がんゲノム医療の推進に向け、遺伝子パネル検査を6月から保険収載―中医協総会(1)
2019.5.29.(水)
がん患者の遺伝子変異を調べ、もっとも効果的な抗がん剤等を選択する「がんゲノム医療」の推進に向けて、複数の遺伝子変異を一括して検出できる「遺伝子パネル検査」を6月から保険収載する―。
5月29日に開催された中央社会保険医療協議会・総会で、こういった点が了承されました。2019年6月1日から保険収載となる予定です(関連記事はこちら)。
目次
遺伝子パネル検査からエキスパートパネルまで実施した場合、5万6000点を算定可能
ゲノム(遺伝情報)解析技術が急速に進む中で、「Aという遺伝子変異の生じているがん患者にはαという抗がん剤投与が効果的、Bという遺伝子変異のある患者にはβとγという抗がん剤の併用投与が効果的である」などの情報が明らかになってきています。こうしたゲノム情報に基づく治療法(抗がん剤など)の選択が可能となれば、個々のがん患者に対し「効果の低い治療法を避け、効果の高い、最適な治療法を優先的に実施する」ことができ、▼治療成績の向上▼患者の経済的・身体的負担の軽減▼医療費の軽減―などにつながると期待されます。
我が国でも、産学官が一体的に「がんゲノム医療」を推進すべく「がんゲノム医療推進コンソーシアム」(共同体)を構築。がんゲノム医療の大きな流れは、(1)患者の同意を得た上で、患者の遺伝子情報・臨床情報を、「がんゲノム情報管理センター」(C-CAT、国立がん研究センターに設置)に送付する → (2)C-CATで、送付されたデータを「がんゲノム情報のデータベース」(がんゲノム情報レポジトリー・がん知識データベース)に照らし、当該患者のがん治療に有効と考えられる抗がん剤候補や臨床試験・治験などの情報を整理する → (3)がんゲノム医療中核拠点病院・がんゲノム医療拠点病院の専門家会議(エキスパートパネル)において、C-CATからの情報を踏まえて当該患者に最適な治療法を選択し、これに基づいた医療を提供する―と整理できます(関連記事はこちら)。
がんゲノム医療を提供する医療機関としては、これまでに▼11か所の【がんゲノム医療中核拠点病院】▼156か所の【がんゲノム医療連携病院】―が指定・選定されており、さらに今年(2019年)9月にも、新たに【がんゲノム医療拠点病院】が指定される見込みです(関連記事はこちら)。
▽【がんゲノム医療中核拠点病院】:エキスパートパネルを設置し、そこでの解釈をもとに最適な抗がん剤治療を提供する(当該病院でがんゲノム医療を完結できる)とともに、がんゲノム医療に携わる人材の育成や治験等を実施する
▽【がんゲノム医療拠点病院】(新設予定):エキスパートパネルを設置し、そこでの解釈をもとに最適な抗がん剤治療を提供する(当該病院でがんゲノム医療を完結できる)
▽【がんゲノム医療連携病院】:中核病院と連携し、がんゲノム医療を提供する
上記(1)の「患者の遺伝子情報」の解析については、「多数の遺伝子変異の有無を一括して検出する検査(遺伝子パネル検査)」が注目されています。
我が国においても、先進医療B(「保険診療」と未承認等の医薬品・医療機器を用いた「保険外診療」(先進医療)との併用を認める仕組み)として▼国立がん研究センター中央病院(NCCオンコパネル、登録は終了)▼東京大学医学部附属病院(Todai Onco Panel)▼大阪大学医学部附属病院―で遺伝子パネル検査を実施しているほか、2種類の検査法(NCCオンコパネル、FoudationOne CDx)について、薬事・食品衛生審議会で有効性・安全性が確認されており(薬事承認)、今般、この2種類の遺伝子パネル検査を保険収載することを中医協が了承しました(関連記事はこちら)。
(A)FoundationOne CDx がんゲノムプロファイル
(B)OncoGuide NCC オンコパネル システム
