診療報酬で生活習慣病の重症化予防、治療と仕事の両立をどう進めていくか―中医協総会(2)
2019.4.26.(金)
40歳台では、生活習慣病に罹患しても医療機関を受診しない人が多い。重症化予防に向けてどのように受診勧奨等を行っていくべきか。また、治療と仕事の両立に向けて、「がん」に加えて脳血管疾患や心疾患などでも「両立支援ガイドライン」が作成されてきている。ガイドラインに沿った主治医と産業医との連携をどう診療報酬で評価していくべきか―。
4月24日に開催された中央社会保険医療協議会・総会で、こういった議論が行われました。
生活習慣病患者の利便性も考え、オンライン診療を拡大すべきか
2020年度の次期診療報酬改定に向け、夏(2019年夏)までの第1ラウンドでは、▼患者の年代別・年代別の医療課題▼働き方改革など昨今の医療と関連の深いテーマ―について横断的に議論を行い、秋以降の第2ラウンド(個別テーマ)の議論に結び付けていきます(関連記事はこちら)。
4月24日の中医協総会では、「年代別・世代別の課題(その2)」として▼青年期-中年期▼高齢期▼人生の最終段階―の3点をテーマに議論を行いました。本稿では「青年期-中年期」に焦点を合わせ、高齢期・人生の最終段階については別稿でお伝えします。
青年期-中年期における医療の重要課題として、厚生労働省保険局医療課の森光敬子課長は、(1)生活習慣病に対する継続的な管理(2)治療と仕事の両立のための産業保健との連携(3)歯科疾患の管理―の3項目を掲げました。
まず(1)の生活習慣病は「要介護の原因の6割を占める」「死因別死亡割合の6割を占める」「一般診療医療費の3割を占める」に至っており、発症予防・重症化予防が極めて重要です。
しかし、有病者における「適切な治療を受けている者」の割合を年代別に見ると、高血圧症・糖尿病・高脂血症のいずれでも「40歳台で低い」状況です。
この背景について、支払側の吉森俊和委員(全国健康保険協会理事)や幸野庄司委員(健康保険組合連合会理事)、宮近清文委員(日本経済団体連合会社会保障委員会医療・介護改革部会部会長代理)らは、「働き盛りで、医療機関にかかる時間がない」ことがあると指摘。受診の機会を広げるために「オンライン診療の拡大」を検討すべきと提案しています(関連記事はこちら)。
これに対し診療側の松本吉郎委員(日本医師会常任理事)と今村聡委員(日本医師会副会長)は、「オンライン診療は受診困難な患者に対し、受診の機会を確保するもので、利便性を確保するためのものではないのではないか」と慎重な考えを述べています。オンライン診療にはさまざまな可能性が秘められていますが、▼触診ができない▼匂いなどを覚知できない―といった限界があり、あくまで「対面診療を補完するもの」という原則を重視した考えと言えるでしょう。
今村委員は「対面診療と同等の効果があるとのエビデンスが得られた段階で、拡大を検討していくことになろう。現状では、限られた医療機関でのみの実施にとどまっており、今後、学会等が主導してエビデンスを構築していくことが求められる」との見解も示しています。
関連して、保険診療のみならず、自由診療も含めた「オンライン診療」全般の指針の改訂に向けて議論が、厚労省の別の検討会(オンライン診療の適切な実施に関する指針の見直しに関する検討会)で行われており、そこでは「仕事が忙しく、すぐに医療機関を受診できない」ケースについて「対面原則の例外」(初診時は対面診療とし、その後も継続して対面診療と組み合わせなければならない)とはできないとの方針をすでに固めています(状態の安定した生活習慣病患者に対し、対面診療を補完するためにオンライン診療を行うことは可能である)(関連記事はこちらとこちらとこちらとこちら)。
また、生活習慣病患者に総合的な指導管理を行うことを評価する【生活習慣病管理料】について、早くも診療側の松本委員は「推進のための要件緩和」を求める一方、支払側の幸野委員は「アウトカムの算定要件化」を求めており、秋以降に算定要件をめぐる激しい論議が行われそうです。
なお生活習慣病は、初期段階では「自覚症状がなく」、健康診査等で初めて「生活習慣病に罹患している」ことに気づく、という点も注目されます。このため、生活習慣病の早期発見・早期治療に向けて、40-74歳を対象にした特定健康診査(特定健診、いわゆるメタボ健診)・特定保健指導が重要ですが、2016年度の実施率は特定健診51.4%(目標値70%以上)、特定保健指導17.0%(同45%以上)にとどまっています。とくに、市町村国保や被用者保険の被扶養者で実施率が低く、支払側の幸野委員は「保険者の責任が大きい」と反省の弁を述べています(関連記事はこちら)。
治療と仕事の両立を支援する【療養・就労両立支援指導料】、対象疾患拡大も検討へ
また(2)の「仕事と治療の両立」は、患者の健康と生活を守るために非常に重要な項目です。
厚労省の調査では、中高年における離職理由の3番目に「健康がすぐれなかった」(男性10.5%、女性14.2%)が上がっており、例えば、がんや心疾患、女性においては月経関連疾患などで、「治療と仕事の両立」が重要課題になっていると考えられます。
2018年度の前回診療報酬改定では、まず両立支援ガイドラインが作成されていた「がん」にターゲットを絞り、▼がん治療に当たる主治医と職場の産業医が連携し、就労しながらのがん治療継続に関する指導等を行うことを評価する【療養・就労両立支援指導料】(6か月に1回、1000点)▼さらに専任の看護師・社会福祉士による相談体制を設けることを評価する【相談体制充実加算】(療養・就労両立支援指導料の加算、500点)―が創設されています(関連記事はこちら)。
現在、がん以外にも▼脳血管疾患▼心疾患―について仕事と治療の両立支援ガイドラインが作成され、さらに▼難病▼糖尿病▼心疾患―についても、今後、両立支援ガイドライン作成が進められる見込みであり、【療養・就労両立支援指導料】の対象疾患拡大に向けた検討がなされると予想されます。
この点、診療側の城守国斗委員(日本医師会常任理事)は「疾患治療の主治医と職場の産業医との連携」の重要性を強調するとともに、健康確保対策が十分とは言い難い「零細企業」対策を検討する必要性を指摘しています。
こうした「治療と仕事の両立」は、前述した(1)の生活習慣病対策にも関連してくるでしょう。「仕事のために医療機関を受診できない」状況が生活習慣病治療のハードルになっているとすれば、「オンライン診療の拡大」だけでなく、「従業員が医療機関を受診しやすい環境」を整備していくことが最も重要でしょう。支払側委員の中には「企業経営者代表」も含まれており、こうした点を早急に検討し、実施することが期待されます。
なお、(3)の歯科疾患の管理に関しては、▼成人に対するう蝕、歯周病、破折による抜歯等を減少させるための取り組み▼成人の歯周病重症化予防に向けた取り組み―を、今後、具体的に検討していくことになります。
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