オンライン診療等の実施指針案を固まる、技術革新等踏まえて毎年改訂―厚労省検討会
2018.3.29.(木)
保険診療・自由診療を問わず、オンライン診療を実施する場合には、「直接に対面診療を行った患者のみに実施することが原則である」「患者の同意を得て、診療計画に沿って、対面診療と組み合わせて実施する」「情報漏えい等のセキュリティに十分配慮する必要がある」といったルールを遵守しなければならない―。
厚生労働省の「情報通信機器を用いた診療に関するガイドライン作成検討会」(以下、検討会)は3月29日に、こういった内容の実施指針(オンライン診療の適切な実施に関する指針)案を大筋で了承しました。文言修正等を経て、明日(3月30日)、厚労省から通知として発出される予定です。医療現場からの意見・質問が多ければ「解釈」「Q&A」なども作成されることになるでしょう(関連記事はこちらとこちら)。
また技術革新やオンライン診療の拡大状況などを踏まえて、当面の間、指針は「毎年改訂」される見込みです。
目次
「直接の対面診療」によって信頼関係が構築された患者にのみ、オンライン診療が可能
スマートフォンなどを活用した診療(オンライン診療)が既に広く実施されていますが、「例えば患者情報の漏えい等を防止するための対策が十分にとられているのか」「本来、対面でなすべき診療をオンラインで行われていないか」などといった疑問点も指摘されます。そこで検討会では、安全かつ有効にオンライン診療を実施するためのルール(ガイドライン・指針)作りに向けた議論が進められてきました。4月1日から保険導入された「オンライン診療料」「オンライン医学管理料」を算定する場合は(関連記事はこちら)もちろん、自由診療やオンラインによる受診勧奨(患者からの症状の訴えや問診などをもとに、疑われる疾患を判断し、適切な診療科を選択し、受診を勧めるサービス)を行う場合にも、指針を遵守しなければいけません(患者の症状等に関する医学的判断を伴わず、一般的な情報提供にとどまる場合は指針の対象外)。
指針の大枠は、3月9日の前回会合で示されており、メディ・ウォッチでもご紹介しましたが、改めて、ポイントを絞って指針案の内容を見ていきましょう(関連記事はこちら)。
まずオンライン診療は、▼患者の日常生活情報も得て、医療の質を向上させる▼患者が医療にアクセスする機会を増やす▼患者の能動的治療参加により、治療の効果を最大化する―ことを目的に実施する必要があります。医師の都合で行われたり、対面診療の方がふさわしい場合にもかかわらずオンライン診療が行われるようなことがあってはいけません。このため、医師は次の点に特に留意する必要があります。
(1)「医師と患者の直接的な関係」が存在する場合に限りオンライン診療が行われる。初診は「対面診療」が原則で、その後も「同一医師による対面診療とオンライン診療の組み合わせ」が求められる
(2)「オンライン診療で十分情報を得られるか、適切な診断が行えるか」を慎重に判断し、これが困難な場合には、速やかに「対面診療」に切り替える。また情報漏えい等が生じないような対策を講じることも医師に求められる
(3)通常診療と同じく、「自ら行ったオンライン診療の有効性」を定期的に評価しなければならない
(4)オンライン診療には「触診や匂いなどを覚知できない」という限界があり、「患者に不利益がある」ことを事前に説明しなければならない
(5)「治験」「臨床試験」など安全性の確立されていない医療を提供すべきでない
(6)「患者が実施を求める場合」にのみ実施されるべきで、研修目的や医師側の都合で実施してはならない
一定の要件満たせば、汎用ビデオ電話サービス等によるオンライン診療も可能
(2)で示されているように、オンライン診療を実施するに当たっては情報漏えい等が生じないようなセキュリティ対策を講じる必要があります。この点、指針案では、次のような考え方を示しました。従前は、「想定される4パターン」について具体的な対策案が例示されていましたが(関連記事はこちら)、「技術革新等により必要な対策は刻々と変化する」「例示が独り歩きしてしまう可能性もある(例示ではあるが、「必要な仕様」と誤認される可能性もある)」ことなどを考慮し、▼基本的な考え方▼具体的な対策「例」―に分けた記載ぶりに改められています(内容は従前どおり)。
【オンライン診療システムと、電子カルテ等の医療情報システムとを接続しない場合】
▽患者側端末:患者所有のスマートフォンなどが想定され、セキュリティ状況は多様である。オンライン診療システム提供者(民間のオンライン診療サービス提供事業者など)側で、十分なセキュリティ対策を講じる必要がある。
▽医師側端末:不正アクセスや情報漏えい等のリスクを考慮し、「医師の個人所有スマートフォン」などを使用する場合には、定期的にセキュリティ対策実施状況を確認することが求められる
