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急性期病院の集約化、NCD活用し、医療アクセスも考慮して「高度手術を行う施設が地域に何か所あればよいか」を詳細に分析―外保連

2024.11.12.（火）

心臓血管手術の集約化に向けて、【急性期充実体制加算】での足がかりができた。2026年度の次期診療報酬改定では【総合入院体制加算】の施設基準見直しが重要である—。

また急性期病院の集約化に関して、外科領域ではNCDを活用し、地域からのアクセスも考慮したうえで「どの領域の、どのような手術を行う施設が何か所あればよいか」を地域ごとに分析し、すでに「最適解」を見出している—。

現在の診療報酬体系では「効率化」の努力を進めると、「評価（＝点数）が下がってしまう」傾向にあるが、例えば「手術時間」や「手術に必要な医療従事者数」等以外の「新たな評価軸」の研究を進めている—。

ICUでは「医師の交代制勤務」が重要であり、交代制勤務が求められる【特定集中治療室管理料管理料1－4】について大幅増点を行う必要がある—。

120の外科系学会で構成される「外科系学会社会保険委員会連合」（外保連）が11月11日に開催した記者懇談会で、こうした状況報告・提言が行われました。外保連および各外科系学会でさらにデータ分析・議論を行い、2026年度の次期診療報酬改定に向けた要望事項等を詰めていきます。

1 2024年度診療報酬改定は非常に厳しい、整形外科領域でのSTEM7導入急げ
2 ICUでは「医師の交代制勤務」が重要、特定集中治療室管理料管理料1－4の大幅増点を

2024年度診療報酬改定は非常に厳しい、整形外科領域でのSTEM7導入急げ

外保連は、120の外科系学会で構成される組織で、主に外科系診療の適正かつ合理的な診療報酬のあるべき姿を学術的な視点に立って研究し、提言を行っています。例えば「実際の手術の状況を踏まえた手術点数の引き上げ」「新規の医療技術の保険適用」などを提言しており、これまでの記者懇談会でも、主に「技術的な提言」に関連するテーマが取り上げられてきました。

11月11日の記者懇談会では、この6月（2024年6月）から施行されている2024年度診療報酬改定の影響・効果等を踏まえた状況報告が行われました。

まず、改定内容全体について渡邊雅之実務委員長（がん研有明病院副院長・消化器外科部長・食道外科部長）は、▼0.88％のプラス改定であったが、うち0.61％は看護職員等の処遇改善に、0.28％は若手医師や事務職員の処遇改善に充当されている▼外保連要望の採択状況を見ると、新設要望では27.3％（2022年度の前回改定では38％）、改正要望では22.5％（同じく25％）にとどまった▼人件費比率が100％以上（つまり人件費だけで赤字となる）の手術は2022年度：2896件（91.0％）→24年度：2940件（90.4％）で、件数は増加したが、割合は若干減少した▼増点されたKコード（手術点数）は3.9%（2022年度改定では4.5%)にとどまり、とくに腹部、尿路系・副腎、心・脈管、女子性器において増点術式が少ない▼ロボット手術支援の評価充実が十分になされていない（新規は40％、増点は50％）▼ベースアップ評価料の創設、食費引き上げなどが行われたが、人件費・食費のコスト増はそれをはるかに上回っている—など「非常に厳しい」ものであったと総評。

ところで、現在のKコード（手術点数）には「手術部位が異なり、医療資源投入量（コスト）が異なるにもかかわらず、同じコード・同じ点数が設定されている」ものが散見されることから、外保連では、まず整形外科領域について「STEM7」（部位、基本操作、アプローチ、アプローチ補助器械で手術を分類するコード）の導入を求めています。2024年度改定においては「DPC全体への影響が大きい」として厚労省が導入を見送りましたが、渡邊実務委員長は「整形外科領域においてSTEM7の全面導入を強く求めていく。一部導入では整合性が取れなくなってしまう」旨の考えを強調しています（関連記事はこちら）。

外保連の渡邊雅之実務委員長（がん研有明病院副院長・消化器外科部長・食道外科部長）

ICUでは「医師の交代制勤務」が重要、特定集中治療室管理料管理料1－4の大幅増点を

また、11月11日の記者懇談会では▼日本心臓血管外科学会▼日本救急医学会・日本集中治療医学会▼日本眼科医会—から、次のような2024年度診療報酬改定の影響や課題、さらに今後の改善に向けた提案の発表が行われました。

