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拠点病院は現場の使命感で支えられている、今こそ「医療の質評価」の普及を――九がん・藤院長

2016.8.23.(火)

 「がん対策推進協議会」で「次期がん対策推進基本計画」の作成が進んでいます。日本のがん医療を支える「がん診療連携拠点病院(拠点病院)」は2016年4月時点で全国に427カ所整備されましたが、拠点病院間で格差があることや、拠点病院であることを維持するために現場が疲弊しているとの声も聞こえてきます。

 次期計画のうち診療提供体制部分を議論する厚生労働省「がん診療提供体制のあり方に関する検討会」の構成員の九州がんセンター・藤也寸志病院長は、こうした声を可視化するための調査を実施(国立病院機構内の拠点病院35施設のうち都道府県拠点3施設、地域拠点25施設からの回答を得た)。8月4日の検討会でその調査結果を発表しました(関連記事『がんの地域連携パスを活用し、拠点病院単独でなく地域全体でがん患者を支えよ』)。

 調査結果を踏まえて、今後の拠点病院を支えるためには、現場が使命感を実感できる仕組みが必須で、そのためには自己の活動の質の評価が欠かせないと、藤氏は主張します。

九州がんセンターの藤也寸志(とう・やすし)病院長 ※右上の額縁は初代病院長(入江英雄氏)直筆の「病む人の気持を」

九州がんセンターの藤也寸志(とう・やすし)病院長
※右上の額縁は初代病院長(入江英雄氏)直筆の「病む人の気持を」

拠点病院、孤立の現実

――8月4日開催の検討会で、拠点病院の意識調査「がん診療連携拠点病院からの声―有効かつ持続可能ながん対策推進基本計画の策定のために―」を報告されました。調査の背景について教えてください。

 拠点病院の指定要件は、がん医療の理想を求めるのであれば、よく練られていると思います。ただ、実際の現場の声に耳を傾けると、「指定要件を真に満たして行くには、どうしていいのか分からない」という声が聞こえてきます。特に、大学病院やがんセンター以外では、マンパワーが圧倒的に足らないにもかかわらず、「手を上げている立場上、何とか頑張っている」という状況です。

意識調査では「指定要件に混乱」が7割、「根拠に疑問が半数」という結果に(第8回がん診療提供体制のあり方に関する検討会の資料より抜粋 ※厚労省ホームページはこちら)

意識調査では「指定要件に混乱」が7割、「根拠に疑問が半数」という結果に(第8回がん診療提供体制のあり方に関する検討会の資料より抜粋 ※厚労省ホームページはこちら

 さらに、拠点病院の活動への理解は、国民だけでなく、拠点病院の院内、院外を含めた医療界でも十分ではありません。例えば、「拠点病院なのだから、そこですべてを完結させるのが当たり前」「補助金をもらっているのだから拠点病院ですべてできるだろう」というような誤解です。長期間にわたって急性期から在宅までを行ったり来たりすることが多いがんのような疾病に対する医療を、拠点病院だけで完結することは不可能です。周囲の医療機関の理解と地域連携は欠かせません。求められている活動は、補助金の枠を大きく越えていて、病院側の持ち出しが相当分あり、経営面でも負担を強いられているのが実際です。

 そのため、こうした現場の声を耳にする機会が多い立場上、まずは次期がん対策推進基本計画を作成するに当たり、拠点病院(特に地域がん拠点病院)の活動や現行の指定要件に関する意識調査をする必要があると思ったのです。本来は全国のすべての拠点病院の意識調査をするべきですが、今回は国立病院機構内のがん診療連携拠点病院に限った調査になっています。また、今回の調査項目の設定や調査結果に対する見解は、私の独断によるものであり、国立病院機構を代表するものではないことにご留意ください。

欠かせない「拠点以外」の活動

――具体的にどの指定要件に問題があるとお考えですか。

 まず、病理医や放射線治療医、緩和専門医などの数が足りないことが大きな問題です。今後は「ゲノム医療」が出てきて、がんの遺伝相談の重要性が増してきますが、それを説明できる家族性腫瘍コーディネーターなどの専門知識をもったスタッフも全く足りていません。種々の専従、専任の職種の配属も完全とは言えないのが真の現状です。

 拠点病院のマンパワーが圧倒的に足りない現状では、適切な人員配置ができる支援、均てん化分野と集約化分野の明確化などが必要でしょう。加えてやはり、拠点病院の活動だけではなく、がん対策の活動を拠点病院やその中のがん専門相談員に繋げたり広げたりする市井のサポーター、例えば癌治療学会で試みられている「認定がん医療ネットワークナビゲーター」の育成などの仕かけも欠かせないと考えています。また、実際にそのような在野の相談者の養成を試みている県もあります。何にせよ、国や都道府県の行政や学会などの種々の活動を別々に行っていくのはあまりに非効率的だと思います。

