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母子手帳を活用し、妊産婦の診療情報を産婦人科医と他診療科医師が共有せよ―妊産婦保健医療検討会

2019.3.19.(火)

 妊産婦において、呼吸器疾患や糖尿病などに罹患した場合、産婦人科ではなく、当該診療の専門医(内科など)にかかることが求められる。その際、当該妊産婦の診療情報(どのような治療を行い、どういった医薬品を処方したのかなど)を共有するために「母子手帳」の活用が有効ではないか。母子手帳に「他診療科医師の記載欄」を設けたり、母子手帳を電子化し、スマートフォンのアプリにすることなども検討してはどうか―。

 3月15日に開催された「妊産婦に対する保健・医療体制の在り方に関する検討会」(以下、検討会)で、こういった議論が行われました。

3月15日に開催された、「第2回 妊産婦に対する保健・医療体制の在り方に関する検討会」

3月15日に開催された、「第2回 妊産婦に対する保健・医療体制の在り方に関する検討会」

 

産婦人科医と他診療科医が妊産婦の情報を共有するため「母子手帳」を活用すべき

 妊産婦の診療については、通常よりも慎重な対応や胎児・乳児への配慮が必要となることから、診療に積極的でない医療機関が存在することも指摘されています。例えば、妊婦が風邪などで内科診療所などを受診した場合、「当院では妊産婦の診療は難しい。産婦人科のクリニックや、産婦人科のある病院を受診してほしい」と要請されるケースもあるといいます。

こうした状況を改善するために、2018年度の診療報酬改定では、【妊婦加算】(初診料や再診料、外来診療料などの加算)が新設されました(関連記事はこちら)。しかし、「十分な説明なく妊婦加算が算定される」「通常の患者と同様と考えられるコンタクトレンズ処方などでも妊婦加算が算定される」との指摘があり、また「妊婦税である」などの偏った意見が大手マスコミ報道等でもなされるようになり、【妊婦加算】は今年(2019年)1月1日より凍結されています(関連記事はこちらこちらこちら)。

もっとも、妊産婦への適切な保健医療サービス提供の必要性は変わっておらず、検討会で、「妊婦」「産婦」も含めた保健・医療のあり方を幅広く議論し、2020年度の次期診療報酬改定論議に結びつけることになりました。検討会では今年(2019年)5、6月を目途に意見を取りまとめ、それをベースに「妊婦の妊娠の継続や胎児に配慮した適切な診療」「産婦の不安解消なども踏まえた適切な診療」を評価する診療報酬(加算など)の要件(施設基準や算定要件)を中医協で検討することになりそうです(関連記事はこちら)。

3月15日の検討会では、妊産婦への医療のあり方について委員・参考人から意見発表が行われ、これに基づく議論を行いました。

 
産婦人科医である中井章人座長代理(日本産科婦人科学会代議員、日本医科大学多摩永山病院院長)は、妊婦の高齢化に伴い「偶発合併症」(妊娠とは直接関係のない▼子宮疾患▼呼吸器疾患▼糖尿病▼精神疾患▼甲状腺疾患―などの合併症)が、2001年から2010年までの10年で10ポイントと急増していることを紹介。さらに、母体が高齢になるほど、周産期死亡率の上昇(25-29歳に比べ45歳以上では3倍近くなる)や妊産婦死亡率の上昇(19歳以下に比べ40歳以上では13倍超になる)などのハイリスクになることを強調しました。
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その一方で、▼分娩取り扱い施設の減少(2018年時点で、2006年に比べ785施設・2017年に比べ47施設の減少)▼産婦人科医師数の増加度合いが小さい▼病院の産婦人科医の労働時間が長い―など、産婦人科領域の医療提供体制が脆弱化している状況があります。

少ない産婦人科医で、ハイリスクの妊産婦に対応しなければならないことから、他の診療科の医師や行政機関などのサポートが求められます。中井座長代理は、妊産婦に適切な医療提供を行うためには、▼他診療科の医師にも、妊産婦診療への配慮や理解を深めていく▼疾患の専門性や妊産婦の利便性(アクセスなど)を考慮し、より多くの医療機関で妊産婦診察が可能になるような研修等を行う▼診療科間の情報(診断・処方など)共有をはかるために、診療情報提供書だけでなく「母子手帳」などを活用する―ことが重要と提言しています。