【日本心臓血管外科学会】（同学会保険診療委員会の鈴木孝明委員：埼玉医科大学国際医療センター心臓血管外科教授、心臓病センター長、副院長）
▽心臓手術分野では、医療の質確保のために、心臓手術を実施する施設（例えば心臓血管外科医認定機構による基幹的な修練施設など）の集約化を進めており、この考え方に沿って▼【急性期充実体制加算】の施設基準に「心臓胸部大血管手術年間80例以上」の要件を加える▼【総合入院体制加算】の施設基準における「心臓手術年間40例以上」要件を「年間60例以上」に引き上げる—ことを要望した
↓
▽結果、【急性期充実体制加算】では「心臓胸部大血管手術年間100例以上」の要件追加が行われたが、【総合入院体制加算】では要件見直しが行われなかった
↓
▽【急性期充実体制加算】では「診療報酬による施設集約化の足がかかり」ができたが、さらなる施設集約化に向けて「【総合入院体制加算】での心臓手術要件の引き上げ」（大幅な引き上げは現場対応が困難であり、また急性期充実体制加算との役割分担も考える必要があるため、40件→60件程度が妥当な水準と考えられる）を2026年度改定で行うべき

心臓血管外科専門医認定機構では「心臓胸部大血管手術」実績を相当数ある病院を「研修基幹施設」と認定している（外保連1　241111）

▽400床以上で、急性期充実体制加算を届け出でている医療機関の5割程度が「心臓胸部大血管手術の年間実施件数が年間100件未満」であり、他要件を勘案すると、これら「心臓胸部大血管手術の年間実施件数が100件未満の施設」のうち10％程度で【急性期充実体制加算1】からドロップすると考えられる

2024年度改定を受けて、急性期充実体制加算1を取得できない病院が一定程度出てくると考えられる（外保連2　241111）

日本心臓血管外科学会保険診療委員会の鈴木孝明委員（埼玉医科大学国際医療センター心臓血管外科教授、心臓病センター長、副院長）

【日本救急医学会・日本集中治療医学会】（日本集中治療医学会黒田泰弘理事長：香川大学医学部医学系研究科救急災害医学教授）
▽2024年度診療報酬改定で、「宿日直許可」を得ているICUを評価する【特定集中治療室管理料5・6】が新設された（特定集中治療室管理料3・4から1000点減）
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▽現場アンケートによれば、特定集中治療室管理料1・2の10.4％、特定集中治療室管理料3・4の52.0％が特定集中治療室管理料5・6へドロップしている
↓
▽特定集中治療室管理料5・6へのドロップは「経済的損失」でもあるが、「救済措置」と見ることもできる
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▽ICUなどの役割に鑑みれば「宿日直許可」ではなく「交代制勤務」が望ましく、交代制勤務が求められている（宿日直許可が許されない）ICU等（特定集中治療室管理料1－4、救命救急入院料1－4）の大幅増点を2026年度改定で行うべきである。学会でも集中治療医や救急医の養成に力を入れていく

特定集中治療室管理料5・6等へのドロップ状況（外保連3　241111）

特定集中治療室管理料3・4では、半数が特定集中治療室管理料5・6等へドロップ（外保連4　241111）

救命救急入院料からの特定集中治療室管理料5・6へのドロップ状況等（外保連5　241111）

日本集中治療医学会の黒田泰弘理事長（香川大学医学部医学系研究科救急災害医学教授）

【日本眼科医会】（柿田哲彦副会長：柿田眼科院長）
▽例えば白内障手術について、「短期滞在手術等基本料の引き下げ」→「経営維持のための効率化」→「短期滞在手術等基本料の引き下げ」→「経営維持のための効率化」→「短期滞在手術等基本料の引き下げ」・・・という負のスパイラルに陥っている
↓
▽このため「入院による白内障手術」を取りやめる医療機関も出てきているが、高齢患者、認知症患者などでは「入院による白内障手術」がどうしても必要であり、負のスパイラルからの脱却（短期滞在手術等基本料の引き上げ）が必要である

