、(介護予防)訪問リハビリテーション当のサービスを同一敷地内の施設等で実施―のいずれか2つ以上実施
▽看取りに対する指針(ACP)の策定等
地域包括ケア病棟には、(A)急性期後患者の受け入れ(いわゆるpost acute機能(B)在宅等療養患者の急変時等の受け入れ(いわゆるsub acute機能)(C)在宅復帰支援―という3つの機能をすべて果たすことが求められてきましたが、(B)の「sub acute機能」を強化するために、こうした「実績評価」要件が設けられたと言えます。
この点、厚生労働省が行った2018年度改定の効果・影響に関する調査では、次のような状況が明らかになりました。
▽自宅等から入棟した患者の受け入れ割合は、実績評価が要件となっていない入院料2・4では10%未満が多い(4割程度)が、実績評価が要件となっている入院料1・3では「20%以上30%未満」「60%以上70%未満」が多い
▽自宅等からの緊急患者の受け入れ数(3か月当たり)は、実績評価が要件となっていない入院料2・4では2人以下が多い(5割超)が、実績評価が要件となっている入院料1・3では「5-9人」「60人以上」が多い
▽在宅医療の提供状況は、(1)「在宅患者訪問診療料の算定回数が3か月で20回以上」と(4)「介護保険の訪問介護、(介護予防)訪問看護、(介護予防)訪問リハビリテーション当のサービスを同一敷地内の施設等で実施」とが多く、実績評価が要件となっている入院料1・3でも(2)「在宅患者訪問看護・指導料、同一建物居住者訪問看護・指導料または精神科訪問看護・指導料Iの算定回数が3か月で100回以上、もしくは同一敷地内の訪問看護ステーションで訪問看護基本療養費または精神科訪問看護基本療養費の算定回数が3か月で500回以上」や(3)「開放型病院共同指導料(I)または(II)の算定回数が3か月で10回以上」は極めて少ない
こうした状況を見て、2020年度の次期診療報酬改定で「実績評価要件をどう見直すべきか」を議論していくことになりますが、松本義幸委員(健康保険組合連合会参与)は「在宅医療の提供について、(2)の在宅患者訪問看護・指導料等や、(3)の開放型病院共同指導料の取得はほとんどない。この背景を分析し、要件の見直しを検討していく必要がある」と強調しています。例えば、現在の「4項目のうち2項目以上」を「4項目のうち3項目以上」などに厳格化する議論が行われる可能性もあり、入院料1・3の継続や新取得を考える病院では、少なくとも【在宅患者訪問看護・指導料】や【開放型病院共同指導料】などの届け出・算定に関する基準・要件を紐解き、「自院においてはどこに注力すれば良いか」を検討しておくことが重要でしょう。
さらに松本委員は「看取り指針」について、「入院料1・3だけに要件設定するのはいかがなものか」と指摘しています。「看取り指針」は、「自分が人生の最終段階にどういった医療・ケアを受けたいかを、医療従事者や家族・友人と繰り返し話し合う『ACP』(Advanced Care Planning)の普及」を目指すもので、「人生の最終段階」を迎えた高齢者だけをターゲットにするものでなく、若いうちから「自分の人生の最終段階」を考えることが期待されています。このACPの趣旨に鑑みて松本委員は「すべての病棟において施設基準等に盛り込むべき」との考えを示しているのです。神野正博委員(全日本病院協会副会長)も松本委員の指摘には一定の理解を示しています。
地域包括ケア病棟入院料2・4でも、sub acute機能が求められる
地域包括ケア病棟に実績評価要件が導入された背景には、上述のように、多くの地域包括ケア病棟が「sub acute機能」よりも「post acute機能」に偏っているという点があります。
今般の調査結果でも、▼地域包括ケア病棟への入院・入棟は、「自院の一般病床(地域一般、地ケア、回リハ以外)」からの転棟が最も多い(半数近くの患者が「自院の急性期病棟から」入棟している)▼地域包括ケア病棟の利用方法として、最多(63.8%)は「自院の急性期病棟からの転棟先」である―ことが分かりました。
さらに、入棟前の場所が「自院・退院の一般病床の患者」について、より詳しく見ると、「自院の一般病床からの転棟患者が100%である地域包括ケア病棟」のあることも新たなデータから分かっています。