▽ネットワーク:▼管理者権限の設定▼適切な認証▼通信の暗号化―などが必要で、不特定多数者が利用できる公衆無線LANは、緊急時等以外は使用しない
【オンライン診療システムと、電子カルテ等の医療情報システムとを接続する場合】
医療情報安全管理関連ガイドラン(3省4ガイドライン:▼医療情報システムの安全管理に関するガイドライン(厚労省)▼ASP・SaaSにおける情報セキュリティ対策ガイドライン(総務省)▼ASP・SaaS事業者が医療情報を取り扱う際の安全管理に関するガイドライン(同)▼医療情報を受託管理する情報処理事業者における安全管理ガイドライン(経済産業省)―)に準拠した対策が必要である。例えば、「電子カルテなどの医療情報システムへの不正侵入防止対策の実施」「個人所有端末の使用禁止」「サーバーの国内法適用場所への設置」などに留意する必要がある。
多くのオンライン診療では、前者の【オンライン診療システムと、電子カルテ等の医療情報システムとを接続しない】ことになると想定されます。指針案では、現在の情報通信技術等に照らし、例えば、次のような対策をとってはどうかと例示しています。
▽患者側・医師側端末:▼JPKI(公的個人認証サービス)やHPKI(厚労省による医療従事者資格等の電子証明書)を利用した認証▼クライアント証明書の導入▼ID・パスワードの設定―などを、オンライン診療システム提供者が実装する
▽オンライン診療システム:▼患者個人データの蓄積・残存の禁止▼アクセス権限の管理(ID・パスワードや生体認証等の複数要素による認証が望ましい)▼不正アクセス防止策(IDS/IPS設置が望ましい)▼アクセスログの保全(ログ監視実施が望ましい)▼ウイルス対策、OS・ソフトウェアのアップデート―などを実施する(患者の診療情報などを保存することは認められないが、不正アクセス等を監視するため「アクセスログ」については保存しなければならない)
▽ネットワーク:▼信頼性の高い機関が発行するサーバー証明書を用いた通信の暗号化(TLS1.2)▼管理者権限の設定▼適切な認証▼通信の暗号化―などが必要で、不特定多数者が利用できる公衆無線LANは、緊急時等以外は使用しない
上記のような要件を満たしていれば、「汎用ビデオ電話サービス」などを利用したオンライン診療も可能です。なお、患者が同意すれば、必ずしも上記要件を満たしていない、一般に広く行われているビデオ電話サービス等を活用することも考えられます。ただし、「患者自身の情報が漏えいする」リスクなどを考慮すれば、後者については慎重に考慮すべきではないでしょうか。
指針案では、こうした点について▼患者▼医師▼オンライン診療システム提供事業者―の3者で「合意」(十分に分かりやすく説明することが大前提となる)することが重要と指摘します。
なお、上記のような要件を満たしているかどうかは、一般の医師には判断できません。そこで今村聡委員(日本医師会副会長)から「サービス認証」の仕組み創設が強く要望されており、厚労省・経済産業省・総務省の3省合同で、認証の仕組みづくりに向けた検討が進められることが決まりました。
あわせて、医師にも一定の「情報セキュリティに関する知識」が求められる時代になってきています。指針では医療関係団体などが研修を行うことを求めており、厚労省も一定の支援を行っていくことになりそうです。
オンライン診療と直接の対面診療を組み合わせた「診療計画」に沿った実施が必要
次に、オンライン診療の「準備」に関する留意点を見ていきましょう。
まず基本理念の(6)にあるとおり、オンライン診療は「患者の同意」が必要で、かつ(1)のとおり「医師と患者に直接の関係」が構築されていることが大前提となります。
したがって、医師には、▼オンライン診療で得られる情報は限られており、対面診療との組み合わせとなることを説明する▼「患者がオンライン診療を希望する」旨を明示的に確認する―ことなどが求められます。
また、オンライン診療の前に「直接の対面診療が行われている」ことが原則となります(関係構築のために当然必要)。ただし、▼患者がすぐに適切な医療を受けられない状況にある場合▼チームで在宅医療を行い、特定の複数医師が関与することが診療計画で明示されている場合―には、例外的に「直接対面診療を行っていない医師」がオンライン診療を行うことも認められます。
専ら想定されるオンライン診療として、指針案では▼生活習慣病等の慢性疾患について、定期的な直接の対面診療の一部をオンライン診療に代替し、医師及び患者の利便性の向上を図る▼生活習慣病等の慢性疾患について、定期的な直接の対面診療にオンライン診療を追加し、医学管理の継続性や服薬コンプライアンス等の向上を図る―ことなどを例示しています。
