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2026年度診療報酬改定で医療技術の適切な評価・点数引き上げを行い、病院経営の持続性を確保せよ―内保連・外保連・看保連

2025.3.7.(金)

物価高騰・人件費高騰・医療従事者の働き方改革などによって病院経営は未曽有の危機に瀕している。2026年度の次期診療報酬改定で「医療技術の適切な評価」「診療報酬の総枠拡大・点数引き上げ」などを行い、病院経営の持続性を確保せよ—。

内科系学会社会保険連合(内保連)・外科系学会社会保険委員会連合(外保連)・看護系学会等社会保険連合(看保連)は3月6日に「三保連合同シンポジウム」を開催し、こうした見解を明らかにしました。

病院経営は危機的な状況、病院経営の持続性・安定性を確保する財政的支援が必要

内保連・外保連・看保連は、それぞれ関係する医学・看護学会で構成される組織で、関連領域の診療の質向上・それを評価する診療報酬のあるべき姿を学術的な視点に立って研究し、提言を行っています。3団体が集う三保連シンポでは、主に「次の診療報酬改定に向け、3団体がどのような要望をしていくか」を議論してきました(関連記事はこちらこちら)。

今般のシンポジウムでももちろん、2026年度の次期診療報酬改定を見据えた要望・提言論議が行われましたが、内保連の小林弘祐理事長(北里研究所理事長)は「現在、病院経営がのっぴきならない状況に陥っており、その点の議論をまずしなければならない。各病院団体の調査によれば半数超の病院が赤字である。赤字が続き病院がつぶれてしまえば、良い医療提供もできない。物価高騰・人件費高騰、医療従事者の働き方改革などでコストが上昇する一方、それをサービス価格(診療報酬)に転嫁することはできない。その一方で政界からは『現役世代の社会保険料軽減のために医療費を4兆円削減する』方針も示されており、これが現実となれば、医療現場は極めて厳しい状況に陥る。また『保険料軽減』というお題目は、聞こえは良いが、医療提供体制が崩壊し、しっぺ返しを受けるのは医療を受けられなくなる国民自身である」と強調しました(関連記事はこちら)。

内保連の小林弘祐理事長(北里研究所理事長)



関連して、▼診療報酬の引き上げを上回ってコストが増加している。高額医療機器(CT、MRIなど)についても消費税負担が大きく買い替えができない。医療の質を維持することが難しくなっている(全国医学部長病院長会議の相良博典会長:昭和大学病院長)▼多くの病院が増収・減益となっており(収益増<コスト増)、施設整備、設備買い替えなどができない状況である。これは医療安全にもかかわる問題であり、政界もそうした点を十分に考えてほしい(外保連の渡邊雅之実務委員長:がん研有明病院副院長・消化器外科部長・食道外科部長)▼いずれの病院でも増収・減益であり、病院経営の危機に陥っている。そうした中でも外科医療を維持するために人材育成に力を入れ続けなければならない。このままでは外科医療を提供できなくなる。2024年度診療報酬改定の影響や現下の病院経営状況などを検証し、2026年度診療報酬改定に向けた要望を行う必要がある。なお急性期病院の集約化もこの点で極めて重要である(外保連の瀬戸泰之会長:国立がん研究センター中央病院病院長)▼地方では患者が減少してきている。病院収益の源は患者数である(患者がゼロであれば、どれだけ高点数の診療報酬を設定しても病院の収益は上がらない)。新たな地域医療構想も含めた大きな枠組みで病院経営、今後の診療報酬を考えていく必要がある(外保連の岩中督前会長:埼玉県病院事業管理者)—などの意見が出されています。

ところで、病院経営を維持するためには「医療従事者の確保」が極めて重要となります。病院収益の柱となる診療報酬を取得・算定するためには、「施設基準で定められた人員の配置」が不可欠なためです。この点については、▼医療従事者の紹介会社・派遣会社に支払う手数料が極めて大きい。しかも人材紹介・派遣会社からの医療従事者は短期間で辞めてしまうケースも少なくなく、さらに手数料がかさむ。野放しで良いのだろうか(外保連の河野匡広報委員長:新東京病院副院長・主任部長)▼紹介会社・派遣会社では、医療従事者の知識・技術レベルを考慮しないケースも少なくなく、忸怩たる思いがある(看保連の山田雅子代表理事:聖路加国際大学教授)—といった意見が出されています。従前より「紹介・派遣会社の手数料」については「適正化できないか」との声も強く、今後も様々な角度から分析していく必要があるでしょう(関連記事はこちら)。

三保連シンポ(写真向かって右から2人目が外保連の瀬戸泰之会長)国立がん研究センター中央病院病院長)、同じく3人目が看保連の山田雅子代表理事(聖路加国際大学教授)

医療技術の適切な評価・診療報酬の総枠拡大・引き上げで、病院経営の持続性確保を

また、2026年度の次期診療報酬改定に向けて3団体からは次のような見解が示されています。

【内保連】(全国医学部長病院長会議の相良会長)

全国医学部長病院長会議の相良博典会長(昭和大学病院長)



▽大学病院には、現在、高度な医療提供・教育・研究の3つの機能が求められているが、大学病院経営も非常に厳しく、どうしても「診療」に時間を割かなければならず、研究・教育に充てる時間の確保が難しくなってきている