「post acute機能」は、地域包括ケア病棟に求められる3機能の1つであり、これが「病院・病棟の機能分化・連携の強化」に重要な役割を果たしていることは否定できません。とくに大規模の急性期病院では、【急性期一般病棟】の一部を地域包括ケア病棟に転換し、「急性期治療を終えた患者を転棟させる」ことが行われ、これが医療費の適正化等につながっていることは事実です。
ただし、繰り返しになりますが、地域包括ケア病棟には、(A)post acute機能(B)sub acute機能(C)在宅復帰支援―の3機能をすべて果たすことが求められており、厚労省保険局医療課の担当者は「入院料1・3の地域包括ケア病棟だけでなく、すべての地域包括ケア病棟にも3機能すべてを果たしてもらいたい」との考えを示しています。入院料1・3の実績評価要件見直しにとどまらず、地域包括ケア病棟全体に、一定程度の▼自宅等から入棟した患者の受け入れ▼自宅等からの緊急患者の受け入れ―を求める(要件化する)ことなどが検討テーマに上がる可能性も否定はできないでしょう。
地域包括ケア病棟への入棟ルートと医療提供内容をクロス分析し、評価の在り方を検討
7月25日の入院医療分科会では、地域包括ケア病棟において▼検査▼手術▼リハビリテーション―などがどの程度提供されているか、というデータも示されました。
検査については、「検体検査」(尿・血液など)は半数超の患者に実施されていますが、生体検査(超音波、内視鏡など)・X線撮影・CTやMRIなどの実施は低調です。
またリハビリテーションについては、7割弱の患者に疾患別リハビリテーションが提供され、高頻度に多くのリハビリ提供がなされている患者が一定程度いることが分かりましたが、裏を返せば「3割強の患者にはリハビリ提供がなされていない」「リハビリを提供していても、週に4回以下、週に10単位以下」という少ないリハビリ提供にとどまっている患者も一定程度います。
この点について入院医療分科会では、多くの診療側代表委員から「検査やリハビリの提供量などは調査前1週間の状況を調べたもので、タイミング(調査時点では患者の体調やリハビリ計画などさまざまな理由で実施されなかった)の問題ではないか」との解釈が示されました。また池端幸彦委員(日本慢性期医療協会副会長、福井県医師会長)は「地域包括ケア病棟は、リハビリ等を包括評価した画期的な病棟である。リハビリの提供量に応じた評価などを検討すれば、それは先祖返りを意味する」と、神野委員は「地域包括ケア病棟の入棟時から退棟時にかけてADLが改善しているというアウトカムも出ており、入院加療から在宅生活へとつなげる機能をしっかり果たしていることが分かる」と指摘し、「疾患別リハビリ」の実施状況のみに着目した議論に警鐘を鳴らしています。
なお、前述した地域包括ケア病棟の3機能に関連して、▼自宅等から入棟している患者▼自院の一般病床から入棟している患者▼他院の一般病床から入棟している患者―のそれぞれで、検査・手術・リハビリの状況を見ると、例えば「他院の一般病床から入院している患者では、手術はほとんど実施されていないが、自宅等からの入棟患者では2割近くが地域包括ケア病棟において手術を実施している」(自院から入棟患者については、自院の他病棟での手術も含めてカウントされており、今後精査される)、「自宅等からの入棟患者では、検査実施が比較的多い」、「自宅等からの入棟患者では、疾患別リハビリを実施していないケースが比較的多い」ことなどが分かりました。
さらに重症度、医療・看護必要度を満たす患者の割合を見ると、入院料1(200床未満で実績評価要件を満たす)では「自宅等からの入棟患者」で高く、入院料2(200床以上など)では「自院の一般病床からの入棟患者」で高いことが分かりました。入院料2は、比較的大病院で届け出るケースが多く、「急性期一般病棟の基準値は満たさなくなったが、医療必要度が高い」患者が地域包括ケア病棟に転棟することが多いためと考えることができそうです。
患者の入棟ルート(自宅等から?他院の一般病床から?自院の一般病床から?)と、医療提供内容(手術、検査、リハビリなど)、さらに重症度、医療・看護必要度などを詳細にクロス分析し、「地域包括ケア病棟の評価の在り方」をさらに探っていくことになります。
【更新履歴】2018年度改定の概要について「回復期リハビリテーション病棟」のものと誤っておりました。お詫びして訂正しています。資料は修正済です。
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