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認知症ケア加算の組み替えを検討、標準的な「せん妄予防」の取り組みを診療報酬で評価―中医協総会(2)

2019.11.21.(木)

【認知症ケア加算】について、加算1では「認知症患者の診療に十分な経験を有する専任の常勤医師(精神科5年以上、神経内科5年以上、認知症治療に係る適切な研修の修了のいずれか)」配置要件が厳しく、また加算2では要件となっていないものの、多くの医療機関で「認知症患者の看護に従事した経験を5年以上有し、認知症看護に係る適切な研修(600時間以上)を修了した専任の常勤看護師」配置を行っていることを踏まえて、点数の組み替えを行ってはどうか―。

また、医療安全確保にとって重要な「せん妄予防」の取り組みが多くの急性期病棟・病室で実施されている点を踏まえて、「標準的なせん妄予防」を診療報酬で評価してはどうか―。

11月20日に開催された中央社会保険医療協議会・総会では、こういった議論も行われています。

11月20日に開催された、「第434回 中央社会保険医療協議会 総会」

認知症ケア加算、要件・点数を合わせた「組み替え」を検討

11月20日の会合では、▼訪問看護▼精神科医療▼認知症対策▼明細書発行―に関する議論が行われました。 Gem Medではすでに「訪問看護」に関してお伝えしており、本稿では認知症対策等に焦点を合わせてみます。

2016年度の前々回診療報酬改定で、入院基本料等加算の1つとして【認知症ケア加算】が設けられました。高齢化の進展に伴い、急性期病棟をはじめ入院患者全般に「認知症高齢者」が増加してきたことを受け、「認知症高齢者に適切な処遇を行う」ためのコストを賄うための加算です。

【認知症ケア加算】には次の2種類があり、いずれも「認知症高齢者の日常生活自立度判定基準ランクIII以上の患者(重度の意識障害のある者を除く)」について入院期間を通して毎日算定できます。

▽加算1:14日以内の期間・150点、15日以上の期間・30点
→▼認知症患者の診療に十分な経験(精神科5年以上、神経内科5年以上、認知症治療に係る適切な研修の修了のいずれか)を有する専任の常勤医師▼認知症患者の看護に従事した経験を5年以上有し、認知症看護に係る適切な研修(600時間以上)を修了した専任の常勤看護師▼認知症患者等の退院調整について経験のある専任の常勤社会福祉士・常勤精神保健福祉士―で構成される「認知症ケアチーム」によって、週1回以上のケアカンファレンスや病棟ラウンド、医師・看護師への相談対応などを通じて認知症ケアの質向上に取り込むことなどが必要

▽加算2:14日以内の期間・30点、15日以上の期間・10点
→全病棟に「認知症患者のアセスメントや看護方法等に係る適切な研修(9時間以上)を受けた看護師」を複数名配置し、認知症ケアの質向上に取り組むことなどが必要

認知症ケア加算の概要(中医協総会(2)1 191120)



加算の取得状況等を調査したところ、▼【加算1】届け出は517医療機関にとどまる▼急性期の大病院で【加算1】の取得割合が高い▼【加算1】取得には「認知症患者の診療に十分な経験(精神科5年以上、神経内科5年以上、認知症治療に係る適切な研修の修了のいずれか)を有する専任の常勤医師」が大きなハードルとなっている―ことなどが分かりました。

認知症ケア加算1は、大規模の急性期病棟での取得が多い(中医協総会(2)2 191120)



こうした状況を踏まえて厚労省保険局医療課の森光敬子課長は「【加算1】の医師に係る要件を緩和してはどうか」との考えを提示しています。

また、【加算2】を取得する医療機関の状況を見ると、要件とされていない「認知症患者の看護に従事した経験を5年以上有し、認知症看護に係る適切な研修(600時間以上)を修了した専任の常勤看護師」を自主的に実施している施設が3割以上あることが分かりました。

認知症ケア加算2を取得する病棟でも、専門性の高い看護師を配置しているところが相当程度ある(中医協総会(2)3 191120)



専門性の高いスタッフ配置によって、より質の高い認知症ケアが提供されていると考えられ、森光医療課長は「【加算2】の要件に、専門性の高い看護師の配置に係る要件を追加してはどうか」との考えも示しました。

これらを合わせると、【加算1】については要件を緩和し、【加算2】については要件を厳格化することとなり、点数も含めた「組み替え」が行われることになりそうです。この点について診療側の松本吉郎委員(日本医師会常任理事)は「現在の評価は少し大雑把すぎるのではないか、【加算1】と【加算2】との間に中間的な評価を新設してはどうか」と提案しています。例えば、▼現在の【加算1】▼新たな【加算2】(専門性の高い看護師の配置を求める)▼【加算3】(現在の【加算2】から名称変更)―というイメージでしょう。魅力的な提案で、今後、具体的な点数組み替えの検討が行われます。

