「院内助産」「外来での妊産婦対応」を診療報酬でどう支援していくべきか―中医協総会(2)
2019.4.11.(木)
分娩を取り扱う医療機関数が減る中では、限られた産婦人科に妊産婦が集中し、産婦人科医師の負担が過重になっている。この点、「院内助産」が注目されているが、開設状況は芳しくない。院内助産の開設を進めるために、診療報酬でどのような支援が考えられるだろうか―。
4月10日に開催された中央社会保険医療協議会・総会では、こういった議論も行われました。
目次
院内助産、医師の働き方改革にも資する
2020年度の診療報酬改定に向けて、夏(2019年夏)までの第1ラウンドでは、▼患者の年代別の医療課題▼働き方改革など昨今の医療と関連の深いテーマ―について横断的に議論を行い、秋以降の第2ラウンド(個別テーマ)の議論に結び付けていく方針が中医協で固められています。
4月10日には、「年代別・世代別の課題(その1)」として▼乳幼児期-学童期・思春期▼周産期―の2点をテーマに議論を行いました。本稿では後者の「周産期」に焦点を合わせてみます。
周産期医療を巡っては、まず初産年齢の高齢化・産婦の高齢化に伴って、基礎疾患や精神疾患等をもつ妊婦(いわゆるハイリスクな妊婦)が増加しています。
日本産科婦人科学会の調査によれば、妊娠していなくても発症する「偶発合併症」を持つ妊産婦が増加しており、2010年には全妊産婦の32.2%を占めるに至っています。具体的には▼妊娠高血圧症▼妊娠糖尿病▼呼吸器疾患▼甲状腺疾患▼精神疾患―などが多いようです。
こうした、いわゆるハイリスクな妊産婦に適切な医療を提供するために、周産期母子医療センター(総合周産期母子医療センター108か所、地域周産期母子医療センター298か所)の整備が進められています。
その一方で、分娩を取り扱う医療機関は減少を続けており、結果として「限られた医療機関に妊産婦が集中し、産婦人科医の負担が過重になっている」点が大きな課題となっています。この点に関連して、医療機関で助産師が分娩を支援する「院内助産」に注目が集まっています。妊娠・分娩時に異常などが明らかになった場合には、医師による迅速な対応が可能になるとともに(医療の質向上)、医師から助産師へ業務移管(タスク・シフティング)を進めることで医師の負担軽減(医師の働き方改革)も可能となります。
ただし、院内助産の開設状況を見ると▼病院では分娩取扱い施設の15.5%▼診療所では同じく4.3%▼病院・診療所を合わせて同じく9.4%)―にとどまっており、都道府県間で大きな格差があります。
この点について吉川久美子専門委員(日本看護協会常任理事)は、▼外来における助産師の活躍拡大▼分娩取扱い施設における助産師配置の推進(例えば義務化)―などを提案しています。助産師が活躍する場面の多くは正常分娩ですが、診療報酬でどういった評価を行えるのか、今後、検討の余地がありそうです。
また今村聡委員(日本医師会副会長)も院内助産の重要性を強調。その上で、開設が芳しくない背景に、例えば「助産師の確保に係る費用の捻出・確保が困難」などの点が明らかになった場合には、診療報酬での手当ても検討することになるのではないかと見通しています。
一方、ハイリスクな妊産婦への対応を診療報酬で評価するために、A236-2【ハイリスク妊娠管理加算】、A237【ハイリスク分娩管理加算】が設けられ、逐次、充実が図られてきています。上述の偶発的合併症として多い▼妊娠高血圧症候群(重症)▼糖尿病▼精神疾患―を持つ妊産婦も評価の対象に含まれていますが、さらなる拡充が検討される可能性があります。
松本吉郎委員(日本医師会常任理事)は、「ハイリスクな妊産婦への対応充実の重要性は論を待たない。十分に支援していく必要がある」旨を強調しています。
妊婦への医薬品使用、「妊娠と薬情報センター」との連携強化を
また妊娠中には「医薬品の使用」について、胎児毒性などを考慮した十分な配慮が必要となります。しかし多くの医薬品(9割程度とみられる)では、添付文書にも「妊婦に対する安全性は確認されていない」旨の記載にとどまっており、医師は処方の判断に苦慮しています。
この点、国立成育医療研究センターを中心に「妊娠と薬情報センター」の整備が進められ、妊婦への副作用情報などを収集・データベース化して添付文書への反映に向けた提言を行うとともに、個別医療機関からの相談対応も実施(年間2000件程度の相談対応を実施)しています。相談内容をみると、とくに精神疾患系の医薬品に関するものが多い(相談内容の半数近い)状況が示されました(関連記事はこちら)。
