がん携拠点病院の新要件固まる、2019年4月から新要件に基づくがん体制始まる―がん診療提供体制検討会
2018.4.16.(月)
がん診療連携拠点病院に、2019年4月から新たに「医療安全管理部門の設置」などを求めるとともに、同一医療圏に複数の拠点病院がある場合には「最も優れた病院を中核病院(仮称)と位置付ける」こととする―。
4月11日に開催された「がん診療提供体制の在り方に関する検討会」(以下、検討会)で、このような「がん診療連携拠点病院の指定要件」の見直し方向が概ね了承されました(関連記事はこちらとこちら)。
目次
2018年6-7月に新指定要件を公表、2019年4月から新要件に基づくがん提供体制
「どの地域に住んでいても、優れたがん医療を受けられる体制を整える」(均てん化)という方針の下、我が国では、高度ながん医療を提供する病院を▼都道府県がん診療連携拠点病院▼地域がん診療連携拠点病院▼地域がん診療病院▼特定領域がん診療連携拠点病院—として指定しています。
今般、新たながん対策推進基本計画(第3期計画)が閣議決定されたこと、特定機能病院において医療安全体制の強化が図られたことなどを受け、さらに現在の拠点病院指定要件の曖昧な部分(例えば、「必須」、「原則必須」、「望ましい」の3種類の要件があり、分かりにくいとの指摘がある)を是正する必要性などを踏まえ、指定要件の大幅な見直しを行うこととなったものです。
後述するような意見・指摘を踏まえて検討会の報告書が近く固められ、これを踏まえて厚労省が6-7月に新指定要件を公表します。この新指定要件をもとに、来年(2019年)1-2月に既存・親近性を含めて拠点病院全体の状況を一斉に洗い直し、2019年4月から新体制(新指定要件に基づく拠点病院の体制)がスタートすることになります。
第三者評価の受審を義務化すべきか、努力義務にとどめるべきか
指定要件の見直しについては、検討会の下部組織である「がん診療連携拠点病院等の指定要件に関するワーキンググループ」(以下、ワーキング)で詳細が詰められました。メディ・ウォッチでも既にお伝えしていますが(関連記事はこちらとこちら)、ポイントとしては、次のような点があげられます。
【がん医療提供体制に関する項目】
▽新たに「保険適応外あるいは一般的ではない医療行為を行う際の事前審査・事後評価と適切なインフォームド・コンセントの取得」に関する体制を求める
▽新たに「保険適応外の免疫療法等を実施する場合には、『原則、臨床研究で実施する』」ことを求める
▽「苦痛のスクリーニング」に関し、院内全体の診療体制の中で行うことを求める
▽新たに「Quality Indicatorを用いた診療の質の評価を行う」体制を求める
▽新たに「医療安全を含めた質の確保のための第三者評価の活用」が望ましいことや、「拠点病院間での実地調査(ピアレビュー)などの実施」について更なる徹底を求める
このうち「第三者評価」については、例えば日本医療機能評価機構やJCI(Joint commission international)などの評価・認定などが考えられます。ワーキングでは「第三者評価の活用が望ましい」とされるにとどまりましたが、検討会では松原謙二構成員(日本医師会副会長)から「患者・国民の信頼を得るためには、第三者評価の活用を必須化・義務化しなければならない。評価=安全という構図には必ずしもなっていないが、評価受審の積み重ねが安全性確保につながる」旨を強く求めました。今後、北島政樹座長(国際医療福祉大学副理事長・名誉学長)と厚生労働省が中心になり「望ましい要件とするのか、必須要件とするのか」を調整していくこととなっています。
がん患者の相談を受け付けた相談支援センターが、確実に専門部署につなぐ体制を整備
【緩和ケア・相談支援・情報提供・地域連携に関する項目】
▽新たに「緩和ケアの専門チームにつなぐ体制の構築」や「患者の意思決定支援に関する体制整備を求める
▽新たに「緩和ケアチーム・外来緩和ケアの新規紹介患者数の診療実績」を要件化する
▽新たに「がん相談支援センターと医療従事者との協働体制の構築」を求める
「がん相談支援センター」については、患者・国民代表の立場で参画する天野慎介構成員(グループ・ネクサス・ジャパン理事長)や三好綾構成員(がんサポートかごしま理事長)から「看護師や社会福祉士などの専門資格保持者を配置すべきではないか」との指摘が出されました。より専門性の高い相談体制を整備すべきとの考えに基づく指摘と言えます。