領域に応じて集約化進めるべき

――今後の拠点病院の維持には何が最も重要なのでしょうか。また、集約化にも言及されていますが、具体的にはどういうことでしょうか。

 一言で言うと、現場の使命感を維持できるような実感を持たせてもらいたい。「苦しくても自分達の活動は、がん患者さんやご家族のために役に立っている」という実感です。診療報酬が付けば一番いいが、それも難しい現状では、さらなる新しい要件を求めるのではなく、自分たちが行っている現状のがん医療の質の評価を行う段階にきているのではないかと思います。「患者さんやご家族の満足度の向上」が最終のアウトカムです。しかし、常にその評価を続けることは困難です。そこで、自己の活動の継続的な評価のために、「臨床指標(質評価指標:Quality Indicator=QI)」を設定して、提供している医療の質を数値化し、評価することは有用だと思います。その活動は、現場の使命感に直結するのみならず、医療の質向上というメリットを患者が享受することにもつながります。

まとめの最初に「使命感・情熱を維持」と明記(第8回がん診療提供体制のあり方に関する検討会の資料より抜粋 ※厚労省ホームページはこちら)

まとめの最初に「使命感・情熱を維持」と明記(第8回がん診療提供体制のあり方に関する検討会の資料より抜粋 ※厚労省ホームページはこちら

 ただ、その普及には時間がかかるという印象です。がん医療にかかわらず、日本の医療界全体を見渡しても、QIの意義、この普及に向けてスピード感を持って取り組む動きがなかなか見えてこないのが現状です。とは言え、着実に、少しずつではありますが、QIの認知度拡大とその意義の理解は進んでいます。時間がかかっても、がん医療の質向上と均てん化の維持には、この歩みを止めてはいけません。

 集約化については、テレパソロジーによる病理診断、最新の放射線治療装置、希少がん・AYA世代のがん、治療や医師主導臨床研究の領域などを中心に検討すべきと考えます。拠点病院間でこれらの領域に格差があるのは事実です。

使える「地域連携のツール」が必要

――拠点病院以外も含めた地域連携の重要性にも言及されていますが、どのように推進していくべきでしょうか。

 がんの終末期医療は多くが議論されていますが、がんのサバイバーシップは十分に議論されているとは言えません。がんサバイバーシップには、「急性生存期」「延長生存期」「恒常的生存期」「終末期」の4つの期間がありますが、終末期に近づけば近づくほど、地域医療とのかかわりが濃くなります。終末期医療も含むがんサバイバーのケアには、拠点病院と地域全体の協力は不可欠です。

藤氏が考える地域連携パスのイメージ(第8回がん診療提供体制のあり方に関する検討会の資料より抜粋 ※厚労省ホームページはこちら)

藤氏が考える地域連携パスのイメージ(第8回がん診療提供体制のあり方に関する検討会の資料より抜粋 ※厚労省ホームページはこちら

 福岡県では、「福岡県がん対策推進協議会」の了承を得て、5大がん(胃がん、大腸がん、肺がん、乳がん、肝がん) と前立腺がんの術後フォローアップのための地域連携パスを運用しています。福岡県では既に2000人以上の患者さんにこのパスを使用しています。今年、これを利用している患者さんへのアンケートを行った結果、400人以上から回答を得ました。その結果、約75%の患者さんは地域連携パスを「良い」と評価しており、「広めた方がいい」としています。使用している「かかりつけ医」の意見も同様に極めて好意的でした。第2期がん対策基本計画策定時には、地域連携パスは十分には機能していないと評価されましたが、実際の患者さんの声、かかりつけ医の声によって高く評価されている仕組みを止めるわけにはいきません。当初、福岡県でも地域連携パスの話し合いを行った際、「こんなものが役に立つのか」という人がいましたが、ようやくその意義が広まりつつあります。

 クリティカルパスを作成する際に重要なことは、誰が使用してもきちんとした医療ができる明確なものにすべきです。しかしながら、広範囲な分野の診療を行うかかりつけ医のがん診療への理解は当然まちまちです。今後は、地域のかかりつけ医のみならず、看護師、薬剤師、相談員など地域のすべての医療者が参加する地域連携パスを作っていく必要があります。実際は、パスとしての正確性のみを追求するのは現実的ではなく、「地域連携のツール」としていかに役立つものに仕上げるかという視点が何よりも重要です。

CQI研究会、双方向の会に

――8月27日(土)に世話人を務める「第12回CQI(Cancer Quality Initiative)研究会」(全国107のがん診療連携拠点病院等が一同に介し、実名で主要がんの診療情報をベンチマーク分析する研究会)が開催されます。

 今回の会では会場の声も積極的に取り入れ、ただの分析報告会ではない、双方向の会にしたいと思っています。「アンサーパット」のようなスタイルを用いて会場の声を可視化するなど、新たな取り組みもしていきたいと思っています。

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