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新興感染症に対応する協定締結医療機関の枠組みを【感染対策向上加算】等に盛り込め、抗菌薬適正使用の実績も評価せよ—中医協総会(3)

2023.12.7.(木)

次なる新興感染症に備え、第8次医療計画において「各都道府県と医療機関とで新興感染症発生時の協力・役割について協定を締結し、新興感染症発生時には、その協定に基づいて対応する」こととなっている。診療報酬でも、例えば【感染対策向上加算】【外来感染対策向上加算】の中に、この協定締結医療機関を評価する枠組みを導入してはどうか—。

また、抗菌薬の適正使用に向け、【感染対策向上加算】【外来感染対策向上加算】において、「抗菌薬の適正使用実績」を新たに評価してはどうか—。

新興感染症以外の感染症に対する「標準的な感染対策を超えた、追加的な感染対策を実施する」場合の報酬上の評価の在り方をどう考えていくか—。

12月6日に開催された中央社会保険医療協議会・総会で、こうした議論も行われました(同日の救急患者下り搬送・救急医療管理加算に関する記事はこちら、同日の高度急性期入院医療に関する記事はこちら)。

【感染対策向上加算】【外来感染対策向上加算】を「協定締結」を推進へ

2020年初から続く新型コロナウイルス感染症に対応する中で「感染対策の重要性」が再認識され、2022年度の前回診療報酬改定では2022年度診療報酬改定では感染防止対策加算を発展的に改組した【感染対策向上加算】を創設。あわせてクリニックを対象とする【外来感染対策向上加算】も設け、「地域で、面として感染症対策を行う」ことを評価することとしています。以下の4つの加算を敷き、「加算1病院をリーダーに地域医療機関全体が連携し、地域全体の感染対策を整えていく」イメージです(関連記事はこちら)。

【感染対策向上加算1】(710点)
地域の他医療機関と連携し、「組織的な感染防止対策の基幹的な役割」を果たす医療機関を評価する

【感染対策向上加算2】(175点)
地域の基幹となる加算1取得医療機関と連携し、感染対策に関する十分な経験と持つ医師・感染管理に関する十分な経験を持つ看護師などで構成される感染防止対策部門を設置するなどの相当程度の感染防止対策体制を敷く医療機関を評価する

【感染対策向上加算3】(75点)
地域の基幹となる加算1取得医療機関と連携し、医師・看護師からなる感染防止対策部門を設置するなどの一定程度の感染防止対策体制を敷く医療機関を評価する

【外来感染対策向上加算】(6点)
地域の基幹となる加算1取得医療機関と連携し、一定程度の感染防止対策体制を敷く診療所を評価する

感染対策向上加算等の概要

感染対策向上加算等の施設基準概観



また、コロナ禍には膨大な診療報酬の特例が設けられましたが、コロナ感染症に5類移行に伴い徐々に縮小し、2024年度からは「恒常的な感染症対応を評価する診療報酬」に移行します(関連記事はこちら)。

こうした状況を受け厚生労働省保険局医療課の眞鍋馨課長は、12月6日の中医協総会に(1)新興感染症発生・まん延時における医療・その備えに対する評価(2)新興感染症以外の感染症に対する医療の評価(3)薬剤耐性対策に対する評価—の3点を検討するよう要請しました(本稿では「医科」に焦点を合わせます)。



まず(1)の論点を眺めてみましょう。

2024年度からの第8期医療計画には、新たに「新興感染症対策」が盛り込まれ、例えば▼都道府県等と医療機関とが「感染症対応」に関する協定を締結する▼医療機関等は協定に基づいて平時からの感染症対策を強化する(医療機関間連携、医療機関・介護施設等間連携の強化、人材育成など)▼有事には協定に沿った対応を行う(入院患者受け入れ、発熱患者対応、回復患者受け入れ、医療従事者派遣など)—ことなどを地域ごとに協議・決定していくことが求められています(関連記事はこちら)。

今年度(2023年度)中に、各都道府県と医療機関等との間で「新興感染症の発生時・慢性時への対応に関する協定」が締結され、2024年度から「感染症への備え」が各医療機関等で進められるとともに、「感染症が発生」した場合には協定に沿った対応が求められます。

次なる新興感染症に向けて都道府県と医療禁との間で協定を締結する1(中医協総会2 230726)

次なる新興感染症に向けて都道府県と医療禁との間で協定を締結する2(中医協総会2 230726)



診療報酬でもこうした医療機関の取り組みを評価していくことが求められ、眞鍋医療課長は「どういった評価が考えられるのか」を議論するよう中医協に要請しました。例えば、上述した【感染対策向上体制加算】【外来感染対策向上加算】を、第8次医療計画の考え方に合致するように改善・充実していくことなどが考えられます(現在は「加算1はコロナ重点医療機関、加算2はコロナ協力医療機関・・・」などのルールがあるが、こうした点も見直していく必要がある)。

新興感染症にかかる協定(中医協総会(3)1 231206)