医療安全確保のためにも、せん妄予防の取り組みは極めて重要

また森光医療課長は、「せん妄予防」に向けた取り組みを診療報酬で評価してはどうかとの考えも示しています。

病棟の種類を問わず、「1割程度のせん妄患者が入院している」ことが分かっています。例えば、術後せん妄などでは、挿管されている点滴やカテーテルなどを抜いてしまうなど「生命にも大きな影響を及ぼす」ため、適切な予防措置を行うことが非常に重要です。

具体的には、「トレーニングを受けた医師・看護師・その他職種による非薬物的多要素介入がせん妄予防にとって効果的である」とされ、具体的には▼認知機能低下に対する介入(光調整、見当識維持等)▼疼痛治療▼脱水および便秘の治療▼栄養管理▼感覚低下に対する介入(眼鏡や補聴器等)▼早期離床(歩行不能ならROM訓練)▼睡眠に対する介入―などが行われます。海外では、標準的な介入法として▼Yale Delirium Prevention Trial▼DELirium Team Approach(DELTA)program▼英国NICEガイドライン―などが設けられています。

せん妄予防の標準的な取り組みが重要である(中医協総会(2)4 191120)



すでに多くの急性期病棟や集中治療室では、こうした「エビデンスに基づいたせん妄予防の取り組み」が実施されており、森光医療課長は診療報酬での評価を検討するよう中医協に要請しました。

せん妄予防の取り組みは多くの急性期病棟や集中治療室で実施されている(中医協総会(2)5 191120)



ただし、具体的な取り組み内容を見ると、▼「見当識の確認」や「離床の促進」の実施が多い▼「脱水の予防」の実施は少ない▼「疼痛コントロールの徹底」や「せん妄のリスクとなる薬剤の中止」などは施設によってバラつきが多い―ことも分かっており、森光医療課長は「標準的な取組を行う体制を評価する」方向も示しています。

せん妄予防の取り組み内容をみると、バラつきもある(中医協総会(2)6 191120)



こうした提案について、診療側の今村聡委員(日本医師会副会長)は「せん妄予防は極めて重要だが、一方で医療機関の負担は大きく、積極的に支援してほしい」と、また猪口雄二委員(全日本病院協会会長)も「せん妄はいつ生じるか分からず、予防が極めて重要である。多くの急性期病棟で取り組めるような支援をしてほしい」と述べ、歓迎の意を示しており、支払側委員からも反対意見は出ていません。今後、具体的な点数や要件について検討が行われます。

なお、吉川久美子専門委員(日本看護協会常任理事)は「予防のみならず、せん妄への対処についても評価してはどうか」と提案しています。ただし、重度のせん妄については、精神科医師・看護師・精神保健福祉士等が共同して対象することを評価する【精神科リエゾンチーム加算】(週1回300点)がすでに設けられている点などを踏まえて、慎重に検討されることになるでしょう。

抗精神病薬クロザピン等の使用促進に向け、精神科急性期病棟入院料の要件を見直し

また精神科医療・訪問看護については、次のような論点が提示されました。概ね、こうした方向で検討を進めていくことが中医協で確認され、今後、具体的な見直し内容が検討されます。

▽効果的な抗精神病薬であるLAIやクロザピン等では、「専門的管理が必要である」「投与当初は入院医療が必要である」点を考慮し、【精神科急性期治療病棟入院料】における在宅移行率などについて必要な見直しを行ってはどうか(クロザピンでは当初開始から18週は入院が必要とされるが、一方で精神科急性期治療病棟では「新規入院患者の4割以上が、3か月以内に在宅復帰する」との基準があり、クロザピン投与を阻害していると指摘される)

▽精神病床からの地域移行・地域定着支援を推進する観点から、【地域移行機能強化病棟入院料】について、継続的に評価する(現在は2020年3月31日までの届け出という期限あり)とともに、施設基準等について必要な見直しを行ってはどうか

▽【精神科在宅患者支援管理料】について、重症患者への対応が少ない点を踏まえた対象患者や施設基準の見直しを検討してはどうか

▽【精神科訪問看護】について、利用者の状態把握のために、他の診療報酬項目でも用いられているGAF尺度による評価を「訪問看護記録書」「訪問看護報告書」「訪問看護療養費明細書」に記載することとしてはどうか

▽【精神科複数名訪問看護加算】について、複数名訪問の理由を選択式等により具体的に訪問看護指示書に記載することとしてはどうか



また「ギャンブル依存症」に治療について診療報酬で評価すべきか否かも論点となっていますが、支払側の幸野庄司委員(健康保険組合連合会理事)は「スマートフォン依存症やゲーム依存症などにも拡大してしまう。そもそも保険診療でこのような治療をみるべきではない」と強く反対しています。



なお、患者にわかりやすい医療の実現を目指し、支払側委員は「明細書の内容」について患者等に説明することを推進してはどうかと提案しています。しかし、明細書の内容とは、すなわち「診療報酬点数」のことであり、医療機関等に「診療報酬点数を個別患者に詳しく説明する」ことを求めるのは非常に酷でしょう(そもそも保険診療とは何か、からの説明が必要となる)。診療側委員も「非現実的である」と慎重姿勢をとっています。

 
 
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