この点、厚労省健康局がん・疾病対策課の佐々木昌弘課長や、ワーキングの西田俊朗座長(国立がん研究センター中央病院病院長)らは、「専門家が相談に乗るという機能が重要であり、その機能をどのような形で実現するかは個別病院に自由度を持たせてもよいのではないか。専門家が相談の乗る機能を果たすために、『相談支援センターと医療従事者との協働』について要件化している」との説明がなされました。がん診療連携拠点と一口に言っても、「規模」や「地域事情」は大きくことなり、専門資格保持者の雇用・確保のハードルはさまざまであり、そうした点も勘案した要件設定が行われることになりそうです。もっとも、患者の不安等に的確かつ迅速に対応するために、「十分な連携」体制をとることが強く求められている点に留意しなければいけません。
拠点病院同士の相互監視(ピアレビュー)も重要視点
【医療安全に関する項目】
特定機能病院においては、重篤な医療過誤が相次いで生じたことを踏まえ、厳格な「医療安全体制の構築」に関する要件が盛り込まれました。がん診療連携拠点病院でも、こうした状況を踏まえ、新たに次のような体制をとることが求められます。
▽「医療安全管理部門」の設置を求める
▽医療安全管理部門には専従・専任の医師、薬剤師、看護師を配置することを求める
上記の「第三者評価」とも深く関連するテーマとして、ピアレビューについても「活用が望ましい」とされる見込みです。この点に関連して神野正博構成員(全日本病院協会副会長)は、2018年度の診療報酬改定で、【医療安全対策加算】に上乗せするピアレビューなどを要件とする【医療安全対策地域連携加算】が新設された点に触れ、「こうした加算などの届け出を要件に加えてはどうか」と提案しています。ピアレビューとは、いわば医療機関同士(ここでは拠点病院同士)の相互監視と言え、「外部の目により医療安全管理がさらに向上する」とともに、「他院の監視を通じて、自院の体制の不備を改善する」ことが期待されます(関連記事はこちら)。
医療圏内でもっとも優れた拠点病院を「中核病院」(仮称)と位置づけ
【「指定」に関する項目】
▽指定基準を明確にする(「概ね」とは9割を意味することなどを明確化)
▽同一医療圏に複数の拠点病院が指定されている場合には、最も診療実績が高い病院等を「中核病院」(仮称)として指定し、「医療圏内の地域連携の要」としての機能を期待する
▽指定要件を満たさなくなった場合「準指定病院」(仮称)と位置づけ、1年間後に「要件を満たせば、指定病院に復帰」「要件を満たさなければ、診療病院への移行、あるいは拠点病院からの除外」とする仕組みを設ける
このうち中核病院(仮称)について山口建構成員((静岡県立静岡がんセンター総長)は「基準を明確にしておく」ことの重要性を指摘しました。山口構成員は、実際に個別拠点病院の指定可否を検討する「がん診療連携拠点病院等の指定に関する検討会」の座長でもあり、「指定を検討する際の公正性担保」を見据えた意見と言えます(関連記事はこちらとこちら)。
なお、がん診療連携拠点病院には、毎年、診療実績等を報告することが義務付けられており、例えば「2019年度にはA医療圏においてa病院がもっともすぐれた実績を持ち中核病院(仮称)であったが、2020年度にはA医療圏でもっともすぐれた実績を収めたのはb病院であり、2020年度から中核病院(仮称)はa病院からb病院に移る」こともあり得ます
また「医療圏」については、2次医療圏だけでなく、都道府県が設定する「がん医療圏」(複数の2次医療圏で構成するなど)を単位に考えるべきとの意見が神野委員らから出されています。脳卒中や急性心筋梗塞など「一刻を争う」医療と、一定程度「待てる」がん医療とでは、2次医療圏の考え方が異なることもあり、医療計画の中で「2次医療圏とは異なるがん医療圏を設定する」ことが可能です。現在、多くの都道府県では「2次医療圏とがん医療圏は同一」ですが、人口移動や人口減少、交通網の変化などを踏まえ、「2次医療圏と異なるがん医療圏」が増えていく可能性もあります。
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