医療資源の少ない地域、「病室単位の回復期リハ」「地域包括ケア病棟の施設基準緩和」を検討—中医協総会(2)
2023.12.21.(木)
医療資源の少ない地域では、回復期リハビリ病棟入院料について「病室、病床単位での取得」を、地域包括ケア病棟について「自院の急性期病棟からの転棟患者割合」要件の緩和を認めてはどうか—。
減少を続ける有床診療所について、「地域包括ケアシステムの要」としての役割に期待し、例えば「訪問リハビリ、訪問栄養食事指導、医療型短期入所」などのサービス提供を診療報酬で促してはどうか—。
12月20日に開催された中央社会保険医療協議会・総会で、こうした議論も行われています(同日の医療・介護連携強化等に関する記事はこちら)。なお同日には「薬価・材料価格・費用対高評価に関する制度改革の骨子了承」も行われており、これらは別稿で報じます。
医療資源の少ない地域では回復期リハ病棟や地域包括ケア病棟の要件緩和などを検討
質の高い医療提供を確保するため、診療報酬算定に当たっては厳格な施設基準(人員配置や構造設備などの基準)や要件(実施すべき医療行為など)が定められています。しかし、過疎地や離島などの、いわゆる「医療資源の少ない地域」では施設基準等をクリアすることが難しいため、「診療報酬が算定できない→収益を高められない→医療サービスの充実に向けた投資を行えない→医療の質が低下してしまう」という問題点があります。そこで2012年度の診療報酬改定から「医療資源の少ない地域では、医療の質が低下しないように十分に配慮したうえで、施設基準などを一部緩和」する措置が取られてきています。
しかし、現在でも「医療機関の少なさから機能分化が困難である」「2次医療圏の統合により『医療資源の少ない地域』から外れることがあるが、医療資源が少ない状況には変わりなく、厳しい施設基準クリアが難しい事態に再び直面してしまう」といった課題があります。厚生労働省保険局医療課の眞鍋馨課長は、こうした課題への対応について、次のような点を検討してほしいと中医協に要請しました。
(1)「集中的な回復期リハビリが必要な患者」に適切に回復期リハビリ医療を提供する必要があるが、患者数が限定されているために「回復期リハビリ病棟」設置が難しい
(2)医療機関が限られているため、許可病床数200床以上の医療機関における地域包括ケア病棟の「自院の一般病棟から転棟した患者割合60%未満」要件のクリアが難しい
(3)第8次医療計画(2024-29年度)における2次医療圏の見直し、とりわけ2次医療圏の合併により「医療資源の少ない地域」に該当しなくなる地域があるが、「医療資源が少ない」状況そのものは変化していない
このうち(1)については診療側の長島公之委員(日本医師会常任理事)、支払側の松本真人委員(健康保険組合連合会理事)ともに、例外的に「病室単位・病棟単位での回復期リハビリ病棟の届け出」を認めてはどうかと提案。また(2)については、両委員から「自院の一般病棟からの転棟患者割合(60%未満)要件の緩和」が提案されています。もっとも松本委員は「単に『医療資源の少ない地域であるから』というだけでの基準緩和は好ましくない。医療の質を確保できるような工夫をすべき」旨を付言しています。
また(3)については、診療側の長島委員から「『医療資源の少ない地域』に該当しなくなった場合でも、一定期間は施設基準緩和を認めてはどうか」との、支払側の佐保昌一委員(日本労働組合総連合会総合政策推進局長)から「対象地域を限定した例外措置(「医療資源の少ない地域」の特例設定など)を考えてはどうか」と提案しています。
さらに、医療資源の少ない地域では「訪問看護師が患者と対面し、直接サービスを提供する」+「オンラインで遠方の医師から診療を受ける」形態(いわゆるD to P with N)により、患者の質の高い医療提供を確保することが重視されます。診療側の長島委員、支払側の松本委員とも「D to P with Nをさらに推進せよ」と進言しています。
なお、公益代表の飯塚敏晃委員(東京大学大学院経済学研究科教授)は「一般に、市場規模とサービスとの間には『市場が広がればサービスの専門化・細分化が進む、逆に市場が縮小すると専門サービスが成り立ちにくくなる』という関係がある。医療資源の少ない地域では人口減、つまり市場の縮小が進んでおり、機能分化よりも『多くのサービスを包括的に提供する』機能が大事になってくる。診療報酬でもこの点を重視すべき」と提案しました。
今後、こうした意見を踏まえて詳細な「施設基準緩和案」や「D to P with N推進方策」が詰められます。
