有床診、「機能・医療スタッフ配置」評価や「他医療機関等の管理栄養士との連携」評価を―中医協総会(2)
2019.11.28.(木)
有床診療所の減少傾向に歯止めはかかっていない。2020年度の次期診療報酬改定では「有床診療所の機能やスタッフ配置状況などを勘案した評価(例えば加算の新設や拡充など)」を行うとともに、「急性期病棟からの転院患者受け入れを評価する初期加算の引き上げ」や「他医療機関等の管理栄養士と連携した栄養指導の評価」などを行ってはどうか―。
がん患者リハビリテーション料について、がん種に関わらず「リハビリが必要ながん患者」に適切なリハビリが提供されるような見直しを行ってはどうか―。
リハビリについて医師から専門職への具体的な指示があった時点から、リハビリ実施計画書が作成されていなくとも、疾患別リハビリ料の算定を認めてはどうか―。
11月27日に開催された中央社会保険医療協議会・総会では、こういった議論も行われています。
目次
言語聴覚士によるリハビリの評価充実を検討
2020年度の次期診療報酬改定に向けた議論が中医協で進んでいます。11月27日の中医協総会では▼技術的事項(検査や処置・手術など)▼リハビリテーション(疾患別リハビリテーション料など)▼有床診療所―などを議論しました。技術的事項についてはすでにGem Medでお伝え済であり、本稿では▼リハビリテーション▼有床診療所―の報酬改定論議に焦点を合わせてみます。
今回は「疾患別リハビリ料」を論点とし、厚生労働省保険局医療課の森光敬子課長は次のような提案を行いました。
▽脳血管疾患等リハビリテーション料における言語聴覚士配置要件を見直してはどうか(【脳血管疾患等リハビリテーション料(II)】(1単位200点)において、「⾔語聴覚療法のみを⾏う場合」の施設基準が設けられていない。【脳血管疾患等リハビリテーション料(I)】(1単位245点)では、「⾔語聴覚療法のみを⾏う場合」には言語聴覚士3名以上の配置という施設基準が設けられている)
▽呼吸器リハビリテーションを必要とする患者の中には、「発声発語器官の機能低下によりコミュニケーションに問題を抱えている」「嚥下機能に低下が認められる」患者も少なくないことから、【呼吸器リハビリテーション料】において言語聴覚士配置要件の設定を検討してはどうか(現在、施設基準には理学療法士・作業療法士配置のみが規定されている)
▽【がん患者リハビリテーション料】は、対象患者を▼がんの種類▼実施した治療方法―で限定しているが、「リハビリが必要ながん患者」にもれなくリハビリ提供が行えるよう、対象患者の規定方法を見直してはどうか
▽【摂食機能療法】の【経口摂取回復促進加算】について、届け出・算定状況が芳しくない(加算2ではわずか1医療機関)ことから、「多職種チームによる介入」という要件を軸として算定要件等を組み直してはどうか
いずれも現行報酬の課題(例えば「対象のがん種に該当しないため、侵襲性の高い手術等を受け運動機能や日常生活に支障が出る恐れが高いが、適切なリハビリを受けられないがん患者がいる」など)の是正を目指すもので、診療側・支払側ともに森光医療課長の見直し提案を受け入れています。【経口摂取回復促進加算】については、大きな点数・要件の組み換えが行われる見込みで、届け出・算定件数の増加、さらに加算取得による医療の質向上(例えば「誤嚥性肺炎の発症減少」など)に期待が集まります。
また、リハビリ点数の算定は、医師による「リハビリ実施計画書」の作成を待たなければなりませんが、医療現場では、例えば「リハビリの必要な患者が入院した場合、医師が診断等を行ったうえで療法士に具体的なリハビリ内容の指示・処方箋の発行を行い、そこから数日経過してリハビリ計画書が作成される」ことが多いようです。この点、リハビリ実施計画書作成までの数日間は、「医師の指示に基づくリハビリが提供されているものの、リハビリに係る点数を算定できない」という間隙が生じてしまっています。
森光医療課長は、▼リハビリ実施計画書作成までの間の「医師の具体的な指示等に基づき提供される疾患別リハビリテーション」について点数算定を可能としてはどうか▼リハビリ実施計画書とリハビリ総合実施計画書の様式等について、急性期から回復期、生活期・維持期までの一貫した管理を推進するとともに、現場負担軽減のために「様式の整理」「取扱いの明確化」を行ってはどうか―とも提案。この提案にも異論は出ていません。
急性期病院からの転院患者、有床診での受け入れの評価を充実
有床診療所は、「地域住民に密接なかかりつけ医機能」と「急変時のバックベッド機能」を併せ持つ、地域包括ケアシステムの要とも期待される重要な医療施設です。しかしピーク時の1990年には全国に2万3689施設ありましたが、2019年8月末には6662施設にまで減少(72%の減少)。このため、2018年度の診療報酬・介護報酬同時改定で「経営の下支えを行うための報酬上の手当て」(例えば、「介護サービスを提供する有床診において、高い入院基本料(入院基本料1-3)の要件を緩和し、さらに要介護者の受け入れを【介護連携加算】(新設、1日につき38点または192点)として評価する」など)が行われましたが、その効果は「明確に表れている」とは言い難い状況です。
とはいえ、地域別にみれば「有床診療所のベッドが入院医療における一定のシェアを占めている(2次医療圏におけるベッド数の4分の1が有床診療所のベッドとなっている)地域もある」など、その重要性は依然として大きなものがあります。