 
また、総合診療に携わる井上真智子構成員(浜松医科大学地域家庭医療学講座特任教授)は、妊産婦の診療にあたっては、例えば、▼インフルエンザ、腎盂腎炎、虫垂炎、リステリア感染症などでは「妊娠中に重症化しやすい」▼パルボウィルスB19感染症、風疹、梅毒などでは「母子感染に注意が必要となる」▼劇症型溶血性レンサ球菌感染症や絨毛膜羊膜炎疾患などでは「母児ともに重症化しやすい」―という点に特段の注意が必要であり、「妊娠していない女性の診察」に比べ、よりしっかりとした鑑別が必要であることを強調。また、妊産婦においては、▼高血圧▼糖尿病▼甲状腺機能異常▼喘息▼抗けいれん薬、向精神薬等の使用―といった慢性疾患について、長期的なフォローが必要になることも紹介しました。

このように妊産婦の診療では「特別の配慮」が必要となることから、内科医などの「かかりつけ医」においては、▼妊娠前▼産後▼育児期―の全過程を通じた「包括的支援」という視点を持つことが求められ、「産婦人科医」「内科医などのかかりつけ医」「精神科医」「歯科医」「行政機関」などの連携体制を地域で構築していくことが極めて重要になると井上構成員は訴えます。
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中井座長代理・井上構成員ともに「産婦人科医と他診療科医との連携」の必要性を強調しており、その際の連携ツールとして有用なのが「母子手帳」(母子健康手帳)でしょう。中井座長代理や井上構成員らは、「母子手帳の電子化を進め、スマートフォンに診療情報(妊娠しているか、当該妊産婦の診療で注意すべき点はなにか、産婦人科医以外の診療科で、どういった治療を受け、どういった医薬品を処方されたか、など)を共有できるようにしてはどうか」といった意見も提示しています。

もっとも電子化を進める際には、セキュリティ確保などの面での検討も必要となるため、将来的な検討課題に据え、当面は「今ある母子手帳を活用すべき」との意見も出ています。石井和美構成員(知ろう小児医療守ろうこども達の会代表補佐)は、「妊産婦は産婦人科医の意見をよく聞く。産婦人科医から妊産婦に対し、『風邪で内科にかかったときや、口腔内の治療で歯科医にかかったときも、窓口に母子手帳を出すようにしてください』と伝えることで、情報共有が相当程度可能になるのではないか」とコメント。

この点、井上構成員は「母子手帳に、かかりつけの内科医など、他の診療科に係った場合に、その医師などが診療内容や処方医薬品を記載する欄を設けてはどうか」と提案しています。

産科医・内科医等に加え、「薬剤師」が連携することで適切な医薬品使用が可能に

 また、やはり総合診療に携わる村島温子参考人(国立成育医療研究センター 周産期・母性診療センター(母性内科)「妊娠と薬情報センター」センター長)は、妊婦においては「薬の使い方」が非常に重要になるものの、産婦人科以外の内科医等では「リスクを負いたくない」「妊婦の診療に自信がない」「多忙である副作用情報などを調べる時間がない」といった理由から、妊産婦の診療に消極的になることもあると指摘。

この点、後二者(自信がない、多忙である)の課題については、「薬剤師との連携」で相当程度解消できると見通し、「産婦人科医と内科などのかかりつけ医」との連携に加え、「薬剤師との連携」も極めて重要であると訴えています。この点、国立成育医療センターをはじめ、全国51の病院では「妊娠と薬情報センター」を設置しており(うち5病院では2019年度から設置)、妊婦への医薬品投与に関するエビデンス構築や各医療機関に対する相談業務などを実施しています。
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薬剤師や医師が「妊娠中の医薬品使用」について適切な説明を行うことで、妊婦の「医薬品の使用リスクに関する不安の軽減」や「妊娠の継続意思の向上」(医薬品使用後に妊娠が発覚した場合、奇形などを心配し中絶を選択する妊婦もいる)につながるという研究結果もあります。
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なお、村島参考人からは、日本母性内科学会において、産婦人科領域以外の医師が妊婦診療スキルを身に着ける研修「母性内科プロバイダーコース」を実施しており、そこでは常に「すぐに満席になる」など、産婦人科領域以外でも、「妊産婦の診療に積極的に携わろう」と考える医師が増えてきているのではないかと見通しています。

 こうした研修を受けた医師が増え、産婦人科医と連携することで、妊産婦への医療提供体制が充実していくことが期待されます。

 
 
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