人工腎臓の点数適正化、複数の遺伝学的検査を可能とする報酬上の対応、プログラム医療の指導管理を評価する新点数など検討—中医協総会(3)
2023.12.25.(月)
臨床症状が類似する複数の指定難病が疑われる場合、複数の遺伝学的検査を実施可能とする診療報酬上の手当てを行ってはどうか—。
人工腎臓について、使用薬剤の実勢価格などを踏まえて「点数引き下げ」を検討してはどうか—。
プログラム医療機器を用いた診療について、医師による機器操作上の留意点などの指導を新点数で評価してはどうか—。
12月22日に開催された中央社会保険医療協議会・総会で、こうした議論も行われました(同日の一般病棟用の重症度、医療・看護必要度などの見直しに関する記事はこちら、DPC制度改革やICU・HCU評価の見直しに関する記事はこちら)。
目次
臨床症状が類似する複数の指定難病が疑われる場合、複数の遺伝学的検査を実施可能に
12月22日の中医協総会では、(1)遺伝学的検査(2)人工腎臓(3)医療機関間連携病理診断(4)がんゲノムプロファイリング検査(5)プログラム医療機器の使用に関する指導管理(6)その他—といった技術的事項も議題としました。
まず(1)の遺伝学的検査を見てみましょう。指定難病に罹患し、一定の重症度基準を満たした患者には医療費助成が行われますが、指定難病の診断において遺伝学的検査が必須となる疾患が一定程度あります)。「分析的妥当性がある、臨床的妥当性がある、臨床的有用性がある」との3要件を満たす遺伝学的検査は、逐次、保険適用がなされてきていますが、▼新たに指定難病に追加された疾患の中には、遺伝学的検査が保険適用されていないものもある▼臨床症状が類似する疾患では「どの遺伝学的検査を行うべきか」を絞り込めないが、現在の診療報酬は「複数疾患の遺伝子を検査する場合」に見合った点数となっていない—という課題が指摘されています。
この点、前者については「最新の知見を踏まえて遺伝学的検査への対象追加を行うべき」との見解で、後者について「学会の『臨床症状が類似する疾患』整理を踏まえて、複数疾患の遺伝子を検査する場合の報酬対応を考えるべき」との見解で診療側・支払側ともに一致しています。
今後、遺伝学的検査の拡大に向けた詳細が詰められます。
人工腎臓、使用薬剤の実勢価格など踏まえて「点数引き下げ」へ
また(2)の人工腎臓については、2022年度の前回改定で▼経口の腎性貧血治療薬(HIF-PH阻害剤)の使用実態(調剤薬局で処方される事例が極めて少ない)を踏まえた包括化▼薬剤の実勢価格を踏まえた評価の適正化(点数の引き下げ)―などが行われました(関連記事はこちら)。
2024年度の次期改定においても「使用薬剤の実勢価格低下(医薬品卸→医療機関への納入価格低下)を踏まえた適正化」(点数の引き下げ)などを検討する点が診療側・支払側間で確認されました。もっとも診療側の太田圭洋委員(日本医療法人協会副会長)は「人工透析では、様々な医薬品を使用し、その中には『不採算ゆえに価格を引き上げる』ものが含まれる可能性もある。この場合には透析コストがアップするので、そうした点も考慮した点数設定を行ってほしい」と注文を付けています。
また2022年度の前回改定では、慢性腎臓病患者への「移植を含めた腎代替療法に関する情報提供」推進の観点から、人工腎臓に上乗せする【導入期加算3】(在宅自己腹膜灌流指導管理料を過去1年に36回以上算定し、腎移植手続きが前年5人以上等の実績を持つ透析医療機関で、研修を受けた医療者が患者へ腎代替療法の説明を行うことを評価する、800点)の新設も行われました(関連記事はこちら)。
しかし、すでにある【導入期加算1】(腎代替療法の説明を行うことを評価する、200点)、【導入期加算2】(研修を受けた医療者が患者へ腎代替療法の説明を行うことを評価する、400点)に比べて、【導入期加算3】の算定医療機関数はごく少数にとどまっています。