そこで森光医療課長は、次のような「有床診療所の診療報酬に関するさらなるテコ入れ」を2020年度改定に向けて検討してはどうかと中医協委員に問いかけました。
(1)有床診療所について、「地域で果たす▼在宅・介護施設への受け渡し▼緊急時対応▼在宅医療の拠点▼終末 期医療―などの様々な機能」や「看護職員等の加配(基準よりも多くの看護職員等を配置)状況」などを勘案した評価を行う
(2)急性期病棟等からの患者の受け入れに係る評価について、算定可能な期間などの要件等を見直す
(3)他の医療機関や栄養ケア・ステーションと連携した栄養食事指導を評価する
このうち(1)からは「新加算の創設」や「現行加算(医師配置加算、看護配置加算、看護補助配置加算など)の充実・強化」などが予想されます。診療側の松本吉郎委員(日本医師会常任理事)は「現行の【医師配置加算】は医師2名の配置を評価するものだが、加算取得診療所では平均3名以上の医師を配置している。看護職についても同様である。評価の引き上げや新区分創設などを行うべき」と注文しています。
また(2)は、例えば「急性期病棟での治療を終えた患者」が、別病院の地域包括ケア病棟に転院した場合には【急性期患者支援病床初期加算】(1日300点)が、地域一般病棟(旧13対1・15対1)に転院した場合には【救急・在宅等支援病床初期加算】(同150点)が、療養病棟に転院した場合には【急性期患者支援療養病床初期加算】(同300点)が、最長で「14日間」まで算定できるのに対し、有床診療所(一般病棟)に転院した場合には【有床診療所一般病床初期加算】(同100点)が最長でも「7日間」までしか算定できず、また有床診療所(療養病棟)への転院では【救急・在宅等支援療養病床初期加算】が最長14日間まで算定できるものの、その点数は「1日につき150点」に抑えられているという点を是正してはどうかという提案です。
これらの「初期加算」は、いずれも「急性期後患者の受け入れ側を評価することで、急性期病棟からの早期退院を促す」ものであり、「有床診療所と病院とで、ここまで大きな差を設けることが合理的か」という疑問があるためです。
いずれの提案についても診療側・支払側の双方が賛意を示しており、今後、具体的な制度設計が進められます。
開放型病院共同指導料、小児運動器疾患指導管理料、現場実態を踏まえた要件緩和
なお、森光医療課長は次の2つの見直し提案も行っており、これらも了承されています。
▽B002【開放型病院共同指導料(I)】(患者1人1日につき1回350点)・B003【開放型病院共同指導料(II)】(同220点)について、施設基準の緩和を検討する
→開放型病院共同指導料は、例えば「地域のかかりつけ医師が、患者を開放型病院に入院させた場合、当該かかりつけ医師と病院の医師とが療養上必要な指導を共同して行う」ことを評価するものだが、算定回数は減少傾向にあり、その背景に▼地域における登録医療機関数・割合の基準(当該病院と無関係の20以上の診療所医師等、または地域の医師等の5割以上登録)▼実績要件(届出前30日間に「開放病床利用」などの実績)―が厳しすぎるとの指摘があることを受けたもの
▽B001【特定疾患治療管理料】の28【小児運動器疾患指導管理料】について、治療開始時などに一定の頻回な算定を可能とするなどの算定要件見直しを検討する
→小児運動器疾患指導管理料は「6歳未満の他院から紹介された患者に対し、6か月に1回の算定」が認められているが、▼運動器疾患の患者は10-14歳が最も多い(現在は対象外)▼小児の運動器疾患の管理は概ね2-6か月ごとに必要で、とくに「診療開始から間もなく」「装具などによる治療を実施した後」には頻回の診療が必要となる―点を踏まえたもの
後者の【小児運動器疾患指導管理料】について、診療側の猪口雄二委員(全日本病院協会会長)は「現在は『他の医療機関からの紹介』患者のみが算定対象だが、学校医が疾患を発見し、専門医療機関を紹介するケースも少なくない。これらも算定対象に加えてはどうか」と提案しました。こうした意見も踏まえて、今後、両点数について具体的な算定要件が検討されます。
支払側は「医療機関経営は概ね好転」、診療側は「医療機関経営は厳しい」と主張
なお、11月27日の中医協総会では、11月13日に報告された「医療経済実態調査」結果を踏まえて、診療側・支払側からそれぞれ「分析結果」が提示されました。
支払側委員は「医療機関経営は2018年度の前回改定以降、概ね改善している。主に公立病院の経営が悪化しているが、人件費比率が極めて高い(例えば独立行政法人化し給与水準を下げるなどの経営努力の余地がある)ことなどが要因である」との、診療側委員は「医療機関等経営は横ばいである。働き方改革のために人員増を図りたいが、確保が難しく、医療サービスの低下が懸念される」との見解を示しています。
これを受け田辺国昭会長(東京大学大学院法学政治学研究科教授)は「2020年度診療報酬改定に向けた考え方を12月上旬に議論したい。診療側・支払側ともに意見を準備してほしい(具体的にはマイナス改定とすべきと考えるのか、プラス改定とすべきと考えるのか)」と指示しています。
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