内科治療における指導・説明の評価、赤字手術等の点数引き上げを強く要望―内保連・外保連・看保連
2019.11.8.(金)
内科治療における「懇切丁寧な指導・説明」を診療報酬でさらに評価すべきである(意思決定支援管理料の創設)―。
外科手術や処置において、人件費や医療材料費を賄えていないものが相当数あり、外保連試案を踏まえた点数見直しが必要である―。
地域包括ケアシステムの推進や効率的・効果的医療に資する看護技術を診療報酬で十分に評価すべきである―。
内科系学会社会保険連合(内保連)・外科系学会社会保険委員会連合(外保連)・看護系学会等社会保険連合(看保連)は11月5日に「三保連合同シンポジウム」を開催し、2020の次期診療報酬改定に向けて、こういった要望を行っていく考えを共有しました。
目次
11内科領域で、標準的手順書に基づく「懇切丁寧な指導・説明」を報酬で評価せよ
2020年度の次期診療報酬改定に向けた議論が中央社会保険医療協議会で本格化しています。診療報酬改定においては、「医療現場の課題等を整理し、その解消を図る」ことが注目されますが、「新たな医療技術を保険適用する」側面も非常に重要です。
医療技術は日々進歩しており、必要なものは都度、中医協で保険適用の是非が審査されますが、診療報酬改定のタイミングで「数多くの新規医療技術の保険収載や既存技術の要件見直し」などが行われます。主に医学会の示すエビデンス(データ)と要望内容をベースに「この技術は、安全性や有用性が確立されているだろうか」などの観点で審査を行い(主に医療技術評価分科会で実施)、最終的に中医協総会でその是非が判断されます。
2020年度の次期改定に向けては、942件の医療技術に関する提案が医学会から寄せられ、医療技術評価分科会で、このうち730件(新規技術の保険適用要望が290件、既存技術の要件見直し等要望が440件)が審査対象となっていることが、11月6日の中医協(基本問題小委員会及び総会)に報告されました。
11月5日のシンポジウムでは、各連合が2020年度改定に向けて行った医療技術評価に関する「要望項目」等について報告が行われています。
まず内保連からは、【意思決定支援管理料】(1回につき500点)の新設を改めて要望したことが報告されています。
内科系の治療においては、患者・家族に対する「懇切な指導・説明」が非常に重要です。内保連による綿密な調査(加盟学会へのアンケート調査+加盟医療機関におけるタイムスタディ調査)の結果、▼がん化学療法▼人工呼吸器挿入▼臓器移植▼経費的冠動脈形成術▼終末期の意思決定―など、さまざまな場面で「30分以上の長時間の指導・説明が必要である」ことが判明。とくに▼重症先天性疾患▼人工呼吸器装着▼重症心不全―においては、極めて長時間の「指導・説明」が必要であり、かつ実践されていることも明らかになっています。
こうした状況を踏まえ、2018年度の前回診療報酬改定で、内保連の提案も踏まえて、B001の5【小児科療養指導料】とB001の7【難病外来指導料】において、「人工呼吸器管理の適応となる患者と病状、治療方針等について話し合い、その内容を文書により提供する」ことを評価する【人工呼吸器導入時相談支援加算】(1回に限り500点)が新設されました。
内保連は、この新設点数を高く評価するとともに、「指導・説明の内容を標準化する必要がある」(医療機関でバラバラな説明・指導が行われていたのでは経済的な評価が難しい)として、今般、『標準的 医療説明の手順書』を作成・公表(2019年8月)。そこでは、13領域・42項目(例えば「呼吸器関連疾患」における、▼気管支鏡生検▼人工呼吸器装着▼胸腔ドレナージ―など)について、標準的な「治療の内容・目的の説明」「治療中に起こりうる副作用が合併症」「治療を受けなかった場合に考えられる効果」「代替治療法」「治療にかかる費用」などを詳しく説明しています。この手順書に沿った説明を受けることで、患者が自分の治療内容を正しく理解し、「自ら積極的に治療に臨む」「自ら治療法を選択する」ことが期待されます。
