ICUでは激変が生じない形で「看護必要度+SOFAスコア」導入へ、HCUでは集約化が進む形で「看護必要度見直し」へ—中医協総会(2)
2024.1.11.(木)
ICU(特定集中治療室管理料)において患者の重症度評価を、「特定集中治療室用の重症度、医療・看護必要度(以下、看護必要度)」と「SOFAスコア」を組み合わせて行うこととし、ICUの多くが現行の入院料を継続取得できるような基準値設定を行ってはどうか。またICUと救命救急2・4ではレセプト電算処理システムコードを用いる必要度IIを義務化してはどうか—。
HCU(ハイケアユニット)用の看護必要度について項目・基準値の見直しを行うと、HCU1では2割程度の、HCU2でも1割超のドロップアウトが生じる可能性があるが、この点をどう考えるか—。
1月10日に開催された中央社会保険医療協議会・総会では、こうした議論も行われました(同日の一般病棟用の看護必要度見直し試算等に関する記事はこちら)。
なお、同日の中医協総会では「医療従事者の処遇改善」「これまでの議論の整理(いわゆる「短冊」の目次に該当する)」なども議題に上がっており、別稿で報じます。
ICUでは「看護必要度+SOFAスコア」で患者状態を評価へ
特定集中治療室管理料・救命救急入院料2・4の患者状態は、現在「特定集中治療室用の重症度、医療・看護必要度」(以下、ICU看護必要度)で評価されていますが、2024年度の次期診療報酬改定に向けて次のような評価指標の見直しを行ってはどうかとの議論が進んでいます(関連記事はこちらとこちら)。
▽看護必要度+SOFAスコアで患者を評価することとする(「看護必要度を満たす患者割合●%以上、かつSOFAスコアを満たす患者割合◆%以上」という施設基準を設ける)
▽ICU用の看護必要度について次の見直しを行う
(a)「輸液ポンプの管理」を削除する(重症患者割合がICU1・2で9.1%減、ICU3・4で13.5%減少する)
(b)「動脈圧測定(動脈ライン)」を現在の「A2点」から「A1点」に引き下げる(同ICU1・2で8.3%減、ICU3・4で10.9%減)
(c)看護必要度該当患者(重症患者)の判断基準値を現在の「A3点以上」から「A2点以上」に緩和する(同ICU1・2で8.1%増、ICU3・4で11.7%増)
▽SOFAスコア
▼ICU1・2:「入室日のSOFAスコア5点以上の患者割合」が一定以上であることする(例えば10%・12.5%・15%以上が考えられる)
▼ICU3・4:「入室日のSOFAスコア3点以上の患者割合」が一定以上であることとする(例えば10%・12.5%・15%以上が考えられる)
1月10日の中医協総会には、厚生労働省保険局医療課の眞鍋馨課長から、上記の見直しを行った場合に「施設基準を満たすICU等」がどう変化するのかの試算結果が示されました。
まず、「看護必要度の項目見直し」の影響を見ると、次のように「(a)(c)の見直し」を行うと緩和方向に、「(a)(b)(c)の見直し」を行うと厳格化方向に動くことが確認されました(救命救急2・4でも同様の傾向)。
▽上記のうち(a)(c)の見直し(見直し1)を行うと、看護必要度に該当する患者割合(ICU1・2では必要度Iで80%以上・必要度IIで70%以上、ICU3・4では必要度Iで70%以上・必要度IIで60%以上)を満たすICUが増加する方向にシフトする(下図の青色の棒グラフ(現行)→橙色の棒グラフ(見直し後))
▽上記のうち(a)(b)(c)の見直し(見直し2)を行うと、看護必要度に該当する患者割合を満たすICUが減少する方向にシフトする(下図の青色の棒グラフ(現行)→灰色の棒グラフ(見直し後))
さらに、【看護必要度+SOFAスコア】による評価を導入し、それぞれの基準値を次のように設定してはどうかと眞鍋医療課長は提案しています。
▽ICU1・2について見直し1を行った場合(ICU看護必要度II導入病院)
▼看護必要度に該当する患者割合:80%以上
▼入室時SOFAスコア5点以上に該当する患者割合:10%
→施設基準を満たさなくなるICUが1.5%生じる
▽ICU1・2について見直し2を行った場合(ICU看護必要度II導入病院)
▼看護必要度に該当する患者割合:60%以上
▼入室時SOFAスコア5点以上に該当する患者割合:10%
→施設基準を満たさなくなるICUが7.4%生じる
▽ICU3・4について見直し1を行った場合(ICU看護必要度II導入病院)
▼看護必要度に該当する患者割合:70%以上