この点、支払側の松本真人委員(健康保険組合連合会理事)も「【感染対策向上体制加算】【外来感染対策向上加算】の施設基準の中に、第8次医療計画の協定締結医療機関などの枠組みを織り込んでいくことが考えられる」と提案。診療側の長島公之委員(日本医師会常任理事)も「【感染対策向上体制加算】【外来感染対策向上加算】で協定締結医療機関等の評価を十分に行うことが、第8次医療計画の実行性を確保し、これまで培ってきたコロナ対応力を損なわないために必須である。もっとも新興感染症発生・蔓延時の医療機関の対応としては、在宅療養患者や後方支援など様々であり、そうした役割への評価も検討しなければならない」との考えを示しています。

他方、診療側の太田圭洋委員(日本医療法人協会副会長)は「新興感染症の流行初期に対応する特別協定を締結する医療機関」(全国で500施設程度、関連記事はこちらこちら)を評価する「感染対策向上加算の上位区分」(加算1よりも上位の区分)を設けるべきと提案しました。現在の【感染対策向上加算1】はコロナ重点医療機関が取得しますが、「新興感染症の流行初期に対応する特別協定を締結する医療機関」はコロナ重点医療機関の中でも特別な存在(「未知の病原体に対し、十分な武器を持たずに闘う」ことが求められる)ためです。仮に「新興感染症の流行初期に対応する特別協定を締結する医療機関」が【感染対策向上加算1】を取得するとなると、その他のコロナ重点医療機関は「加算2へドロップアウト」してしまうので、「加算1よりも上位の区分」が必要であると太田委員は強調します。

減収補填措置の仕組み(1)(社保審・医療保険部会(1)1 220908)



こうした意見を踏まえ、今後「感染対策向上加算等の見直し」内容を詰めていくことになるでしょう。

標準的感染対策を超える「追加的感染対策」を診療報酬でどう評価すべきか

次に(2)の「新興感染症以外の感染症に対する医療の評価」に関しては、眞鍋医療課長から次のような論点が提示されました。

(a)「感染症の入院患者に対する標準予防策」に追加して行う適切な感染対策、必要な個室管理に対する評価の在り方、評価の対象とすべき疾患をどう考えるか

(b)▼外来医療でも「標準予防策に追加して感染対策を実施する必要がある」場合のあること▼【外来感染対策向上加算】では「組織的な感染対策」が評価されている▼発熱患者の多くは「かかりつけ患者以外の患者も受け入れることを公表している医療機関」で診療を受けていること—を踏まえ、「外来における発熱患者等の受け入れに係る適切な感染対策の実施」をどのように評価するか

(c)コロナ感染症が5類に位置付けられ、移行期間が終了する2024年度以降は「通常の医療提供体制」となることを踏まえ、▼通常のゾーニング▼個室管理▼PPEの使用—などをどのように評価していくか(コロナ特例として評価されていたところ、「恒常的な感染症対応を評価する診療報酬」としてどう評価していくか)

(d)地域における平時からの感染r対応力の強化の観点から、組織的な感染対策を講じている医療機関には、「研修への参加や実地指導について高齢者施設から求めがある」場合の対応が望ましいことを踏まえ、【感染対策向上加算】の施設基準の在り方をどう考えるか


この論点に対し、診療側の長島委員は▼(a)(b)については、空気感染・飛沫感染で感染するようなケースでは標準的な予防策に加え「追加的な感染対策」が極めて重要になる。基本診療料(初・再診料や入院料など)の中ではなく、また平時の組織的な感染対策とも別個に、適切に評価するべきある▼(b)の外来対応では、【外来感染対策加算】とは別に、実際に発熱患者等に診療したことを評価する必要がある▼(c)の個室対応について、感染患者は「患者選択によらない個室対応」となるため差額ベッド代徴収が行えない。そうした点に配慮した評価が必要である▼医療機関と高齢者施設とが連携した感染症対策が重要であるが、例えば「協力を医療機関に義務付ける」ような方策は好ましくなく、協力関係を診療報酬で評価するべきである—との考えを示しました。医療現場の負担等を経済的に評価することを求める内容です。

同じく診療側の池端幸彦委員(日本慢性期医療協会副会長、福井県医師会長)や太田委員も、「コロナ禍で、全医療機関の感染症対応は一段階レベルアップした。そのレベルアップ分は基本報酬ではなく、別途の診療報酬で適切に評価すべきである」と長島委員と同旨の見解を示しています。

また、同じく診療側の江澤和彦委員(日本医師会常任理事)は「高齢者施設と医療機関との連携について、2024年度介護報酬改定に向けて、社会保障審議会・介護給付費分科会でも議論されており、その裏返しの対応を診療報酬でもとるべき。その際、介護サイドでは大規模な医療機関ではなく、在宅療養を実施・支援する中小病院やクリニックとの連携を推奨している。このため感染対策向上加算2・3などを取得する医療機関において、高齢者施設との連携が強く求められている点に十分配慮すべき」と進言しています(関連記事はこちら)。

これに対し支払側の松本委員は、「感染対策の評価は、既存の診療報酬項目で十分対応していると言える。個室管理などについて、どの程度のかかり増し経費が生じたのかなどは、十分に精査したうえで検討しなければならない。また、発熱対応については『かかりつけの患者以外にも対応する』ことを義務化すべきである」と、診療側の評価要望に慎重な構えを見せています。