この2種類の遺伝子パネル検査については、特定保険医療材料ではなく、新規技術料の中で評価することとされ、当面は、次の点数を準用することになります。
▽ゲノム情報取得のためのパネル検査の実施(患者説明(検査)と検体の提出)については、D006-4【遺伝学的検査】の「3 処理が極めて複雑なもの」(8000点)を算定可
▽パネル検査の果の判断および患者への説明等の実施、治療(エキスパートパネル実施に係る費用が含まれる)については、▼D006-4【遺伝学的検査】の「3 処理が極めて複雑なもの」を4回分(8000点×4回=3万2000点)▼D004-2【悪性腫瘍組織検査】の「1 悪性腫瘍遺伝子検査」の「注ロ 3項目以上」(6000点)▼M001-4【粒子線治療(一連につき)】の【粒子線治療医学管理加算】(1万点)―の合計4万8000点を算定可
したがって、【がんゲノム医療中核拠点病院】や、これから指定される【がんゲノム医療拠点病院】において、▼検体の採取▼パネル検査(遺伝子情報の解析)▼C-CATへの情報提出▼C-CATからの情報を受けたエキスパートパネル実施▼実際の治療―という一連のがんゲノム医療を提供した場合には、8000点+4万8000点の5万6000点を算定できます。
一方、【がんゲノム医療連携病院】において、検体の採取▼パネル検査(遺伝子情報の解析)▼C-CATへの情報提出―などのみを行う場合(エキスパートパネルの開催等を、がんゲノム医療中核拠点病院等で行う場合)には、8000点のみを算定することになります。
標準治療終了後の固形がん患者などに検査対象を限定
これら遺伝子パネル検査を保険診療で実施する場合には、厳しい算定要件をクリアすることが必要となります。当面の病院等のキャパシティや費用を考え、「一刻も早くがんゲノム医療を実施すべき」患者に集中する必要があるためです。
具体的な対象患者は、▼標準治療がない固形がん患者▼局所進行もしくは転移が認められ標準治療が終了(見込みを含む)した固形がん患者―のうち、「医学会の化学療法に関するガイドライン」などに基づいて、全身状態・臓器機能などから「遺伝子パネル検査後に化学療法の適応となる可能性が高い」と主治医が判断した患者、に限られます。特定の抗がん剤による標準治療が定められている場合には、その標準治療を優先することになります。メーカーの予測では、ピーク時にはそれぞれ年間1万3000人程度の患者が対象になると見込まれています。
患者の同意の下、遺伝子情報を国がんに設置されたC-CATに提出
遺伝子パネル検査を実施できる施設は、▼がんゲノム医療中核拠点病院▼がんゲノム医療連携病院▼これらに準ずる病院(新指定される、がんゲノム医療拠点病院を想定していると考えられる)―に限定されます。遺伝子情報の適切な管理や解釈、患者への十分な説明とフォロー(現時点では最適な治療法が見つかる可能性は10-20%程度にとどまる)などを実施できる体制が整っている必要があるためです。
これら医療機関で、▼「インフォームド・コンセント手順書」に基づいて患者に説明し、同意を得たうえで、遺伝情報データ等をC-CATへ提出する(C-CTAへのデータ登録・データの2次利用について同意が得られない場合でも、上記点数の算定は可能。また、C-CATへのデータ提出に同意がない場合は、そもそも保険診療で遺伝子パネル検査を実施できない)▼遺伝子パネル検査を実施した全患者の情報を、管理簿で適切に管理する▼患者の求めに応じて遺伝子データを患者に提供できる体制を整備する―ことなどが求められます。
さらに、▼がんゲノム医療中核拠点病院▼これに準ずる病院(新指定される、がんゲノム医療拠点病院を想定していると考えられる)―でエキスパートパネルを実施する場合には、指定要件に規定されているとおりの人員(「がん薬物療法に関する専門的な知識・技術を持つ、診療領域の異なる複数の常勤医師」や「遺伝医学に関する専門的な知識・技術を持つ医師」など)をパネルに配置することなどが求められます。