2019年4月現在、「妊娠と薬情報センター」と連携ネットワークを構築している病院(拠点病院)は全国に52か所あり、こうした拠点病院と地域の産科医療機関とが連携を強化することで、より安全・適切な「妊婦への医薬品処方」が可能になると期待されます。こうした点も診療報酬でどういった評価が可能なのか、今後、中医協で検討される可能性があるでしょう。
妊婦加算の「妊産婦に配慮した外来医療」という方向性に誤りはない
ところで2018年度の診療報酬改定では、「外来」診療において妊娠の継続や胎児に配慮した適切な診療を評価する【妊婦加算】が創設されました(前述のハイリスク妊娠管理加算などは『。しかし、制度への十分な理解が進まず、一部から強い批判を受け「凍結」措置が取られています(関連記事はこちらとこちらとこちら)。
2020年度の次期診療報酬改定に向けて、「妊産婦への医療提供の在り方」を幅広く検討し、診療報酬での評価の在り方を検討していくことになっています。
この点について中医協では、診療側・支払側双方とも「【妊婦加算】の目的であった『妊婦を総合的に支援していく』方向性そのものには誤りはない」ことを再確認(関連記事はこちら)。ただし支払側の幸野庄司委員(健康保険組合連合会理事)は「患者の納得感を第一に考えるべき」と主張したのに対し、診療側の松本委員は「患者負担の在り方は医療保険制度全体の中で検討すべき事項であり、中医協では医療技術の評価に絞って検討する必要がある」との考えを示しています。
高度な医療を提供するためには一定のコストが必要なため、各種加算や点数の引き上げが求められます。しかし、これらは「患者負担増」に繋がります(とくに外来で顕著)。「優れた医療を受けるためには、患者・国民も相応の負担をしなければならない」点を、国民全体で認識することも必要でしょう。患者・国民には「上手な医療へのかかり方」も求められていますが、自己負担(一部負担)についても適切な理解が必要です。
なお、現在、医療にとどまらず保健・福祉面も含めた「妊産婦への支援」をどう進めるか、といった議論が別の検討会(妊産婦に対する保健・医療体制の在り方に関する検討会)で進められています。検討会では、5・6月(2019年5・6月)にも意見を取りまとめる予定で、その意見も踏まえた検討が中医協で行われることになります(関連記事はこちらとこちら)。
がん患者の鎮痛に用いるナルベイン注などを在宅自己注射の対象薬剤に追加
4月10日の中医協総会では、次の3医薬品を在宅自己注射の対象薬剤に追加することも了承されました。
▽中等度・高度の疼痛を伴う各種がんの鎮痛に用いる「ヒドロモルフォン塩酸塩製剤」(販売名:ナルベイン注2mg、同20mg)を、C108【在宅悪性腫瘍等患者指導管理料】およびC108-2【在宅悪性腫瘍患者共同指導管理料】の対象薬剤とする
▽アトピー性皮膚炎・気管支喘息の治療に用いる「デュピルマブ(遺伝子組換え)製剤」(販売名:デュピクセント皮下注300mgシリンジ)を、C101【在宅自己注射指導管理料】の対象薬剤とする(なお、気管支喘息の治療に本剤を用いる場合の最適使用推進ガイドライン等が新たに発出されている)
▽バイオシミラー(バイオ後続品)である「エタネルセプト(遺伝子組換え)[エタネルセプト後続2]」(販売名:エタネルセプトBS皮下注10mgシリンジ1.0mL「TY」ほか)(関節リウマチ等の治療に用いる)を、C101【在宅自己注射指導管理料】の対象薬剤とする
2020年度の材料価格制度改革、6月から課題整理などを開始
なお、4月10日には、中央社会保険医療協議会の「保険医療材料専門部会」も開催され、2020年度の材料価格制度見直しに向けて、▼6月頃から「主な課題と進め方の確認」「保険医療材料等専門組織からの意見聴取」「関係業界からのヒアリング」などを進める▼秋頃から具体的な議論を深める―という大きなスケジュールを了承しています。
2018年度改定に続き、▼イノベーションの評価▼迅速な保険導入の評価▼機能区分特例の在り方―などが議論されるとともに、「2019年9月に材料価格調査が行われるが、2019年10月には消費税対応改定が行われる見込みであり、2020年4月の価格見直しをどう考えるか」という重要テーマもあります。城守国斗委員(日本医師会常任理事)や幸野委員からは「スケジュールの前倒しも検討すべき」との意見が出されています。
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