この点について診療側の長島公之委員(日本医師会常任理事)は「施設基準等に見合う点数水準への引き上げを行い、【導入期加算3】の取得促進を図るべき」旨を進言しました。
しかし、診療側の太田委員は「【導入期加算3】は「日本臓器移植ネットワークに登録された腎臓移植実施施設(2023年12月時点で123施設)でなければ取得できない点を考慮すれば、著しく取得率が低いとも言えない(加算3取得は39施設で、取得率は31.7%)。状況を見守る選択肢もある」と述べ、支払側の松本真人委員(健康保険組合連合会理事)もこの考えに賛意を示しています。
さらに太田委員は「腎移植に向けた説明を加算1・2医療機関で推進することが重要であろう。例えば【導入期加算2】の施設基準の中には『在宅自己腹膜灌流指導管理料を過去1年間で24回以上算定していること』とあるが、ここに在宅血液透析指導管理料取得患者黙÷ねどし、腎代替療法に関する説明の裾野を広げてはどうか」と提案しています。
ところで、透析患者の死因の約半数は心血管死であることから「透析患者の合併症管理において心血管障害への対策が重要な臨床的課題」となっています。こうした点を踏まえて厚生労働省保険局医療課の眞鍋馨課長は「【導入期加算2】【導入期加算3】では『腎代替療法専門指導士』配置が要件となっている。透析患者の弁膜症治療法への共同意思決定(Shared Decision Making: SDM)について透析医(腎代替療法専門指導士)を含めた連携が重要であるため、導入期加算の要件を見直してはどうか」との旨の提案が行われました。例えば「循環器科の医師」と「透析医・陣代替療法専門指導士」との連携関係構築などを新要件として盛り込むことなどが考えられそうです。
この点について支払側の松本委員は「弁膜症への対応を透析医と連携して実施することが重要であるとの研究結果がある。加算2・3だけでなく、加算1でも透析医の配置を義務化して、丁寧な説明・意思決定支援を行うべき」と進言しましたが、診療側の太田委員は「弁膜症治療では循環器科の意思と透析医との連携が重要であるが、医師以外も対象とする腎代替療法専門指導士の関与は求められないのではないか。この点については学会でも十分な議論はなされていないと聞いており、指導士の関与は現時点では反対である」とコメントしています。
こうした意見も踏まえながら「適切な透析医療の評価」策を詰めていくことになります。
他方、(3)の医療機関間連携病理診断については、これまでに「保険医療機関間の連携による病理診断」(2012年度改定)、「受取側における一定の施設基準のもと、送付側から委託された衛生検査所における標本の作製」(2016年度改定)が認められてきています。
さらに今般、「標本作製後の受取側への送付に、保険医療機関間の連携により行われているが、衛生検査所からの直接送付を認めてほしい」との声が出ており、これを診療報酬上認めるかという論点が浮上しました。
この点、「送付側が、作成された標本を確認できない」などのリスクがあることから、診療側・支払側ともに慎重な検討を求めています。
標準治療前からのがんゲノム医療、「先進医療の検証結果」を見てから検討することに
また(4)の「がんゲノムプロファイリング検査」は、がんゲノム医療の入り口として非常な検査となっています。がんゲノム医療は、大まかには次のような流れで進められます。
▽患者の同意を得た上で、患者の遺伝子情報(がんゲノムプロファイリング検査の結果)・臨床情報を「がんゲノム情報管理センター」(C-CAT、国立がん研究センターに設置)に送付する
↓
▽C-CATで、送付されたデータを「がんゲノム情報のデータベース」(がんゲノム情報レポジトリー・がん知識データベース)に照らし、当該患者のがん治療に有効と考えられる抗がん剤候補や臨床試験・治験などの情報を整理する
↓
▽がんゲノム医療中核拠点病院・がんゲノム医療拠点病院の専門家会議(エキスパートパネル)において、C-CATからの情報を踏まえて当該患者に最適な治療法を選択し、これに基づいた医療を提供する
