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「医師の働き方改革」を診療報酬でどうサポートするか、基本方針策定段階でも激論―社保審・医療部会

2019.10.23.(水)

2020年度の次期診療報酬改定に向けて、「医師の働き方改革の診療報酬でのサポート」を重点課題に据えるべきか―。

10月21日に開催された社会保障審議会・医療部会で、こういった点について激論が交わされました。

「医師の働き方改革」のサポートが重要かつ必要である、という点については異論は出ていませんが。「診療報酬で対応すべきか」にはさまざまな意見が出ており、改定基本方針の取りまとめには、まだ時間がかかりそうです。

10月21日に開催された、「第69回 社会保障審議会 医療部会」

「医師の働き方改革」が重要課題で、医療現場のサポートが必要という点には異論なし

かつての中医協を舞台にした汚職事件(背景には、中医協の所掌範囲・権限があまりに大きくなり過ぎたことが指摘されている)への反省を踏まえ、2006年度の診療報酬改定から、▼改定の基本方針は社会保障審議会の医療保険部会と医療部会で決定する▼改定率は内閣が予算編成過程で決める▼基本方針と改定率を受け、中医協で改定内容を詰める―という役割分担が行われています。

医療部会では9月19日の前回会合から、基本方針策定に向けた議論を開始。そこでの意見を踏まえ、10月21日の会合には、厚生労働省保険局医療介護連携政策課の山下護課長が、(1)医療従事者の負担を軽減し、医師等の働き方改革を推進する(2)患者・国民にとって身近であるとともに、安心・安全で質の高い医療を実現する(3)医療機能の分化・強化、連携と地域包括ケアシステムを推進する(4)効率化・適正化を通じ制度の安定性・持続可能性を向上させる―という4つの視点を提示(基本方針については社保審・医療保険部会でも議論開始)。

さらに山下医療介護連携政策課長は、(1)の「医療従事者の負担を軽減し、医師等の働き方改革を推進する」視点を2020年度診療報酬改定の【重点課題】に位置付け、例えば▼医師等の負担軽減等につながる取り組みの評価(医療機関内における労務管理や労働環境の改善のためのマネジメントシステムの実践に資する取り組みの推進、タスク・シェアリング/タスク・シフティング、チーム医療の推進、届け出・報告の簡素化、人員配置の合理化の推進)▼地域医療の確保を図る観点から早急に対応が必要な救急医療体制等の評価▼業務の効率化に資するICTの利活用の推進―などの項目を検討してはどうかとの考えを示しています。

この点、「医師をはじめとする医療従事者の働き方改革」の重要性を否定する意見は出ていませんが、診療報酬で評価すべきか(人員配置基準の合理化等は別として)という点については賛否両論が出ています。

河本滋史委員(健康保険組合連合会常務理事)は、「現時点では、診療報酬改定の重点事項に『医師の働き方改革』を据えることに違和感がある。今後の医療現場の取り組みを見据えて課題を整理し、2022年度改定で三位一体改革(地域医療構想、医師偏在対策、医師働き方改革)の進捗を踏まえて検証していくべき」と進言。これは、中央社会保険医療協議会・総会での幸野庄司委員(健康保険組合連合会理事)らと同旨の主張です。

これに対し、中医協委員でもある今村聡委員(日本医師会副会長)は「医師働き方改革については、2024年4月から罰則付きで、新たな時間外労働上限が稼働するため、『待ったなし』の状況だ。『進捗を見て』などと構えていられる状況ではない」と、中医協総会と同様に反論しました。

ここまでは10月18日の中医協総会論議と似ていますが、10月21日の医療部会では、異なる角度からの意見も出ています。

島崎謙治委員(政策研究大学院大学教授)は、「医師働き方改革の診療報酬での評価は政策的誘導の目的で行うのか、医療現場のコスト増を補填するために行うのか、患者負担増にもつながるため、十分に議論しておく必要がある」と指摘。また松原由美委員(早稲田大学人間科学学術院准教授)は、「働き方改革は一般企業でも求められており、そこには経済的な補助などは行われない。医療機関にだけ経済的な補填が行うことの必要性を明確にしなければ、国民からの理解は得られない」との考えを示しました。