包括報酬では負のスパイラルに陥りやすいだ（外保連6　241111）

▽短期滞在手術等基本料では「麻酔料」が包括評価されており、相当程度の医療機関では「麻酔が必要な白内障患者」を避け、一部医療機関に「麻酔が必要な白内障患者」が集中しており、後者の医療機関では、当然「麻酔のコスト」が持ち出しとなっている（赤字になるケースも少なくない）
↓
▽後者の医療機関の実態を踏まえて「白内障手術において、短期滞在手術等基本料でも麻酔料の別途算定を可能とする」見直しを行うべき

全身麻酔が必要な白内障手術等患者を忌避する医療機関が少なからずあるようだ（外保連7　241111）

日本眼科医会の柿田哲彦副会長（柿田眼科院長）

このうち心臓外科学会の提唱する「集約化」は、例えば厚生労働省の「新たな地域医療構想に関する検討会」や「医師養成過程を通じた医師の偏在対策等に関する検討会」においても同様の議論が進んでおり、「急性期病院の集約」は▼医療の質確保・向上▼病院の経営維持▼医師働き方改革—などの面で必要不可欠な取り組みになることが確認されています。

一方、自治体や地域住民からは「急性期病院が集約化され、近隣に亡くなった場合、自分や家族が急病になったときに治療を受けられなくなるのではないか」といった「医療アクセスの確保」を懸念する声も出ています（関連記事はこちら）。

この点について鈴木委員は「集約化と医療アクセスの確保は同時に議論しなければならない。とりわけ都市と地方では状況が全く異なるため、地域で両者のバランスを確保する必要がある。例えば『高度な手術を行う基幹施設』と『連携施設』に機能分化し、両者が連携を図るような体制が重要であり、NCD（National Clinical Data Base、すべての手術症例の詳細を登録する外科学会のデータベース）を用いて両者のバランスを詳しく見ることが可能になっている。また、我が国、特に都市部では『電車に数駅乗れば高度手術を受けられる大病院がある』状況だが、医療受療に対する意識も変えていく必要があるのではないか」との考えを提示。

また、外保連の岩中督名誉会長（埼玉県立病院機構理事長）はGem Medに対し「すでにNCDを活用し、地域からのアクセスも考慮したうえで『どの領域の、どのような手術を行う施設が何か所あればよいか』の地域ごとの分析が完了している」段階にあることを説明しています。

闇雲に集約化を進めるのではなく、まさに「医療の質」と「患者の医療アクセス」とのバランスをとった「地域ごとの最適解」が学術的に明らかになっていると言えます。今後の「新たな地域医療構想に関する検討会」論議の重要基礎資料になる可能性もありそうです。

他方、日本眼科医会の指摘する「医療の効率化→短期滞在手術等基本料の点数引き下げ」という負のスパイラルは、他の分野でも同様の事態が生じえます。

実際に手術全般について効率化を進めたところ、手術に必要な技術・医療従事者数・医療機器を勘案した外保連の手術点数案（外保連試案）も下がり、結果手術点数が下がってしまいました（効率化を進めると評価が下がってしまう、例えば2014年度改定における帝王切開術など、関連記事はこちら）。

これを放置したのでは「効率化を進めないほうが良い」ことになってしまうため、外保連の瀬戸泰之会長（国立がん研究センター中央病院病院長）や河野匡広報委員長（新東京病院副院長・主任部長）は「外保連では、外科手術を技術・時間・医療従事者数以外で評価する『新たな評価軸』の研究・検討を進めている」点を強調しています。

外保連の瀬戸泰之会長（国立がん研究センター中央病院病院長）

「頑張って効率化を進める」、例えば医師が技術を磨き、新たな術式等の開発を行うことなどは、患者によって「より質の高い医療を受けられる」ことにつながります。しかし、この努力が「評価（＝点数）の引き下げ」につながれば、医療界はこうした努力を放棄してしまい、結果、患者が不利益を被ります。これまでに外保連では、「新たな評価軸」として▼手術を行うbenefitのスコア化（生命維持・延命効果、QOLの維持・改善効果など）▼手術時間短縮で生命予後の改善が見込めるか、重篤な機能障害（脳性麻痺など）が防げる場合で、evidenceのあるもの▼費用対効果—などの項目を示しており、さらなる研究が進むことに期待が集まります（関連記事はこちら）。