ところで現在、がんゲノムプロファイリング検査は「標準治療がない固形がん患者」・「局所進行若しくは転移が認められ標準治療が終了となった固形がん患者(終了が見込まれる者を含む)」を対象に実施されています。
一方、標準治療の前から、「より早期に、患者に最適な抗がん剤を選択・投与することができないか」という考えもあります。
この点については、先進医療で「標準治療を開始する前に実施するがんゲノムプロファイリング検査の有効性」などの検証が進んでいる点を踏まえ、診療側・支払側ともに「先進医療の検証を待ってから検討すべきである」との考えで一致しました。
プログラム医療機器を用いた診療、医師による機器操作指導などを新点数で評価
また(5)は、保険医療材料専門部会において「プログラム医療機器を使用した指導管理に対する評価を別途設けることを中医協総会で検討する」との考えがまとめらたことを踏まえての論点です(関連記事はこちら)。
例えば、「糖尿病患者が自身でインスリン注射を打つ」(食事の都度に医療機関を受診し、インスリン注射を受けることは非現実的である)際に、医師が注射をする際の留意事項などを患者に指導します。これを【在宅自己注射指導管理料】として評価しています。
プログラム医療機器を持ちいる医療についても、同様に「プログラム医療機器の使用等に係る留意事項などを医師が患者に指導する」ことを診療報酬で新たに評価してはどうかと眞鍋医療課長は提案しました。この考え方に異論は出ていません。
なお、この「新たな指導管理料」は「プログラム医療機器全般」に適用される見込みです(高血圧用のプログラム医療機器指導は●点、禁煙用のプログラム医療機器指導は◆点などと区分は行わず、「プログラム医療機器指導は一律〇点」と設定される)。この点、禁煙用のプログラム医療機器指導については▼【在宅振戦等刺激装置治療指導管理料】の「注2 導入期加算」の所定点数(140点)を準用して評価する▼【疼痛等管理用送信器加算】の所定点数(600点)4回分を合算した点数を準用して評価する—などのルールが定められていますが、「プログラム医療機器指導は一律〇点」と設定されることとなり、2024年度改定で見直される(一律点数の中に組み込まれる)ことになります。
このほか、12月22日の中医協総会では、【総合入院体制加算1・2】について、基準をはるかに上回る全身麻酔手術・分娩などの実績がある点をどう考えるかも議論になりました。この点について支払側の松本委員らは「基準引き上げ」を進言しましたが、診療側委員は「基準のバランスが崩れる」と引き上げに反対しています。
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2024年度の費用対効果制度改革に向けた論議スタート、まずは現行制度の課題を抽出―中医協
電子カルテ標準化や医療機関のサイバーセキュリティ対策等の医療DX、診療報酬でどうサポートするか—中医協総会
日常診療・介護の中で「人生の最終段階に受けたい・受けたくない医療・介護」の意思決定支援進めよ!—中医協・介護給付費分科会の意見交換(2)
訪問看護の24時間対応推進には「負担軽減」策が必須!「頻回な訪問看護」提供への工夫を!—中医協・介護給付費分科会の意見交換(1)
急性期入院医療でも「身体拘束ゼロ」を目指すべきで、認知症対応力向上や情報連携推進が必須要素—中医協・介護給付費分科会の意見交換(2)
感染対策向上加算の要件である合同カンファレンス、介護施設等の参加も求めてはどうか—中医協・介護給付費分科会の意見交換(1)
要介護高齢者の急性期入院医療、介護・リハ体制が充実した地域包括ケア病棟等中心に提供すべきでは—中医協・介護給付費分科会の意見交換
2024年度の診療報酬に向け、まず第8次医療計画・医師働き方改革・医療DXに関する意見交換を今春より実施—中医協総会
2022年度改定での「在宅医療の裾野を広げるための加算」や「リフィル処方箋」など、まだ十分に活用されていない—中医協(1)