この想定例から、オンライン診療は、原則として「計画的に実施」ものであることが読み取れます。指針案では、次のような「診療計画」を作成し、患者の合意を得ておくべきと強調しています。
▽具体的な診療内容(疾病名、治療内容等)
▽直接の対面診療、検査との組み合わせに関する事項(頻度やタイミング等)
▽診療時間に関する事項(予約制等)
▽診療方法(使用する情報通信機器等)
▽「オンライン診療を行わない」と判断する条件、条件に該当した場合に直接の対面診療に切り替える旨
▽急病急変時の対応方針(自らが対応できない疾患等の場合は、対応できる医療機関の明示)
▽セキュリティリスク(情報漏えいなど)に関する責任の分担と範囲
また、患者や医師が「オンライン診療の映像や音声を記録したい、記録する必要がある」と考える場面も出てくるでしょう。この場合、情報漏えい等のリスクが飛躍的に高まるため、前述した「セキュリティ対策」を万全にしておく必要があるとともに、事前に「情報の記録・保存」に関する取り決めをしておく必要があります。
「オンライン診療では情報収集が不十分」と判断した場合、対面診療への切り替えを
次に、実際のオンライン診療の場面において、留意すべき事項等を見てみましょう。
例えば、医師・患者の双方がスマートフォンを用いてオンライン診療を行う場合、物理的には、両者がどこにいても問題なさそうです。しかし、やりとりする情報が「患者の心身に関する」ものであるため、「どこで実施してもよい」というわけにはいきません。
指針では、医師側に対し、▼騒音で音声が聞き取れない、通信が不安定といった状況でオンライン診療を行ってはならない▼診療録などを把握できるなど、医療機関にいる場合と同程度に患者の心身の状態に関する情報を得られる体制を整えるべき―とし、例えば「所属する医療機関に容易にアクセスできるように努める」こと望ましいとしています。なお、保険診療上の「オンライン診療料」においては、医師が医療機関でオンライン診療を行うことが要件とされています。
一方、患者については、▼対面診療が行われる場合と同程度に清潔かつ安全である▼プライバシーが保たれる(物理的に外部から隔離される)―場所でオンライン診療を受けることが求められ、例えば「職場の一室」などが例示されています。
さらに、オンライン診療を行う際には、「情報が限定される」ことに鑑み、次のような点が求められます。
▽診療中に「必要な情報が得られていない」と判断した場合には、速やかに「直接の対面診療」を行う
▽リアルタイムの視覚・聴覚情報を含む情報通信手段を採用する(文字や写真、録画動画のみでのオンライン診療完結は認められない)
▽1人の医師が、同時に複数の患者に対しオンライン診療を行うようなことは認められない
▽医師のほかに医療従事者が同席する場合には、都度、患者に説明し、同意を得なければならない
▽1対1診療を確認するため、オンライン診療の開始・終了時間をアクセスログとして記録するシステムが望ましい
▽オンライン診療実施の前に、画像の色彩や動作などを確認しておくことが望ましい
ところで、オンライン診療の中で薬剤の処方等はどう考えるべきでしょう。オンラインで処方箋が手に入れば患者の利便性は大きく向上しますが、医薬品使用には多大なリスクが伴うため、指針案では安全性を重視して、次のような考えを示しています。
▽「現にオンライン診療を行っている疾患の延長」となる症状に対応するための医薬品は、医師の判断で、オンライン診療による処方を可能とする
▽新たな疾患に対して医薬品の処方を行う場合には、原則として「直接の対面診療」に基づくこととする
▽重篤な副作用が発現するおそれのある医薬品の処方は特に慎重に行い、リスク管理(処方後の患者の服薬状況を把握するなど)に最大限努める
▽医師は、患者が現在服用いている医薬品を確認する(患者側は正確に申告する)
▽「かかりつけ薬剤師・薬局による医薬品の一元管理」を患者に求めることが望ましい
なお政府の規制改革会議からは「遠隔服薬指導の推進」が求められており、厚労省で方向性が固まった暁には、指針案に追記されることになります。
オンライン診療の拡大、技術革新を踏まえ、当面は「毎年、指針を改訂する」見込み
前述したように、オンライン診療はすでに一部の医療機関で広く実施されており、また4月からは一定の要件を満たせば診療報酬(オンライン診療料やオンライン医学管理料等)を算定することが可能になるため、今後、拡大していくと予想されます。
また情報通信技術は急速に進歩していることから、指針が「時代遅れとなり実態にそぐわない」事態が早晩生じることになるでしょう。
厚労省は、こうした点に鑑み「当面は、ショートスパンで頻回に指針を見直す」考えを示しており、「毎年の改訂」が行われる可能性が高そうです。
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