「長期収載品」と「最も高い後発品」との価格差の「2分の1以下」を選定療養(患者負担)とせよ—社保審・医療保険部会(1)
2023.12.11.(月)
「長期収載品と後発品との価格差の一部」を選定療養(患者負担)にする議論が進んでいるが、▼医療上の必要性から長期収載品を選択した場合にはこの仕組みを導入しないが、患者希望で長期収載品を選択した場合にはこの仕組みの対象とする▼「後発品が上市されてから5年以上経過したもの」あるいは「後発品への置き換え率が50%以上のもの」を対象とする▼価格差の「2分の1以下」を選定療養(患者負担)とし、具体的な割合は中央社会保険医療協議会で議論する—こととする—。
12月8日に開催された社会保障審議会・医療保険部会で、こういった考えがまとめられました。今後、中医協で上記の検討を進め、さらに年末の「2024年度予算案」編成過程の中で「いつ、この仕組みを導入するか」を詰めていきます(同日には「入院時の食費引き上げ」方針も固めており、その記事はこちら)。
なお、同日の医療保険部会では「2024年度診療報酬の基本方針」も固めています。
目次
医療上の必要性から長期収載品を選択する場合に保険給付、患者希望の場合は選定療養
Gem Medで報じているとおり、長期収載品医薬品について「後発品との差額の一部を患者自己負担(選定療養)とする」議論が(関連記事はこちらとこちらとこちらとこちら)。
「同じ成分、効能効果で価格の安い後発品を使用してほしい。後発品を使用できる環境が整えられているにもかかわらず、あえて高額な長期収載品(先発品)を選択する場合には、差額の一部を患者自身に負担してもらう」という考え方に立ち、基本的な枠組みを社会保障審議会・医療保険部会で、詳細を中医協で検討しています。
これまでの議論で、▼医療上の必要性があって長期収載品を選択する場合には、通常通りの保険給付を行うべきではないか▼後発品が相当程度普及している場合に、長期収載品を選択する場合を選定療養の対象とすべきではないか▼長期収載品と後発品との差額全てを患者負担とするのではなく、一部とすべきではないか▼「最も高い後発品」と「長期収載品」との価格差を基準として、選定療養の範囲を検討してはどうか—といった方向が固まりつつあります。
12月8日の医療保険部会では、(1)適用場面をどう考えるか(2)どの長期収載品を対象とするか(3)選定療養の範囲をどの程度とするか—といった点についてさらに議論を深め、大枠を固めました。今後、詳細を中医協で詰めていきます。
まず(1)の適用場面について厚生労働省保険局医療課保険医療企画調査室の荻原和宏室長は、次のような考え方を提示しました。
▽医療上の必要性があると認められる場合(例:医療上の必要性により医師が銘柄名処方(後発品への変更不可)をした場合)は選定療養とせず、保険給付の対象とする
▽▼銘柄名処方されたが、患者希望で長期収載品を処方等した場合▼一般名処方で長期収載品を選択した場合—は選定療養とする
▽「医療上の必要性があると認められる場合」が処方・調剤の段階で明確になるような仕組みを整理する(例えば「選定療養とする」ケースのリスト化など)
▽薬局に後発医薬品の在庫が無いなど「後発医薬品を提供することが困難な場合」は、患者が後発医薬品を選択できないことから保険給付の対象とする
この考え方は概ね了承されており、委員から出された意見・注文(▼長期収載品を選択する場合には、その理由のレセプト記載を求めるべき(佐野雅宏委員:健康保険組合連合会副会長)▼患者希望でも使用感や効き目などの「医学的理由」が背景にある場合もあり、一定の配慮を行うべき(猪口雄二委員:日本医師会副会長)▼薬局において、明確に「医学的判断による長期収載品を選択であること」が分かる仕組みとすべき(渡邊大記委員:日本薬剤師会副会長)▼医学的判断には「理由の記載」が求められるとともに、すべて医師の裁量とせず、妥当性を担保できる仕組みを設けるべき(中村さやか委員:上智大学経済学部教授)—)を踏まえて、詳細を詰めていくことになります。
後発品登場から5年以上経過、あるいは後発品に5割以上置き換わる長期収載品を対象に
また(2)の対象となる長期収載品については、「患者が後発品を選択し、購入できる」ことが大前提となる点を踏まえ、▼後発品上市後5年を経過している▼後発品への置換率が50%に達している—ものとする考えが荻原保険医療企画調査室長から示され、了承されました。
厚労省の試算によれば、成分ベースで97%程度の長期収載品が選定療養の対象となります(後発品を選択しない場合に、患者の自己負担が高くなる)。もっとも、上述の(1)適用場面で見たように「医療上の必要性がある」「後発品が入手困難である」場合には、長期収載品を選択したとしても、通常どおりの「3割負担」等になります。
長期収載品と後発品(最高価格)との差の「2分の1以下」を選定療養として患者負担に
さらに(3)の選定療養の範囲については「長期収載品と後発品(最高価格)との価格差の2分の1以下」とする考えが示されました。「急激な患者負担増は望ましくなくい」という点と、「後発品選択を促せる程度の水準は必要である」という点を考慮した考え方ですが、詳細(具体的にどの程度にするのか)は今後、中医協で詰めていきます。
関連して荻原保険医療企画調査室長は、選定療養とする価格差の割合を「2分の1」「3分の1」「4分の1」とした場合に、患者負担がどの程度アップするのかの機械的な試算結果を示しました。
本稿では、「500円の長期収載品」と「250円の後発品」とを例にとって、3割負担の場合の患者負担額の変化を見てみましょう。
まず現在は、3割負担であり、長期収載品では500円×0.3の150円を、後発品では250円×0.3の75円を、それぞれ負担しています(これを【X】とする)。