有床診の「地域包括ケアシステムの要」機能の強化をどう進めるか
Gem Medでも報じているとおり「有床診療所の減少」に歯止めがかかりませんが、地域によっては「重要な医療資源(とりわけ入院医療資源)である」点に疑いはありません。例えば「急性期後患者(post acute患者)を受け入れて在宅復帰を促す(急性期病院の負担も軽減される)」「要介護高齢者の日常的な医学管理、在宅要介護者が急変した際の受け入れなど地域包括ケアシステムの拠点機能を果たす」などの機能を果たしています。
眞鍋医療課長は、地域において「有床診療所の果たす役割・機能の強化」を目指す必要があるとし、2024年度診療報酬改定に向けて次のような点を検討するよう中医協に要請しました。
(1)有床診における「人生の最終段階における医療の決定プロセスに関するガイドライン」に基づく意思決定支援のための指針策定は58.1%にとどまっている。2022年度の前回改定で、【有床診療所在宅患者支援病床初期加算等】(急性期後患者を受け入れた場合の加算)の取得要件にガイドラインを踏まえた意思決定支援が要件とされたが、さらなる意思決定支援指針策定に向けてどういった方策が考えられるか
(2)「地域包括ケアシステムの要」としての機能・役割を果たすために「訪問リハビリ」「訪問栄養食事指導」「医療型短期入所(医療ショート)」などのサービス提供推進が求められるが、どういった方策が考えられるか
(3)療養病床の人員配置経過措置(6対1看護など)が来年(2024年)3月31日で終了するが、有床診療所の療養病床の看護配置などをどう考えるか
この点について支払側の松本委員は「(1)では指針の策定にとどまらず、指針に基づく意思決定支援の『実績』を初期加算要件とすることも考えてはどうか。また有床診が地域包括ケアシステムの要の機能を果たすのであれば、(2)について、入院基本料の施設基準に『訪問リハビリなどの提供』を盛り込む(=実施を義務付ける)ことを検討してはどうか。(3)の経過措置は予定通り廃止すべき」との考えを示しました。さらなる機能強化を「強力に推し進めよ」との意見と言えます。
これに対し診療側委員は「有床診の機能強化はこれから進めるものであり、支払側の提案する施設基準等厳格化案は現実的ではない」と反論。そのうえで「指針の対象は『末期がん患者』に限定されないことなどを明確化することが大事であろう。『誤解ゆえに指針を適用等しない』→『初期加算を算定しない』→『収益が高まらず経営が不安定になる』という負のスパイラルを断ち切る必要がある。療養病床の経過措置廃止後の状況などを十分のフォローすべき」(長島委員)、「有床診が地域の重要な医療資源となっている地域も少なくない。施設基準などを大胆に緩和して、減少に歯止めをかけるべきである」(池端幸彦委員:日本慢性期医療協会副会長、福井県医師会長)といった提案を行いました。
有床診への診療報酬による手当ては、2018年度の診療報酬改定から本格化していますが、十分な効果が出ているとは言いにくい状況です。こうした点も踏まえてどういった対応をとるべきかをさらに詰めていきます。
2018年度診療報酬改定(介護報酬との同時改定)では、有床診療所を(1)専門特化型(2)地域包括ケア型―の2類型に分け、後者の『地域包括ケア型』について「過疎地などにおける入院医療の重要な支え手(地域包括ケアシステムの重要な担い手)であるものの、経営が厳しく、存続が困難」といった課題に直面していることを重視。有床診経営を支援するために、要介護者の受け入れを【介護連携加算】で評価するなどの報酬見直しを行いました(関連記事はこちらとこちら)。
また2020年度診療報酬改定では、各種加算の引き上げなど見直しが行われました(関連記事はこちら)。
さらに、2022年度診療報酬改定では、例えば次のような見直しが行われています(関連記事はこちら)。
【初期加算の細分化と充実】
〇有床診療所入院基本料
他院の急性期病棟からの転院患者、介護施設や自宅等からの入院患者受け入れを評価する【有床診療所一般病床初期加算】(1日150点、14日)
↓
▼急性期病院からの転院患者受け入れを評価する【有床診療所急性期患者支援病床初期加算】(1日につき150点、21日を限度)
▼介護施設や自宅等か他の入院患者受け入れを評価する【有床診療所在宅患者支援病床初期加算】(1日につき300点、21日を限度)
〇有床診療所療養病床入院基本料
他院の急性期病棟からの転院患者、介護施設や自宅等からの入院患者受け入れを評価する【救急・在宅等支援療養病床初期加算】(1日150点、14日)
↓