▽2035年度で「医師働き方改革のA水準」実現(B水準等は廃止される)には、2024年度から「3345名の医師増員」が必要となる(総労働時間を維持しながら時間外労働を1860時間以内に収めるためには、当然医師数増が不可欠)



▽大学病院医師の給与水準は他病院に比べて低く、「医師の増員→大学病院の魅力向上→給与増」が必要で、そのための財源(補助金、診療報酬等)を確保する必要がある

▽補助金等は単年度対応にとどまり、継続した給与増等を行うため「診療報酬の引き上げ」が必要となる



【外保連】(外保連の渡邊実務委員長)

外保連の渡邊雅之実務委員長(がん研有明病院副院長・消化器外科部長・食道外科部長)



▽▼外保連の手術試案(医学的見地から必要な医師配置などを勘案した手術点数)と診療報酬点数との乖離が大きな術式▼償還不可材料費が手術点数を上回る(つまり実施するだけで赤字になる)術式—が極めて多い状況は変わっていない



▽外科医、とりわけ消化器外科医は減少が続いており、このままでは20年後には半減してしまう(消化器外科手術の担い手がいなくなり、手術ができない事態に陥る)



▽ロボット支援手術のメリットは大きく(早期回復、出血量減少、合併症軽減など)、欧米に遜色ない水準にまで普及促進していく必要があるが、ロボット支援手術の多くは、1例当たり10―15万円の赤字が発生する程度の点数設定にとどまっている



▽2026年度次期診療報酬改定では、上記問題の解決とともに、「整形外科領域のKコード(手術コード)精緻化のためSTEM7の導入」「病院経営安定のために物価・人件費の高騰に対応した診療報酬点数の確保」を求めて行く



【看保連】(看保連診療報酬体系のあり方に関する検討委員会の萩原綾子副委員長:日本小児看護学会診療報酬検討委員会委員長/神奈川県立精神医療センター副院長兼看護局)

看保連診療報酬体系のあり方に関する検討委員会の萩原綾子副委員長(日本小児看護学会診療報酬検討委員会委員長/神奈川県立精神医療センター副院長兼看護局)



▽2026年度の次期診療報酬改定に向けて、(1)2040年の医療提供体制構築への寄与(2)専門性の高い看護ケア提供(3)患者のニーズに沿った受療体制確保—の3本柱を立て、32項目の診療報酬対応を要望する(現在、調整中)

(1)2040年の医療提供体制構築への寄与に関しては、▼高齢者に対する看護支援の充実(オンラインによる在宅療養指導の評価等)▼人生の最終段階における意思決定支援体制の評価(専門看護師による支援の評価等)—を検討中

(2)専門性の高い看護ケア提供に関しては、▼急性期医療現場での活用(手術室看護師の配置基準設定、救急外来での看護配置基準設定、重症患者メディエーターの配置促進等)▼周産期・生殖医療現場での活用(がん患者妊孕性相談指導の評価、NICUへの看護配置充実等)▼血液透析患者のバスキュラーアクセス指導管理—などを検討中

(3)患者のニーズに沿った受療体制確保に関しては、▼がん患者指導管理料の算定回数制限緩和による在宅移行推進▼施設変更後の排尿自立支援体制評価継続▼小児慢性特定疾病患者の成人移行期支援体制の整備—などを検討中



こうした各団体要望を踏まえ、内保連の待鳥詔洋副理事長(国立国際医療研究センター国府台病院放射線科診療科長)は次のような三保連提言を発表しています。今後、この提言に沿って各団体の具体的な改定要望が詰められていきます。

内保連の待鳥詔洋副理事長(国立国際医療研究センター国府台病院放射線科診療科長)



【診療報酬改定の重要性】
▽診療報酬引き上げと技術への適正評価
→物価上昇や人件費増加への対応として診療報酬引き上げが必要である。同時に、「もの」偏重の報酬体系から「技術」重視への転換を図り、医師の技術を適切に評価することが、国民皆保険を守るためにも不可欠である

▽人的資源の効率的・効果的な配置
→医療従事者不足が深刻化する中、効率的かつ効果的な人員配置の実現が求められる。施設基準緩和や専門性の高い看護師配置を柔軟に行うことで、患者に質の高い医療・看護を効率よく提供できる体制を整えることが必要である

▽病院経営安定化のための財政的支援
→地域医療を支える医療機関に対する財政的支援を強化し、地域格差を是正すべきである。感染症対応や救急医療といった重要分野に重点的な資源配分を行い、持続可能な医療提供体制を構築することが必要である



【提言の要点】(2026年度診療報酬改定で以下の解決策を求める)
▽診療報酬の包括的な引き上げを通じて、病院経営を安定化させる
▽医師の技術や専門性に応じた報酬評価を推進し、技術重視の報酬体系を導入する
▽専門性の高い看護師が効率的に働けるよう、専任・専従の枠組みを見直す
▽地域医療を担う医療機関への財政的支援を強化し、地域格差を是正する
▽薬の安定供給を図り、円滑な医療提供を確保する
▽高額な輸入製品の利用について財政的な支援を行う
▽感染症対応や救急医療といった重要分野に重点的な資源配分を行い、医療提供体制の持続可能性を確保する



病院ダッシュボードχ ZEROMW_GHC_logo

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