診療側と支払側とで見解に一定の乖離があり、さらに調整が必要な状況です。

抗菌薬の適正使用を、診療報酬でもさらに推進

他方、(3)の薬剤耐性対策に目を移してみます。

国際的にも問題となっている「薬剤耐性菌」を制御するために、厚生労働省は薬剤耐性(AMR)対策アクションプランを定め、診療報酬面でも、例えば2018年度改定では「急性気道感染症や急性下痢症の3歳未満患者に、診察の結果、抗菌薬使用の必要性がない場合には、その旨を文書を用いて懇切丁寧に説明する」ことなどを評価する【小児抗菌薬適正使用支援加算】を創設し、続く2020年度改定では「抗菌薬適正使用支援チームの役割の拡充」(それまで入院医療においてチームで抗菌薬の適正使用を進めてきたところ、外来にも拡大)などを行い、さらに2022年度の前回改定では「小児の耳鼻咽喉科領域でのAMR対策を推進する観点からの対応」(耳鼻咽喉科乳幼児処置加算、耳鼻咽喉科小児抗菌薬適正使用支援加算の新設)などが行われてきています。

AMR2023∹2027(中医協総会(3)2 231206)

小児抗菌薬適正使用支援加算(中医協総会(3)3 231206)

抗菌薬適正使用支援チームの役割拡大(中医協総会(3)4 231206)

耳鼻咽喉科での抗菌薬適正使用を推進(中医協総会(3)5 231206)



こうした取り組みの結果、抗菌薬の処方割合は低下傾向となるなどの効果が出ていますが、小児科外来診療料、小児かかりつけ診療料を算定する小児科では「急性中耳炎や急性副鼻腔炎を診察しているが、そもそも抗菌薬投与の必要性が認められないため、抗菌薬を使用しない場合における療養上必要な指導等について小児抗菌薬適正使用支援加算の評価対象となっていない」という問題点も浮上しています。

小児抗菌薬適正使用支援加算の効果は現れてきている1(中医協総会(3)6 231206)

小児抗菌薬適正使用支援加算の効果は現れてきている2(中医協総会(3)7 231206)



このため、【小児抗菌薬適正使用支援加算】の対象疾患に「急性中耳炎」や「急性副鼻腔炎」を追加してはどうか?との論点が浮上しています。

この点、診療側の長島委員は疾患追加に賛成。一方、支払側の松本委員は「抗菌薬適正使用を評価する診療報酬全体について一度整理する必要がある」との考えを示し巻いたが、対象疾患追加に異論をはさんではおらず、今後、詳細を詰めていくことになるでしょう。



さらに、抗菌薬の適正使用推進に向けて、眞鍋医療課長は▼抗菌薬の使用状況をモニタリングするサーベイランスへの参加(感染対策向加算1では参加が義務となり、加算2・3、外来加算では参加を加算で評価)に加えて、『抗菌薬使用の実績』に基づいて評価を行う▼その際の評価基準について『国際的な基準を達成している』場合に加え、『医療機関の中で相対的に高い実績を持つ』場合にも評価を行う—ことを提案しました。

支払側の松本委員は「実績に応じた評価」に賛成。診療側委員は異論を唱えておらず、この方針は固まったと言えそうです。今後、具体的な評価基準などを詰めていくことになります。



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総合入院体制加算⇒急性期充実体制加算シフトで産科医療等に悪影響?僻地での訪問看護+オンライン診療を推進!—中医協総会
DPC病院は「DPC制度の正しい理解」が極めて重要、制度の周知徹底と合わせ、違反時の「退出勧告」などの対応検討を—中医協総会
2024年度の費用対効果制度改革に向けた論議スタート、まずは現行制度の課題を抽出―中医協
電子カルテ標準化や医療機関のサイバーセキュリティ対策等の医療DX、診療報酬でどうサポートするか—中医協総会

日常診療・介護の中で「人生の最終段階に受けたい・受けたくない医療・介護」の意思決定支援進めよ!—中医協・介護給付費分科会の意見交換(2)
訪問看護の24時間対応推進には「負担軽減」策が必須!「頻回な訪問看護」提供への工夫を!—中医協・介護給付費分科会の意見交換(1)
急性期入院医療でも「身体拘束ゼロ」を目指すべきで、認知症対応力向上や情報連携推進が必須要素—中医協・介護給付費分科会の意見交換(2)
感染対策向上加算の要件である合同カンファレンス、介護施設等の参加も求めてはどうか—中医協・介護給付費分科会の意見交換(1)
要介護高齢者の急性期入院医療、介護・リハ体制が充実した地域包括ケア病棟等中心に提供すべきでは—中医協・介護給付費分科会の意見交換
2024年度の診療報酬に向け、まず第8次医療計画・医師働き方改革・医療DXに関する意見交換を今春より実施—中医協総会

2022年度改定での「在宅医療の裾野を広げるための加算」や「リフィル処方箋」など、まだ十分に活用されていない—中医協(1)