この差額「250円」(500円-250円)の「すべて」を選定療養(患者負担)とした場合、長期収載品を選択した患者の負担額は「350円」となります。
(計算方法)
▼選定療養部分:275円
→500円(長期収載品価格)-250円(後発品価格)=250円が選定療養となり、ここに消費税(10%)が上乗せされる(保険外診療の部分には消費税が課される)
▼3割負担部分:75円
→500円(長期収載品価格)から250円(選定療養部分)を除外した250円の3割(あるいは「後発品価格(250円)」+「価格差(500円-250円)から選定療養部分を除外した部分(このケースではゼロ)」の合計の3割、と考えることもできる)
↓
▼両者を合計した患者負担総額:350円
この場合、現行の患者負担150円(X)よりも負担額は「200円高く」なり、後発品選択(75円)に比べて負担額は「275円高く」なります。
次に、差額「250円」(500円-250円)の「2分の1」を選定療養(患者負担)とした場合、長期収載品を選択した患者の負担額は「250円」となります。
(計算方法)
▼選定療養部分:137.5円
→[500円(長期収載品価格)-250円(後発品価格)]×2分の1=125円が選定療養となり、ここに消費税(10%)が上乗せされる(保険外診療の部分には消費税が課される)
▼3割負担部分:112.5円
→500円(長期収載品価格)から125円(選定療養部分)を除外した375円の3割(あるいは「後発品価格(250円)」+「価格差(500円-250円)から選定療養部分(125円)を除外した部分(このケースでは125円)」の合計の3割、と考えることもできる)
↓
▼両者を合計した患者負担総額:250円
この場合、現行の患者負担150円(X)よりも負担額は「100円高く」なり、後発品選択(75円)に比べて負担額は「175円高く」なります。
また、差額「250円」(500円-250円)の「3分の1」を選定療養(患者負担)とした場合、長期収載品を選択した患者の負担額は「217円」となります。
(計算方法)
▼選定療養部分:92円
→[500円(長期収載品価格)-250円(後発品価格)]×3分の1=83円が選定療養となり、ここに消費税(10%)が上乗せされる(保険外診療の部分には消費税が課される)
▼3割負担部分:125円
→500円(長期収載品価格)から83円(選定療養部分)を除外した417円の3割(あるいは「後発品価格(250円)」+「価格差(500円-250円)から選定療養部分(83円)を除外した部分(このケースでは167円)」の合計の3割、と考えることもできる)
↓
▼両者を合計した患者負担総額:217円
この場合、現行の患者負担150円(X)よりも負担額は「67円高く」なり、後発品選択(75円)に比べて負担額は「142円高く」なります。
さらに、差額「250円」(500円-250円)の「4分の1」を選定療養(患者負担)とした場合、長期収載品を選択した患者の負担額は「200円」となります。
(計算方法)
▼選定療養部分:68.75円
→[500円(長期収載品価格)-250円(後発品価格)]×4分の1=62.5円が選定療養となり、ここに消費税(10%)が上乗せされる(保険外診療の部分には消費税が課される)
▼3割負担部分:131.25円
→500円(長期収載品価格)から62.5円(選定療養部分)を除外した437.5円の3割(あるいは「後発品価格(250円)」+「価格差(500円-250円)から選定療養部分(62.5円)を除外した部分(このケースでは187.5円)」の合計の3割、と考えることもできる)
↓
▼両者を合計した患者負担総額:200円
この場合、現行の患者負担150円(X)よりも負担額は「50円高く」なり、後発品選択(75円)に比べて負担額は「125円高く」なります。
こうした結果も踏まえて、近く中医協で「選定療養をどの程度にするのか」を検討します。また、この見直しにより「保険給付部分も変化」します。保険給付部分の4分の1は国費に相当するため、「選定療養をどの程度にするのか」は国家予算にも大きく関係します(選定療養の割合を大きくすれば国家財政の負担は小さくなり、逆に選定療養の割合を小さくすれば国家財政の負担が重くなる)。このため、年末の「2024年度予算案」編成過程の中で「選定療養の割合を最終決定する」可能性も高いと考えられます。
また、「いつから、この仕組みを導入するか」も重要な論点です。上述のように選定療養の導入は国家財政にも大きく影響し、「早めに導入すれば国家財政の負担は小さくなる、遅く導入すれば国家財政の負担が重くなる」ためです。財政健全化の視点からは「できるだけ早く、この仕組みを導入したい」ところです。
一方、患者や医療現場では「準備期間」「広報・周知期間」を十分にとらなければ、大きな混乱が生じます。さらに「後発品の供給不安が長引いている」点は、この仕組みの根幹に大きく関係してきます。
年末の「2024年度予算案」編成過程の中で、こうした状況を総合的に判断して「選定療養をいつから導入すか」を決定することになります。
【更新履歴】本文中の「編集部による計算式」の数字に誤りがありました。お詫びして訂正いたします。記事は訂正済です。
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感染対策向上加算の要件である合同カンファレンス、介護施設等の参加も求めてはどうか—中医協・介護給付費分科会の意見交換(1)
要介護高齢者の急性期入院医療、介護・リハ体制が充実した地域包括ケア病棟等中心に提供すべきでは—中医協・介護給付費分科会の意見交換
2024年度の診療報酬に向け、まず第8次医療計画・医師働き方改革・医療DXに関する意見交換を今春より実施—中医協総会
2022年度改定での「在宅医療の裾野を広げるための加算」や「リフィル処方箋」など、まだ十分に活用されていない—中医協(1)