さらに2020年度の次期改定に向けては、この標準的手順書に沿った懇切丁寧な指導・説明について、▼小児重症先天性疾患▼小児遺伝学検査▼人工呼吸器装着▼48時間以上の持続カテコラミン投与が必要な重症心不全治療▼カテーテルアブレーション▼透析導入▼早期胃がんに対する内視鏡的粘膜下層剥離術▼クロザピン療法▼造血幹細胞移植▼甲状腺腫瘍に対する内用療法▼悪性腫瘍に対する網羅的遺伝子検査―において【意思決定支援管理料】(1回500点)を新設するよう求めていることを報告しました。
こうした懇切丁寧な指導・管理が全国で実施されれば、例えば、患者・家族が「人工呼吸器装着によるリスクがよく理解できた。我々は人工呼吸器療養を望まない」と判断することが可能となり、内保連では「医療費が年間220億円程度節減できるのではないか」と見通しています。
がん患者の指導管理やリンパ浮腫の複合的治療における看護技術を評価せよ
看保連では、医療技術評価について、例えば【ハイリスク高齢がん患者外来指導管理料】や【末期心不全患者指導管理料】【脳卒中再発・重症化予防指導料】の新設や、既存の【リンパ浮腫複合的治療料】や【がん患者指導管理料】の算定要件緩和などを要望していることを報告。
併せて、看保連では、医療技術評価とは別に次の3点の重点要望を行っています。
(1)健康の回復、疾病の進行・重症化予防に貢献する看護ケア実践の評価(抗悪性腫瘍役投与の暴露対策実施に対する評価など5分野12項目)
(2)地域包括ケアの推進に貢献する看護ケア実践の評価(【訪問看護情報提供療養費】の算定対象拡大など4分野5項目)
(3)効果的・効率的な医療に貢献する看護ケア実践の評価(専門研修を受けた看護師による手術前外来への評価新設など3分野5項目)
こうした、言わば「合わせ技」による要望について、内保連の小林弘祐理事長(北里研究所理事長)は「参考になる」とコメント。優れた医療技術の保険適用に向けて、これまでどおり「エビデンスの構築を継続する」とともに、「様々なルートを活用する」方向を各連合で探っていくことになるかもしれません。
人件費・材料費を賄えず、赤字となる手術等の点数を外保連試案に沿って引き上げよ
また外保連からは、▼新たな手術・処置・検査等の保険適用(164項目)▼既存の手術・処置・検査等の要件見直し(208項目)▼新規の医療材料の保険適用(34項目)―を要望するとともに、「肺・肝・小腸移植や胆道閉鎖症治療など16術式における自動縫合器・吻合器加算の創設・拡大」や「手術点数への外保連試案2020(個別手術等の難易度・時間・必要人員・必要医療材料などについて医療現場の実態調査に基づく)の反映」などを強く求めていく考えが報告されました。
外保連試案は、上述のように「医療現場における手術等の実態」を綿密に、かつ継続して調査して作成した、言わば「コスト表」であり、厚生労働省もこれを踏まえた点数設定を行っています。ただし、2018年度の前回診療報酬改定後も▼人件費が手術点数の3倍以上となっている術式が311、同じく2倍以上の術式が735ある▼償還不可の医療材料(特定保険医療材料として償還価格が設定されておらず、手術料等に包含されている)の費用だけで、手術点数の3倍以上となっている術式が58、同じく2倍以上の術式が67もある―など、「実施するだけで赤字となる術式」が依然として相当数ある実態を踏まえて、「外保連試案のさらなる反映」を求めていく考えを、外保連の瀬戸泰之会長補佐(東京大学胃食道外科教授)は強調しました。
なお、従前より外保連が強く要望している「手術・処置における【休日・時間外・深夜加算】の施設基準緩和」についても、2020年度改定に向けて改めて求めていく構えを瀬戸・外保連会長補佐は崩していません。現在、「当直医が毎日6名以上いる医療機関」でなければ、本加算は取得できませんが、瀬戸・外保連会長補佐は「一般病院ではほぼ取得できない。良い加算なので多くの医療機関で算定可能としてほしい」と訴えています。
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