関連して野村さちい委員(知ろう小児医療守ろう子ども達の会理事)は、「診療報酬は一般国民には分かりにくい。診療報酬が変わることで、医療の内容がどう変わるのか、そうした点も丁寧に説明する必要がある」とコメントしています。

こうした指摘に対し今村委員や相澤孝夫委員(日本病院会会長)は、「勤務医は現在、厳しい労働環境にあり、医療ミスにも大きく関連する。働き方改革は医療安全の確保につながり、患者・国民に良質な医療サービスを提供することにつながる旨を理解してほしい」と説明しました。現在は入院料の前提となっている「医療安全」等についても、従前は入院基本料等加算として経済的な評価がなされていた(医療現場への十分な浸透を待って入院料に盛り込んだ)ことを踏まえたものと言えます。

「医師の働き方改革を診療報酬でどうサポートしていくか」は、中医協はもちろん、社会保障審議会(医療部会・医療保険部会)でも議論が続けられます。

地域医療構想、ベッド数合わせの議論でなく、将来像の「青写真」を考えるべき

10月21日の医療部会では、「医師の働き方改革」「地域医療構想の実現」に関する最新状況が厚労省から報告されました。

後者の「地域医療構想の実現」に関しては、Gem Medでもお伝えしているとおり、▼がんなど急性期医療の診療実績が特に少ない▼がんなど急性期医療機能の類似した病院が近接している―424の公立病院・公的病院等について「機能分化の再検証を求める」方針が固められています。

これについて、地方自治体代表の立場で参画する遠藤直幸委員(全国町村会、山形県山辺町長)から、「医療提供体制改革の必要性は理解する」とした上で「424公立病院・公的病院等の実名公表が唐突であり、医療現場や地域住民は大きな不安を抱えている。実名公表には最大限の配慮を求めたが、それが一顧だにされていない。甚だ遺憾である」と厳しく指摘。

ただし永井良三部会長(自治医科大学学長)は、「我が国の医療提供体制は、市場原理に委ねることも、国家が管理することも難しい。2013年8月にまとめられた社会保障制度改革国民会議の報告書では『データに基づく医療現場の自主的な改革』への期待が強調されている。今後も詳細なデータを提供・公表してほしい」と強調しており、「現場に配慮した上でのデータ公開」は継続していく必要があります。

また島崎委員は、「地域医療構想の実現が遅れれば、人材も含めた資源をどこに重点投入すればよいかが明確にならず、医師の働き方改革、医師偏在対策にも悪影響を及ぼす」と指摘。厚労省は、地方ブロック単位で「地域医療構想の実現」に向けた説明会を開催しており、島崎委員は「自治体への丁寧な説明を行い、地域医療構想の実現を急ぐ必要がある」とも訴えています。

一方、今般、再検証が求められた病院は「公立病院・公的病院等」であることについて、「民間病院に関する改革論議が進んでいない」との指摘がありますが、相澤委員は「地域医療構想の実現が言われるが、地域医療の将来像について青写真が示されず、単なる機能毎のベッド数合わせ論議となってしまっている。そこが混乱の最大の原因ではないか。我が国の医療は危機的状況にあり、『公立はどうだ、民間はどうだ』などと諍いをしている場合ではない」との考えを強い調子で指摘。

この点、厚労省医政局の吉田学局長も「必ずしも地域医療の将来画像が明確にされていない部分もある。国として、青写真を地域ごとに作成できるよう、様々に工夫し、支援していく」考えを述べています。

また山崎學委員(日本精神科病院協会会長)は、「今後は、開設主体ではなく、地域で果たす機能に対し補助を行うべきではないか。民間病院であっても地域医療に必要な機能を果たしている病院には公的な補助を行う必要がある」と訴えています。Gem Medを運営するグローバルヘルスコンサルティング・ジャパンの15周年記念式典で特別講演を行った厚労省の鈴木康裕医務技監も山崎委員と同旨の指摘を行っており、近い将来、具体的な見直しが検討される可能性もあるでしょう。

 
 
 
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