コンパニオン検査として遺伝子パネル検査を実施する場合、算定点数が異なる点に留意
ところで、前者の遺伝子パネル検査「FoundationOne CDx がんゲノムプロファイル」は、特定の抗がん剤の効果の有無を事前に判断するコンパニオン検査として実施することも可能です。
この場合は、上記の「D006-4【遺伝学的検査】の「3 処理が極めて複雑なもの」(8000点)」ではなく、がんの種類に応じて次の点数を準用して算定することになります。
▽非小細胞肺がん患者への、「オシメルチニブ酸塩」(アレセンサ)などの効果予測を目的として実施する場合
→D004-2【悪性腫瘍組織検査】の「1 悪性腫瘍遺伝子検査」の「イ EGFR遺伝子検査(リアルタイムPCR法)(2500点)とN002【免疫染色(免疫抗体法)病理組織標本作製】の「6 ALK融合タンパク」(2700点)を合算して算定
▽悪性黒色腫患者への「ダブラフェニブメシル酸塩」(タフィンラー)などの効果予測を目的として実施する場合
→D004-2【悪性腫瘍組織検査】の「1 悪性腫瘍遺伝子検査」の「ヌ BRAF遺伝子検査」(6520点)を算定
▽乳がん患者への「トラスツズマブ(遺伝子組換え)」(ハーセプチンなど)の効果予測を目的として実施する場合
→N005【HER2遺伝子標本作製】の「1 単独の場合」(2700点)を算定
▽直腸・結腸がん患者への「セツキシマブ(遺伝子組換え)」(アービタックス)などの効果予測を目的として実施する場合
→D004-2【悪性腫瘍組織検査】の「1 悪性腫瘍遺伝子検査」の「ハ K-ras遺伝子検査」(2100点)を算定
こうしたコンパニオン検査として遺伝子パネル検査を実施し、その結果に基づく治療(標準治療)を行っても、残念ながら効果が芳しくないケースもあります。その際、すでにコンパニオン検査の中で得られている遺伝子解析結果をC-CATに送付し、エキスパートパネルで解析・解釈して、別の治療法(抗がん剤)を探すことも考えられます。
この場合には、「コンパニオン検査として実施した場合の算定点数」(乳がんであれば2700点)と、「パネル検査の果の判断および患者への説明等の実施、治療(エキスパートパネル実施に係る費用が含まれる)の算定点数4万8000点」とを合わせて算定することが可能です。
なお、コンパニオン検査としてのみ実施し、エキスパートパネルでの解釈等を経ていない検査結果は、「誤った解釈(必ずしも適切ではない抗がん剤等の選択がなされるなど)を生む」可能性が高いことから、▼患者に検査結果を返却しない▼上記4万8000点は算定できない―ことも明確にされています(関連記事はこちら)。
遺伝子パネル検査の対象患者、ピーク時には年間2万6000人程度の見込み
遺伝子パネル検査の対象患者は、ピーク時にはそれぞれ年間1万3000人程度(合計2万6000人程度)と推測されていますが、当面は年間「数千件」にとどまると見られます。
昨年(2018年)秋時点では、11のがんゲノム医療中核拠点病院におけるエキスパートパネルのキャパシティは「年間4000-5000件程度」と見込まれることから、厚生労働省保険局医療課の古元重和企画官は「遺伝子パネル検査の当面の対象となる『数千件』の患者には、円滑に検査実施が行われる」と見通しています。
なお、今年(2019年)9月からは、エキスパートパネルを開催し、がんゲノム医療を自施設で完結できる「がんゲノム医療拠点病院」が新指定される予定で、厚労省では「30施設程度」と予測しています。がんゲノム医療拠点病院が、がんゲノム医療中核拠点病院並みのエキスパートパネル開催能力を持つとすれば、全体で「年間2万件程度」の開催が可能となり、さらに今後のスキルアップ等を見込めば、ピーク時の「年間2万6000人程度」の遺伝子パネル検査ニーズにも対応できそうです。
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