▼入室時SOFAスコア3点以上に該当する患者割合:10%
→施設基準を満たさなくなるICUが5.3%生じる
▽ICU3・4について見直し2を行った場合(ICU看護必要度II導入病院)
▼看護必要度に該当する患者割合:50%以上
▼入室時SOFAスコア3点以上に該当する患者割合:10%
→施設基準を満たさなくなるICUが13.1%生じる
試算結果を眺めると、上記基準値案の背景には「ICUの激変を避ける」(現在のICUを維持できなくなるケースを一定の範囲に抑える)意味があると考えられます(SOFAスコアの基準値を12.5%や15.0%にした場合には、相当程度のICUが現在の入院料を取得できなくなってしまう)。
こうした試算結果を踏まえ、支払側の松本真人委員(健康保険組合連合会理事)は「ICUには看護必要度とSOFAスコアを組み合わせて患者の重症度評価を導入せよ。看護必要度の基準値については、厚労省提案(上記)で良いと考える」とコメントしています。
また、診療側からは「入院当日のSOFAスコア評価は、我が国のICU運用実態に合わない可能性があり、当初は『できるだけ影響が小さくなる』ような基準値とすべき。コロナ禍ではICU不足が問題視されており、2024年度の次期改定では『ICUを絞りこむ』ような対応をすべきではない」(長島公之委員:日本医師会常任理事)、「評価指標を見直した後も、多くのユニットが従来と同じ入院料を算定できる基準値を設定すべき。看護師確保が難しい中で、多くの看護師配置が求められるICU等を無駄に設置している病院はない。しかし、厚労省案ではICU等が減少する試算結果が出ている」(太田圭洋委員:日本医療法人協会副会長)との指摘が出されました。
診療側の声を重視すれば、ドロップアウト率の小さな「見直し1を採用し、ICU1・2では看護必要度80%+SOFA5点以上10%、ICU3・4では看護必要度70%+SOFA3点以上10%とする」案が適しているように思われます。今後、こうした試算結果をもとに最終調整が進められます。
なお、眞鍋医療課長は、特定集中治療室管理料と救命救急入院料2・4においては「レセプト電算処理システムコードによる看護必要度Ⅱ」を要件化(義務化)してはどうかとの提案も行っています。評価票を用いる必要度Iに比べて、必要度IIでは「上記見直しの影響が小さい」ことも示されており、この提案に反論は出ていません。
HCU看護必要度見直しで、HCU1では2割程度がドロップアウトする可能性
またハイケアユニット入院医療管理料については、次のような「ハイケアユニット用の看護必要度」見直し案が検討されてきました(関連記事はこちらとこちら)。
▽「創傷処置」について、評価対象を「一般病棟用の看護必要度IIの評価対象行為が実施されている場合」にし、「重度褥瘡処置のみ実施」は評価対象外とする(重症患者割合がHCU1で1.2%減、HCU2で1.4%減)
▽「呼吸ケア」について、評価対象を「一般病棟用の看護必要度IIの評価対象行為が実施されている場合」にする(同HCU1で6.9%減、HCU2で6.0%減)
▽「点滴ライン同時3本以上の管理」について、一般病棟用の看護必要度の見直しを全て実施する(同HCU1で0.2%減、HCU2で0.5%増)
▽「心電図モニタ管理」「輸液ポンプ管理」を削除し、該当基準を「A3点以上かつB4点以上」から「A1点以上」に変更する(同HCU1で4.7%増、HCU2で9.7%増)
▽看護必要度該当患者(重症患者)を、下記の「(i)が●%以上、かつ(ii)が◆%以上」とする
(i)蘇生術の施行、中心静脈圧測定(静脈ライン)、人工呼吸器の装着、輸血や血液製剤の管理、肺動脈圧測定(スワンガンツカテーテル)、特殊な治療法等のいずれかで基準に該当する患者割合
(ii)蘇生術の施行、呼吸ケア、注射薬剤3種類以上の管理、動脈圧測定(動脈ライン)、シリンジポンプの管理、中心静脈圧測定(静脈ライン)、人工呼吸器の装着、輸血や血液製剤の管理、肺動脈圧測定(スワンガンツカテーテル)、特殊な治療法等全体でいずれかで基準に該当する患者割合
1月10日の中医協総会では、HCU看護必要度該当割合の基準値を次のように設定してはどうかと眞鍋医療課長から提案が行われました。
【HCU1】
▽上記(i)の患者割合:15%以上
▽上記(ii)の患者割合:80%以上
→見直しにより施設基準を満たさなくなるHCUが、評価票を用いる必要度Iでは19.3%、レセプト電算処理システムコードを用いる必要度IIでは21.2%生じる