▼急性期病院からの転院患者受け入れを評価する【有床診療所急性期患者支援療養病床初期加算】(1日につき300点、21日を限度)
▼介護施設や自宅等か他の入院患者受け入れを評価する【有床診療所在宅患者支援療養病床初期加算】(1日につき350点、21日を限度)
【新加算の創設】
〇有床診療所療養病床入院基本料において慢性維持透析患者受け入れを促すために、新たに【慢性維持透析管理加算】(1日につき100点)を創設する(対象は人工腎臓、持続緩徐式血液濾過、血漿交換療法、腹膜灌流を行っている患者)
〇産婦人科・産科に従事する常勤医師を3名以上配置し、常勤助産師を3名以上配置し、年間分娩件数120件以上等の基準を満たす有床診療所が地域周産期母子医療センターと連携して、▼40歳以上の初産婦▼子宮内胎児発育遅延の患者▼糖尿病の患者▼精神疾患の患者—で、医師が地域連携分娩管理の必要性を認めた患者に対して適切な分娩管理を行うことを【地域連携分娩管理加算】(3200点、【ハイリスク分娩等管理加算】の下部項目)として新たに評価を行う
なお、診療報酬では解決できない問題(後継者不足など)もあり、その点にどのように対応していくのかも今後の重要な検討テーマとなるでしょう。
このほか12月20日の中医協総会では次のような点も議論されています。
▽短期滞在手術等基本料1について、「入院外での実施状況にバラつき」がある点を踏まえた対応(入院外での実施促進)を検討する(診療側・支払側ともに概ね賛同)
▽短期滞在手術等基本料3について、「在院日数の短縮」などの実態を踏まえた対応を検討する(支払側の松本委員は「適正化」(在院日数減を踏まえた点数引き下げ)を主張するが、診療側の長島委員は慎重姿勢、関連記事はこちら)
▽データ提出に係る評価・データ提出を要件とする入院料の範囲拡大を検討する(ただし「精神科の病棟ではデータ提出が進んでおらず、要件化には十分な経過措置が必要」と診療側の長島委員が注文、関連記事はこちら)
▽【提出データ評価加算】(未コード化傷病名割合が低い場合の【データ提出加算】の上乗せ加算)について、ほぼすべての加算病院が基準をクリアしている点を踏まえ、廃止を検討する(診療側・支払側ともに概ね賛同)(関連記事はこちら)
▽地域一般入院基本料・療養病棟入院基本料を新たに届け出る場合などの取り扱いについて急性期一般入院基本料(例えば新規取得の場合には1年に限り「データ提出あり」と見做すなど)と揃える(診療側・支払側ともに概ね賛同)
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地域包括ケア病棟で救急患者対応相当程度進む、回復期リハビリ病棟で重症患者受け入れなど進む―入院・外来医療分科会(3)
スーパーICU評価の【重症患者対応体制強化加算】、「看護配置に含めない看護師2名以上配置」等が大きなハードル―入院・外来医療分科会(2)
急性期一般1で「病床利用率が下がり、在院日数が延伸し、重症患者割合が下がっている」点をどう考えるべきか―入院・外来医療分科会(1)
総合入院体制加算⇒急性期充実体制加算シフトで産科医療等に悪影響?僻地での訪問看護+オンライン診療を推進!—中医協総会
DPC病院は「DPC制度の正しい理解」が極めて重要、制度の周知徹底と合わせ、違反時の「退出勧告」などの対応検討を—中医協総会
2024年度の費用対効果制度改革に向けた論議スタート、まずは現行制度の課題を抽出―中医協
電子カルテ標準化や医療機関のサイバーセキュリティ対策等の医療DX、診療報酬でどうサポートするか—中医協総会
日常診療・介護の中で「人生の最終段階に受けたい・受けたくない医療・介護」の意思決定支援進めよ!—中医協・介護給付費分科会の意見交換(2)
訪問看護の24時間対応推進には「負担軽減」策が必須!「頻回な訪問看護」提供への工夫を!—中医協・介護給付費分科会の意見交換(1)
急性期入院医療でも「身体拘束ゼロ」を目指すべきで、認知症対応力向上や情報連携推進が必須要素—中医協・介護給付費分科会の意見交換(2)
感染対策向上加算の要件である合同カンファレンス、介護施設等の参加も求めてはどうか—中医協・介護給付費分科会の意見交換(1)
要介護高齢者の急性期入院医療、介護・リハ体制が充実した地域包括ケア病棟等中心に提供すべきでは—中医協・介護給付費分科会の意見交換
2024年度の診療報酬に向け、まず第8次医療計画・医師働き方改革・医療DXに関する意見交換を今春より実施—中医協総会
2022年度改定での「在宅医療の裾野を広げるための加算」や「リフィル処方箋」など、まだ十分に活用されていない—中医協(1)