【HCU2】
▽上記(i)の患者割合:15%以上
▽上記(ii)の患者割合:65%以上
→見直しにより施設基準を満たさなくなるHCUが、必要度Iでも必要度IIでも12.5%生じる
HCUについては「一定程度の絞り込みを行おう」と厚労省が考えていることが、試算結果から伺えそうです。
この点、支払側の松本委員は「HCU、とりわけHCU1は増加を続けており、重点化・集約化が必要と考えられる。厚労省案では一定の集約化が期待できる」と賛同。一方、診療側は「現行基準でも施設基準を満たせないHCUがあり、これ以上の厳格化を現時点で行う必要はない」(長島委員)、「見直し後にも、HCUが従前の入院料を取得可能な見直しとすべき」(太田委員)と反意を示しました。
診療側・支払側で意見が割れており、今後、どのように最終調整を行っていくのか注目する必要があります。
なお、支払側の松本委員は「HCUでもレセプト電算処理システムコードを用いる必要度IIを要件化してはどうか」と提案しており、最終調整論議の中でもどう勘案されるのかにも注目が集まります。
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乳がん再発リスクなどを検出するプログラム医療機器、メーカーの体制など整い2023年9月から保険適用―中医協総会(2)
高齢患者の急性期入院、入院後のトリアージにより、下り搬送も含めた「適切な病棟での対応」を促進してはどうか—中医協総会(1)
2024年度の薬価・材料価格制度改革論議始まる、医薬品に関する有識者検討会報告書は「あくまで参考診療」—中医協総会(3)
マイナンバーカードの保険証利用が進むほどメリットを実感する者が増えていくため、利用体制整備が最重要—中医協総会(2)
かかりつけ医機能は「地域の医療機関が連携して果たす」べきもの、診療報酬による評価でもこの点を踏まえよ—中医協総会(1)
2024年度の診療報酬・介護報酬・障害福祉等サービス報酬の同時改定で「医療・介護・障害者福祉の連携強化」目指せ—中医協総会(2)
医師働き方改革サポートする【地域医療体制確保加算】取得病院で、勤務医負担がわずかだが増加している—中医協総会(1)
患者・一般国民の多くはオンライン診療よりも対面診療を希望、かかりつけ医機能評価する診療報酬の取得は低調―入院・外来医療分科会(5)
医師働き方改革のポイントは「薬剤師へのタスク・シフト」、薬剤師確保に向けた診療報酬でのサポートを―入院・外来医療分科会(4)
地域包括ケア病棟で救急患者対応相当程度進む、回復期リハビリ病棟で重症患者受け入れなど進む―入院・外来医療分科会(3)
スーパーICU評価の【重症患者対応体制強化加算】、「看護配置に含めない看護師2名以上配置」等が大きなハードル―入院・外来医療分科会(2)
急性期一般1で「病床利用率が下がり、在院日数が延伸し、重症患者割合が下がっている」点をどう考えるべきか―入院・外来医療分科会(1)
総合入院体制加算⇒急性期充実体制加算シフトで産科医療等に悪影響?僻地での訪問看護+オンライン診療を推進!—中医協総会
DPC病院は「DPC制度の正しい理解」が極めて重要、制度の周知徹底と合わせ、違反時の「退出勧告」などの対応検討を—中医協総会
2024年度の費用対効果制度改革に向けた論議スタート、まずは現行制度の課題を抽出―中医協
電子カルテ標準化や医療機関のサイバーセキュリティ対策等の医療DX、診療報酬でどうサポートするか—中医協総会
日常診療・介護の中で「人生の最終段階に受けたい・受けたくない医療・介護」の意思決定支援進めよ!—中医協・介護給付費分科会の意見交換(2)
訪問看護の24時間対応推進には「負担軽減」策が必須!「頻回な訪問看護」提供への工夫を!—中医協・介護給付費分科会の意見交換(1)
急性期入院医療でも「身体拘束ゼロ」を目指すべきで、認知症対応力向上や情報連携推進が必須要素—中医協・介護給付費分科会の意見交換(2)
感染対策向上加算の要件である合同カンファレンス、介護施設等の参加も求めてはどうか—中医協・介護給付費分科会の意見交換(1)
要介護高齢者の急性期入院医療、介護・リハ体制が充実した地域包括ケア病棟等中心に提供すべきでは—中医協・介護給付費分科会の意見交換
2024年度の診療報酬に向け、まず第8次医療計画・医師働き方改革・医療DXに関する意見交換を今春より実施—中医協総会
2022年度改定での「在宅医療の裾野を広げるための加算」や「リフィル処方箋」など、まだ十分に活用されていない—中医協(1)